ヒポクラテスが出てこない

 

道 ケージ

 
 

 

あの、あれ
あれ、ヒポクラテスが出てこない

もうすぐ
全てを忘れる

忘れたくないことや
忘れたいことなど
忘れたことすら

壁の誓い
は読めない
少し習って忘れたから

糸文字と言うのよ
ヒスボラの君は
δデルタを
精子の囁きと呼んでいた

性は
忘れない装置よ
忘れても
残るでしょう

乳房を体にあて
その肩衝に
止まるζゼータ

σシグマの形で
λラムダが迎え
忘れ合う
咎め合う

あとかたもない
それ

ないのだから
なかったことになる

青い人だまが
ヒポポタマスで
覚えればいいじゃん

そういうことじゃない
髪を撫でるしかない
もう応えられなくなる

時間に遅れている
時に遅れて
いつも
何かを探している
何か忘れて

 

 

 

詩を読む

 

さとう三千魚

 
 

昨日は
市原さんと

望月さんと
会って

飲んだ

ずいぶんと
飲んだ

産む男 *
の反省会だった

反省はしなかった
飲みたかった

今朝
重い頭で

根石吉久さんの詩を読んでいた

浜風に書いてもらった **
詩だった

 こころがなくなって ***
 しまった ***

そう
根石さんは書いていた

根石さんは
ベッドで

こころがなくなってしまったことに気付いたのだ

午後に

痩せたモコを
美容院に連れて行く

シルキーのおじさんに爪と毛を切ってもらう

 

 

* 10月9日(月)に静岡フリーキーショウで開催した工藤冬里ライブ「産む男」のこと

** 浜風は、浜風文庫のこと

*** 根石吉久さんの詩「ベッドで」からの引用です

 「ベッドで」
 https://beachwind-lib.net/?p=11146

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

a fresh jawbone of a male donkey

 

工藤冬里

 
 

誰に請われて話すでもなく
自ずから膨らんで裂け目を作るスコーンのように
頼れるかどうか分からない整備工を眺めるように
こちらも佇む
背凭れを使わず
寛いだ表情で聴衆は聞き入る

港町に吹く風は
音を拾われて電波に乗る
うまくやり仰せているように思えても
漏れた火は陸を這う
死体はミンチにしてマックで喰わせろ、と風がいう
脳梗塞のドームに兵器が当たる
灰の格言が吹き荒ぶ
漁船が入ってくる
草が揺れる
水鳥は詠まれて
サシで話そうや、とヨブは言った
まだ本がなかった時に
感情が背伸びして
間延びした自販機が撤去される
語尾砂漠に立ち消える努力
怪獣が向こうを向いている
胸のない山と腰のない木が向かい合っている
黒と茶色が垂れている
医療用マスクは青く
高校生が打ち上げた気球から地球が写っていた

成立するかしないか
戸渡を渡るベースラインを決めながら
非工芸を行く
打っても打たなくてもよかった
入れ替わってもよかった
万能感に浸ってはいけない
武器とはいえないものを使って
手に入るものを使って
まだ水気のある雄ロバの顎骨a moist jawbone of a male donkeyを使って
エン・ハコレ(呼ぶものの泉)はレヒ(顎
骨)にある
痛かっただろうな
痛かっただろうな
その後のデリラ

 

 

 

#poetry #rock musician

舊居的塵埃

 

Sanmu CHEN / 陳式森

 
 

孩子們又復歸來,塵埃
不能閉眼
潛回古老你的黯黑
循環憤怒,漸次遲鈍斧斤
完全地引領我,用你失聲的歌
默念我們的舊居,失眠
青花瓷磗不時沉陷,執着
打字機低聲誦念退卻的時日
保護我,使我免受淹沒如奉節。
緩慢著籠罩的痛⋯⋯
大海之中是一杯我已飲盡的水。

 
2023年11月11日
九龍寨城南門外

 

