増産される、のは

 

ヒヨコブタ

 
 

ひとが
ひとが怖くなるこんなとき怖くなる
ウイルスへのおそれのほうがわかりやすい

ひとは
ひとは鬼になる
大切なものを守るというたてまえで

幼心にそんな母をみたことがある
わたしは怖かったが母は笑った
その笑顔はほんとうじゃない
本物の笑顔だけください神様

誰かを蹴散らし誰かより上に行き
誰かを嘲りわらうためにいきているのではありません
たぶんほとんどのひとが
そうだと信じています
だからお願い

もう叩きあうのはやめにしませんか
そっとほほえみあいたいのです
抱きあいたいのです
泣きじゃくりあいたいのです

傷を誰しもがもっているなら
優しく手をあてていたいのです神様

 

 

 

ヒの字

 

辻和人

 
 


ヒ、ヒ
ヒ、ヒ、ヒ
ヒの字
こりゃ
手まっすぐ、足まっすぐ
伸ばしたら

だよ
こりゃ
で、確かに
眠ってるみたいだよ
こりゃ

「あのねえ聞いてよ。レドちゃん、死んじゃったのよ。
夕ご飯の時、いつもみたいに食卓の椅子に上って頂戴頂戴するから、
牛肉を小さく切ってやったらおいしそうに食べて、
もうひと切れ、
それもおいしそうに食べて、
もっともっと、
鼻くんくん言わせるからどうしようかと思ってたら、
いきなり、いきなりなのよ、
ばたんと椅子から転げ落ちて、そう、
ヒの字
みたいな姿で床にべたっとしてるから、
あらあらレドちゃん急におねんねしてどうしたのって触れてみたら、
息してないの。
慌ててお医者さんに電話してみたら車で来てくれて、
そしたら心臓マヒで即死ですって。
ほんと、眠ってるようにしか見えないの。
悲しいより何よりただただびっくりしちゃってねえ」

母からの電話を受けたのが帰宅途中の電車の中
ぼくもただただびっくりしちゃって
言葉出ない
涙出ない
出ない出ない
出ないまま

今日土曜日
庭に埋めるためにやってきた
バスタオルを敷いたダンボール箱に収められた、あれは
レドだあ
手足は畳まれてるけど
前足と後足ピンと伸ばしたら
まさにヒの字
ヒの字のレドだあ
かたぁい
つめたぁい
でも苦しそうな感じはない
眠ってるみたいって
ほんとだったんだ
口からひと筋うすーく血が流れてるけど落ちた時の衝撃だろう

「今年に入って急に痩せてきちゃったんでどうしたんだろうと思っていたんだけど、
食欲もあるし甘えてもくるしで、
元気にしてたんだけどねえ。
やっぱりあのケガが基で臓器全体が弱ってきてたんだろうねえ。
預かったのにすまないねえ」
杖ついた父が申し訳なさそうに話す
レドが懐いていた母は辛いからと「お葬式」には出ずにお店に行ってしまった
どっかの誰かさんが外に出たレドのしっぽの部分を力任せに叩いたおかげで
腰の骨が折れてレドはおしっこが一人ではできなくなってしまった
父が体を押さえてペニスを飛び出させ
母が尿道にカテーテルを通して排尿させる
毎朝毎晩、毎朝毎晩
レドは最初はちょっと抵抗したものの
じきに慣れておとなしくおしっこを取らせるようになった
目を細めて舌をぺろりと出したりとか
父母にかわいがってもらえる時間と思っていたのかもしれない
「いいえ、こんなに手厚くしてくれて本当にありがとうございました。
お父さんとお母さんには感謝しかないです」
「そうかい。そう言ってもらえると心が軽くなるねえ。
とにかくレドはピンピンコロリのお手本みたいだったよ。
自分も死ぬ時はああいきたいもんだね」

