設定はしといた

 

爽生ハム

 

 

あちこち
野心の朝食
ルーズな運命を書いたら
密林の嫉妬が
ひらひら 光る
視線をくれた先に
パンくずと感嘆
こぼれて 技巧をもらう
あきらめず
新鮮に
捏造を
調整する
あなたはA わたしはB
かわいた
はにかみの コニカミノルタ
描写への ピースサイン
頭で
考え
右手で殺す
声で
うなずき
パンで窒息
ありえなくもなく 顔をいただき
キスとどうとうに
声が疼く
実によい街角を知っている
言葉が甘い
あなたたちはC
会うたびに初めて
会うたびに事故の目前
ちりとり
用意して
ギプスからの 逆算
喉に
詰まるは
瓶のなかの てんとう虫

 

 

 

たとへ視るといふことが罰せられる季節がきても

(1)

 

[49の引用にのみ依って]

 

駿河昌樹

 

 

もはや祖国に正しい円のひとつもなく (2)
含蓄草がうつむき水を吸っていたとき
降ってくる、雪 (3)
あたたかい建築を切ってゆく (4)
(ここに、いないで…)  (5)

地球が悪い (6)

皮膚だけが燃え (7)
溶けゆくぼくたちは恥のようにつらい歴史 (8)
やつぎばやの現代だ。
まぢかの永遠がみだれる。 (9)
(戦後の現在も政治の言葉はあまり信じられない。 (10)

明けて行く、放たれて行く、押し上げて行く、
…刻々の境、
そこで一日の始まりを拒む者…
反復がわずかにあらたまって反復でなくなる者も…
しかし、拒んだ者もその間際には
広い反復を見てその中へ身をゆだね、
あらたまった者もこれきりに反復の絶えた静まりを内に抱えて… (11)

世界が崩れて流れているのか (12)
やい 屏風 (13)

火をへだてて呼びかける (14)

虐殺された山川草木の
ぎゃくさつされたさんせんそうもくの
精霊たちの
囁く声が聞こえてくる
道路ぎわに死体がみえる。ああ、夜になると
一人一人道路ぎわに立ちあがって、白い手をふる
虐殺された山川草木の
木蓮、ぎしぎし、泰山木
蛇籠に河童、猫じゃらし
木蓮、ぎしぎし、泰山木
精霊たちの
奥津城どころ
こんな神道は避けちまえ (15)

帆は風まかせ 私は私の手まかせ
遂に私自身にもかゝわりのない手をぶら下げて (16)
(どこまでもゆける気がした)
(だからまたとおくをまわってもどってくる) (17)

なかには、やさしい人もいて、 (18)

抱いてもよい
他人が歩いている (19)
傷のようなやさしさがひろがる (20)
まだしばらくはこの世界はうるおう。 (21)

もしや
あの
むごい思い出の
ほんの一頁分でも
まっ白に
ならないだろうか (22)

(なぜ戦争において、国家の本質が出てくるのか。
(国家は何よりも他の国家に対して存在するからだ。
(国家は、そのような対外的な面において、
(内部から見られるものとは異なる様相をあらわにする。 (23)

かなしい兵器が
かなしいときに役立つ (24)
のっぺらぼうのこの町の けじめは
霧がつけに来るのだ (25)
ちょうど涙のにじむ速度で (26)

ああ未来の国家 それだけのこと
そしてめのまえの一本の杉
不定の位置に立つときかれは没落する
この赤らみゆく樹木の無意味に対して (27)

男は考える
この私に何ができるか (28)

私は青空なのだ  (29)

わたしは言語をもてあそぶ者
また言語によって
再生される者 (30)

知らないうたをうたって
知らない死を死んでるってことが…  (31)

(デス・バイ・ハンギングは
(「首しめて殺す」とか「しばり首」とか言うところであろう。
(首しめて殺すならおさな子も分るが、コウシュケイでは分らない。
(返り点も仮名もない漢文の辞世を読めたのは
(日本人の何パアセントであろう。
(「首しめて殺す」とか「しばり首」では法の尊厳をきずつけるか。 (32)

のつぺりと
私をたいらにする影は
いつたい何です (33)

ほほえみ には ほほえみ (34)

