夫婦

 

赤司琴梨

 
 

勤めはじめた会社の窓から見える
タワーマンションのおへそのあたり
夫婦が暮らしているのが
よく目にちらつく

旦那さんは不満を抱えているし
わたしも不満を抱えている
だから二人とも食事のとき
不注意で
自分の服を汚してばかりでいる

会社員はもうやめにして
紳士用のクリーニング屋を開いたらどうだ
紳士用スラックス 紳士用靴下
タワーマンションの一階で
全部回収したらどうだ

年金が二分の一になってしまうから
わたしも婚姻を結びました
知らない山に帰りますので
知らない人とご飯を食べますので
ことぶき退社させていただきます

洗濯バサミが足りなくて
シミの取れないわたしの抜け殻が
ベランダから飛んでいった
それから下を覗きこみ続けている

奥さんが膝を立てたままで
味気ない鶏肉を齧っているのが見える
予定通りに区切られていく鶏肉
乾いた唇

 

 

 

 

塔島ひろみ

 
 

空は青いのがよいと思った
広く、晴れわたり、カモメが悠々と飛んでいる
日が暮れて、赤く輝く西空もまた、好きだ
その空は、家々の屋根も、この部屋の汚ない絨毯も、私の指も伸びた爪も、なんとも魅力的な色に染めてくれる
そして夜
大きな月と闇の中に瞬く星
たまに渡り鳥の群れが現われ、どこへともなく飛び去っていく
空を見るのが好きだった

その空は、その、どれでもなかった
電信柱と同じ色の、そこから垂れた電線にぶら下がっているような、空だった
くすんでいた

老婆は、北風が強く吹く夕暮れに、狭い路地からぬっと現われ
卑屈さと、自信とが入り混じった醜い顔で、空を指差し
「ほら、すごいわよ」
と私たちにそれを見るように促した
「あんなに」
「鳥よ」
と嬉しそうにずるそうに言った
その方向に私が見たのは、薄汚れた屋根屋根の上にだらしなくたるむ何本もの電線、
その電線に止まる数羽の、電線と同じ色の冴えない鳥
その隙間に、そこに建つ特徴のない家々の壁と同じ色の場末の、この江戸川区西小岩2丁目の空が、少しだけあった
ちょっぴり何かを期待して見上げた私はがっかりし、視線を下ろすと
この寒さに薄手のカーディガン一枚羽織るだけの老婆の そのカーディガンの紫色が、鮮やかだった
そうですね、とだけ言って踵を返し、歩き出す
「空を見なさい!」
「空見なきゃダメだろ!」
後ろから狂った女の怒声が追いかけてくる
早足で逃げた

私だって空を見るのだ
もっといい空を知っているのだ
この坂を登れば新中川にかかる橋に出る
そこには電柱も電線も邪魔しない空が一面に広がるのに
澄んだ雲が風に流れる大きな空は、いろんないやなことも忘れさせてくれるのに
どうしてあんな空を女は自慢するんだろう

カラスの鳴き声が空のどこかで遠く響いた
橋の向こうから自転車で、高校生の集団が走ってくる
気付くと 一緒に歩いていた娘がいない
振り返る

坂の下の澱んだ場所に、娘はいた
何年も前につぶれた楽器屋の看板の脇で、老婆と並んで、空を見ていた
二人は、少し笑って、電線に仕切られた西小岩の空を眺めていた
その空は、今私の上に大きく広がるこの空と同じ、何もない、ただの、空でしかない空
同じ空だ

鳥が来た
私の頭を通りすぎて、鳥は彼女たちが見ているいびつな電線に向って飛んでいく
そこに止まる

 
 

(2月某日、西小岩2丁目街道沿いで)

 

 

 

もうだめだ

 

工藤冬里

 
 

こんなのはまだ序の口ですよ
人々は恐れのあまり気を失うんです
そのあとそれを諸国家の力で克服したように見せかけて
そこで本当の終わりが来るんです
スペイン風邪の年に生まれたA(百歳)は
車の中でそのように述べた