焼いた牛肉をふぅふぅ
小さくちぎって
鼻の先に差し出す
黒目真ん丸がくるっと動いて
くんくん
ぱくっ
おいしいおいしい
もう一つもう一つ
母の腕に前足かけて黒目真ん丸きゅっとさせて
くんくん、ぱくっ
おいしいおいしい
またまた黒目真ん丸
鼻ひくひく
前足かけて後足もちょっと伸ばして

ヒの字

かたぁいつめたぁいレドが収められた箱の傍には
ホタテ
マグロ
ササミ
の猫缶と
牛乳
お葬式なんだあ
故人の好きなものが並べられてるんだあ
手を合わせる
そろそろ庭に埋めに行きますか

椿の木の下
フキが植わってるここ
日当たりがいい
ここがいい
スコップで穴を掘る
おやおや、根が張り巡らされていてなかなか進まないぞ
すると父が杖を置いて貸してみなさいって
スコップの先でまず周辺の植物の根を切って
掘る、また切ってまた掘る
なーるほど
いろんなものが植わってる庭で穴を掘るってことは
土を掻き出すってことじゃなくて
まず根を切るってことなんだな
すいませんね
庭仕事あんまりしたことなくて
お父さんさすがだね
でも、コツわかったから代わるよ
がしっ、がしっ
根を切って掘る、を繰り返していると
いつのまにかファミがベランダ近くにやってきた
ガラス越しにぼくの作業を見ている
にゅあにゅあ鳴いてるじゃないか
ファミもここ数日レドの姿が見えないことに不安を覚えてるんだろう
ぼくが庭で何やら妙なことをやってることと
相棒がいなくなったってこと
何か関係あるって勘ずいてる
レドとはすごく仲良しってわけじゃなく時々ケンカもしてたファミ
それでもベランダを行ったり来たり
にゅあにゅあ、だ

がしっ、はい、長方形の穴ができました
レドの体を箱から出しました
眠ってるみたいでした
いつものレドの顔でした
いつものレドちゃん
最後の頬ずり
かたぁいつめたぁい
紙に包みました
穴の中に置いて、がしっ、がしっ、土を被せました
すっかり埋め終わって土をスコップでとんとんしました
ホタテ
マグロ
ササミ
牛乳
土の上に撒きました
父と一緒に手を合わせました
黙祷
にゅあにゅあ
良い天気
「この上にフキを植えてやるかな。レドも賑やかな方がいいだろう。
椿の季節になったら赤い花が落ちてきれいだぞ」

帰って母に感謝の言葉を伝えて
さあお風呂
ちょぽーんとお湯に浸かると
ありゃま
浮かび上がってたぞ
ヒの字
おいしいものをひと切れ、もうひと切れ
おいしいおいしい
くんくん
もっともっと
一番いいトコで
ヒの字
前足が横の棒
頭からズッと線が走ってしっぽで曲がって後足が横の棒
食いしん坊のレドらし過ぎる
2008年、ノラ猫クロがくわえてきて
ご近所さんの目を盗んでご飯あげて遊んでやって
猫路地に放り込まれたのを救ってやって
2009年、祐天寺のアパートから伊勢原の実家へ
あれから10年
自分の分を食べ終わってファミの皿に手を出して一喝されシュンとなったレド
成長してファミが遊ばなくなったというのにいつまでも猫じゃらしに飛びついていたレド
マッサージして欲しくなると食卓に飛び乗って背中をしなしなさせていたレド
レド全開のまま

ヒ、ヒ
ヒ、ヒ、ヒ
ヒの字
あーあー、やっぱりくるよなあ
丸い透明な液体があとからあとから
ホタテ
マグロ
ササミ
牛乳
を連れて
湯気の立つヒの字の周りを
ぽたぽたぽたぽた、旋回
レドちゃんレドちゃん
楽しかったね
また遊ぼう

 

 

 

証明写真の背景に寒色が入っている *

 

