逆さ虹

 

工藤冬里

 
 

難波中タピオカ詰んでアタオカがッ

引き換えの飛行機の低空

コークのひとが出したリックさんの新作がDon’t Think と言うんだけどtwiceが付かないからそもそもくよくよするのは考えるからであって考えなければこの悩みもないんじゃないか、というメッセージと受け取った。失敗して苦しんでいる皆さん、これを聞いて考えないで生きよう。シュール越えだなこれは。

ギリギリまで他のことで頭を満たしておき、疲労困憊して気絶するように寝ないと頭を襲われてしまう。

decadeの特色を前世紀から辿ってみると、2020年代は真の意味でリアルタイムの時代なのではないかと思う。つまりすべての制作が今の言葉でなされていっていることを量として引き付けて実感しながら急いで片をつけていく。漫若勇咲「『私のはなし 部落のはなし』の話」を読んでそう思った。

なんというか、すべてが嘘くさいとか言ってる場合じゃなくて、ほんとうしかなくて、たくさんの風船があるように思うけれどもそれは錯覚で、一つしかない中の、その密度で決まる、みたいな。その力を重力とはもはや言わない、とか。

目玉に映った風景はまだ選択されていない

家ではない家が建ち並んでいるこうした状況にあって
すべて倒壊するという言い方もまた

シェバのジュヌスだな
https://youtu.be/80_ydUz6CI0

其処此処にその木の形に藤の花
花のない体も藤に被われり
藤の花被って木々に形あり
娘役界面として着る藤の花
体のない藤が着物となっている
山々は娘となった藤だらけ
形から更に垂れたるwisteria
藤の花着てしまった木の末路 哉
着るもののない始まりにwisteria
wisteria未来にも在り逆さ虹
形なき未来を被えwisteria
wisteria恐怖と希望は垂れ下がる
藤棚を管理するノイズツイート
mumble bee hawkwindの振動で
蜂は房藤空木とだけ呟く

何が揺れ何が揺れなかったか分かれ今日の神戸の逆向きの虹

これな

空が白くて息ができない

avatarも靨と言ひつ笑ふのはavatarとしての月のあたくし



凶暴な
猪が出た
と放送
あり散歩止め
られたので寝る

猪は
うちの畑で
ごろごろし
てたと隣の
人が言ってた

 

 

 

#poetry #rock musician

金魚

 

塔島ひろみ

 
 

日の当たらないアパートの6畳間で細面の女が内職をしている
白い管の両端をジャキン、ジャキンと小さなハサミで切りおとし
次々水槽に放り込む
不良品を作る仕事
だと女は言った
水槽で不良品たちは不格好に丸まって
金魚になった

その空地は
誰のものでもなく家と家、高い塀に囲まれて道から見えない
雑草が生い茂る地面がこんもり塚状になっているのは
その下に不良品がどっさり埋まっているからで彼らは誰にも見つからず掘り返されることもなく
その暗く湿った空地で生き延び密かにに交配を重ねながら土地に根付き
竹になった
周囲をツユクサやマメ科の雑草がおおい彼らを守った

時が経って人は死んだ
壊すため、滅びるために人が作ったさまざまなモノの残骸があちこちに残り
もうそれを片づける人はいない
化学物質、放射能、かつて人が「奥戸」と呼んだ一帯は水に浸かり
カラスもテントウムシもいなくなったが
竹が
所有され損なった空地で育った不良品の末裔が
黒い水面から顔を出し 風に揺れる
誰にも見られず 役に立たないまま
風に揺れる
そのそばで白い金魚がにょろにょろ動いた

 
 

(4月某日、奥戸3丁目「塚」前で)

 

 

 

脚 *

 

さとう三千魚

 
 

浜辺で

三菱トラック
CANTERの

荷台に
木造の家屋を乗せた

青年に
会った

自作したのだという

入口が
高いところに

四角く
あった

ボルダリングのホールドが

壁に
あり

それを
登り

入るのだという

部屋は四角い空洞で
高い入口から階段が降りている

空洞には大きな窓がある

住むには
足りるだろう

空洞があり
窓がある
空がある

海がある
山もある

水があれば
水浴びするだろう

脚があれば散歩ができる
細く伸びた脚で歩いていく

 
 

* 高橋悠治のCD「サティ・ピアノ曲集 02 諧謔の時代」”気難しいしゃれ者の三つのお上品なワルツ” より

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

もうすぐ死ぬ男のバラード

 

