blood 血

 

暑いので
雨戸をしめて

エアコンを点けた

悠治さんの
シンフォニアを聴いてる

先週は
母の初盆で帰省していた

姉と兄に会い
仏壇に手をあわせた

大切なものたちが
奪われてく

西馬音内の盆踊りを長尾さんと見た

帰りに姉は
茗荷の酢漬けを持たせてくれた

 

 

 

夢は第2の人生である 第41回

西暦2016年卯月蝶人酔生夢死幾百夜

 

佐々木 眞

 
 

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会社の事務の人が今日でお別れだというのにその課の人が誰も誘わないので、一緒に食事をした。始めてちょっと話をしただけだが、優秀な人だと思った。4/1

僕たち3人の山岳兵はファシスト政権軍と戦っていたが、そのうちの1人が負傷したのでひとたびは見捨てて立ち去ろうとしたが、思い直して2人で山奥の隠れ場に退避し、彼の傷が癒えてから再び前線に立ちもどった。4/2

酒池肉林の限りを尽くしたあとで、この世の別天地のような桜花爛漫の国についた私は、紅白の桃の花を咲かせる1本の木の下で夢のようなひとときを過ごした。4/5

私の城に遊びにやってきたパバロッティの前で、私が彼のライヴァルであったドミンゴとカレーラスのLDばかり映し出していると、次第に怒りをあらわにして額に青筋が立ってきた。4/5

社食で昼食をとろうとしたら、ランチメニューが品切れで困っていたら、他のメニューの惣菜をかき集めて急遽新ランチを作るので、あと10分待ってほしいとアナウンスがあった。4/6

カール・ヘルムのジーンズを身に付けた私は、リングの上で黒人にヘッドロックされ息も絶え絶えになっていたが、シンヤ君がいたので、「今度LAに行ったら、ジーンズを2本買ってきてくれないか?」と頼んだ。

シンヤ君が「いいすよ。ブランドはなににしますか?」と聞くので、私は「ちょっと待ってくれよ。いまこいつをやっつけながら考えてみるから」と返事すると、それまで黙って話を聞いていた黒人が「やっぱりカール・ヘルムがいいんじゃにすか」というた。4/6

何ヶ月振りかで登校して、シンジョウ教授の教室に入っていったら、いきなり仏文和訳を命じられたので、目を白黒させて脂汗を流していると「キミは予習をしてこなかったんだな。そおゆう不届きな者は私の授業に出る資格はない。とっとと出てゆけ!」と激怒せられた。

これは私が悪かった。仕方なく退室しようとしたら、怪しい男が可愛い女の子と一緒に教室に入ってきた。
鈍く光るナイフを突き付けられて蒼ざめているのは、なんと私の昔の恋人ヨイコではないか。私はいきなりヨイコの腕を摑んで、教室の外へ飛び出した。

すると男も、あわてて私らの後を追ってくる。
私らはキャンパスの坂道を転がるように駈け下りて全速力で走ったが、男に追い付かれそうになってしまった。
あわやというその瞬間、ヨイコは持っていたバッグの中から財布を取り出し、ありったけのお金をばら撒くと、男は夢中になって拾い集め、それを自分のバッグに入れた。

そのすきに私らは全速力で逃げ出したが、しばらくすると、またしてもその男に追い付かれそうになった。あわやというその瞬間、ヨイコは持っていたバッグの中からiPhoneを取り出し、その場に抛り投げると、男は夢中になってそれを拾った。

そのすきに私らは全速力で逃げ出したが、しばらくすると、またしてもその男に追い付かれそうになった。あわやというその瞬間、ヨイコは持っていたバッグの中から六つ子おそ松君を取り出し、その場に抛り投げると、男は夢中になっておそ松君を追いかけ、やっと追い付くと自分のバッグに入れた。

そのすきに私らは全速力で逃げ出したが、しばらくすると、またしてもその男に追い付かれそうになった。あわやというその瞬間、ヨイコは持っていたバッグの中から一松君を取り出し、その場に抛り投げると、男は夢中になって彼らを追いかけ、拾い集めた。

そのすきに私らは全速力で逃げ出したが、しばらくすると、またしてもその男に追い付かれそうになった。あわやというその瞬間、ヨイコは着ていたジャケットを脱ぎ捨て、その場に抛り投げると、男は夢中になってそれを拾い、自分の身につけた。

そのすきに私らは全速力で逃げ出したが、しばらくすると、またしてもその男に追い付かれそうになった。あわやというその瞬間、Y子は着ていたセーターを脱ぎ捨て、その場に抛り投げると、男は夢中になってそれを拾い、自分の身につけた。

そのすきに私らは全速力で逃げ出したが、しばらくすると、またしてもその男に追い付かれそうになった。あわやというその瞬間、Y子は着ていた天使のブラを脱ぎ捨て、その場に抛り投げると、男は夢中になってそれを拾い、自分の身につけた。

そのすきに私らは全速力で逃げ出したが、しばらくすると、またしてもその男に追い付かれそうになった。あわやというその瞬間、Y子は着ていたスカートを脱ぎ捨て、その場に抛り投げると、男は夢中になってそれを拾い、自分の身につけた。

そのすきに私らは全速力で逃げ出したが、しばらくすると、またしてもその男に追い付かれそうになった。あわやというその瞬間、Y子は身につけていた黒いパンティを脱ぎ捨て、その場に抛り投げると、男が夢中になってそれを拾おうとしたので、私は思わずヨイコの手を離し、それを拾って素早く身につけたのだった。

ロンドンまで逃げた私たちだったが、執拗に追ってきたトランプ大統領の手下どもにとうとう捕まってしまった。古くて狭いパブに監禁されている私たちを助け出そうと大勢の支援者が駆けつけ、一緒に戦おうと言ってくれた。4/8

