地軸

 

工藤冬里

 
 

動かない線に張り付いてTLはゆっくり動き
叙事はきみを落ち着かせる
傾(カブ)いたままの章動的な背骨の震えによって
蝉は地球のように空洞だ
言い足りない事があるとすれば
それはいつも公転面に置かれた「愛してる」の解像度の変化による

 

 

 

#poetry #rock musician

You may well say so.
きみがそう言うのももっともだ。 *

 

さとう三千魚

 
 

In the evening
I’m back

The woman was home before me

Moco was waiting
under the table in the air-conditioned room

The front door
The plant pots

tree
It was dry

He wanted water

go home
took English lessons

and then dinner.
I had a vegetable salad, pork with ginger, rice, miso soup and pickled red turnip

I had a glass of white wine

“If that’s all you eat, you won’t have a bad summer.”

so
the woman said

You may well say so *

I had peaches

 

 

夕方に
帰った

女の方が先に帰っていた

モコは
エアコンの効いた部屋のテーブルの下で待っていた

玄関の
植木鉢の

木は
乾いていた

水を欲しがっていた

帰って
英語のレッスンを受けた

それから夕食で
野菜サラダと豚肉の生姜焼きとライスと味噌汁と赤蕪の漬物を食べた

白ワインも飲んだ

“それだけ食べたら夏バテしないね”

そう
女は言った

きみがそう言うのももっともだ *

桃も食べた

 

 

*twitterの「楽しい例文」さんから引用させていただきました.

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

醉歌

 

Sanmu CHEN / 陳式森

 
 

冬夜裡心碎的聲音不影響我
勢不可當地暢飲,
二零一九年的唐朝酣醉,
行步錯步亦步亦趨
拍琴李白歌三千
Wilson來此杯中做晚禱
一切暗夜斷灰藍!
他再臨復缺席,胡語亂言重
又清醒!
行兩步啱三步,步步高昇
老友嚎啕左擺右搖……
Paul咧嘴大笑,月亮反光!
如歌行板街燈趔趄
彌頓殷藍,胡椒手段出不遜的字句!
睨視發黑的警察。
他樂譜零落道路頓悟
誰來收買這疼痛的畫幅?
誰來傾聽我憂傷曲?
沉醉,包含了所有的沉醉!
冬夜裡心碎的聲音幷不
影響我寫下這旋轉詩句,
一段熄滅的歌。
我衹是獨醉,衹是隨手月光清明
我安靜如山中野狗……
今天早上是另一個早上,
一個黑夜之外的所在。
…………末醒…………

 

2019年12月13、14、18日

 

 

冬の夜
胸が張り裂ける音は私に影響しない
現場は飲めない状況だ
2019年の唐朝は泥酔し
間違った手順で同じ道をたどりなおす
琴を奏で 李白の三千の歌を歌う
ウィルソンはこのグラスで夜の祈りをする
全てが藍色の暗夜だ
彼はまた欠席し
くだらないことを言いまくる事この上ない
またシラフか!
二歩歩いてまた三歩 一歩一歩高みへ
旧友は左に右に泣き叫ぶ……
ポールはゲタゲタ笑い
月光に照らされ
アンダンテ・カンタービレの街灯はよろめき
ミルトンマーケッツでは胡椒弾の藍煙が不遜の字句をはじき出す
黒い警察の様子をうかがう
彼の楽譜は落ちこぼれ
路上はたちまち悟る
この痛々しい絵を誰が買うのか?
私の悲しい曲を誰が聞くのか?
泥酔は全ての泥酔をはらむ
冬の夜 胸が張り裂ける音は
この詩句には影響しない
消えていく歌
私はただ独り酔い 月の光がそばにあり
山中の野犬のように静かだ
今朝はまたもう一つの朝で
暗夜の向こうにある場所だ
…未だ醒めぬ…

 

2019年12月13、14、18日

 

・翻訳:清水恵美

 

 

 