朝食は

ちりめん干しと大根おろしだった
鱈の粕漬けも

焼いて
食べた

大根おろしには
牡蠣しょうゆを垂らした

そして冬里の

白い
碗で

お茶を飲んだ

フィンランドの
fbフレンドのTepiのwordsに出会った

I refuse to be unhappy ! 🙂

すこし
気持ちを溶かした

それから
車で

街の犬猫病院に行き
モコのサプリメントをもらってきた

モコは
ソファで待っていた

最近モコと
お風呂にはいっていない

お風呂には

ボタニカルの入浴剤をいれてはいる

明かりは
消してはいる

少女みたいだ

たまに
防水スピーカーでパルティータを聴く

Partita no.4 D major BWV 828 II Allemand

ぼくは
ここにいて

遠くを見ている

西の山のうえの空を見ている

きみはいまどこにいるの?

 
 

* 工藤冬里の詩「春」からの引用

 

 

 

 

工藤冬里

 
 

証明写真の背景に寒色が入っている
ふたつの人格がエネルギーを掛け流しにしている
瞬間に倫理はない、という着古した欲望の流れ
寒暖の差額のように綱から踏み外し続ける
血は樹木のように枝分かれして
入れ替わるかもしれない顔を形作る
姓が食い止めているのは何の氾濫か
蒸せ返るような苦々しさの小石が紅い
ハグする正しさの井戸を塞ぎ
掘り返して命名する緊張を学べ
シルエットは人質の解放を夢見させている
落語家か梟か識別出来るほど日は伸びて今はしんとしている
有名な俳優に翻訳されていく夜
猫の理解と比べてみる夜の目
染めた髪と白髪の同根の緊張
毛根に光を当てて
自分を描け流す
なんで猫が退屈しなければならないのか
最も大事なことをなぞるなら樹木は折れる
ヤギの白が一七℃で
政権など何の考慮にも値しない
赤縁メガネにピンクの雲が絡まる
答える必要がないことに答える奏法が無駄
折れて斜めになっても伸びるミモザ
猫の叛乱
原因が分からないので暴れているのだ
コンパクトな室町様式の肖像画の直線に猫の哭き声が被さる
ブルドーザーはニカニカする
銀は寒暖に降り注ぐ
生きている人は死んでおり
死んだ人は死んでいる
コロナの人はコロナを生きており
コロナじゃない人はコロナを生きている
今日という日のいらだちを
通過させるのはETCしか使えないスマートIC
全て発掘して陳列させられる格言の疫病
アメリカの形がシルエットになっている
やましい発音としてのあーたとわたいたち
背景色は黄色が良い
創造界のデザインに見られるヒョウ柄
ヒットエンドラン×2
抗癌剤でニット帽
無緑感で散らされる
日本人かどうか区別するのは
パンシロン色のニット帽
老齢ローレライ
シンプソンズの瞼
椅子は猫にoccupied
編笠の風化と共に
黒鍵は指に昇られてゆく
病気と
金欠
老齢
あたいたちとあーた
安普請
どのICから入るか
ツバメ国道で吃る
闘え!コロナウィルス!
昔は一度言ったことは取り消せなかったが
今は指が滑ってストーリィさえ消える
写真術の進歩などない
梅は落ちた
柿芽は食べる
テカる人間価格
ちんちちゅじょで柿の芽は膨らむ
薄汚れた毛皮の不興
和紙の道はコウゾ
雀の居なくなったworld
我ハトのごと翼ありなば
声はギンとハウる(シェールの”Do you believe in life after love?”みたいに)
石切りのように消えてゆけ
自由になって命を軽くするより
正しくなくてもいいので重くする
大抵のアナウンサーはそうではないが
きっとズボンも履いているに違いない
顔が物語っている
私の闇
レッツゴー役立たずと唄っていたが死んだ

 

 

 

家族の肖像~親子の対話 その45

 

佐々木 眞

 
 

 