再び北海道への移住が許可され、私は12人の希望者のひとりとなった。別荘にはスウェーデン人の令嬢を同伴していったが、私は彼女に日夜精を吸いとられたために、ほとんど仕事にならなかった。

敵が放つ刺客の暗殺を恐れていた私は、いつも従者を私の身代わりにしていたのだが、或る日その従者が私の目の前で暗殺されてしまったので、世を儚んだ私は出家して仏門に帰依した。4/8

私はアイスクリーム店を経営して金儲けしようと、我が家の改装を業者に頼んだのだが、見積もりを大幅に値切ったせいか、カウンターがあまりにも高くて、お客さんの手が届かないために、せっかく店開きしても誰も買いに来なかった。4/10

せっかく田舎から上京してこの文藝本部を訪ねてくれたというのに、俳諧部の連中は全員銀行、いや吟行に出かけてしまったので、仕方なく私たち和歌部で対応したのだが、微妙なところで話がバルバロイになってお互いに消化不良に陥った。4/12

急に腹が痛くなって下痢しそうになった。急いでトイレに走ったが2人も先客が待っている。ようやく1人待ちになったが、こいつがなかなか出てこない。もう限界と思った時、ヒグマ君がボックスを揺すってそいつを抛り出してくれたので助かった。4/13

デスクに戻ると、黒板の左上に小さな字で「次期WHD担当は佐々木さんです」と白いチョークで書いてある。WHDっていったいなんだ? 私はなにをすればいいんだ? 誰かに尋ねようと思うのだが誰一人いない。4/14

2つの大都会の中間部の田舎の小さな町で、私は誰からも知られずにひっそりと暮らしていた。おそらくこのまま無名のままで地上から消え去っていくのだろう。4/14

なんとか教の宣教師は、その聖なる教えについて滔々と御託宣を並べ立てたのだが、私はその間じっと項垂れて、2筋に分かれて放水するオシッコをなんとか1本にまとめようと腐心していた。4/15

南太平洋の楽園に到着した私は、その島に上陸することになったが、旅の途中で荷物もバッグも財布も無くしてしまったので、この世の極楽と呼ばれるそのリゾートに着いてもてんで嬉しくなかった。4/17

すると落ち込んでいる私に同情したのか、1人の親切な島民が、南洋特産の極彩色の魚を呉れたが、その魚は「私を殺さないでください」とでもいうように、一度も目を閉じないで、じっと私を見つめているのだった。4/17

試写室を出ると知り合いのハーフの女の子がいたので、しばらく雑談した。十分に魅力的な容貌と肉体の持ち主だったが、無念にも私はあがってしまって、話の継穂が尽きたので「じゃあね、バイビー」と唐突に別れを告げた。4/18

それから私は、女と同棲していた高級アパルトマンの5階の部屋へ帰ろうとしたのだが、突然何年も帰っていない女房のことを、あの懐かしいみそ汁の味と共に思い出し、踵を返して元の古巣への道を辿っていった。4/18

その中国人は料理の達人で、空中からいきなり卵を取り出すと、美味しい卵焼きを即座に作ってみせた。4/19

会社で働いている私に、「電話ですよ」とギャルがいうので、受話器を取って「もしもし佐々木ですが」と喋るや否や、細かい穴から水が猛烈な勢いで流れ出し、オフィスはたちまち大洪水になってしまった。4/20

自称寛永生まれのオオサンショウウオお婆さんのピアノ・コンサートを聴いた。なんでもフジコ・ヘミングウェイというお婆さんの演奏があまりにも酷いので、それなら自分がちゃんと弾こうと思ったのだそうだ。4/20

思いもよらぬところで、偶然昔の恋人と再会した。聞けば離婚した後に再婚し、明日新しい亭主と外国へ旅立つという。私たちは恐らくもう2度と会えないだろうと思いながら軽く抱擁して別れた。4/21

「もしかするとあなたは「ここに1着のセーターがあります」という例のたとえ話を持ち出すんじゃないでしょうね」と彼女が言うので、私はまんまとその挑発に乗って「ここに1着のセーターがあります」で始まる、長い長いたとえ話を語り始めた。4/22

彼は昔は私と同じような貧乏人だったのに、最近どんどん金持ちになっていく。どうして?と尋ねたら「水道の蛇口からどんどん10円玉が出てくるので、それを貯めてお金持ちになったんだ」とその秘密を漏らした。4/23

CMは細く長く打つのがいいか、それとも資金のありったけを投じて一気に流すのがいいか大先輩のイマイさんに聞いたら、「そりゃ断然後者だよ」というので、私は朝から晩まで全局でCMを流し続けた。4/24

進駐軍に差し押さえてられていたオケが、ようやく解放された。指揮者がいないこのオケでコンサート・ミストレスを務める母は、久しぶりにコンサートができる嬉しさを全身で現しながら、上体と頭を激しくゆり動かしつつ音楽に没入していた。4/26

本日をもって競馬のジョッキーの世界から足を洗ったH氏は、心機一転料理学校に通うことにしたそうだ。4/27

バカ田大学の近所に住んでいた私が、朝早く駅に急いでいると、キャンパスに通学する無数の学生たちがワンサカワンサカ大河のように流れてくるので、私は身動きできなくなってしまった。4/29

長らく陰険な上等兵と2人で行動していた私だったが、ようやく上官から独立行動を許され、「アラン・ラッド似の謎の男を追跡せよ」という命令に従って、全国を流浪することになった。4/30

 

 

以下に「夢百夜」の未掲載分を追加します。

 