工藤冬里

 
 

感傷的な詩句のいくつかはあったものの
その散財の形式は水に浮くワルツに似て
しかも四角い便器のギターに乗っており
居酒屋バイトの磊落さで
窶れた髭の笑顔を見せた

覚えなければ歌ってはいけない
そんなことまで指導され
信号待ちするその間にも
親指は休まず韻を打ち込み
茶色い草は澎湃として生え上った

克く我慢したな
と褒めてもらいたくて
商工会議所にも行った
当たり障りのない言葉遣いで
気落ちした胃の形した袋を縛った

さてまたしても夜中だ
焼肉屋は灯りを落とした
痩せた鮒のようにするりと抜け出た路地裏から
煌々としたものが漏れる小路の先にあるのが
726品目の屍であった

井戸から汲む前の
摺り切りの張力が
大理石の上で
均衡を保っていた

 

 

 

#poetry #rock musician

狂気

 

たいい りょう

 
 

無明の空虚を彷徨いながら
澄み切った 湖面を 
盲目の声で 眺めていると

森の中には
年老いた梟が 餌を食んでいて
雨 風 そして 光までをも
呑み込んでいることに 小さな声でつぶやく

小さな水たまりの傍に
古い切り株が 苔むしていて
我は そこに しばし 腰を掛け
肉体から遊離した精神の疲れを癒した

鴉の群が 葉をざわざわ ざわざわと揺らした
その瞬間 一枚の枯葉が 濡れた泥土に舞い落ちて
泥の中に沈んでいった

狂気は 森の静寂と魔性とによって
さらに 内向的になり
我の心を巣食う

終わりの見えない
黒い闇夜の天幕で
我は 一夜を明かすこととした

 

 

 

しずかなこえ

 

藤生すゆ葉

 
 

気づいてくれて ありがとう
人間はおもしろいことをするね

遠いところから来たんだよ
ヒカリたくさんつけられちゃった

道を歩いているとふわっと入り込んでくる

しずかな 言葉のかたち

はじめましてのソウに
もっと地球について知りたいと
話しかける

そっと答えてくれる

地球のことは自然に聞くといい
ぼくらは昔からいるんだから

み空色のかたちに光が溶け込み
ほほえみのかたちが覗き込む

 
あとね

“よい”も“わるい”もないんだよ

 

停めておいた自転車のかごに
何かが入っていた

綺麗な、一枚の葉だった

 

 

—————————————————-
その存在はきっとすべてを受け入れる
地球を知る生命の尊重を願って

 

 

 

一方的な分断からの融合実験のように

 

ヒヨコブタ

 
 

日々夫側の両親に気持ちをよせていると
学びもあり、悲しみもあった
実親に抱きしめられるより突き飛ばされ遮断を何度も感じては苦しんできた人生なのだから
もう何も期待しないようにと
今回上京した両親や兄弟にやっと会う

5年ぶりだというその人は
思った以上に年老いて
あんなに口やかましかったひとがおとなしくなり、
さらに耳の遠くなった父は
幾分元気そうで
ふたりで寄り添って助け合って暮らしているというのは
大げさではなかったのだとこころが揺れた

祖父母と母の関係が逆転したときをわたしははっきり覚えている
逆転というのはどちらかが偉ぶるのではなく
老いていくひとに母が優しくそして少し強くなったのだ
控えめにいては出来ぬことがあったのだと
今更ながら思い返している

きょうだいは厄介なままで
正直何を考えているのかわたしにはわからない
わからないと言ってしまえるほど
思考の方向が異なっている人だから
それでも険悪になりすぎずにこのままなんとか保てるだろうか
期待しすぎないように
そろそろと、わたしは年なりの親への接し方をゆっくり重ねていけたら
すっかり緑濃くなった桜の木を見上げた

 

 

 

「即物入魂」の法悦境

豊田市美術館『ねこのほそ道』展で、8枚のぞうきん連作をみて、歌える*

 

佐々木 眞

 
 

 

新幹線の 名古屋駅から 45分
2つ乗り換えて 辿り着いたは 生まれて初めて 訪ねる 豊田市 美術館
人造湖 まで ある 広大な 敷地に 聳える 広い 広い 美術館 じゃった

そこで お目にかかったのは 2匹の ねこ
飼いたくても 飼えず 画家が 泣く 泣く 手放した 可憐な こねこ チャンと
目玉が 爛爛と輝く ペルシア絨毯付きの 立派な ねこの 「しいたけ」君 じゃった

じゃった じゃった ねこ ふんじゃった
大小 2匹 の
ねこ じゃった

『ねこのほそ道』 展 だから
ねこじゃ ねこじゃ の オンパレード か と 思って たら
そうでは なくて ねこ以外 のほうが 多かった

タオル バスマット バスタオル
のれん テーブルクロス 大きいテーブル
8種類も 並んだ ぞうきん 特製 コレクション!