お父さん、後ろの反対は前?
そうだね。

お母さん、役に立つって、なに?
人のお手伝いができるってことよ。

お母さん、息がつまるって、なに?
息ができなくなることよ。コウ君つまったの?
つまりませんよ。

お父さん、高校って3年まででしょう?
そうだね。

ちなみには?
ついでに、だよ。

タケナカさん、いなくなってしまいましたよ。
タケナカさんって誰?
「盤上の向日葵」の。

◯はゼロに似てるね?
そうね。

アオイケさん、南浦和でしょう?
そうだよ。

お母さん、ぼくチャーハン食べてから、セイユー行きますお。
わかりました。

お母さん、ぼくは「転校生」好きですお。
そう。お母さんも。

落語って、なに?
面白いお話をすることよ。

図書館行ってえ、藤沢で定期買ってえ、回数券買ってえ、トウキューでお弁当買ってえ、ケーキ買いますお。
分かりました。

洗濯物、乾いた?
乾きましたよ。

205系は、車両が古くなったんですお。
そうなんだ。

こんど相鉄線、埼京線に乗り入れるよ。
そうなんだ。

出ますか?
出ますよ。

ボク、落花生好きですよ。
そう。
落花生、落花生、落花生。

いとしいって、なに?
かわいいことよ。

ウエダさんが「汚れ取りましたよ」といったお。
そうなんだ。

トダエリカ、大人になってからですよ。
なに?
トダエリカ、大人になってからのお話ですよ。
そうか、「スカーレット」の話ね。

コバヤシカオルとタカハシアツコ、なんで離婚したの?
なんでかなあ? それなんのドラマの話?
「幸せになろうよ」だお。

謝るは感謝の謝だよね?
うん、確かに。

よし、血圧測るぞ!
測ってね。

お父さん、正直にいいますお。
そうだよ、正直にね。

ぼく北海道新幹線、好きだよ。
そうなんだ。

お父さん、メイサ、武子とかでしょ?
それってなんの話?
「八重の桜」ですお。

お母さん、「至金沢八景」ってなに?
この道をずーっと行くと、金沢八景へ行きますよということよ。

お父さん、お巡りさんの英語は?
ポリスだよ。
なに?
ポリス、ポリス、ポリス。

いけねえ、駄目よ、のことでしょ?
そうだね

どこで冠水したの、道路?
千葉だよ。コウ君、冠水なんてよく知ってるね?

「コードブルー」、どんなお仕事する人?
ヘリコプターに乗って、怪我とか病気の人を助けるのよ。

ぼく「ルパン3世」おもしろかったよ。
そうなんだ。

お母さん、知恵って、なに?
よく考えたことよ。

カキモトコウゾウさん、亡くなったの?
そうだよ。

ぼくは、独りで南浦和行きますお。
そう。行ってね。

えーとねえ、カミウラさん、立て替えてくれたんだよ。
そうなの。良かったねえ。

ぼく、ガチャピンですお。
こんにちは、ガチャピンさん。お父さんはムックだよ。
こんにちは、ムックさん。
こんにちはガチャピンさん。

高速、お金払うでしょ?
うん、払うよ。

施は、ほどこしでしょ?
そうだね。

きっと、絶対でしょ?
そうだね。

お母さん、体調悪いって、なに?
身体具合が悪いってことよ。コウ君、体調悪いの?
悪くないですお。

さぞ、って、なに?
きっと、よ。

デザイナーって、なに?
いろんなかたちをつくるひとよ。

商売って、なに?
お店のお仕事よ。

エレベーター、物を運ぶとかでしょう?
そうよ。

お母さん、前進って、なに?
前へ進むことよ。

お父さん、脳腫瘍、おできでしょ?
うん、まあそんなもんだね。

カズエちゃん、お母さん元気?
元気だよ。

南浦和、タクちゃんとリョウちゃん、住んでたよ。
住んでたねえ。

小児療育の看護婦さん、ちょっと怖かったですお。
そうねえ。ちょっと怖かったね。
小児療育の看護婦さん、いなくなりましたお。
そうねえ、新しい人に変わったよね。
変わりましたお。