西暦2014年文月蝶人酔生夢死幾百夜

 

 

J.クルーの来秋冬シーズンのメンズのパンツのシルエットが、みんなサブリナパンツのように絞られいるので、驚いてデザイナーのエミリー・ウッズに修正するように頼むのだが、彼女はどうしても妥協しない。7/31

持っていた自転車の鍵を、東京駅の新幹線乗り場の改札口の機械に挿入したとたん、私は新大阪の駅に到着していた。7/30

水の上を浮遊する廃市を2日間流離っていた私は、なにも口にしていなかったので、そこで出された肉じゃが定食を、世界でいちばん美味しい料理として賛嘆しつつ頂戴したのであった。7/28

下水配管が集まっている場所に巨大なサッカー練習場があったので、ここでボールを蹴り合っていたら、四方八方から押し寄せる人々によって、私は王として戴冠された。7/28

素敵な小道をどんどん辿っていたら、愛らしい少女と出会ったので、私は彼女を家に連れ帰って寝た。

某重大事件の犯人を追う私は、2人の詩人の協力を得て知床半島のウトロの番屋までやってきたのだが、なんの手がかりもなかった。

政府の大号令で大舞踏会が開催され、老若男女が踊り狂ったが、それが終わると、「今後はいかなる歌舞音曲も慎むように」という命令が出されたのであった。7/26

最高級ホテルでのショーが真夜中に終わったので、私が北島君に帰ろうかと声をかけたが、「僕はもうちょっとここにいる」というので会場を眺めると、黒人のプロデューサーが、ショーに使われた衣装や小道具や高級車や時計などの小物を、全部お客に呉れてやっているのだった。7/25

私とある老人がSNSで好きなことを語り合っていると、今井さんが「そんな無駄話は即刻やめろ」と文句をいうので、「ここは死にゆく者のための空間なんですよ」と反論した。7/24

バラエティ番組に出ていた色っぽい女優が、「背中から尻尾が出ている友達をここへ呼んできてもいいかなあ」というので、プロデューサーの私は、「いいとも」と鷹揚に頷いた。7/23

車の運転は運転手にまかせ、後部座席で乳繰り合っていた私たちだったが、ふと前を見ると誰もいないので青ざめた。7/22

山澤君が操縦する蒸気機関車は、猛烈なスピードで展示会場に突入し、いろいろな障害物をなぎ倒しながら、壁に激突して、ようやく停止した。7/21

戦争が始まって徴兵されることになったので、まだ童貞で恋人もいなかった私は、いわゆる風俗へ行ったのだが、もはやその種のセックスショップは閉鎖されており、味気ない思いで営倉の門を潜ったのだった。7/19

古めかしい大劇場で、演劇を観ていた。はじめは全然詰まらなかったのだが、ようやく面白くなりかけてきたところに、突然大地震が発生、いまにも天井が崩れ落ちそうになったので逃げ出そうとするのだが、足がすくんで動けない。7/18

「「時は西方に流れる」という題名の映画の撮影に同行しませんか?」と誘われたので、私は妻と一緒に3ヶ月間全国を流浪する、ロングバケーションに旅立つことになった。7/17

その少女と関係するのかしないのかが、その場に居合わせた人々にとっての最大の関心事になってしまったようなので、私はおおいに戸惑っているのだった。7/16

激しく泣き叫ぶ声が聴こえたので、息せき切って駆けつけると、一頭の小象が、仰向けになってのたうち回っていた。7/15

足元にまとわりつくリトルピープルを蹴飛ばしても、蹴飛ばしても、まだくっついてくるので、私は疲労困憊してしまった。7/14

ぬばたまのお伝は、「お客さん、よってらっしゃい、みてらっしゃい、これはほんとに美味しいお酒ですよ」と巧みに客引きをしながら、じつはこえたごから汲んで来た汚ない水を売りつけているのだった。7/13

せっかく生まれ落ちても、この小さな蓮池では立ち泳ぎしていないとおぼれてしまうので、子供たちは、必死で手足を動かしているのでした。7/12

「空」派が勝つか「海」派が勝つか、という熾烈な社内闘争の結果、アトム衛星がC衛星を撃墜して後者が勝利を収めたので、私は初めて名刺を作ってもらえることができた。7/12

荒涼とした夜の街の広場で、息子はたった一人でなにか訳の分からない言葉を呟きながらうろついていたので、私は全速力で走り寄って、その太った体を両手で抱きしめた。7/10

私が撃った銃弾は6発であったが、あとで回収されたそれらは、条痕がくっきりと刻まれ、午後の陽ざしを浴びて、黄金色に輝いていた。7/10

戦闘中に気がつくと、心臓のすぐ傍を弾丸が貫通しており、夥しい血が流れ出しているので、私はいよいよ自分はこれで死んでしまうのだと初めて悟った。7/9

さる戦国大名の依頼を受けた私は、「ともかく兵に戦争を徹底的に楽しませ、てんでカッコよく死なせてやりませうヨ」と言って、濠の前面にお色気たっぷりのおっぱいの絵を描いたり、大砲の色をピンクにしたりしたので、次々に注文が舞い込んだ。7/8

恋人同伴でショウを見物に来たら、日隈君が「課長どういうつもりですか、このショウの準備は全部うちの課の担当なんですよ。それにもう1箇所イベントもあるし、一体どうするんですか」、とパニクッっている。7/7

「米国からばかりじゃなくて、英国からも借金しないと不公平じゃないか」と彼がいうので、私はまた新しい手土産を持って未踏の地雷原に分け入る羽目になった。7/6

私はナボホ族の女が呉れた旨そうな肉を口に含んだが、彼らが昨夜ヒュー族の男たちを虐殺するところを見ていたので、すぐに吐き出した。ところが仲間のペー公は私がいくら止めろといっても聞かずにムシャムシャ食べている。7/4