事は簡単ではない
書けない言葉がある
年老いて妊る正しさに曝されて
不愉快でもある
追い出される者がいる
物事は
イカの存立平面上にある
追い出された子に弓を教える
番える間が子育てだ
がエジプトから妻を貰うと
矢は放たれたままとなって
今日に至る
世界を彷徨うムハンマドは弓を習ったのだ
彼はすべての人に敵対し
すべての人は彼に敵対する
だから
悪気があるかどうか
だけを見てほしい
半面だが嘘ではない正しさの外の荒野を
ナレーターの声色で進む
荒野に抜け道はなかった
イチジクを枯らし
兄弟を許し
コンビニの界面を撫でるムハンマド
咳が出てきた

こんなのはまだ序の口ですよ
人々は恐れのあまり気を失うんです
そのあとそれを諸国家の力で克服したように見せかけて
そこで本当の終わりが来るんです

ギターを失くした渡り鳥
〽みーんな去年と同じダヨ
バッサリのバの音が足んねえ
何も忍bazz腎臓擦り潰し麺打ち
腰のある麺打ち
ブラック徳島という店に入った
そこから抜きつ抜かれつして帰ったら2時だった
それからギターを失くす夢を見て
血合いの側をアミに押し付けた
百舌が枯木で啼いている

こんなのはまだ序の口ですよ

手に取るように手に取る
クリックするようにクリックする
眺めるように眺める
でも打つように書く

人々は恐れのあまり気を失うんです

空の青
撮れる自分を撮りながら
撮れない自分を撮っているのか

そのあとそれを諸国家の力で克服したように見せかけて

「はやくおきすぎたあり」
ありはにわからはいだしていえのなかにはいってみましたがなにもありませんでした
ストーブははるがいちばんあったかいな
といういえのしゅじんのこえがきこえました
おしまい

そこで本当の終わりが来るんです

免疫力をつけるには寝るのが一番です
相模原事件を扱った辺見庸の月というのを読みましたが、震災以来よく見られる、厳粛さを勘違いしたジャーナリストの浅さのようなものを感じます
放射能やコロナを神の位置に置くと晩年を身辺整理しやすくなるので彼らはそうしているだけです
ご自愛ください

こんなのはまだ序の口ですよ

風邪の表情

人々は恐れのあまり気を失うんです

雪の山がごつごつしているなあ
遠くにあるのに

そのあとそれを諸国家の力で克服したように見せかけて

周章テル乞食ハ貰イガ少ナイ

そこで本当の終わりが来るんです

ピダハンよりも随分前に書かれたボルヘスの「ブロディーの報告書」は、ひとまとめにして把握されたくないホモ・サピエンスの宣教師の欲求を字にしたものだ。
権威において常に下位に置かれることを潔しとしない被造レジスタンスは、カフェの炭水化物の眠気の中で、ネフィリムの遺伝子を夢想するだけだ。
それを食べる資格はない!と夢で警告を与えられたのなら、田んぼにトラットリアを出すな。
永遠に、そうです永遠に、
と言う時の口馴れた’そうです’
親になったなら心に刻み込もう
現生人類の子供は親だけのものではないこと
鳥のマスクで逃れようとして
星座は酢飯の稲荷の黒胡麻と教え
畳まれた油揚げの襞を存立平面とする
大阪のライブハウスでそのばくてりあに這入られ、高知で発症した
番えられはなたれるまで歌留多する

こんなのはまだ序の口ですよ
スペイン風邪の年に生まれたA(百歳)は
車の中でそのように述べた

 

 

 

昼の光に、夜の闇の深さが分かるものか(✳︎) Ⅰ

 

村岡由梨

 
 

おでこのニキビがなかなか治らない。
何だか最近お腹も痛くて憂鬱だ。

授業中、先生から出された課題を静かに終わらせて、
自分の席で絵でも描こうかと
自由帳を出したりしまったりして終業のベルを待つ。
教室の後ろには、習字で書いた「あけび」という文字が
退屈そうに並んでいる。
ていうか、どうして「あけび」?
退屈過ぎて、あくびが止まらないよ。
窓際の壁に目を向けると、
「教育目標
考える子 思いやりのある子 元気な子」
って貼ってある。
私は6年間そうなれるように頑張った。
子供は大人の言うことを聞かなきゃならないものだと思っていたから。
誰からも疎ましがられたり嫌われたりしたくなかった。
私のせいで、誰かを落胆させたりしたくなかった。

