広瀬 勉
#photograph #photographer #concrete block wall
小さな田舎町の雑貨店が静かに終わりを迎えた。
肌つやのいいおばさんが切り盛りしていた雑貨店。
文房具、生活用品、園芸用品、ちょっとした洋服、靴。
けっしてお洒落ではないけれど必需品はなんでもそろった。
自動ドアは常に開けっ放しになっていたけれど、中に入るとふわりといい香りがした
その町のメインストリートと言っては仰々しいのだが、必要最低限のものは確かにそこにはあった。
八百屋、郵便局、支所、農協、車屋、診療所、図書館、そして雑貨店。
みんなのんびり生きていた、ニコニコと優しかった。
道は細く車がすれちがうのがやっとなようなところ。
コンクリートはきちんと舗装されていなくてゴツゴツ。
自販機は錆びれていたし(中の飲料は大丈夫)、赤いはずのポストは色が剥げていた。
支所の職員(小学生時代の同級生のお父さん)は暇だったのかよく外で日向ぼっこしてたような。
透きとおった青い空の中をふわふわした雲がゆっくりと泳いでいた。
そんな町が小さい頃は当たり前にあったし、ずっと続くんだと疑いもしなかった。
「練り消し」という消しゴムが小学生の時ものすごく流行った。
もともとがやわらかい素材でできていて、もちろん鉛筆で書いた所なら消すことができる。
その消しカスを集めて丸めてもう一度使うのだ。
消した後のカスだから黒くて汚かったけれど、それがなぜかものすごく人気だったのだ。
もちろんわたしもお小遣いをもらってその雑貨屋に買いに行った。
オレンジ、グレープ、レモン………。
色んな香りがあってわくわくしながら選んだ。
しばらくは使わずに鼻をぎりぎりまで近づけて香りを楽しんでいた。
食べてしまいたいようなその練り消しは、消し具合はものすごく悪かったのだけども。
中学生に進級するにあたり制服の採寸をしてもらった。
自宅が2階にあるせいか、おばさんはいつもエプロンをしていた。
三日月のような目をした笑顔が素敵な小柄なおばさん。
「まあ、背が高くてすらっとして羨ましいわぁ」
そんな単純なお世辞のような言葉にわたしは浮かれていた。
初めて袖をとおした2本線の入った黒いセーラー服を着た自分は大人びて見えた。
全身鏡を持ってきてもらって上から下まで見るとなんだか恥ずかしかった。
手際よく必要なものを採寸してもらいあとは納品を待つだけとなった。
レジの金額を見たとき結構高いんだなぁと驚いた。
大切に着よう。
帰り際、あの練り消しが陳列されていた棚はロケット消しゴムとやらに変わっているのを発見した。
ロケット鉛筆の消しゴムバージョンらしく、一番上の部分がなくなったら下から押して次の消しゴムを使うらしい。
いくら探してもあの「練り消し」はどうしても見つけられなかった。
その1週間後、わたしはこの町の小学校を卒業した。
中学校は隣町だったためバス通学になった。
あの雑貨店にはそれ以来行くことはなくなった。
おばさんと会うこともなかった。
嬉しいことにそのおばさんは今でもとても元気にあの場所に住み続けていると聞いている。
雑貨店はなくなってしまったけれど、あの瞬間あの場所に存在していたという事実は変わらない。
それはわたしや友人の記憶の中にも刻まれているはずだ。
そしてこれからも忘れることはない。
until a while ago
a horn that guides a truck for pier repair work on a highway
was ringing
already
I can’t hear
the construction workers may have returned
the west mountains
sinked into the darkness
with anyone
did not speak
in the toilet
the Bible and Pensee are placed
・
According to the Bible, God made the world in six days *
先ほどまで
高速道路の橋脚補修工事のトラックを誘導する
警笛が
鳴っていた
もう
聴こえないから
工事の人たちは
帰ったのだろう
西の山も
闇の中に沈んでいった
誰とも
話さなかった
トイレに
聖書とパンセが置いてある
・
聖書によれば、神は6日で世界を作った *
* twitterの「楽しい例文」さんから引用させていただきました.
