また旅だより 54

 

尾仲浩二

 
 

1996年5月、初めての韓国は下関からフェリーだった。釜山へは海を渡って行きたかったのだ。フェリーの中はごま油の匂いがした。
釜山港に迎えの友人の姿はなく、言葉も通じないタクシーは相乗りだった。
なんとかたどり着いた海雲台は、まだ高層ビルの姿はなく、小さな貝や、豚の血の腸詰などを浜辺の屋台で初めて食べた。
あれから27年、いままた暗室でその旅を辿っている。この写真を釜山の人たちに見せるが楽しみだ。

2023年2月14日 東京、中野の暗室にて

 

 

 

 

あぶない

 

道 ケージ

 
 

あぶなくってしょうがない
ご飯にネジを入れ
何に味をしめたか

カミソリが
ガリリと噛む
鮮血の赤飯
ぬるぬる丼

流石に死ぬぞ
「風呂場にあったから入れといた」
安全剃刀

お次に薬莢のふりかけ
「鉄分、体にいいよ」
どこで拾った
「富士演習」

おかず作れなくなり
久しいが
掃除が極端になる

一部を磨き大部を残す
ピカピカ光り
カビガビで真っ黒

衣替えも大変
あれもこれも捨てられ
本当の全とっかえだ

そんなにもあなたは
捨てたかった

カーテンが裂け
切り刻まれた隙間から
富士が白い

私は穴を掘って
そこに寝るわけだが

ウサギがカリカリ
でもその首ちょんぎって
何かにつけようとしている
可愛いからだ

歯軋りの街にダンプが
ウィドマンシュテッテン構造を
載せて月に引っ越す

少しの揺れで悲鳴をあげ
ドタバタ走って
本の山を崩す

鍛冶屋には無理だ
掃除屋も
何でも屋も無理だ

ダル絡みと言われ
脳汁を出す

どうも変だ
食卓に
洗濯物が並ぶ
山となったパンツやらシャツの間で
ヌードルすする
徹子の部屋を見ている

 

 

 

社会的微笑の誕生

 

辻 和人

 
 

社会が誕生した
正真正銘
社会って奴
目覚めたばかりのコミヤミヤの頬っぺたの上
おはよって
両手で頭グリグリしたら
ふへはっ
こ、これは
社会的微笑って奴
乳児が人の顔認めてはっきり笑うって奴
新生児微笑って奴とは違うって奴
コミヤミヤ、ぼくの顔見て目細めて
静かに口の両端を逆への字に引き上げた
ぼくがパパだなんてわからない
誰だかわかんないけど顔がある
顔があるなら
誰かいる
誰かいるなら自分もいる
それで
逆への字
頬っぺたやわっと盛り上がり
顔に顔で返した
社会だ
コミヤミヤの柔らかな皮膚の上
社会が誕生したんだ
これから顔、次々現れるぞ
顔が顔を連れてくるぞ
よし、頭もう一度グリグリするか
グーリグリグリ
ふへはっ
ふへはっ
やった
正真正銘、社会って奴

 

 

 

Contessa, perdono!

 

佐々木 眞

 
 

ある日、料理をしないし、できもしない男が、
目に美々しい春のヤサイを、買い散らかした。

ミズナ、シュンギク、ホウレンソウ
カブラ、ジャガイモ、泥付き長ネギ

すると、男の妻は珍しく激して、かくの給うた。
「不要な食材は、ほとんど暴力である。」

なるへそ。いらんヤサイは、暴力なんだ。
こいつァ春から、目覚まし草。

Contessa, perdono!
許してたもれ。我が家の伯爵夫人。

 

 

 

高低差 気球

 

工藤冬里

 
 

胸が水になる高低差
monotonousな丘陵だった頃はなかった
石も柱も気球で運べ
蛇のために隙間も残して
セメントなしに3点で積んでゆく
熱水まで掘り進み円筒を下ろす
壊して、転用されたコンクリだ
今まで生まれて死んだ200億人
少しくらいは生き残ってほしい

