michio sato について

つり人です。 休みの日にはひとりで海にボートで浮かんでいます。 魚はたまに釣れますが、 糸を垂らしているのはもっとわけのわからないものを探しているのです。 ほぼ毎日、さとう三千魚の詩と毎月15日にゲストの作品を掲載します。

Your room is out of order.
君の部屋は乱雑だね。 *

 

さとう三千魚

 
 

morning

the typhoon has gone
west mountain stood in green

was under the blue sky

this man was also under the blue sky

the ground was wet

I can clearly see the west mountains
is it an illusion

beyond the tunnel of the collapse
this man leaves

the journey
the traveler

beyond death

the woman went out

I am with my dog
boat sold
find a substance in words

the laundry is over

Your room is out of order *

 

 

大風は去った
西の山は緑色に立っていた

青空の下に
いた

青空の下にこの男もいた

地面は濡れていた

はっきりと西の山が見える
幻影なのか

大崩れのトンネルの先に
旅立つ

旅は
旅人は

死の向こうにある

女は出かけた

犬といる
舟は売った
言葉に物質をみる

洗濯は終わった

君の部屋は乱雑だね *

 

 

*twitterの「楽しい例文」さんから引用させていただきました.

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

其日本及日本人

 

工藤冬里

 
 

私たちは全員外国人なので
曲は努力しなくても夢に出てくる
努力しなくても自然に外国人には成れるので
タオルをマイケルの肌のように白くする
私は街の人をフィルムカメラで順番に撮っている
「外国人」という写真集を出すのが私の夢だ
その夢に
曲は自然に出て来るのだ

 

 

 

#poetry #rock musician

眠れる花

 

村岡由梨

 
 

ある日、私は、
取っ手のないドアの向こう側で
踏み台を蹴り飛ばして首を吊った。
娘たちが幼い時、戸棚のお菓子を取ろうと
背伸びをして使っていた踏み台だ。

もう二度と、あなたたちを残して逝かない、
と固く約束したのに。

せめて、あなたたちにきれいな詩を遺そうと、
言葉を書き留めたはずのノートは白紙のまま。

命は有限なのに、
無限に続くと信じて生きていたのはなぜだろう。
この世に永遠に続くものなんて無いのにね。
組み立てては崩してしまうブロックのおもちゃみたいに、
何度も「家族」を組み立てては壊してきた私たち。

いつの間にか女性らしい丸みをおびた体を
セーラー服で隠して、
「家を出る。もう帰って来ない。」
と言って、眠は
母親である私を振り返ることもなく、出て行った。
赤い絵の具を使って
大好きな猫のサクラの絵をひたむきに描いていた眠。
小刻みに肩を震わせて、
決して泣き顔は見せまいと
サクラの背中に顔を埋めていた眠。
サクラはザラザラの舌を伸ばして
一生懸命、眠の悲しみを食べていた。

蛍光色の段ボールのフタをこじ開けて、
これが最後だと信じて、盗みをはたらいた。
いつでもこれが最後だと信じて
何度も何度も盗んで
何度も何度もやめようとした。
けれど私はズルズルと罪を重ねて、
「私には生きてる価値がない」
そう言って、母を散々困らせた。
母は悲しそうな顔をして、何も言わなかった。
そして、今
「わたしなんて、どうでもいい人間」
「どうして私を生んだの」
と大粒の涙を流して、私を責める花がいる。
花は盗まない。花は嘘をつかない。
けれど、わからない。
私なんかが一体どんな顔をして、
どんな言葉を花にかければいいのだろう。

私は眠で、眠は私。私は花で、花は私。
あの日、取っ手のないドアの向こう側で首を吊ったのは、
私だったか、眠だったか、花だったのか。

森の奥深くの静寂な湖に
紫色のピューマになった私たちの死体が浮かんでいる。
誰が訪れるということもなく
傍らには、4枚の花弁に引き裂かれた私達の花が
ひっそりと咲いていた。

