十二月の歌

 

佐々木 眞

 
 

朝には、朝の歌をうたおう
昼には、昼の歌を
夕べには、夕べの歌を
真夜中には、真夜中の歌をうたおう

春には、春の歌をうたおう
夏には、夏の歌を
秋には、秋の歌を
十二月には、十二月の歌をうたおう

うれしい時には、喜びの歌をうたおう
悲しい時には、嘆きの歌を
怒り狂った時には、憤りの歌を
寂しい時には、慰めの歌をうたおう

少年よ、金の歌をうたえ
青年よ、銀の歌をうたえ
壮年よ、銅の歌をうたえ
そして私のような老人は、見果てぬ夢の歌をうたうのだ

まっしぐらにカシオペヤを目指す、一羽の夜鷹になって

 

 

 

よこしまなすいようび

 

今井義行

 
 

・・・・よこしまな匂いのすいようび
そのような あさの おとずれに
あけがたの月星の残りでは足りず
ろうそく、のような妻を創ろう・・・。
哀歓を しる ひと そんな妻を

葦原をすぎて
朝凪へいたり

そのひとはやってきた 晩い夏のうまれというほか
は なにも知らされず、

どこの 土地から 来たのかも、

潮煙にのまれ
どこの そらから 来たのかも、なにも

なめらかな 息が わたしの耳を撫でた

わたしは 何度も
寝返りをうつので
わたしの
眠りの姿態とは
ひらがなの「く」の字の形で

その眠りの姿態
「く」の字 は 
《 あ、なにか、「く」るよ 》の「く」
のような 想いがしていて、

わたしは 「ようこそ」と いいました

渡り廊下を 過ぎるような 夢、みよう

夢、みよう 夢、みよう

なめらかな ろうそくの ような・・・・
姿態とは 動作したときのからだの薫

わたし、瑠璃色の 記念碑を建てます

≪晩夏にゆきがふるのならば
着衣のみだれ、まどのゆき≫

歓喜もあれば 哀訴もあって 甘酸ともいう

それが何だ?
姦淫のないじんせいなんてあるか

環礁のある ももは、ゆれつつ

暁のまきば は あしとあしのあいだに 茂り──
天井の 霧もよう きれい
敷布の 蘭もよう きれい

広い緑のまきばには、放牧されている羊たちが仰ぎ

くちびるとつめさきがあればゆるやかに濡れあえる
と わたしたちは いのって うたがうことはなく

あなたは しろい鼠蹊部をひらかれて「蜜蠟に挿して」と 欲した

敷布の 蘭もよう きれい
なみもようねがえりはねて
わたしはこしをひきよせる

わたしはこしにひたいをつける
わたしはこしをひきよせる
わたしはこしにまぶたをつける
わたしはまつげつまびかれ

わたしは睾丸に ろうを ぬりこまれ・・・
わたしはちぢれつまびかれ

暁の まきば は あしとあしのあいだに 茂る──
碧いトルコ石の首飾りの妻

ひたいにまあるいあせの珠
脱がれたヒールや靴したや
わたしはちぢれつまびかれ

わたしはまつげつまびかれ
わたしはろうそくのくちにふくまれてとけそうで
わたしはまつげつまびかれ

わたしはまつげつまびかれ
わたしは睾丸に ろうを ぬりこまれ・・・
わたしはちぢれつまびかれ

わたしは まるい ろうそくのむねを
わたしはむねをひきよせる
わたしは まるい ろうそくのむねを
つよく、つよく こねる

暁のまきば は あしとあしのあいだに 茂る──
ガス火をともすおとがする
葉ものをきざむおとがする

豆を茹でるせなかの揺れに
湯気さえへやへ身をよじる
ろうそくのような妻は、すこしずつしろくにじむ
わたしは ほのおをとめる

ろうそくのような妻は、すこしずつしろくにじむ
葉ものを盛るしろい背に
湯気さえへやへ身をよじる
ろうそくのような妻は、≪おたべなさい≫と わたしにいった

わたしはくちに豆をふくむ
わたしはゆびで葉をつまむ
わたしはくちにふくみつつ

≪晩夏にゆきがふるのならば
着衣のみだれ、まどのゆき≫

≪晩夏にゆきがふるのならば
着衣のみだれ、まどのゆき≫

暁のまきば は あしとあしのあいだに 茂る──

わたしはくちに唇、ふくみ
尿道と性愛はあわせかがみ

そして ろうそくのような妻は 折りたたまれた ちいさな紙片を ひらき

stay hungry, stay foolish
そう ジョブズは いったの と わたしにいった
そうして──
なんでも鑑定団 は 何曜日? と ろうそくのような妻は、わたしにいった

「火曜日 それに夜の番組だ
空0識りたいもの があるの・・・・・・?」

≪あたしのこころ、あたしのからだ≫

stay hungry, stay foolishと ジョブズは いったの
直感で いきよ といった

直感で いきよ といった

はずされた蠟のレンズから檸檬のひとみ
敷布の 蘭もよう きれい
わたしはつめでおしひらく

わたしはつめでおしひらく
わたしはつめで蘭を左右におしひらく
わたしはつめでおしひらく

わたしはつめでおしひらく
わたしはつめで蘭を左右におしひらく
わたしはつめでおしひらく

つめさきで蘭をおしひらきおしひらきおしひらき、
のばしてのばしてのばしてのばしてのばして・・・・・、 閃光礼拝──

羊たちが飛び散る、いちもくさんに飛び散って、

ときのうつりに見舞われて
尿道と性愛はあわせかがみ
夢の中で とろけるような
靴はく影の背にてをまわし

≪晩夏にゆきがふるのならば
着衣のみだれ、まどのゆき≫

≪晩夏にゆきがふるのならば
着衣のみだれ、まどのゆき≫

暁のまきば は あしとあしのあいだに 茂る──

天井の 霧もよう きれい
夢の中に しずまるような
靴はく影の背にてをまわし

いかないで、暁のまきば 暁のまきば・・・・・・
いかないで、暁のまきば 暁のまきば・・・・・・
いかないで、暁のまきば 暁のまきば・・・・・・
いかないで・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、

≪晩夏にゆきがふるのならば
着衣のみだれ、まどのゆき≫

≪晩夏にゆきがふるのならば
着衣のみだれ、まどのゆき≫

とろとろとろ とろとろとろ しろいこころとからだ こぼす
ろうそく、のような妻 哀歓を しる ひと そんな妻・・・・・・。