大人はもっと世界に目を向けろというけれど、
私にとって
このイビツな教室が世界の全てだった。
学校は、大き過ぎて手に負えない宇宙みたいだった。
その宇宙の中で、私は
友達と笑っている時もそうでない時も
ひとりぼっちだった。孤独だった。
いつも聞き手に徹して、
「聞き上手だね」なんて言われて、また笑って。
苦しかった。
もっと私の話も聞いて欲しかった。

「考える子 思いやりのある子 元気な子」
になんて、本当はなりたくない。
聞き分けのいい子でいるのは、もうたくさん。
これ以上、私に何かを押し付けないで。
私は私自身のために、考えて苦しんで生きてみたいんだ。

青春がキラキラしているなんて、誰が決めたの?
大人たちの疲れた顔を見るのは、もううんざり。
自分たちは世界に絶望しているのに、
どうして未来に希望を持てなんて言うの?

私の中で、真っ赤な炎が激しく燃え始めている。

もう、誰からも束縛されたくない。
傍に猫さえいればいい。
私は、もうすぐランドセルをおろして自由になる。

私がなりたい私になるには、
まだ時間がかかりそうだけど

さよなら、ランドセル。
さようなら、世界。

 
 

(✳︎)ニーチェ「ツァラトゥストラかく語りき」より

 

 

 

新型コロナ星から愛を込めて

– that’s the same after all –

 

正山千夏

 
 

目に見える天敵からは
なんとか身を守ることができたとしても

目に見えない天敵からの
思いもよらぬ粛清に

老いも若きもくしゃみして
マスクは免罪符にも似て魔力を発揮

外敵と内敵に翻弄されながら
生きるこの時代は終末なのか地獄なのか

それとも長い冬のあと
ヒトのいない平和な春へとつづくのか

結局は
どちらも同じ

あたしたちは今酒を飲み花を見る
肉を食べ笑い泣くそして死んでいく

 

 

 

診察室

 

村岡由梨

 
 

これは夢なのか、現実なのか。
わからないまま、ぼんやりとした不安の中で生きている。

ここ数年、私は警察に追われている。
私が、自宅の近くに住む資産家の高齢女性を殺して、
広い庭の片隅に遺体を埋めたというのだ。
まだある。
私が、面識のない小学校3年生の男の子を殺して、
学校の近くの遊歩道に穴を掘って遺体を埋めたのだという。

警察に捕まっても、「私は殺していません」とは言えないだろう。
なぜなら、私自身、確かに彼らを殺したような気がするからだ。

毎週水曜日、15:30発の小田急線小田原行きに乗る。

入ってすぐ右の優先席に、
胸の大きさを強調したミニスカートの女が座っていた。
脚は虫食いだらけ、下品な女だった。
私は、この女を乱暴に犯すことを想像した。
私の股間から鋭利なナイフが生えてきて、
女の陰部は血だらけになった。
絶頂に達した瞬間、女は不要な単なるモノになり、
エクスタシーと嫌悪と憎悪のグチャグチャの中で私は
醜く歪んだ女の顔を、原型をとどめないくらい何度も殴った。

空いている座席に座ると、斜め右に
タピオカをすすっている若い女がいた。
タピオカをすすりながら、片手で携帯電話をいじっている。
その女は、出っ歯で口がきちんと閉まらないようで、
前歯の隙間からタピオカが見え隠れしていた。
クチャクチャ クチャクチャ
私は耳を塞いで悲鳴をあげた。
そして女の顔をズタズタに切り裂いて、自分の耳を引きちぎった。

女が憎い。
けれど、私も女なのだ。
母親なのだ。
女の顔を何度も殴った時、2人の娘の顔が浮かんだ。
女の顔をズタズタに切り裂いた時、2人の娘の顔が浮かんだ。
この世で一番清潔な存在。傷つけたくない存在。
「人の痛みがわかる人間になりなさい」
そう言って、2人を育ててきた。
胸の大きい女にも、タピオカの女にも、
きっと母親がいるだろう。
女が憎い。
それでも娘たちを傷つけたくない。絶対に傷つけたくない。
そんな思いで、私は真っ二つに切り裂かれる。混乱する。

