けもの路から あるいは、 if・・・・・・・・・。

 

今井義行

 

 

PCを中心 にして 組んだ 狭い スペース
ここが言葉と舞い踊る わたしの場となっています
うねる荒川を渡り 緑の繁れるなか
わたしは ここへとやってきたんだ

まずタイトルのてまえにけもの路と渚

印字 印字 印字 印字 印字 印字 印字 印字 印字 印字

なんども なんども はしる その路

わたしは 画面の中を スクロールし

すると太陽の 黒点の 泣きぼくろが

あるの 詩を書く楽しみがそこにあり

出発「点」だけが そこにともるので

いま始めている詩を「NOW PRI

NTING」と仮のタイトルとします

その路は 林道から外れ 鬱蒼として

何処までも 地平線に 続いているの

なんども なんども ふみあらし・・・・

そこには 渚の気配が添い 波が鳴り

なんども なんども ふみかため・・・・

そこには おびただしい 種子が散り

芽ばえを まちわびる ときが 跳ね

明日もプリントしているの 明後日に

も 「NOW PRINTING」とプ

リントしているの 終着駅が 決まっ

ていないので けもの路は わたしを

印字 印字 印字 印字 印字 印字 印字 印字 印字 印字

昂揚させる≪「愛」ハ、不思議ナ言葉

「あい」ト書クト、白イ綿ノヨウ「ア

イ」ト書クト、硬イ物質ノヨウ。サワ

レソウナ気モスルノニ、中ヲ見ヨウト

スルト、霧ノヨウダ。≫ 詩はそのよ

うに書きためされた 更に数行書いて

はプリント、おもに 余白についての

顧みを 「NOW PRINTING」

蕨ふみながら あるいは、if・・・・・・・・・。

if・・・・・・・・・。もしも 渚から浅草へ出て 暖簾の和菓子屋

さんへ佇み わたしが 胡桃餅を 頬ばると みちばたに

向日葵の 数千の種
が 見つめているの

疲れたときはベッド
おおく眠っていると
血液が
煮凝りのように
ぷるぷるとして
パイプを通り辛く
なるようです・・・・

飴玉みたいに沢山の
錠剤を飲む毎日
どれにも眠気成分が
ふくまれていて
泳いでいた魚が
煮つけられてその
翌日の甘い煮汁が
煮凝りのように
血管を塞ぎ動く力を
奪うようです

眠りと眠りの濃霧の
間を見出しては
ことばをさがす
ことばをさがす
ことばをさがす
そうして再び濃霧の
世界へ入っていく

印字 印字 印字 印字 印字 印字 印字 印字 印字 印字

わたしという者は
ぷるぷる震える
煮凝りを含んでいます
だからわたしは
透過性の高い夢を
見たいと欲する けもの路 あるいは、if・・・・・・・・・。

陽に透けて向こうが
見えるような夢

海の街で生まれたので
渚まで 歩いて行けた

光る渚に太陽が重なる
わたしは堤防に跨って

風に吹かれていたんだ
釣り人や 恋人たちが

たおやかな光景に溶け
時には半裸で寝そべり

肌を灼いてる人も居た
ヘッドフォンを付けて

ヨットハーバーが傍に
あり帆がはためいてた

海の街で生まれたので
渚まで 歩いて行けた

別室のような物だった
たおやかな 別室・・・・

それからまた あるいは、if・・・・・・・・・・・・・・・・・。
あまりに暑いのでアイスクリームを買ってきた
眺めていたらあまりにも涼しげなたたずまいに
憎しみが湧き 食べることはやめて燃えるゴミ
へとだしたアイスクリームが燃えていくという
イメージそれがその日のわたしの暮らしの実感
となった溶ける事を大きく越えて青々と燃えろ

あるいは、if・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
賃貸料の安い都営住宅の 申込用紙をもらいに

区役所の出張所へ 行った 担当者がぽかんと

して 「あの、紙」いつも 何処にあるんだっけ

と 同僚にたずねた 同僚もすこしたってから

前回の申込は終わりましたので 次回の申込用

紙の配布は秋になりますねえ・・・・・・・・と言った

申込用紙は どうやったら入手できますかと訊

いてみたら ええと あの、「花」の ところで

すと言います あの花、と言われても判らない

その、「花」 は何処にあるのですか と訊いて

みたら あの、テーブルですよ、と言う その、

「花」は あのテーブルにありますよと 語る

パンフレットを欲したけれど その、「花」 が

つぎに咲くのは秋の何処かになるのだそうです

けもの路 あるいは、if・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
つぎに咲くのは秋の何処かになるのだそうです

きょうは いっぽも しゃばへ でず
みずは あまりとらず 尿もすくない

皮膚の露命が欠けていた
皮膚の露命が欠けていた
皮膚の露命が欠けていた
けれど 動いている指先

きょうは いっぽも しゃばへ でず

画面と ベッドの あいだに いきて

まずタイトルのてまえにけもの路と渚

わたしは 画面の中を スクロールし

すると太陽の 黒点の 泣きぼくろが

あるの 終日 へやの暗がりに居ても

出発「点」だけが そこにともるので

いま 始めている詩を 「けもの路から

あるいは、if・・・・・・・・・。」という タイ

トルにしてみました 印字 印字 印字 印字 印字 印字 印字

夏の日がおわる わたし いきていくのです・・・・・・・・・。

 

 

 

光の疵 「青い矢」(十九歳)

 

芦田みゆき

 

 

部屋の窓をすべて鎖で縛った
無数の青い矢があたしに向かって
その一瞬確かに見た三次元の肉体が
黒いラシャ紙に焼きついて丸まった

マッチ売りの少女が戸を叩く

外は何世紀昔だろう

あたしは
探されていることを意識しながら
息を潜めたが
青い矢に成り変わったあたしは
向かう的をやはり探さなくてはいけない

マッチ売りの少女が獣に跨って
戸を突き破ってきた

不規則に燃え上がるマッチの火は
唯の炎に過ぎず
黒いラシャ紙が少女の体を裂いた

 

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―『記憶の夏』昭森社―