夕暮れ時の、不吉な色の空の下
霧に包まれた林間学校から抜け出して、
もうここには戻りたくないと
踵を返して走り去る、小学生の私。
2人の娘を生んだはずの生殖器が
真っ赤な血を吐き出しながら罵詈雑言を叫んでいる。
涙が後から後から流れてきて
いっそ一緒に死のうか、と娘に言おうとして、やめた。
最後まで駄目な母親でごめんなさい。
せめて真っ赤に生きた痕跡を残したかった。

夜になって海辺に着き、
黒い水平線に吸い込まれるように
(しっかりと手を繋いで)砂を蹴って進む。
もうこの世界には、居場所も逃げ場所もない。
それでも私(たち)がこの世界から欠けたことに、
いつか誰かが気付いてくれるのなら。

 

 

 

Fishing is not in my line.
釣りは得意ではない。 *

 

さとう三千魚

 
 

before dawn

from the cove next to the marina
I launched a small boat

with a small engine

tip of a breakwater
near the freighter route

I lowered the anchor

hanging fishing line

the sea was calm
drank beer

before noon
breeze

I was blown by the wind

the pine forest on the shore was shaking

the waves were undulating and shining

after the earthquake
why did you die

your smile was cute

small boat
I sold it

Fishing is not in my line *

 

 

夜明け前

マリーナの横の入江から
小舟を出した

小さなエンジンを積んで

離岸堤の突端

貨物船の
航路の近く

アンカーを降ろした

糸を垂らした

凪いでいた
ビールを飲んだ

昼前には
風がでて

風に吹かれていた

岸の松林が揺れていた

波がうねうねして光っていた

地震の後で
君はどうして死んだ

のか

笑顔がかわいかった

小舟は
売ってしまったよ

釣りは得意ではない *

 

 

*twitterの「楽しい例文」さんから引用させていただきました.

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

台風十号と政権交代

 

工藤冬里

 
 

私の体は日本のようだ
ったが
それも今日でやめよう
スパンと切り替えゴキブリの鈍光
復活しない猫と共に
遠方凝視法で皿ヶ嶺の山の端を見よう
ソーシャルメディアを 使うことで寂しさが増す
必要以上でも以下でもなく
人間だった頃の自己評価のまま
猫になってみよう
雨は時々バラバラと打ち付けるが
月さえ見えている
凶風で家は揺れているが
私は死んでもいい状態だ

 

 

 

#poetry #rock musician

遇うために

 

駿河昌樹

 
 

自由詩のかたちを使うのは

短いから

 
それだけのこと

そうして
なんの説得もしない
ことば並べを
ちょっと
やってみる

ちょっと

説得だけじゃなくて
なにも描かない

なら
もっとよい

むずかしいよ

ことばは
すぐに
描いたふりをしちゃう

すべては
音も想起させず
文字も脱ぎ捨てた
そんな
ことばたちに
いつか
遇う
ために

 

 

 

暴風に 揺るる蓑虫 明日を待つ

 

一条美由紀

 
 


海がある。海の行き着く先に違う国がある。
空がある。空を超えると未知の世界が広がっている。
でもここに居よう。
私はここに在る。
ここでできることは何かと考えよう。
そして最後は
透明な意識となって全てを忘れよう。

 


純粋無垢の醜さには我慢ならない
ガラスの椅子に座るその身体は美しい
剥がれていく肌の痛みは、他の誰かに委ねたままだ。

 


今度生まれる時は、
魂は二つ欲しいな。

 

 

 

はんがん

 

薦田愛

 
 

きのう、ね
イナロク沿いだったかな *
自転車で向こうから走ってくるひとがいたんだけど
つばびろの帽子かぶってサングラスかけて
マスクしてた不織布の
おんなのひと
もうね
どんなひとか
ぜんぜん見えないの
「いやひどいよね
きもちわるくなる
マスクしてる顔ばっかりで」
ユウキの全身からうんざり感