毎週水曜日16:30から診察が始まる。

先生とはもう10年以上の付き合いになる。
60代男性、中肉中背、
温和な顔にメガネをかけていて、
歩く姿勢がとても良い。
人間味溢れる、とても優しい先生だ。

「一週間、どうだったかな」
と、まず先生が聞いて、話が始まる。
家族のこと、義両親の介護のこと、
作品制作のこと、仕事のことなど
時には泣きながら、とりとめのない話をする。
「ここには善も悪もないから」と先生が言い、
殺す、殺される、死ぬ、死なせるなどの
不穏な言葉が診察室を飛び交う。

「これ以上怒りや憎しみに支配されたくない」
「結局は私が消えればいいんだと思う」と私が言い、
先生にたしなめられるのが、いつものパターンだ。
先生には何でも話すし、
先生も私に関して大抵のことは知っている。
私は、先生が好きだ。

カウンセリングの終了時間間際になると、
私は急激に不安定になる。
ドア一枚を隔てた外の世界はこわいことでいっぱいだから。
「○○がこわい人をいっぱい連れて復讐しに来るかもしれない」
と怖がる私を、先生はいつも「大丈夫」と言って背中を押してくれる。

診察室を出て間も無く名前を呼ばれて、
受付の女から、処方箋と領収書を渡される。
「3850円です」
一番苦しい瞬間だ。
当たり前だけれど、お金の問題なんだ。
医者と患者の関係なんだ。
それ以上でも、それ以下でもない。
結局、先生や受付の女は「あっち側」の人間で、
私は「こっち側」の人間なのか、と
否応無しに思い知らされる。

そう言えば、先生は私のことをよく知っているけれど、
私は先生のことを、ほとんど知らない。
どんな食べ物が好きなのか。
何色が好きなのか。
動物は好きか。
どんな音楽を聴くのか。

良くない家庭環境で育って、精神を病んで
なんてありきたりなストーリー
私は大丈夫。
大した問題じゃない。
絶対に大丈夫。
そう自分に言い聞かせて
偽善者の皮を被って、
自分を必死に取り繕って生きてきたけれど、
マトモな人のふりをするのは
もう、無理かもしれない。

死刑判決を受けて、
独居房にいる孤独なあなたを今すぐ連れ出して
狂おしいほど交わりたい。一つになりたい。
そして、あなたが他の人にしたように、
私をメッタ刺しにして、殺して欲しい。

この詩は、午前2時過ぎにあなたとわたし宛てに書いた
歪なラブソングだ。

 

 

 

春の嵐のような

 

ヒヨコブタ

 
 

春の訪れを
喜ぶ地域で育ったとき
いまのこの寒ささえ永遠ではないと知っている確かな喜びがある
ある

一足ひとあしずつ進む
賽子を転がすのではない
人生を誰かやなにかにとらわれるのではなく
とらえて生きていきたいと願う
願う

わたしたちの日々は穏やかであると
信じて生きる
生きる
生き続けている

他者のなにものにもふりまわされぬよう
生きる
生きていたいと願う
願い続ける

静かなばしょに
そのこころのなかの誰にも入ることのできぬばしょにいるとき
こころも凪いでいく
凪いでいく

なにを恐れよう
なにを

迷う
迷いながら
静けさに身をゆだね
こころも軽やかになるまで
わたしはここにいたいと願う

ことばの魔法はいつも
ひとことでも
自由だろうか
自由だと信じている

 

 

 

島影 16

 

白石ちえこ

 
 

山形県 鶴岡

朝、鶴岡の町から月山をぬけて山形駅へ向かう。
橋をわたるとき、まっ白なかたまりがゆっくりと川に沿い、上流からおりてくるのが見えた。
車を停めて橋に戻り、山からくだる霧を眺めていた。
十分たらずのうちに霧はあとかたもなく消えてしまった。
なにごともなかったような景色に戻った。

 

 

 

あいについて

 

今井義行

 
 

フィリピンでかんがえていた あいについて ────
さらりとした 夏の気候の アルジェリーの家で
日本では そろそろ 春が 近い
けれど わたしの こころは 春から とおい

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

それは どちらからともなく
あいが とおざかって いこうと していた からだ
日々に 薄らいで いくものは
どうする ことも できない

42日間の 滞在期間のなかで
私たちは しばしば 手をつないで ショッピングモールに出かけた
「Do you love me ?」
大通りで 乗り合いジープを 待ちながら
あなたは しばしば 私に 問いかけてきた

けれども あなたの 手からは
伝わって くるものが なかった
いや 私の手が
何も 伝えて いなかったのか

「Yes, of course」と 私は 言ったのだが ───

愛って、なんだ ────・・・・・・・・・?