短歌歌短

 

工藤冬里

 
 

短歌歌短

不正不正不正不正正不正不正不正不
不正不正不正不正正不正不正不正不
不正不正不正不正正不正不正不正不
不正不正不正不正正不正不正不正不
不正不正不正不正正不正不正不正不
不正が続いたらどうなるるなうどらたい続が正不
不正が続いたらどうなるるなうどらたい続が正不
不正が続いたらどうなるるなうどらたい続が正不
不正が続いたらどうなるるなうどらたい続が正不
不正が続いたらどうなるるなうどらたい続が正不
不正が続いたらどうなるるなうどらたい続が正不
不正が続いたらどうなるるなうどらたい続が正不
不正不正不正不正正不正不正不正不
不正不正不正不正正不正不正不正不
不正不正不正不正正不正不正不正不
不正不正不正不正正不正不正不正不
不正不正不正不正正不正不正不正不
大変な事が起きるるき起が事な変大
大変な事が起きるるき起が事な変大
大変な事が起きるるき起が事な変大
大変な事が起きるるき起が事な変大
大変な事が起きるるき起が事な変大
大変な事が起きるるき起が事な変大
大変な事が起きるるき起が事な変大
大変な事が起きるるき起が事な変大
大変な事が起きるるき起が事な変大
大変な事が起きるるき起が事な変大
大変な事が起きるるき起が事な変大
大変な事が起きるるき起が事な変大
大変な事が起きるるき起が事な変大
大変な事が起きるるき起が事な変大

 

 

 

#poetry #rock musician

In any case we have done our best.
ともかく私たちはベストを尽くしたのだ。

 

さとう三千魚

 
 

yesterday
Agnes Chow Ting and others were arrested for violating the National Security Act of Hong Kong

Last night too

Moco barked at the bed

Because the bedroom on the second floor is hot

turn off the air conditioner
bark

so
hold up Moco

I left it in the living room on the first floor

then
Is Moco lonely?

also
barking

after all
I go down the stairs

lie down with Moco on the sofa in the living room

on the sofa
wait

wait for the morning

In any case we have done our best *

 

 

昨日
周庭たちは香港国家安全維持法違反の容疑で逮捕された

昨夜も

モコは
ベッドで吠えた

二階の寝室が暑いからか

エアコンを切るとモコは
吠える

それで
抱きあげて

一階の居間に置いてきた

すると
寂しいのか

また
吠えた

結局
わたしは階段を降りていく

居間のソファーでモコと横になる

ソファーで
待つ

朝になるのを待つ

ともかく私たちはベストを尽くしたのだ *

 

 

*twitterの「楽しい例文」さんから引用させていただきました.

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

ベテスダ

 

工藤冬里

 
 

大林に比べ戦後間もない「東京物語」の遠い尾道は更に黒瓦で統一されており、「ありがとうね」の「が」に強調が置かれるイントネーションが却って鼻筋のバタ臭さと溶け合い、「六七で大往生」の寿命感も余人を周章てさせるだろうし、網戸の無い別の国から僕の母もルイーズ・ブルジョワの母もホドロフスキーの父も来たと知れるのは、喪服を持って或いは持たずに乗る弾丸列車のデスティネーションこそが映画史の父母であるからなのだった。さてガレルが映画史的に偉大なのは、ノスタルジーの問題を乗り越えようとした苦闘の質においてであり、彼がニコを通して大他者の視点を獲得し、自分の父と自分の子を別の人間として扱うことができるようになったからだった。それに対して「東京物語」は実の子ではない者が義理の母と結びつくルツとナオミの物語である。彼らは最初から別の人間であり、戦争という大他者が彼らを結び付けている。そこでは苦闘は正面からは描かれず、消えていく美徳への哀惜のみがある。映画人に好まれるのそのためである。それで、というわけではないが鎌倉で小津の墓から洋酒の小瓶を何本か盗んだことがある。その夜病気の友人が自分を殴って死んだ。僕は電話に出なかった。「そうかい」と笠智衆が言う。ところで僕が「地獄の季節」で好きなのは「ベテスダ」である。イエスは一本の円柱にもたれていた。それは映画のようだ。かれは不具者を見ている。かれは何もしない。異なった二つの治癒の出所についてだけが略述される。