連佛さん、七瀬だったでしょ?
そうだったね。

びちょびちょって、なに?
水に濡れたときだよ。
びちょびちょ、びちょびちょ、びちょびちょ。

ぼく、バイカモ好きですお。
お母さんもよ。
お父さんも。

転院先て、なに?
移った病院よ。

ぼく、責任持ちますお。
そうなんだ。

お母さん、受け止めるってなあに?
いう通りにしてあげることよ。
連佛さん、受け止めるっていったよ。
そうなんだ。

お母さん、意外にって、なに?
思っていたことと違って、よ。

ぼく、おばあちゃん好きですお。好きなんですよ。
そう。お母さんもよ。

お母さん、ぼく小田急。小田急ゴゴゴ、ゴオー。

お父さん、減るの反対、増えるでしょう?
そうだよ。

お父さん、臨海線、東京にあるでしょ?
うん、あるよ。

もともとって、なに?
最初から、よ。

お父さん、シカにエサやると?
なに?
シカにエサやると、よろこぶよねえ?
うん、よろこぶだろうね。

 

 

 

マコとマコト

 

佐々木 眞

 
 

一人は男、一人は女
一字違いの名前だが、その他もろもろが随分違う。

男には姓も名もあるが、女にはなぜか姓がない。

男の名前は普段呼び捨てにされ、偶には「さん」が付くが、女には常に「様」とか「さま」が付く。

男はパンと家族のために額に汗して働いてきたが、女には、その必要はまるでなさそうだ。

男の稼ぎの一部(極ごく一部だが)は、女とその一族の暮らしのために提供されているが、
女からの見返りは全くない。

男はひどい猫背で、外に出ると蝶や地面の石ころなんかを見ているのに、女はピンと背筋を伸ばし、所謂「上から目線」で闊歩している。

この広い世の中で、男に頭を下げる人は誰一人いないが、女の前では、誰もが(あの慇懃無礼な独裁者でさえも)丁重に下げる。

これらの違いはずいぶん大きいのだが、何の因果でこのような差がついたのかについて縷々説明してくれる長屋のご隠居はいなくなり、今では学校の先生に訊ねても、ちゃんと答えてくれないようだ。

しかしながら、男と女の共通点もある。

男も女も現生人類=ホモ・サピエンスの対等な一員であり、万世一系か複雑系かはいざ知らず、どんどこ時代をさかのぼれば、先祖は縄文人か弥生人の山頭火のような風来坊に辿り着くはずである。

さて、ここで問題です。
もし男がパッタリ女に道端で出くわしたとしたら、男は女にどういう態度を取るでしょうか?
次の4つから選んでください。

1) シカトして、黙って通り過ぎる。

2) 恭しく低頭して、上目遣いにチラっと顔を見る。

3)「こんにちはマコさん、僕はマコトです。同じ漢字の名前なので、お見知りおきを! どうぞ宜しく!」
と元気よく挨拶して、さっと右手を差し出す。

4)その他。

 

 

 

反射

 

原田淳子

 
 

 

刻まれることない
墓のしづけさで
蕾を数える

薫る朝までのゆめ

/

石の光の反射に過ぎない星の位置に
人型を紡ぐのが翻訳だとしたら
温度のない無機物に
もしかしたらVirusにさえ人型を求めるのは
人は断絶を恐れているからでしょうか

翻訳が断絶の治療薬でしょうか

それとも
流れてゆく人型を忘れぬための.