ほんとね
電車やお店の中はともかく
人混みでもないし
この暑い昼日なか
「落語の稽古の時だってさ
きいてるひとがみんなマスクしてると
表情がわからないんだよね」
アマチュア落語の稽古場では
手元の見台にアクリル板
師匠だけはフェイスシールドだけれど
自分の番の前やあと席できく受講生はマスク必須
にじゅういくつの
くぐもった笑いがたちのぼるのだろう

ユウキは
町に人間がいないと言う
「マスクして歩いているのは
人間に見えない」と

そうだね
昔だったらコンビニに入るとき
フルヘルメットは外してくださいって
書かれてたよね
いまや
まるっきり包み込まれた顔にも出くわすし
半分見えないのはデフォルト
上半分だけの顔が行き来してる
COVID-19とよばれる
ウイルスが地球の皮膚ぜんたいを
おおいつくす
しらずにふれたひとは
かたっぱしからたおれふす
というおそれに
ふかくそめられていった
このとし(年/都市)

百均で買えていた
個包装七枚入り不織布マスクが
ある日棚から消える
ドラッグストアの列に並んでも買えない
ネットで探すと送料込み一万円にせまるセット売りばかり
ないと聞くと
なければいけないようでどきどきする
見ていたかのように
使い捨てというけれど
洗って何回かは使えますと
手押し洗いの映像
ひもに付着したウイルスが手や口にふれるとイケナイので
よぶんを持ち歩いていますと街頭でこたえるひと
なんて周到 いややおせっかいいらん

「ふつうにしっかり手洗いで十分だよ
あと、よく笑って免疫力アップ
さっ今夜は『百年目』見よう」
落語のDVD、買っておいてよかったよね

赤ちゃんは大人の表情を見て学んでいるから
マスク生活でその機会が奪われるのは深刻な問題、という記事を
Facebookで見かけてシェアする
ひとの心の動きがわからないまま
成長してしまうおそれがあると
そこへ
「目は口ほど物を言うというのは嘘でしたね」と
コメント
ああ畑井さん
ほんとにね
「マスクの下は笑顔」なんて書かれていても
きゅっと結んだ口もとだの
ふっとこぼれた溜め息だの
思わずゆがんだへの字だの
湿った布きれいちまいに覆われてわからない
しげしげ見つめてみれば
眉根が寄って尋常ならざる空気だったり
額のシワがいちだんと深かったり
最高気温三十八度に耳やまぶたが火照っていたり
するかもしれないけれど
接近遭遇が嫌われまくっているこのご時世には
不首尾に終わってしまう可能性が大

ああ
はんがん
伏し目がちな仏像の慈愛に満ちた
半眼、じゃなくて
はんがん
半分きり見えない顔を
めいめい
stay homeで運動不足ぎみな身体に乗せて
歩きまわる二〇二〇年のじんるい

ヨーセイされて自粛なんてさ
ご遠慮くださいといって遠まわしに
お断わりされているのと同じ
じぶんでえらんでしているのではなくて
ほんのりていねいなふりして
なんきん
(カギではなくパンプキンでもなく)
マスクだってさ
まもるというよりフーイン
(かぜのおとではなくて)
そう、ツバとばすなというだけではなく
おくちにチャック
みたいやわ

不織布の 布きれの
しとっと蒸れた呼気をふくんで
ゆらっゆらっと
かしぐ身体
ダレノ
ダレノカワカラナイ
ワカラナイカラダ
カラダノ
ムレ
群れ

ナツのさかり
熱中症のキケンと相談してねといって
テキギ外しましょうって広報
そそそ そやろ
もともと外ではせんかてええねん
そんなん
言われなくたってわかるはずやんか
こんなやったら
ちょっと涼しなってきたらとたんにまた
さぁさ秋冬スタイルってばかりに
すみからすみまでずずずいーっと
並ぶんやろか
半顔
はんがん
にんげん、やのうて

はがしとうて
はんがん
ならん
はんがん
はぎとりとうて
ならん
かみきれ
ぬのきれいちまい

 
 

* イナロク 国道一七六号線の俗称。