もの じゃった もの じゃった
揃いも 揃って もの じゃった
みんな 見慣れぬ もの ばかり

立派な 絵描きさん なら
油絵 なんかで
ぜったい 描かない もの ばかり

ところが どうでい そんな ガリガリ博士の 無機物を
たとえば 画幅を はみ出す 灰色の ぞうきんなんか を じっと 見てると
驚く なかれ ぞうきん はん が もの を いうでは ないです か

 

第1のぞうきん、かく語りき。

あら、ご主人が、あたしの濡れた体を、ギュッと絞らないので、また奥さんに怒られてる。

 
第2のぞうきん、かく語りき。

ネエ、ネエ、聞いて、聞いて。
あたしんチのご主人ときたら、朝からポカポカ陽気なもんだから、
道路に長々と寝そべっている蛇を見つけて、「ギャッ!」と叫んで、「蛇だ! 蛇だ!」と大騒ぎして、腰を抜かしながら、それでも蛇さんを川に追い落とそうとして、
右足でキックしたら、
見事空振りして、すってんどお。
奥さんに、ケラケラ笑われてたわ。

 
第3のぞうきん、かく語りき。

あの人、白内障で、左の目が見えなくなったからかなあ?
でも白内障で失明してしまった飼い犬のムクの晩年の苦労が、少しはわかってきたらしいよ。
世の中、ケアとかヤングケアラーとか、何でも横文字になったら初めて考えてみるのが大流行みたいだけど、おらっち、昔ながらの「同病相哀れむ」とかの日本語の方がいいな。
台所の片隅に張り付いたままで、それなりに満ち足りた一生を送る、わいらあ「健常ぞうきん」から見たら、世間なんて「2足歩行という名の障害者」、「晴眼者という名の障害者」、「五体満足という名の障害者」でみちみちて、チャンチャラおかしいね。

 
第4のぞうきん、かく語りき。

あのご主人、こないだある指圧の名人から、
「目とは不思議な組織で、大宇宙的な要素がはまり込んだりしています。ちょうど鯉のぼりの鯉の目のように、眼球の中に眼球、さらに眼球、さらに眼球、とイメージしながら、手首を指圧してみてください、重複構造の良い方の層が、悪い方の層と交流しあい、目の改善に役立ってくれる筈です」
と教えられたので、毎日一生懸命に、自分で自分の指圧に励んでいるそうよ。

 
第5のぞうきん、かく語りき。

最近外車では、ボルボが増えて来たようだね。
隣のおにいちゃんも、ボルボを乗り回しているけど、あれはスウェーデン製の頑丈な車なんだ。
むかし、ご主人の親戚のおじさん2人が、夜の京都の比叡山ドライブウェイで、運転を誤って、谷底に転落したけど、怪我ひとつしなかったのは、あの頑丈な車に乗ってたかららしいよ。

第6のぞぞうきん、かく語りき。

谷底で思い出すのは、鎌倉の杉本観音から逗子岩殿寺までの巡礼古道ね。
ここは高台になっていて、昼間なら遥か富士山を見渡すこともできるのよ。
ご主人の奥さんに聞いた話だけど、鎌倉殿の頼朝と政子は、長女大姫の長のわずらいに心を痛め、百鬼疾病退散を祈願して、「100日間毎夜毎晩のお百度参り」を夫婦一緒に敢行したけれど、とうとう治らずに、20歳で亡くなってしまった。
そりゃそうよね、婚約者の木曽義仲の息子、義高を惨殺したのは、他ならぬ頼朝自身。その罰が当たって、落馬して死んじゃったのよ。

 
第7のぞうきん、かく語りき。

きのうの夜、噂のお騒がせ主人が、3年越しの大詩集の最後の最後の校正をしていたら、
どういう風の吹き回しか、自作の巻頭の詩が消え失せて、香港の民主派の新聞『りんご日報』2021年6月24日附の1面トップの、

「雨の中香港の人にお別れする。また会いましょう!」*

という、最期の記事が載っかってたんだって。
まっこと、面妖な話じゃね。

 
第8のぞうきん、かく語りき。

ああ、いい匂い!
奥さんが台所で、夏蜜柑の皮を煮詰めて、ジャムにしてる。
柑橘類の実を食べると、皮を捨てる人が多いけど、ほんと勿体ないわね。
おや、ご主人が「緑のそよ風」*を歌いだした。
下手糞だけど、とてもいい歌ね。
さあ、みんな揃って、歌いましょ!

