まっしぐら

 

道 ケージ

 
 

まっしぐら
まっしぐらだ
しぐらって何だ
なんだなんだ

くじらかな
くじらのしんせき
しぐれてまっしぐら
海雪分けいる
よけいに白い

らくだだろ くろらくだ
だらくしたんだ
ぐらぐらしてさ
こぶ、重いってさ

グラだよグラだクリグラだ
でっかいケーキを落としてさ
まっ、しんでしまったという話だな

 

 

 

不完全

 

道 ケージ

 
 

こわさなければならなかった、こわし、またこわす、
救いはこうしなければ得られなかった
大理石の中に現れるあらわな顔を破壊する、
どんなかたち  どんな美も打つ
鳥が引き裂れて砂になってしまえばいいのに、とお前はいった
           (イヴ・ボンヌフォワ詩集)

 

たそがれ時に
人を切る
蠅がたかるに任せて
何かを作りまたこわす
行くべきではなかった

輪郭をたどるよう
グールドを聞く
その粒は乳輪を思わせた

           「トロントの管理人が
               ゴミ出しをする
               早口の女が栞を抜いた
               手袋の片手で挨拶」(NHKラジオ)

       雪崩の予兆の小石
       小気味良い回転
       音符のようだ
       大丈夫と見上げる
      (カカボラジでのこと)

壊された破片の私は
髭剃りに銭湯へ
高温に涼しむ
酒を抜く

萎びたふぐりばかり
狼のような顔の人が
しきりに顔を拭いている

桶が鳴る
タオルが飛ぶ
ここに用がある

用が済む
用済みとなる
もういらないから帰ることになる

できていたのに
できていなかった
完全さを求めて
最も不完全なものになっていた

 

 

 

川と駐車場

 

道 ケージ

 
 

登戸から
多摩川を左に見ながら
土手を下る
自転車の
いつもの帰り道

東名下を抜けると
それはある
ずらりと並ぶ車

川は小さく左に蛇行する
対岸の駒大グラウンドのサーチライトが
川面にまぶしい

「金の家」
ふざけた名前のマンションの駐車場である

見下ろすせいだろうか
すべて後ろ向きのせい
うすきみわるい
ずらりと並ぶ蓋は
虐殺のあとのよう

白い車
灰色、黒
白いのが多い

トランクには
骨壺が一つずつ
収まっている

駐車場って変だよね
学生に言ってみる
キョトンとしている

駐車場は本当はお墓なんだよ
いないのにある
そこにはいないものがある
いることを示すいないもの

白いエレベーター塔は
大きすぎるスツーパのよう

多摩川に
Nのように入るなら
ここと決めた蛇行地点ではある
冷たいのは嫌だから夏がよい

お墓に行く
こちらは緑ヶ丘霊園
多摩丘陵の端
桜並木が悲しい
そこにはいないものがある
咲いていないからというわけではない

そこから
多摩川を見る
あまり光っていない

Nは繋ぎとめて
自らを
流れないようにした

 

註 Nとは西部邁氏のこと。Wikipediaにその自裁の詳細がある。

 

 

 

あぶない

 

道 ケージ

 
 

あぶなくってしょうがない
ご飯にネジを入れ
何に味をしめたか

カミソリが
ガリリと噛む
鮮血の赤飯
ぬるぬる丼

流石に死ぬぞ
「風呂場にあったから入れといた」
安全剃刀

お次に薬莢のふりかけ
「鉄分、体にいいよ」
どこで拾った
「富士演習」

おかず作れなくなり
久しいが
掃除が極端になる

一部を磨き大部を残す
ピカピカ光り
カビガビで真っ黒

衣替えも大変
あれもこれも捨てられ
本当の全とっかえだ

そんなにもあなたは
捨てたかった

カーテンが裂け
切り刻まれた隙間から
富士が白い

私は穴を掘って
そこに寝るわけだが

ウサギがカリカリ
でもその首ちょんぎって
何かにつけようとしている
可愛いからだ

歯軋りの街にダンプが
ウィドマンシュテッテン構造を
載せて月に引っ越す

少しの揺れで悲鳴をあげ
ドタバタ走って
本の山を崩す

鍛冶屋には無理だ
掃除屋も
何でも屋も無理だ

ダル絡みと言われ
脳汁を出す

どうも変だ
食卓に
洗濯物が並ぶ
山となったパンツやらシャツの間で
ヌードルすする
徹子の部屋を見ている

 

 

 

ペスコス大佐

 

道 ケージ

 
 

ペスコスペスコス
大佐は今日も文句が多い
寝言は猫の悲鳴
身銭を切る埋葬
犠牲をいたずらに
そこが狙い目だて

ペスコスペスコス
大佐は今日も感謝をしない
おかげ様よりオレ様は
一生忘八
「涙隠して人を撃つ」
どっちつかずの殺し屋家業
幽かなオーロラの音

ペスコスペスコス
大佐うだつあがらず
脚立届かず
前立腺も縮まない
猥褻な修理工が
生姜でこき下ろす
珍宝に当たります

ペスコスペスコス
大佐倒れて歯も無くす
どうもこうも撃てばよい
血だらけの口、獣の匂い
熱も何の撃鉄の冷え
銃身を短くしたぞ

ペスコスペスコス
大佐は酷い
三日使って前線に 
知ったことかと羊羹を
英雄気取りの若者に
ほら餞別
四日後、知ってか知らず
友を撃つ 
御免も言えぬ罠
わなわなわな