ナボホ族を征服させた私たちを歓待しようと、美女が美食を持ってきたが、私は前回の経験に懲りて、蒸しパンだけを口に入れたのだが、じつはそこにも殺されたヒュー族の男たちの肉が含まれていると分かったので、私は直ちに一族を皆殺しにした。7/4

「1500億円相当の秘伝の舞の奥儀を、特別に8000万円で教えてつかわす」というので、私がどうしようかと迷っていると、その名人は、「さあどうする、どうする」と、手に持った浄瑠璃人形を、私の顔にぐいぐい近づけるのだった。7/3

裏口から逃げだした私と彼女は、オートバイに乗った奴らに追いかけられたので、必死で逃げたのだが、とうとう追いつかれた。「ヤバイ、万事休す」と思われた瞬間、彼らは私を追い越して駆け抜けていった。7/1

 

 

 

西暦2014年葉月蝶人酔生夢死幾百夜

 

ベートーヴェンの「第9」を演奏することになった。基本的にはベーレンライター版に依拠しつつ、ブライトコプフ旧版の良さも取り入れ、いうなれば柔道の受身のような自然体の良いとこ取りで臨んだわけであるが、演奏は、それはそれは酷いものだった。8/1

街のどこかにある家の地下室に横たわっていたら、突然スポットライトが当てられて、誰かが「歌を歌え」というのだが、私にはそんな器用なことはできないので、いつまでも固辞してうだうだ言っている。8/1

どこかで時計が鳴っているので目が覚めたが、よく聞いてみるとそれはすだく虫の音だった。あんな金属的な響きはいままで耳にしたことがないが、けっして不快な音ではなかった。8/1

夜の弾丸配送列車での運送を依頼した3社に対して、私はその委託を急遽キャンセルしようとした。2社はすでに出発していたので間に合わなかったが、さいわい残る1社の弾丸列車は、まだ発車していなかったので助かった。8/2

頭が2つで体が1つの人間と、頭が1つで体が2つの人間がいた。
前者の頭のうちの1つは私の頭であったが、見知らぬ別の頭の持ち主との折り合いがつかないので、困る。
また後者の頭の裏表は、別々の人物の顔になっていて、その1つは私なのだった。8/2

頭の中のノートにマーラーの全交響曲の全楽章を書き出しながら、頭の中でその音楽を鳴らそうとしたが、全然だめだった。
考えてみれば楽譜を読み書きできない私には、はなからそんな芸当ができるはずがない。8/3

グラグラ自転しながら公転する巨大なお皿の上で、人形のジェロームとフラッシャーがうごめいていたので、はズドンと1発で仕留めてやった。8/5

閻魔大王による審判が終わった。
お情けで今生の思い出に1曲だけ聴かせてやるというのでジュークボックスのバッハを押したのに、流れてきたのはなんと「千の風になって」であった。8/6

ようやくパリの地下鉄構内に入ったが、ここでいきなり投石を受けた私たちは、やむをえずその正体不明の集団に対抗して石やゴミや棒を投げ返したので、そこらじゅうに血まみれの負傷者が続出した。8/7

2年前のリストラを上回るリストラをやらねば会社がつぶれてしまう、と思い込んで、私は出張をキャンセルして、本社への道を急いだ。8/9

リストラのことで頭がいっぱいになっていた私は、毎朝新聞の全15段広告を代理店に発注するのをすっかり忘れていたので、夜の街を疾走した。8/9

カタログ撮影の3人のモデルが上京してきたので、次々にものにしてやろうと思い、まず最初の女に手をつけたのだが、次の日になると誰が誰だかわからなくなってしまったので、もう手を出すのをあきらめてしまった。8/10

大儲けを企んだ投資に失敗して一夜にして資産を失ったオブローモフを憐れんだ婦人ソーニャは、一文なしの初老の男を彼女が経営する旅籠に招いた。8/11

そして彼女は、来る朝ごとに彼の部屋の窓から見える白雪の前庭に、さまざまな意匠を施した世界中の珍しい風景や花鳥風月、珍奇な見世物を、みずからの手で色彩豊かに飾り付け、傷心の男オブローモフを慰めた。8/11

会社の製品を上代の半額で社員現売して、大量に外部に横流ししている社員がいるとわかり、突如監査が入ったので、私たちは「俺じゃないぞ、俺じゃないぞ」と大騒ぎしていた。8/12

海底からにょろにょろと立ち上がるヒドラの2本の足を、私は自分の足でキックしながら撃退していたのだが、ヒドラはその攻撃の手を休めずにだんだん肉薄してくるのだった。8/12

私の好きな尾道のおじさんは、舟遊びが大好きで、東京湾にボートを係留している。8/13

おじさんと2人で山本橋を散歩していたら、おじさんが「ほら見て御覧、ほらほらあそこ」と指さしながら、夕暮れの運河に落ちてしまった。おじさんは毛皮の首巻きのついたコートを着たまま、浮き沈みしている。

ようやく岸壁に辿りついた尾道のおじさんに「あれはわざとおっこちてみせたんでしょう?」と尋ねたら、「そうじゃない、ずるずる滑り落ちてしまったんだ」と笑いながら答えた。8/13