/

横ではない縦の階層のオーロラ
滝を横滑りする
意味を翻して

遠近法は、距離
星々の摩擦
向きは光速の逆位置
意味を反射せよ

/

逆さまの滝に
彼方の横顔を描く

いないあなたは
いないわたしの反射

倒れているのは塔ではない

流れいる船
小動物たちが温めあう

声だけが
彼方に反射する

 

 

 

民家なのに自販機置いてる *

 

この町では

きのう
学校がひらかれた

子供たちが
道を歩いている

もうすぐ春休みになる

民家なのに自販機置いてる *

大人たちは
仕事にいく

今日も

ウィルスと
交わる

交わりはDNAに記録される
子孫に残す

能記所記の
所記に

男と女の幻影は佇つ
交わりは

マスクして戸は開ける *

マスクして *
戸は開ける *

松崎の
海の見える岩山の林の中の

林の中に

女がいる
風が渡っていく

 
 

* 工藤冬里の詩「あ、と@ー」からの引用

 

 

 

あ、と@ー

 

工藤冬里

 
 

@-
あなたなしで
@-
違いました
奇効 卓効 の 違い の ように
蓬でも摘み
あなたが居て
(絵画の季語を更新したからにはドイグは)
あ、場所がないってことは
ない場所で書けってことか
いよいよだな
すべての連結をばくてりあに代行してもらうさだめの時が到来しました
ぼくはその間泳いでいよう
頭を地球にして
運転なんぞはばくてりやに代行してもらおう
さいぜりあかさいぜりやかも決めてもらおう
そしてぼくは遠い外国に旅に出よう
あ、遠い外国なんてもうないんだった
じゃあ上池の土手を一周しよう
その間に何人死ぬるかな
あ、死ぬるはこっちの方言だったごめん
つい出ちゃってサア
ずっとろくに寝ないで働き続けている
空いた時間は自分の遺品を整理している
僕が死んでもうずいぶん経つので記憶が薄れてきている
人の名前をとうとう一親等くらいまでしか覚えられなかった
ほとんど味噌と納豆を食べていた
彼はオープンカフェが好きだった、という墓碑銘は、もっと行っておきたかった
たなぁというような意味に過ぎない
身体は歯を外に押し出そうとする
子らの歯が浮くのはこのためだ
裏を表に表を裏に
民家なのに自販機置いてる
眠いですさんたまりあ
と象は言って寝ました
自営やフリーターにも援助が出るっていうけど現金くれるんだろうかファミレスで寝てはいけません
横になれたら死んでもいい
あ、わかったストロングゼロ6缶pとか現物支給だと思う
そう理に手紙書いてその配達をいちおく円で請け負おう
音楽はいつも向こう側を流れている
音楽は川ではなく川の向こう側を逆流している
川に釣り糸を垂れても音楽は作れない
作りに行く音楽は川で海の魚を釣り海で死んだ川魚を掬うようなものだ
コロナのせいでしばらく図書館車を止めるという電話が入った
棚の隅で古井由吉か白石一文フェアを設えようと思っていたのに、
そういうことです
と言われた
昔、里見弴やゴーチェの文体について話していた時に角谷が言った、
彫琢のある
という山口弁の言葉の響きがまだ残っている
粋な看守の計らいで
朝マルシェで見たけど東温でもビーツ栽培してるひとが居(を)るんやね
バンドマンは腰にも木綿のバンダナや絹のスカーフを身に付け羅紗の云々
代車?
おれは代車だったのか
@-
あなたなしで
@-
爆睡フライデー
3.11
空白空0フゲロ phygelus
ええ、固めで
薄味にしてください
あとは普通で
(古井由吉遺作を読んでいる)
空白空0ヘルモゲネ hermogene
はーい
(デマスに)ネギイチカタウスです
空白空0デマス demas
はいよ
(フゲロに)薄めでも飲み干したら世界は同じことだ
糸井批判は贖いを薄めるため、
道連れのライブハウス最終兵器彼氏はポアと同じ発想
老人死
見渡すかぎり
サガミハラ
2°Cか
思えばテロは文明であった
文明は恐竜のように滅び
ウィルスは虹運動の果てとしてヒトとの婚姻届を出せるようになる
権利が認められたのだ