ペスコスペスコス
大佐は思う
死んだら終わり 
庭に穴二つ
黒コゲの応酬

ペスコスペスコス
大佐の怒りはわからない
不幸と病気自慢
好きでもないのに同居して
死にたいを3度言い
いいことないは12回
言ってはいけないことを言いまくる

ペスコスペスコス
お前大佐か
マクシミリアン少将の誰何
女装しとるのであります
口紅を誇らかに差し出す
口髭に唾液が光る

ペスコスペスコス
大佐の電話嫌い
料理嫌い掃除嫌い
ソファーに沈んで
孤立深めて円を切る
新月殺法虚空の枯葉
二つになったことを
知るわけない

ペスコスペスコス
大佐はいない
気まぐれなし冗談なし
挨拶なしに
おさらばだ

 

 

 

雫石

 

道 ケージ

 
 

雫石をどうすべきかは
皆知っているようだ
何もわからない私は
途方に暮れる

なんのためにあるのか
どこにあるのかさえ
わからない

調べてくれる田村は
二階の片づけに忙しい

橙の水玉模様
板状らしい

どこで知ったのかわからない
それをどうするのか
なんのためにあるのか
わからない

ともかくも
何かに必要らしい
雫石は何になる

あやめたい朝に
曇が映る
好都合のように

露がたまると
もう不吉ではいられない

走らされ
シャツを引き裂くと
それが合図のようだ

ハバロフスクあたりの
郊外の水で
犬の死体を見た

 

 

 

マンキー

 

鈴木志郎康 追悼

 

道 ケージ

 
 

ボク、マンキー
さるやない
マンキだってさ
マンキーマンキー
ラッキーなんだぜ
ボク、マンキー
返済終了!
おぅ、カッキー

生命保険確認の通達
もうすぐ満期

で、死んでほしい
と言われる
満期で支払い額が
下がるらしい

その前に死んでほしい
そう懇願され
やむなく死ぬことにした

ボク、マッキー
最後の言葉は
マンキー、ラッキー
またじゃあな

でもな
そう簡単には死なんで

「気合いで死ぬんや
 息飲んで死ね」

本末転倒だろ?
そりゃそうだが、聞いてない
こんなに額、下がるなんて
と妻

あんた末期
よく考えな、マッキ―
ジャッキー上がらん
タッキー翼折れ
どうする

「あたきなら死ぬ」
グッキー笑う
あやまりなく
殺める
雨やむ
見当つかない死に様よ

「大きな損になる
 やるだけやってみて」

まぁ、しゃあない
案外難しいんだぜ
それに自死は
降りないよ、保険

「だから気合いで
 マッキー
 なんとかしな」

そうかそうかと
息を詰め

ボクマッキー
あぁ、ラッキー!
アンラッキー!

「ドン ドン ドンガラガッチョ
 血の海だ
 やだなあもうこれだから」※

 
 

※ 鈴木志郎康「実践十円家族の皆様」より引用

 

 

 

カナリィ

 

道 ケージ

 
 

かなり大きい
あまり動かず
まりい
たりい

遠目からは箒草
黄土色に滲み
見ようによっては
くだん

従順なふんいき
高音のくぐもり
ポッコリ腹に
予言はない

心許して近づき
手がない
ピュイ
異種のけものである

干からびた嘴は曲がり
粟と稗の臭み

おぉ、カナリィ
カナリィじゃないか

「鼻が効かん
 雑巾の匂いと言われ
 何もわからん」

モップの腐ったような毛は
すでに黄色ではない

三里塚、上九一色では
囀るだけでワーキャー
止まり木で
すかす

今じゃ毎日
生きるに値しない音頭を
聞かされる

削いで尖って
も一つ削ぐと
丸まった丸まった
刃ない
警告できない

いないことを望む人たちを
選び
ちょっと戦う
喉に引っかけ
もうやめとき

滅びな

 

 

 

なぜうちに石膏のビーナスがあったのだろう

 

道 ケージ

 
 

親父は呑んだくれ
お袋は美術なんか、だし
当時の流行りか

おもちゃを撮った写真に映り込む
白いビーナス
ギリシャ美に遠い暮らし

町営のアパートの鉄扉に指をはさむ
あわてて指を拾って
お袋が縫い付けた
おかげでゆびはそこだけ
石膏のように固まる
ビーナス

ダビデと名付けた犬は
尻尾を噛んで
ぐるぐる高速で回る

もうこいつはダメたい
保健所が明日来るけん
と父

連れで行かんどっての声も弱い
噛みちぎった尻尾を埋める

階段は燕の糞で台無し
水筒を屋根に投げる
爪を噛んでいた
幼稚園カバンの紐を食いちぎる

もう物になる!
かねがねの人生
黒光して沈む

こけしと並んだビーナスは
家じまいで
トラキアの海に
濡れている

呆けたように振り返って
死ぬと思わず死ぬな