大地震で海に落ちた2人の女の子は、すぐに元気を取り戻して、それぞれ2人の男の子から声をかけられたが、2人ともてんでその気はないのだった。8/13

菊池は作曲家だったので、ジャノメミシンに向かってある少女への思いを作曲しようとしたのだが、それほど彼女を愛しているわけではないことが分かった。8/15

私がやむにやまれず意思表示をするやいなや、官憲は「秘密保持法違反のヒコクミンめ!」と怒鳴りつつ私を拘束した。8/15

こんなド田舎の茶店などいつ潰れてもおかしくないというのに、私はルリマツリの花で覆われた土蔵に名人を招いて、連日連夜の連歌三昧にうつつを抜かしていた。8/16

引っ越し用の荷物を積む込むトラックがやってきたので、運転手に「これは物集高見の荷物なんだがね」と言ったが、知らん顔をしていた。8/17

首の入ったずだ袋をたくさん並べて風入をしていたら、捨てたと勘違いしたのだろう、誰かが全部持ち去ってしまった。817

一晩中窓を開けたまま眠っていたので、上弦の月が、私の額をいつまでも照らしていた。8/19

その大分限者は、太平洋を見はるかす大邸宅の3階に住んでいたが、ときどき私たちが住んでいる2階まで降りてきて、キョロキョロと様子を窺うのであった。8/19

かの有名なる彫刻家に頼まれて、彼の膨大な作品の複製を製作をすることになったのだが、考えてみれば、それで一生食いっぱぐれこそしないものの、自分の作品は作れそうもないので、意を決して断った。8/20

半世紀ぶりにマージャンをやることになった私は、いきなりチンイツトイトイドラサンイッパツツモバンバンで上がったのだが、この「バンバン」こそが我が国の高度成長の原動力となり、バタイユの生きる歓びであり、ベルグソンのエラン・ヴィタールであったことが初めて分かった。8/21

「象の飼育に必要な毎月の経費100万円は、ここから出してください」と言われた。私は金川氏の預金通帳を預かっているのだが、いつも残額がすれすれなので、ハラハラドキドキさせられているのである。8/22

また電通の岡田君が出てきて、「この広告の掲載誌は何部お持ちしましょうか?」と尋ねる。
彼は三越の社長の御曹司であるという噂があるが、本当だろうか?親とは似ても似つかぬ顔立ちと性格の人なのだが。8/23

私は日本人が大好きなアメリカ人だったが、大川のほとりを散策していたら、おばあさんが私に興味を持ったのかいろいろ話しかけてきて、とどのつまりは旧芭蕉庵の近所に下宿することになってしまった。8/24

部下の男女がヴェルサイユ宮殿で挙式するので、仲人を頼まれた私(景山民夫になっていた)が仕事を終えて駆け付けると、待ってましたとばかりにスピーチを指名されたのだが、いくら考えても2人の名前すら出てこないので、頭の中が真っ白になり、滝のような汗を流していると、ミンミンゼミが大きな声で鳴いてくれたので助かった。8/25

祖父小太郎の展覧会を開催しているという連絡があったので、はるばる駆け付けてみたのだが、だだっ広い会場に人影はなく、展示物は祖父に何の関係もないものばかりなので、私は途方に暮れてたたずんでいた。8/27

「憲法」という文字をどう「読み解く」かでいろいろな意見が出たが、「ケムンパス」と読むのが正解だと、全評議員の意見が目出度く一致した。8/28

世田谷のノッポビルで撮影があるというのでやってきたが、指定場所には定時になっても1人の女性モデルしか姿を現さない。
仕方なく色々話し合っているうちにすっかり意気投合して屋上へ行って抱擁、接吻したのだが、それ以上は許そうとしないのだった。8/28

大恐慌に突入したために、私が関係している5つの会社からすぐに連絡するよう急を告げる電報が届いていたが、私は全部ごみ箱にほうりこんで山本大介と一緒に銀座に飲みに出かけた。8/28

江ノ電の中で短歌新聞を読みふけっている少年は、腰越に住んでいることを、なぜか私は知っていた。8/29

暖房のないシカゴの鋼鉄ビルの最上階で凍えていた私を温めてくれたのは、春の女神アフロディーテだった。私らはことのついでに何度も愛し合ったのだったが、2か月ほどで別れてしまった。8/29

11時にパリのIRCAMを出て、そのレストランを探した。それと思しきレストランは街道に面して建っていたが、私は車から飛び降りることができなかったので、そこへ行くことができなかった。8/29

4年生になった私たちの別れの時がやってきた。在学中に有名になったデザイナー黒田信夫が、「1年生の時に、俺はこの日のために君たちのために黒いスーツを作ってやったことを覚えているかい?」と聞くので、そういえば黒い奇妙な服をもらったような気がしはじめた。8/30

なかなか電車が動かないので、私たちは駅のホームに降りた。大勢の子供たちが乗車口を出たり入ったりしていると突然ドアが閉まり、電車が動き出したために、何人かの子供は線路に振り落とされ、回転する車輪が彼らの頭や手足を切断していくのがはっきり見えた。8/30

田中陽子がブラジル国王に選ばれた瞬間、彼女の心身が、私に転位してしまった。そして次の瞬間、私は押し寄せる群衆の渦に飲み込まれてしまった。8/31

 

 

 

Meeting Of The Soul (たましい、し、あわせ) Part 3

 

今井義行

 
 

Meeting Of The Soul (たましい、し、あわせ) Meeting Of The Soul
(たましい、し、あわせ) *太字は作者による

これが、わたしの ≪世界最短詩≫ への 返歌

Meeting Of The Soul (たましい、し、あわせ)
(し、あわせ)

午後4時に 散会した後 参加者たちは それぞれに
下町・浅草橋の さまざまな路地へと 去っていった

意気投合して「早くから開いてる 居酒屋、行こうや」
そんな可笑しな会話が ふっと耳に入ってきたりした

*************************

「命令 されなくても 出ていくずら
《世界最短詩》アゲイン なむあみだぶつ!!

