ロミオは毒を飲んだ
ジュリエットは短剣を刺した
脳は正常なのにエラーを起こすのだと医師はいった
ぐにゃぐにゃと揺れてた
白い液体を吐いた
世界は高速に回ってた
世界は
洗面所の
床に嘔吐した
断崖の病院から青くひろがる海を見た
平らだった
ロミオは毒を飲んだ
ジュリエットは短剣を刺した
脳は正常なのにエラーを起こすのだと医師はいった
ぐにゃぐにゃと揺れてた
白い液体を吐いた
世界は高速に回ってた
世界は
洗面所の
床に嘔吐した
断崖の病院から青くひろがる海を見た
平らだった
ゴンチチのロミオとジュリエットを聴いてた
ロミオは毒を飲んだ
ジュリエットは短剣を刺した
朝になった
このまえ
新幹線の熱海駅で倒れた
病院に運ばれた
脳は正常なのにエラーを起こすのだと医師はいった
断崖の病院から青くひろがる海を見た
平らだった
たれこめた灰色の雲たち
薄日が肩をあたためて
そこになかった体温を思い出させる
気だるい歌にも飽きた
ただひきずるように重い足取りが
わざと遠回りして
陽の当たる電車に乗ったのだった
暑苦しく吹き出す緑たち
それでも束の間の地上滞空時間
今日は地下には潜りたくない
シートに腰掛けてスマートフォンと心中していく人びと
エスカレーターに乗って欲望と心中していく私
終点で降りると
今日は歌いたくない駅なのだった
俺っち、
ぽかーん。
庭に紫陽花が咲いている。
ぽかーん、
ぽかーん。
二〇一七年六月二十六日
朝から、
テレビの前のベッドに、
横になって、
ぽかーん、
ぽかーん。
中学三年十四歳の
ブロ棋士
藤井聡太四段が、
前人未到の29連勝の記録を更新するかって、
こっちゃ、
こっちゃ。
俺っち、
ぽかーん。
夜の九時回って、
テレビの速報ってこっゃ。
藤井聡太四段が、
十一時間の対局の末
増田四段に勝ったってこっゃ、
29連勝達成ってこっゃ。
こっゃ、
こっゃ。
テレビ、
新聞、
大騒ぎっちゃ。
地元は地元で、
盛り上ってるってこっゃ
こっゃ、
こっゃ。
俺っち、
ぽかーん、
ぽかーん。
車窓から
景色の
流れるのをみて
帰った
ふるい友たちと会った
あどけない
俤が年老いた顔々に残っていた
みなで
歌をうたった
うさぎおいしかのやま
こぶなつりしかのかわ
景色が流れるのを見て帰った
景色が流れるのを見て帰った
景色が流れた
あどけない
朝になった
雨はあがった
ゴンチチのロミオとジュリエットを聴いてた
ロミオは毒を飲んだ
ジュリエットは短剣を刺した
35年の生を売る
労働を売る
友人たちに
お元気でといった
よい一日をと
いった
貨幣に外部はあるのか
自己利益に外部はあるか
どうしたのだろう
新緑のひかる木の梢
若葉の準備に浮き立つ辺り
白い布?が干されている
どうしてだろう
その下をあたふたと
灰色の制服の男たちが
駆けずり回っている
どうするのだろう
手に手に黒いビニール袋をもち
すばやく屈み
また走る
のぞみの鼻先に
キリンのような
鮮血が
垂れた布?からは
ぬらぬらした
何かが垂れてきている
落ちてきたのは
…眼球だった
下の茂みをもう見られないね
ぼくらはこちら側で
ディズニーからの帰りなのだ
止まった列車を乗り換える
こだまに
今、男が白い腕を
ビニールに入れたところだ
子供のけたましい叫び声のこだま
先ほどの絶叫と変わりはしない
ホームを変える人たちは
いらだち
高架の奥の青空は
どうということもなく光り
小さな振動を伝える
ひかりが入ってくる
奥のビルの窓に
肉塊が張り付いているのを
発見した係員が
手を振って合図している
瞬間の決意
瞬間の痛み
瞬間の後悔
のぞみの切っ先に
赤い霧がひかり
こだます
架空地線に
こびりついたものは
いつも取り除けない
朝には
モコのおなかが鳴るので
腹巻させて
ソファーで添寝した
モコのおなかには毛が無いからか
晴れた空の
燕たちを見上げた
モコを置いて浜辺にでかけた
波は繰り返し打ち寄せ
雨になる
夕方
変哲先生の句を読む
あかぎれの娘ブロマイド一枚買いにけり *
* 小沢昭一「変哲 半生記」岩波書店より引用しました
朝になった
朝には
西の山の頂が
朝霧に
隠れてる
雀の声も
ハクセキレイの声も
まだ
聴こえない
朝には
モコと散歩する
朝には
燕たちの飛ぶのをみている
川面の上を飛んでた
曲線を曳いてた
佇ちどまって
見上げた
朝になる
ひとびとも朝になる