 

 

 

#poetry #rock musician

Pity is akin to love.
同情は恋愛に似ている。

 

さとう三千魚

 
 

Last night

Moco is
barking in bed

I was awakened many times by Moco

hugging and down the stairs

Moco

crouched in the garden
and peeed

next
Moco

drank water

I gave up
lie down on the sofa in the living room with Moco

Maybe Moco was hot

on the sofa
lying down

I was waiting for the morning

Moco fell asleep immediately

Pity is akin to love *

 

 

昨日の夜

モコは
ベッドで吠えた

モコに
何度か起こされた

抱いて階段を下ろすと

モコは

庭に
しゃがんでおしっこをした

次に
モコは水を飲んだ

わたしは諦めて
居間のソファーにモコと横になった

たぶんモコは暑かったのだろう

ソファーに
横になって

朝になるのを待っていた

モコはすぐに眠ってしまった

同情は恋愛に似ている *

 

 

*twitterの「楽しい例文」さんから引用させていただきました.

 

 

 

仮名かな手本芸獣ケミカル

 

工藤冬里

 
 

貧困が問題ではなく
名前各部の熱にバラつきがあり
パーマ屋には行く
歳取ったって別にいい
いつも明後日の予定を考えなさい
自分が死んだ後に起きたことを学びなさい
芸術肉体労働者は体と心を使い
芸術職人は頭と心を使い
芸獣はクスリを使う
明後日
多くのスキルはなくなります
四十日面会できなかった間にすっかり弱って
心手術してないのにイタイイタイ聞くのが辛い
ユーラシア南東のビンロウジの吐き跡が
ペンシルベニアドイツ語圏メノナイトに

かなかなをうちに一瞬寄らせる名が関係している

 

 

 

#poetry #rock musician

草叢

 

松田朋春

 
 

自分の周りでも抗体検査で陽性になった人がいて
隣り合わせで暮らしている実感がある
私の検査結果はおそらく明日か明後日には届く
自分が陽性であれば家族も全員陽性であるはずだ
疫病のひろがりというよりは
無症状のひろがり
なにもないひとが
なにもないものを
気付かぬうちに手渡すという
シンプルなルールに
働かざるもの食うべからずは
太刀打ちできない
倒産や廃業の知らせが
毎日届くようになってきた
揺るぎない感染のあゆみよ
いよいよちぐはぐな社会のふるまいよ
何かがはじまる前の静けさに草叢が匂っている
明日など来なくていいのではないか

 

 

 

 

小関千恵

 
 

握られた手を解くことができずに
もう片方の手で
体の中から桃を取り出し
大切に見せることができたら分かってもらえるものだろうかと思ったけれど、それは
桃のこれからの繊細さを訴えるよりも
既に産毛の生えた柔らかい皮膚は腐敗直前まで焼かれていて
濃度の高い愛しみ (かなしみ)が滴り落ちていたので
もうただ誰にも触れさせられないものになっていたのかもしれない

彼はその桃を
窓辺で乾かし続けている

桃を取り出した体は宙に溶けやすく
少しづつ
沈黙の音の中で
嵩張った祈りたちには砕けゆくままに 踊った
闇のドットを掻き混ぜながら
落ちても浮いても
ここがどこまでも空であることに
気づいていった

ずっと純粋だった
呼吸をし、
手足を動かし、
体温があり、
すぐになにかでいっぱいになった

届かないものに憧れて
水を飲んだ

戻るように、生まれていった

体の中で
また新しい実が実りはじめていた

風が吹き 窓辺の桃を撫でてゆく
あの桃のことは 宇宙に任せておけばいい