“シャローム”ではじまり “なむあみだぶつ”で沸点に達した
はじめての AA 参加だった…………… (いまごろ、あの人は、
盛夏の深い緑に覆われた 古都・鎌倉への道を 辿っていることだろう)

一緒にカソリック教会を出た“ナポレオン”が 呟いた
「“あまでうす”さんだったっけ
あの人、なんていうか・・・・・・ すげえ、かったな」

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写真/佐々木 眞

 

「・・・・・・・・・・・・詩人だよ 」と わたしは言った 「それにしても、
断酒ミーティングが終わると速攻で呑みに行く人たちもいるんだなあ!!」

わたしたちは、浅草橋の駅まで歩きながら お喋りをした

「呑むか、呑まないか 死活問題だなんて言うけどさ
おれにとっては本音を言えば どうだっていいんだ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「家族 持ったから。持って しまったもんだからさあ
覚醒剤やると 非合法だから 投獄されちまうけれど
ナポレオン 浴びるほど煽っても 酒は合法ドラッグ
だから厚生労働省が“病気”扱いにするわけだろう
アルコール病棟の患者への蔑視、犯罪者を見る目だ
それだけの違いじゃないか なんだか馬鹿々々しい」

「神」は「紙」“霊性”に身をゆだねて、みずからを助ける、
ということなら “白紙”になることだ、って 思って
みるとしてさ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「なんだよー、“あまでうす”さんの受け売りかよ!?」

「いや、そうじゃない。取敢えず俺たち 何度かリセットは
してるわけだろう」

「まあな、でも俺の場合、まだ リセットとは言い切れない
迷惑をかけた家族が“しあわせ”になれるような 環境を
どうにか残してそして1人になって やっと“白紙”だよ」

“白紙”って何でも描けるね“ナポレオン”さんはどんな
ことをやってみたいの? 無理に答えなくてもいいけれど」

金髪の靡く “ナポレオン”の薄青の サングラスが 光った

「死んでもいいから ナポレオンと覚醒剤に おぼれたい」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

太陽はみていた ────
わたしは、胸ポケットから 折りたたんだ 紙切れを出して
“ナポレオン”の 目の前に 開いて 差し出した ────

【 Meeting Of The Soul (たましい、し、あわせ) 】

「これ、ぼくが ミーティング中に書いた、詩なんだ」

「へえ・・・・・・・・・・・、“イマイ”さんも 詩を 書くのか?
“あまでうす”さんの詩より 長いし 何の こっちゃ」

「“ナポレオン”さんは 家族に“しあわせ”になれる
ような 環境をどうにか残して そして1人になって
やっと“白紙” になれるって 言ってただろう?」

「ああ、そのとーり ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「ぼくは リセットされつつあるいま 脳が反射的に
詩を選びとった その心の動きに 身を委ねるんだ
【 Meeting Of The Soul (たましい、し、あわせ) 】
それは、“詩”と“詩”の出会い たましいどうし
それをあわせる 詩、合わせ のミーティングだ」

「なーるほど、生きてくってほうを選んだわけだな」

「リセット(Reset)されつつあるいま 詩に心身委ね、
リボーン (Reborn)するそうできたら“しあわせ”

“今井義行”と“ナポレオン”は「また、何処かで会おう」なんて
言わないで JR浅草橋 西口の構内で 別れ別れになった・・・・・・・・

*************************

立秋が過ぎたころ わたしはネットで調べて
『地域活動支援センターえどがわ』というNPO法人へ訪ねていった

13:00の「相談予約」 冷房の効いた 小会議室で
待っていると 若いにこやかな相談員が入ってきた
産休明けの はじめての面談になるとのことだった

彼女は「どんなご相談内容ですか?」と登録用紙
を差し出しながら わたしに尋ねた ─────

「相談内容をまとめてきたので 読み上げますね」

2016/08/10

今井義行/1963年7月13日生まれ いま53歳 離職期間7年
 
無職/秋葉原メンタルクリニックでうつ治療、アルコールデイケア参加
 
他に、西大島・肝臓内科治療受診中

 

精神障害者手帳3級保持➡平成29年3月31日失効(予定)
 
精神障害者年金3級➡平成29年8月を以て支給停止(予定)
 
≪現状 年金月額 6,5000円位≫
 
毎月10万円の赤字が出ており、このままいくといずれ「生活保護申請」へ
 
●手帳が失効する前に、また年金支給が打ち切られる前に、
自分の現状に合ったかたちで、社会復帰したい。
●目標収入➡月収手取りで6〜7万円 それでも毎月10万円の赤字は出る。

≪今後の生活相談≫

わたしは、詩人です。1991-2012年までに詩集7冊上梓しました。
詩作は、現在も毎日続けており、あと1冊でよいから、詩集を出したい。
詩集というのは、ベテランでさえ私費を投じる特殊な物なので、
制作費を捻出する必要がある。また、「時代」を捉える手立てとして
労働によって、世間の動きを捉える必要があると、切実に思っております。

治療は長丁場となる見込みなので、
時間的、環境的に自分に合ったかたちの

 

就労形態を希望➡平成29年 4月からが目標

 

≪具体例≫

 

◉在宅ワーク(元編集者なので、校正、テキスト入力など)

 

◉組織体に適合しないので、近場の会社でパソコン入力など個人ペースでできる仕事

 

◉高齢者のお役に立ちたいので、資格は持っていないが、デイサービス勤務 以上です

 