 
 

・翻訳はこちらで
https://www.deepl.com/translator

 

 

 

まよう人

 

野上麻衣

 
 

ひとりでいればまよわない。
どれも自分のぶんだけ
きめて
かんがえて
する、こと。

ふたりになったとたん、
くらす人と
わたし、
ふたつをえらべなくなって
まよって
いらっとして
ひとりでいればよかった。

クッキーみたいに
はんぶんにわって
たベられたらいいのになあ

◯でも
△でもない
こたえでもなくて
なまえもない
でも、しってるもの。

ふたつの声を
おさらの上においてみる

ばらばらの声は
いつか
一枚のクッキーだったのかもしれない

 

 

 

ものを見つめる

 

駿河昌樹

 
 

けっきょく
ものをたくさん持っていても
ものをあまり持っていなくても
ものをほとんど持っていなくても
どうでもいい

ひとつのものを
よく見つめるときには
そのひとつしか見られないので
ほかにたくさん持っていても
ほかのものは
見つめられない

ものを見つめる
ということが
おのずと強いてくる
おそるべき
平等性
というものが
ある

なにも持ってないときには
きっと
指や手を
腕を
足先や
足裏まで
ほんとうに
よく
見つめるだろう

なにかひとつでも
持っているものを見つめていたら
指も手も
腕も
足先も
もちろん
足裏も
まったく見つめないだろう

 

 

 

疾る剥製

 

長谷川哲士

 
 

黒塗りダンプの運転手初老でそして
リーゼントだせっ執拗に遅い速度で
走行こちらニヤニヤ見てる
馬鹿野郎殺すぞ目脂止まらぬ

夢幻地獄と生活苦と午前五時の薄明
またもや朝がやって来る
身体の中を軽石が漂う毎日
ふわふわと綿菓子肺の中身で浮遊

 
隣の心臓は色仕掛けで全身を誘惑す
躍起になっちゃって艶々の桃色

ブルーモーニングおはよう
今青く重たい雨が降ってる
ふと長い舌で顔を巻き取られ
頭蓋の内と外がひっくり返ってローリング
三度目のチャンス失し更なる三度笠

坊ちゃん三度目の正直なんてねえよ
知らなかったとは言わせねえよ
もう言葉も無く陰毛も抜け落ちてしまい
愚かしく可愛らしく
眼を碧くして号泣しよう
二度とない青春の日々よ
夜に突っ走ればいいさ

 

 

 

窓をあける

 

さとう三千魚

 
 

清澄白河で
ホックニーの *

母と
父の

絵をみた

若い頃
新宿のデパートで

ホックニーの水飛沫の上がるプールの絵を見たことがあった
時間が止まっていた

渋谷の街は
変容していた

地下広場で迷って
シドモトさんの写真展会場に着く **

ここにも
いない母たちはいた


高円寺の鳥渡で ***

千のナイフ

聴いた
ファーストアルバムだった ****

うねうね
していた

最終の新幹線には乗れなかった


窓をあける

ベランダに木の椅子がひとつ置いてある

 

 

* 東京都現代美術館で開催の「デイヴィッド・ホックニー展」(2023.07.15 sat ー 11.05 sun)

** ギャラリー・ルデコで開催の「Yoichi Shidomoto. IN MY GALAXY」写真展(2023.10.31 tue ー 11.05 sun)

*** 写真家広瀬勉の店「バー鳥渡」のこと

**** 坂本龍一のファーストアルバム「千のナイフ」をレコード盤で聴いた

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

懈怠laches

 

工藤冬里

 
 

1
雲が雨になる時
雲が水滴に膨らむ時
愛が水滴にまで膨らむ時
経験を積んで
雲が経験を積んで
経験を積んだ雲が水滴にまで膨らむ時
経験を積んだ雲が老人のように水滴にまで膨らむ時
さまよう人も惑わす人も水滴にまで膨らんで