#poetry #no poetry,no life
来よ
今宵、
来よ
という
つよい声に
うながされ
鍵をあける
出かける
ひねもす
あしおともなく
おとないつづけていた
あめは
あがって
よるのしきつめられた
灯しひとつない道の
おうとつがこころなし
ゆるんで
いる
うるむくらがりへ
あおのく
ひたいにしたたる
一滴が
まぶたへはしる
ここ、から
来よ
という
声の
在り処へ
うすく
はがした
むきたての
はるの野辺の
やまぎわ
(ささめく)
かわべり
(ゆらめく)
よるの胎のうちがわ
湿るつちのにおいに
つつまれて
ゆく
真っ昼間のビルの間(ルビは”ま”)にハープが置かれ
耐えかねて鳴り出すケシの未熟果の傷
みんな難民ギャー
カニグローバリズムギャー
ロ被虐ギャグ数珠メッセンジャーズ
フーチーグーチーとスーチンプーチン
チャイ南端のチャイナちゃいまんねん
ヤンミャーとマンミャー 南京錠で軟禁玉簾
民主主義の進展が愛国主義を生み出し独裁となる歴史は各国で実証済みであるが今回のこれは三寒四温下の春の分断である
立春分断党万歳
春に春に追われし花も散る
私たちは春から憎まれ分断されるべきである
#poetry #rock musician
カラスが羽を広げ飛行するその影が まだ見たことのない空と太陽の存在を教えてくれる
くらしをまもるために防犯カメラがまわっている
幸せをこわさないために防犯カメラがまわっている
悲しみをつくらないために防犯カメラがまわっている
高台にある静かな町で 私はS宅角から北へ延びる一本の道を見つめる
100度の広角で電柱に据り、動かない景色の中で私がまわる
犬の散歩、ウォーキング、
朝夕は連れだって中学生も通っていく
最近はみなマスクをして
24時間私が守る安全な道に現われ、小さくまたは大きくなり、ふっつりと、私の知らない世界に消え
次に少し違う様子で現われる人、
まったく違う様子で現われる人、
どこかしらきっと前のときと違っていて、
そのまま 永遠に消えてしまう人も時折いた
見慣れない地方ナンバーの車が停まり 大きな工具を抱えた男が下りた
道を見て 印をつけている そして
ズドドドドドド スイッチが入り激しい音とともに
電動ドリルが舗装をえぐる その下から 血がほとばしる
アスファルトがめくれ 肉塊がのぞく
黒々と光る肉にドリルの先端が突きたてられ
肉は叫びながら小さく砕かれ飛び散った
私はマスクをはずして呼吸をする
青空が見えた
穴の中に 天国の場所を見つけた気がした
車が去り
穿たれた道は平らにならされ あとかたもない
轟音は近隣の一人も呼び出さず
平和な風景に変わりはないが
道のへりに飛び散ったままの肉塊のひとつから 雑草が生えた
私のいない 私が映さないもう一つの世界では
くらしがこわれ、幸せがつぶれ、悲しみがこうして 草花を咲かせる
わたしは 何を守っているのだろう
Sが死んだ
不審な点があったらしく 私の記録が再生された
カメラには なにもうつっていなかったという
S宅は界隈でもっとも古い傾いた家で
まもなく解体工事が始まった
養生シートの隙間から コロンと一片のつちくれが道に転がる
つちくれからはじきに芽が出
春には花が咲くだろう
その小さな脆い固まりを 私は守りたい
( 1月某日、目黒区八雲で )
always
in gray upper and lower work clothes
he wore a gray work cap
I saw him at a fishing spot in the seaside park
the beard was growing white on the tanned face
old man
with a one rod
he was aiming for the blackfish
he didn’t even have a tamo net
the bait is a paste
he didn’t sprinkle
he deliberately made fishing difficult
・
I have seen little of him of late *
いつも
灰色の
上下の作業服に
灰色の作業帽を被っていた
海浜公園の釣り場で
見かけた
日焼けした顔に髭が白く伸びていた
じいさん
延べ竿一本で
メジナを狙ってた
タモ網も持たなかった
餌は
練り餌で
撒き餌はしなかった
わざと釣りを難しくしていた
・
近頃彼にほとんど会わない *
* twitterの「楽しい例文」さんから引用させていただきました.
#poetry #no poetry,no life
泊めてくれた人は
朝ニック・ドレイクをかけてコーヒーを淹れ
それから市のゴミ収集の仕事に出かけた
ぼくはいってらっしゃいと言った
ぼくらはしばらく朝日を楽しんでいたのだ
#poetry #rock musician