「今井さん、これから多くの チャンスがあるわ」
相談員は 事務室に 戻って A3の紙を 封筒位の
大きさに たたんだ “つぼみ・8月号” と いう
登録者向けの パンフレットを わたしに手渡した

「今井さん、これにあなたの詩を載せてみない?
800部発行してるから800人の手許に届く
言葉を通じて出会いたい それが願いなのでは」

「相談員さん、ぜひ書かせてください 人の手を
握るように 詩を 届けられる好機と想います」

*************************

 

使える 紙面の スペースに 制限が あるために
わたしはかつて書いた 詩のメモから1つを探し
次回の相談日に 間に合うよう手を入れていった

そうして、出来上がったのがこのような詩です

還暦
今井義行 (詩人)

あと7年 経つと 還暦になる
初老だ
いまからが ねばりどきである

数年間横たわりつつ療養をした
動かないから当然脂肪がついた

早く社会で 脂肪を燃やしたい
すいすいと動いて信頼されたい

ところが寝ている時間がとても
長かったので脚の筋肉が落ちた

階段の昇り降りが手擦りを掴み
休み休みでないと歩けなかった

会う人ごとに 「肥ったね」と
言われないように節制している
一人一人に事情を話すわけには
いかないので 動く事だと思う

そうして無駄なものは振り落し
有効なものを 奪いかえすのだ

白髪が増えても自然現象だから
堂々としていれば いいはずだ

眠ってばかりいた 眼を凝らし
街の風景をつぶさにながめれば

働いている中高年がたくさんだ
それは油彩の絵のようでもある

油絵の具の多彩な盛り上がりが
その人の 歴史になって見える

あと 7年 経つと 還暦になる
初老だ
歩いていくとふくらはぎが痛い

 

to writing_edited
写真/今井義行

◉ ご感想をお待ちしております
swrd21@aol.com

 

感想のメールは いつか 頂けるでしょうか・・・・・・・・

 
 

(完)

 
 
 

Meeting Of The Soul (たましい、し、あわせ) Part 2

 

今井義行

 
 

Addiction (依存) Addiction (依存) Addiction (依存) Addiction (依存)

Addiction (依存) は、転移する病 *太字は作者による

酒からカカオへ 酒からバタアへ 酒から賭け事へ
酒から電子群へ 酒から愛慾癖へ 酒から全対象へ
その果てには、連続飲酒に みずから 帰還したり

*************************

わたしは、東京・浅草橋会場の AAに 参加した ことがあります

真夏の午後の 浅草橋・西口から 指定会場の カソリック教会
までには 幾つも幾つも立ち呑み屋があった

ブラックアウト(昏睡)してくださいと言わんばかりのひなびた
街の光景に コップ酒の匂いが 煩わしかった

昼に夜は海鮮居酒屋になる店で日本酒が合う
マグロ定食なんてものを頼んでしまった……

わたしはドアを開いて「初めてきました」と
浅草橋会場の人たちに告げた─── そして
さまざまな年齢層の アルコホーリクたちに振り返られた

AAはどのような宗教、宗派、政党、組織、団体にも縛られていない。
また、どのような論争や運動にも参加せず、支持も反対もしない。
*引用 太字は作者による

と いうけれども…… また、

*誤解を受けやすいのは、AAの回復のプログラムに
スピリチュアルな力を受け入れるという概念があるからでしょう。
このスピリチェアルな力をAAでは「ハイヤー・パワー」と呼び、
日本語では「自分より偉大な力」と呼んでいます。
*引用 太字・下線は作者による

と いうけれども……、
それは、仏教国とは言い難い日本ではアタリマエの
捉えられ方で 教団と想われても 仕方ない気がする
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翻訳のされ方に安易なところがあったのではないか

浅草橋会場の その日の ミーティング・リーダーが
カソリック教会の 清潔で 簡素な 無料の 会議室で
10人ほどの 参加者たちに 向かって 語りはじめた
彼は40歳台後半位の 痩せて目のつりあがった男だ

「前任のリーダーから 司会進行を 引き継ぎました
“イズム”です 酒に関わりのある エピソードなら
どのようなことでも結構ですからお話しください
わたしは前任者のように皆さんを裁きはしません」
(いきなり、不在者裁判かい)

「シャローム。* よろしく お願いします、“イズム ”─── !!」(参加者)
「では、はじめて参加の “イマイ”さんから時計回りで」
*シャローム/ヘブライ語で「平和」

「わたしは 今井義行といいます 53歳です 本名で参加いたします
(ニックネームをつける必然性をわたしは別に感じはしなかった)
30歳台後半から連続飲酒 退院後アルコールデイケア通所中です」
・・・・・・・・以下、略。・・・・・・・・
「シャローム。はじめまして、“イマイ” !!」(参加者)

「わたしはナポレオン 32歳です 13歳の時に友だちの家で呑んだ
ナポレオンが旨かった!以来連続飲酒 覚醒剤で服役 妻子あり」
・・・・・・・・以下、略。・・・・・・・・

「シャローム。はじめまして、“ナポレオン” !!」(参加者)
ナポレオンもはじめての参加者だった 金髪に薄青のサングラスが光る

「では、つぎの方」(“イズム”)

「こんにちは、“枕草子です”」
「シャローム。こんにちは、“枕草子”!!」

“枕草子”は、30歳台半ば位の白髪混じりの女だった
「わたしは、酒量が最大だった時の話をいたします
アルコホーリクと診断される前までは500mlの缶ビールを
1日2本呑むのが日課になっていました
が、毎朝コンビニに買いに行くのがメンドーになりました
それで500mlの缶ビールを4ダース48本 箱買いしました
そして 届いた途端 激しい飲酒欲求に 見舞われまして
その日のうちに 48本 全部呑んでしまったのでした」
(う、上には上が あるものだ、なんて考えは自己正当化!?)