経験を積んだ老人のように
さまよう雲も惑わす雲も
経験を積んだ老人のように
水滴にまで膨らんで
舌で確かめる

経験を積んだ老人のように
さまよう雲も惑わす雲も
水滴にまで膨らんだので
舌で確かめる

経験を積んだ老人のように
さまよう雲も惑わす雲も
水滴にまで膨らんだので
それを舌に確かめると
正しさに意味はなかった
意欲と力の両方の
経験を積んだ雲のように
さまよう老人も惑わす老人も
水滴にまで膨らんだので
それを舌で確かめると
正しさに意味はなかった
意欲と力の両方をあたえられなければ
意欲と力の両方を与えられ
意欲と
意欲desireだけではなく

経験を積んだ雲のように
さまよう老人も惑わす老人も
水滴にまで膨らんだので
それを舌で確かめると
正しさに意味はなかった
desireだけではなく
powerが与えられなければ
雲は雨にならなかった

2
立って聞く
柿色の
溶血
の時節
病葉は
緑が混じり
預言には
柿色が混じる
悪人は
居なくなり
死は
なくなる
暗いところで
かがやく艶の
陰影を
立って聞く

それは
伝えられた色
結末を初めから
予告する色
次に
既に知っている通り
個人的解釈ではない
ムクムクと
山の威厳
振られる全農の脂肪
直接的な答えはこうだ
白について証言することが目的である
中心テーマは子孫に関して語られた
頭を砕くことを念頭に置き
それで
いっそう確かなものとなったのは何故か
作り話のようにして
実際に見たのです
画像奥に白は居ます
左右に立つ歴史に語りかけます
根拠を立って聞いたのです
明星は
日の出前に東の地平に最後に上る
視野を狭めれば柿は照らす
白が思考を守る
干して備えが出来る
雹のような干し柿が落ちる
雹のような愛が落ちる
突然滅ぼされることになる
緑の宣言が彼女を焼く
ネタニヤフは襲われるという作り話を
前もって教えよう
山を見て雲を見ていなかったことに気付くために


写真:アキリカ

 

 

 

#poetry #rock musician

公園

 

塔島ひろみ

 
 

大きいものは大きいものに呑まれたのだ
少しあたたかくて やさしくて
何だがくっついていたかった
ずっとくっついていたかった
安心だった 気持ちよかった
大きいものは調子に乗って 風に乗って
もっと膨らみ大きくなって
ちょっと怖い感じになって
しがみついてついていくけど 精一杯で
手が疲れて 放して
私は落ちた
大きいものは私なんかにおかまいなし
大きくぶわっと広がって
分厚いまま巨大なコンドルのように空をおおった
そして見てたら もっと大きなものが来た
もっと大きいものが来て 大きいものを呑みこんだ
あっという間に呑みこんで
それからそれは空に呑まれた
青空に呑まれた
何もない
手を伸ばしてもさわれない
みんななくなってしまったよ
太陽がまぶしく 肌がかわいて
のどもかわいて
川の方に歩いていく
川の前に公園がある
広い広い公園がある
昔はなかった公園がある
誰もいない公園がある
大きなものがここにあった
今はなくて
ただ 誰もいない公園があった
すべり台とブランコがあった
私は川に向かっている
川に行くと向こう岸が見えるから
私はかつて 
向こう岸に住んでいた
はるか向こう岸に住んでいた
振り落とされてこっちに落ちた
それでこっちに住み もう向こうには戻らない
公園がある
よく見ると 小さな人があちこちにいる
大きなものからこぼれ落ちた 小さなものがあちこちにいて
大きなものをのみこんだ空の下で
大きなすべり台にかけあがって
手をのばして
うわっ 飛び降りたよ 転がって 起き上がって
泥んこまみれで 笑っている
ケタケタ ギタギタ キラキラ クツクツ

 
 

(10月某日、東立石緑地公園付近で)