前に同じことがあった
労働者から少数民族に移行した後家畜に目を向け最後は単一プランテーション批判に行き着いたエコロジーの、
更にその果ての死後のアルシーブとしてのレピと似ているのだ
その爬虫類顔への流れは、エデンの命名の逆を行った。存在よりも翻訳の方が大事なのだ。逆行の獣姦としてのコロナの顔にこそ反逆者の王冠があった
言語より翻訳の方が上に来るので似姿の失敗はコロナの顔に転写されてゆくのだ
ヒトは瀬戸の花嫁
ウィルスからウィルスへ
翻訳していくの
幼い弟
コロナと泣いた
オトコロナだあったら
ないたありせえずうに
父さん母さん大事にしてね
やだコロナ目がない
美女と野獣と思えばいいのよ
もうじき国が目を描き入れるわ
じゃあ行きますと答えるリベカ
夫は立ちション(誤訳)黙想しても感染しない唯一の希望の星だった
希望は絶望
絶望は希望
ウィルスのように増えたので
人間のように増えたのだ
能記所記
肺炎初期
裴氏とカイジ
分断熱38度線維持
はいはhigh
いいえはyeah
ハイヤー理不尽川
李夫人と裴氏
奇天烈コロナリ
モータウン
それは牛の町
ベーブ・ルース
コロナイン南港
裴氏の色やね
一旦バキューン
丹波牛
脳林水産大尽
カフカ保護
株価変身
コロナイダー
カローラコロナソアラの三人
おころのみ焼
なろうなろうコロなろう
あすは肺炎の気になろう
おんころな人は肺を受け継ぐでしょう
おところんところんな
公論な
「殺な」糸井貫二
ころならまんせい
コンコンハクション
コロナロー
コロナあ、と@-
ヨーヨーマ
芙蓉蟹
厚労省
コーロー麺
(いや紅楼夢、かな)
オペラナブッコロナ
神戸のお菓子と言えばコロナンバン
餡ころくださいな
ナンコロ?
6個な
炭火?
コンロな
ころなずむ黄昏
こころなはずむビギン
二人でつつくコロ鍋
絶対出てくるコロナート
放射能:人命保護
テロ:文明保護
コロナ:人類保護
の三層のパイ生地
増えることは減ること
減ることは増えること
うれしいことはかなしいこと
かなしいことはうれしいこと
生きることは死ぬこと
死ぬことは生きること
見えないものは見えるもの
見えるものは見えないもの
昔はトリチウムがそうだった
今はコロナだ
トリチウムは生き物ではない
コロナはばくてりあでちゃんとした生き物だからきみとも結婚できる
セリーヌがまんまと医者になれた論文「ゼンメルヴァイスの生涯と業績」は
手を洗うという行為が見えないものと結びついているという布教に終始しているが
見えないものに対する感受性こそが作家の資質であり
それがフィリピンパブに拡散しに行くことにも繋がっていくのだという怖ろしさを
セリーヌ自身は免れているという仕掛けになっている
聖セリーヌ全集は真っ白な装丁にすべきであった
フィリピンパブに話を戻すが
崖っ淵の豚の群れ以来の道連れの自棄は
サガミハラを経て
拡散の自暴となって目に見えるようになった
何回も繰り返すがこれはポアであり
無意識の陰謀論的人口削減願望のユング的現われであると言える
芸術の優先順位はそのダークサイドに直面しつつも、ピラトの手の洗い方ではなく、セリーヌの白さを持たなければならない
管は避け弦かデジタルにする
マスクして戸は開ける
アルコールがないなら焼酎を噴霧し続ける
急に1℃になった
手にハンマーを持て
という歌がかかっているが
コロナの魂がひとつ
飢えた虎に身を差し出す
きみも死んジャイナ節
全米が死んだ
鎖国して触る鎖骨
骨粗鬆和尚
射殺せよと呼ぶ声が聞こえ
バグワンが沢庵をバクバク
唇にチック
目頭2:50
PayPayペンペン草
一遍遍上人
ふだんはさえない少年・石野あらし。だが、ひとたびゲーム機に向かうとき、その才能が目を覚ます!!
ホケキョと啼いて踵を返す死んだ女房の近視顔
風邪っぽい
栄光
軽んじる
くさみどり
000あるくまね
菜の花はリングの中
眠いのでダンスの軸足がふらつくが
アトリエの埃だと思って光を浴びる、
シーク教徒のターバン
ああ
あなたなしで
ああ