たとへ視るといふことが罰せられる季節がきても
わたしたちは限りなく視たいと考へる
わたしたちは眼のある季節について
わたしたちの構想をふくらませる (35)
それから 決断はゆっくりと…  (36)

潮風が
懺悔しています (37)

かつてここにあった
いまは誰のものでもない
(…を生きるために)
夏のひかり
まばゆいばかりの空虚
超えがたいものを超え (38)
あやまちはあやまちとして (39)
ニャーニャーにミルクをやるのを忘れないでね さよなら (40)
ぼくは夢をみるんだ (41)
蘆の茂みの蛙よりもはげしく (42)
入りこむこと (43)
これから見るにちがいない幾つかの夢 (44)
旅になかったあらゆるものがもう一度
星の箒に掃かれつつ、 (45)
いまは死んだまま、 (46)
何度でも (47)
花にまで至る (48)
やわらかさにしたがって  (49)

 

 

(1)吉本隆明「眼のある季節」
(2)谷川雁「人間A」
(3)朝吹亮二「〈終焉と王国〉秋の都会の冷たい…」
(4) Ibid.
(5)吉田文憲「ここにいて」
(6)加藤郁乎「トランジスター氏の精霊」
(7)鮎川信夫「トルソについて」
(8)長田弘「八月のひかり」
(9)稲川方人「〈われらを生かしめる者はどこか〉(路傍よ)」
(10)川端康成「東京裁判判決の日」
(11)古井由吉「白い軒」。一部を断片的に引用。
(12)渋沢孝輔「偽証」
(13)堀口大学「屏風を叱る」
(14)吉岡実「タコ」
(15)吉増剛造「老詩人」
(16)高橋新吉「そのとき」
(17)新井豊美「庭」
(18)金子光晴「そろそろ近いおれの死に」
(19)佐々木幹郎「一千もの死」
(20)堀川正美「日本海六〇・飛島で」
(21)福間健二「まだしばらくは」
(22)川崎洋「まじない」
(23)柄谷行人「世界史の構造」第3部・第1章・3
(24)関根弘「水害風景」
(25)石原吉郎「霧と町」
(26)吉原幸子「月日」
(27)谷川雁「人間A」
(28)清水哲男「甘い声」
(29)鈴木志郎康「少女皮剥ぎ」
(30)吉岡実「夏の宴」
(31)北川透「ポーのラブソング」
(32)川端康成「東京裁判判決の日」
(33)尾形亀之助「十二月の路」
(34)川崎洋「ほほえみ」
(35)吉本隆明「眼のある季節」
(36)北村太郎「個体のごとく」
(37)吉行理恵「波の戯れ」
(38)新井豊美「庭」
(39)鮎川信夫「夏への挨拶」
(40)寺山修司「トマトケチャップ皇帝 6」
(41)田村隆一「未知くんへのメッセージ」
(42)窪田般彌「誕生」
(43)飯島耕一「見えるもの」
(44)北村太郎「五月闇」
(45)平出隆「冬の納戸」
(46)高貝弘也「共生」
(47)黒田三郎「紙風船」
(48)鈴木志郎康「部屋の中で その二」
(49)堀川正美「白の必要」

 

 

 

光の疵  2月

 

芦田みゆき

 

 

粒子の粗い闇にひたった皮フが
しくしくと疼くので、
そうっと持ちあげてみる。
光のくずが纏わりついてくる。
痛むのは、ここだ。
目を凝らし、見つめると、
ほんわりと発熱している。
視覚が、はじまったのだ。

 

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いのり

 

渡辺 洋

 

 

あきらめるちからがない
ほろびていくちからがたりない

アバンギャルドの空をのぼりつめて
きみのこころの地面にふれたい

神様のようにあぐらをかいて
言葉で解決しようとしてきたことを
ぬぎすてたい

生きることに襟をつかまれて
いたわる手にささえられながら
あの人たちの目がまぶしさにつぶれてしまう
歌をこの世界に書きつけていこう

冷戦日和の坂道を
しあわせな少年がのぼってくる
しばった本をぶらさげて
古本屋を回って喫茶店まで

暑さにあえぐパヴェーゼの葡萄畑
兵士が乾き求める岩塩の苦さ
あたらしい音楽や映画の話の向こうに
自分を燃やす生活がほしい

イタリアか自衛隊か