 

ああ 驚いた 驚いた
ぞうきん には ぞうきん なりの 人世が あった のだ

物 には 言葉 が あった のよ
物 には 命 が 宿ってた のさ

ぞうきん だけ では ありま へん
画家の 描いた もの ども が 次から 次に もの を いう

アベノ マスク プラスチック フィルム
石 防災 シート ブルー シート 画家の 自画像が 描かれた 椅子 まで も
思い 思いに もの を いう

これぞ これ 世にも 不思議な カタリ カタリの 物語り
世 にも 真摯な 展覧会
「即物入魂」 の 法 悦 境

実 相 感 入 真 実 在
山 川 草 木 悉 皆 成 仏
「シン・もの派」 の ワンダー ランド と でも 言うべき か

 
 

*豊田市美術館『ねこのほそ道』展(2023.2.25~5.21)における佐々木健氏の油画連作「ぞうきん」に触発された作品です。

**2021年6月24日テレビ朝日ANNニュースより引用。

***「緑のそよ風」は、作詞清水かつら、作曲草川信による1948年の童謡。

 

 

 

背中スイッチ

 

辻 和人

 
 

背中

スイッチ
背中スイッチ
そおっと解除しないと
爆発する
赤ちゃんの背中にはスイッチがあるんだ
押されると
抱っこされてないよって信号が発信されてしまうんだ
やっとウトウトしてくれたコミヤミヤ
かれこれ1時間泣きっぱなし
抱っこユラユラ、抱っこユラユラ
さすがに腕が痛くなってきた
涙ひと筋垂らしたままの目閉じて
背中まあるく
ママのお腹で眠っていた時の姿勢
これがいいんだ、と
これが落ち着くんだ、と
下手に寝床に降ろしたら
スイッチが押されて爆発するんだ、と
おおっ、そんなことになったら
すやすや眠ってるこかずとんともども木端微塵だ
柔らかく呼吸する爆発物
そっとそおっと抱えて
まず膝を折り
腕を寝床に近づける
ここはママのお腹の中だよぉ
あったかいお水たっぷんたっぷんだよぉ
超小声で話しかけながら
足の方からゆっくり降ろすのがコツ
背中刺激しないようにゆっくりそおっと
途端
ウッワァーン、ワァーン
抱っこされてないんだぁー
ママのお腹ン中みたいなトコにはいないんだぁー
コミヤミヤ、爆発
隣で寝てたこかずとんも、爆発
2人して真っ赤な顔で、爆発
あーあ、解除失敗
背中

スイッチ
背中スイッチ
午後4時の薄闇には
硝煙が漂っていて
まっくろこげのかずとんパパ
ギャン泣きするコミヤミヤの前で
おろおろしてました、とさ

 

 

 

不完全

 

道 ケージ

 
 

こわさなければならなかった、こわし、またこわす、
救いはこうしなければ得られなかった
大理石の中に現れるあらわな顔を破壊する、
どんなかたち  どんな美も打つ
鳥が引き裂れて砂になってしまえばいいのに、とお前はいった
           (イヴ・ボンヌフォワ詩集)

 

たそがれ時に
人を切る
蠅がたかるに任せて
何かを作りまたこわす
行くべきではなかった

輪郭をたどるよう
グールドを聞く
その粒は乳輪を思わせた

           「トロントの管理人が
               ゴミ出しをする
               早口の女が栞を抜いた
               手袋の片手で挨拶」(NHKラジオ)

       雪崩の予兆の小石
       小気味良い回転
       音符のようだ
       大丈夫と見上げる
      (カカボラジでのこと)

壊された破片の私は
髭剃りに銭湯へ
高温に涼しむ
酒を抜く

萎びたふぐりばかり
狼のような顔の人が
しきりに顔を拭いている

桶が鳴る
タオルが飛ぶ
ここに用がある

用が済む
用済みとなる
もういらないから帰ることになる

できていたのに
できていなかった
完全さを求めて
最も不完全なものになっていた