 

 

 

Sakura Sakura

 

長田典子

 
 

さくら、サク、ラ、
かすみかくもか
薄墨色、けぶる
花房、すずなりの、
み、わ、た、す、か、ぎ、り、
アバンギャルドな、不穏に響く変ホ長調、CDから流れる
スタンリー・クラークのSakura Sakura みわたすかぎ、……消音、空白の、り、
アバンギャルドな、不穏な、り、立ち現れたる我らの
妖怪「土蜘蛛」の、千筋、万筋、白い糸伸ばす、
Scatter 散りばめる、
り、はらはら垂れる り、り、…… ふいに消滅、
ウッドベースの低い重なる不協和音 破れ、去る、空白、その気配、

低い空から弾ける薄墨色の花火は
下降する、はらはら花びら Scatter まき散らす
五臓六腑に匂い発つ墨…、墨…、じわじわ薄紅色に染めあげ、
長机に向かって小さな手で書いた高音の「さくら」から遥か遠く
黒い土の上をけぶる薄紅色の気配
花房、
群れる 散る 這う 広がる 渦巻く その先の空白
空白 ヨコハマ、リビングから
てのひらの「土蜘蛛」の糸、千筋、伸ばし伸ばし、飛ばした
七年前のニューヨーク、ブルーノートへ
大嵐、
水没したロウアーマンハッタン
三日後には開店
ステージが終わると客は急ぎ足で外に消えていった
Scatter 散らす、
暗闇の中でライトが小さく灯る
何か記念のお土産をと二階に上がって行ったら
いつも人で賑わっているフロアには誰もいなくて
あなたにバッタリ出くわした
咄嗟に
二人で写真を、とお願いしたのだった
あなたの腰に腕を回し脇腹の贅肉をぎゅうっと摘んだ
写真よりもその手の感触がわたしのお土産
いざや いざや
七年後、
二〇二〇年
ブルーノート・トーキョー
ようやくあなたのウッドベースの音を聴いた
記念のお土産に買ったCDの
Sakura Sakura
不穏な変ホ長調、二オクターブ下の重なる隣合わせのドとシ、はらはら、煙る
けぶ、る
ヨコハマのリビングでSakuraは
いざや いざや
渦巻く不協和音、濁る、一月の床は冷たく広がる
のやまもさとも
攻撃、報復、くすぶ、る、る、疫病、る、る、り、花房めくるめく、
低く弾ける花火は黒い土の上を群れる、渦巻く、散らばる、くすぶ、るる、
花房はなびら るる、り、り、り、はらはら散らばる り、り、
立ち現れたる
我らの妖怪「土蜘蛛」の白い糸、千筋、万筋、伸ばす り、り、り……、
消音する、りりりりりり……、不穏な、り、り、り、
Scatter 散りばめる、
スタンリー・クラークのウッドベースがリビングの床に反響する
温かい消音、り、りりりりりりり……、五臓六腑に沁みわたる
あの日
あなたの脇腹の贅肉をぎゅうっと摘んだその指で
紐スイッチを引く
ライトを点ける
けぶる 春
薄墨色の花房
不穏な 温かい 燻る
はらはら るる、り、り、り、り、り、り……、
いざや いざや
春です

 

※童謡「さくら」より引用あり
※「Sakura Sakura」…『Jazz in The Garden』The Stanley Clark Trio with Hiromi &Lenny Whiteより引用