ある日の ショッピングモールの ホーム用品売り場で
アルジェリーは 電球を 1個買った
フィリピンでは
電球のことを 「 Akari 」と いうのだった

「 Akari 」私は その言葉に 惹かれた
なにか とても あたたかい言葉

家に戻って 電球を 新しいものに 取り替えた
煌々とひかる Akariに 私は見入って
なにか 健康的な象徴を 見つけたような気がした

夜には 私たちは
ふたり ならんで ねた ────
きまって アルジェリーは 先に 寝息をたてた

ときに 明け方に
アルジェリーは 私のからだに しがみついてきた
黒い髪が 私の口に 入ってきた

「Do you love me ?」
あなたは 私に 問いかけてきた
「Yes, of course」と 私は 言ったのだが ───

私たちは 服を 脱がなかった

それから・・・・・・・・・・
「トイレに行ってくる」と 言って
あなたは しばらく 戻ってこなかった

やがて 部屋に 陽がさしてきて
戻ってきた あなたは
私の首に 腕を巻きつけて

「Good morning, Yuki!」と 明るく笑った
私も
「Good morning!」と 明るく笑った

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

私は「Do you love me ?」と 言わなかった

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

アルジェリーのアイディアて
私たちは フィリピンから 少し 足をのばして
ブルネイ王国に
旅をする ことになった

ブルネイ王国には アルジェリーの
クラスメイトの ネリヤがいるのだ

空港では ネリヤと彼女の夫のジェームスが
にこやかに歓待してくれた
ネリヤは晩い第1子を身籠っていて
そのすがたを ジェームスが傍らで 見守っていた

ネリヤとジェームスは
5日間かけて 車で
ブルネイ王国を 案内してくれるという

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

何といっても美しかったのは
3日目の 早朝の青いビーチだ

私たちは はだしになって 寄せる波と戯れた
アルジェリーは 両手に
一生懸命 貝殻を 集めていた

私たちは ネリヤとジェームスが 用意してくれた
朝食を 木の椅子に 座って 一緒に食べた
そこで 記念撮影をしあおう ということになった

私は 寄り添い合って 微笑んでいる
ネリヤとジェームスを 撮影した
「今度は 私が 撮るわよ」と ネリヤが言った

私とアルジェリーは 並んで砂浜に立った
「手でも つないだらどうだい?」と ジェームスが言った

私は しずかに アルジェリーの肩に手を回した
ネリヤが「そうそう いい感じ」と言った

私たちが撮ってもらったその1枚 ────それが
私たちにとって 一緒に写っている 1枚の写真になった

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ブルネイのホテルでは
私たちは 交互に シャワーを浴びたり
共同のキッチンで
コーヒーを 飲んだりして過ごした

私は ぼんやり 考えていた

日本では そろそろ 春が 近い
けれど わたしの こころは 春から とおい

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

それは どちらからともなく
あいが とおざかって いこうと していた からだ
日々に 薄らいで いくものは
どうする ことも できない

愛って、なんだ ────・・・・・・・・・?

部屋の中で 持ち物の整理を していた時のこと
アルジェリーが 咄嗟に
私のパスポートを掴んで においを嗅いだ

「Bad smell!!(悪臭ッ)」
それが あなたの 私への印象だったのか

私は 黙っていた

ダブルベッドで 私たちは
ふたり ならんで ねた ────
それから アルジェリーと私は 抱きあった

抱きあいおわって
ぼんやりとした 空間が 私たちに残った

しばらくして
私は アルジェリーに 囁いた

「Let us break our engagement and become just friends.
I think it is good. (私たちは 婚約を解消して 普通の お友達になりましょう
それが良いと 私は思います)」

アルジェリーは うなずいた
そして
あなたは ゆっくりと こう語ったのだ

「My love for you is gone… I dont have love for you anymore Yuki…
before when we met in the first time, I love you … but now no more…
(私のあなたへのあいはきえてしまった・・・もうあいがないのですユキ
私たちがはじめてあったとき私はあなたをあいしていた・・・でもいまはもう
I tried to love you again but I cant!! Friend」
私はもういちどあなたをあいそうとしたの でもできない ともだち)