 

 

 

#poetry #rock musician

曙光照樣着遺忘的舊事
あけぼのの光が忘れ去った昔のことを照らしだす

 

Sanmu CHEN / 陳式森

 
 

曙光照樣着遺忘的舊事
如痴如醉如蕩漾
曾幾,我和暴雪一起打磨東京。
舊侶酒杯,我們10年前剛剛見過,
一起看過的劍已殘,茶已涼
或者,明日傍晚珍珠沉沒,
雪並沒有下過,2月11日
你只是在神保町回望;
聖尼古拉堂的鐘聲消亡
(從來不曾聽過)
之前我在此讀本雅明、佩索阿……陰沉的午後
李白時明時暗,殘雪炙烈
又冰涼又發燒
靖國的鴿子紅著眼
我只是在此笑等警察來捉
等幾分鐘就透徹的審訊
純種的白色紅了眼
還沒有櫻花,沒有開,沒有聲息
…….. 戰沒者低音。
如此的低,嗚咽默禱
從未存在者的低音
沒有虛構這一場雪
盛放的雲朵沒有授粉
曙光照耀着遺忘的舊事。

 
2023年2月10日~12日 東京航程

 
    .
 

如痴如醉如蕩漾
 気の触れたように、酔ったように、ふらつくように
曾幾,我和暴雪一起打磨東京。
 以前、私はバオシュエと一緒に東京をうろついていた。
舊侶酒杯,我們10年前剛剛見過,
 昔仲間のように杯をかわしたが、私たちは十年前には出会ったばかりだったのに、
一起看過的劍已殘,茶已涼
 一緒に見た刀剣ももう古びて、茶ももう冷めた
或者,明日傍晚珍珠沉沒,
 そして、明日の夕暮れの真珠が沈んで
雪並沒有下過,2月11日
 雪はまだ降っていない、2月11日
你只是在神保町回望;
 君は神保町でしきりに思い出にふけるのだった;
聖尼古拉堂的鐘聲消亡
 ニコライ堂の鐘の音の消え去る
(從來不曾聽過)
 (それまでも聞いたことなどなかったが)
之前我在此讀本雅明、佩索阿……陰沉的午後
 その前に私はここでベンヤミンやペソアを読んだ……陰鬱な昼下がり
李白時明時暗,殘雪炙烈
 李白は明るかったり、暗かったりしたし、残雪は苛烈に
又冰涼又發燒
 氷のように冷たかったり、また熱を発したりもした
靖國的鴿子紅著眼
 靖国の鳩は眼を紅くして、
我只是在此笑等警察來捉
 私はここで警察が捕まえに来るのをただ笑って待っていた
等幾分鐘就透徹的審訊
 数分ののちにはきっちりと尋問をうけ
純種的白色紅了眼
 純血の白は目を紅くした
還沒有櫻花,沒有開,沒有聲息
 まだ桜の花もなく、咲いてはおらず、その気配もない
…….. 戰沒者低音。
 …… 戦没者は声を潜める。
如此的低,嗚咽默禱
 こんなに低く、嗚咽する黙祷
從未存在者的低音
 いまだ存在しなかったものの潜められた声は
沒有虛構這一場雪
 この雪を作り物にはしない
盛放的雲朵沒有授粉
 盛大に拡がった雲はまだ受粉してはいない
曙光照耀着遺忘的舊事。
 あけぼのの光が忘れ去った昔のことを照らしだす。

 
2023年2月10日~12日 東京航程
 2023年2月10日~12日 東京行き

 
 

日本語訳:ぐるーぷ・とりつ

 
 

 

 

 

慈しみ深き

 

佐々木 眞

 
 

              死
              死
              死
              死
死死死死死死死死死生死死死死死死死死死
              死
              死
              死
              死
              死
              死
              死
              死
              死