「では、つぎの方」(“イズム”)

「こんにちは、“チチチチボーン”です」
「シャローム。こんにちは、“チチチチボーン”!!」

“チチチチボーン”は、頭頂が 丸く禿げた初老の男だった

「おれぁ、下町の酒屋のせがれなもんだからさ
小学校1年のときから 親に隠れて ちびちび
1升瓶から いただきはじめてさぁ、
やめられなく なっちまって 高校生のころには
毎日部屋で 1升空けるようになってさ
最高2升呑んでたねぇ 失禁してズドンと倒れて
救急搬送されていくとき 無茶苦茶あばれながら
救急車の中が銭湯の湯船に想えて おれのほかに
5人の男がお湯に気持ち良さそうに浸かってたね
いまは断酒してるけど 連続飲酒歴60年であります」
(や、やまいの 武勇伝の お披露目かな……)

「シャローム !!」「シャローム !!」「シャローム !!」

「こんにちは、鳴門金時です」
「シャローム。こんにちは、“鳴門金時”!!」

“鳴門金時”は、杖を使っている よく長髪を掻き上げるだった

「わたしは、大学卒業後 大学院へ進み 研究者生活に
入りましたが 研室に日々こもって 神経を消耗する
ことを 繰り返していく内に ウィスキーのボトルを
手放せなくなり初めはグラスでロック1杯でしたが
やがてそれでは満たされず 直接 ジャックダニエル
をラッパ呑みするようになり 入院前には 1日2本
空けてました 結果、アルコホーリク特有の 大腿骨
骨頭壊死になりました ご覧の通り “ちんば”です
50に手が届く今になっても 結婚願望はありますね」

「シャローム !!」「シャローム !!」「シャローム !!」

……………………………………………………………

「こんにちは、“あまでうす”です」
「シャローム。こんにちは、“あまでうす”!!」」
「わたしは 酒とは 直接には 関係ありませんが
一発 《世界最短詩》なるものを かますずら」
「シャローム。 “あまでうす”!!」
「《世界最短詩ぃ》 いくずらー !!」

「シャローム。 “あまでうす”!!」

「むちゃくちゃでござりまするがな」*引用 太字は作者による

「シャローム !!」「シャローム !!」「シャローム !!」

(ば、ばくだんが 一発 落とされたっ !!)
(も、もしかしたら、この人は………
佐々木 眞さんという わたしの好きな詩人なのでは)

(御成敗に 鎌倉から 浅草橋へ 訪れたのでは)

“言いっ放し、聞きっ放し”人々同士の口論には 発展させない
それがAA(匿名のアルコール依存症者たち)ミーティングの前提

「シャローム !! シャローム !! って繰り返しているが そいつは
神様、神様って 繰り返しているのと 同じことずら─── !!」

「………………………………………………」

「ハンドブックに、・AAはどのような宗教、宗派、政党、組織、団体にも
縛られていない。って書いてあるけど 何回読んでも けたくそわるいずら!!
それに 日本語では「自分より偉大な力」と呼んでいます。って書いてあるけど
それは、しょうもない日本語ずら!!
翻訳するなら「神」は「紙」と翻訳していただきたいずら!!
“霊性”に身をゆだねて、みずからを助ける、ということならば
わしらは“白紙”になることなんだから
わしらは“白紙”どうし、自由に発言していいはず、ずら!!
ちなみに わたしは、“阿倍蚤糞”に腹が立ってストレスの塊になったずら!!」

「シャローム。“あまでうす”!………………その発言は、

ミーティングルール違反ですよ……………………………
…………………………………………………………………
参加者が動揺してしまうので 退出をお願いいたします」

「命令されなくても 出ていくずら
《世界最短詩》アゲイン なむあみだぶつ!!

 

(続く)

 
 
 

Meeting Of The Soul (たましい、し、あわせ) Part 1

 

今井義行

 

 

Meeting Of The Soul (たましい、し、あわせ) Meeting Of The Soul
(たましい、し、あわせ)太字は作者による

Meeting Of The Soul (たましい、し、あわせ)
(し、あわせ)

*************************

わたしは、東京・浅草橋会場のAA*に参加したことがある

AA(アルコホーリクス・アノニマス=1935年アメリカ設立
「匿名のアルコール依存症者たち」の略)

会場は カソリック教会の1室で義務のない献金で自立しているために
そのような会場が選ばれるのだろうな、と想った

真夏の午後の JR浅草橋・西口から 会場のカソリック教会
までには 幾つかの立ち呑み屋があった

スリップ(再飲酒)してくださいと言わんばかりのひなびた
街の光景に コップ酒の匂いが 滲みていた
わたしはドアを開き「はじめてきました」と
浅草橋会場の人たちに告げた ─── そして
さまざまな年齢層の アルコホーリクたちに振り返られた

[2つの発言を導入として]

「わたしは 今井義行といいます 53歳です 本名で参加いたします
(ニックネームをつける必然性をわたしは特に感じはしなかった)
連続飲酒30歳台後半から 退院後アルコールデイケア通所中です
本来家に1人で居ることが好きでやりたいこともあるのでそれが
断酒に結びつくと考えているのですが入院していた病院から患者
がどのように生活していくかの指針として同じ病気を持つ人たち
のミーティングへの参加を 強く勧められて 今回 まいりました」

「シャローム。* はじめまして、“イマイ” !!」(参加者)
*シャローム/ヘブライ語で「平和」

「わたしはナポレオン 32歳です 13歳の時に 友だちの家で呑んだ
ナポレオンが旨かった! 以来 連続飲酒 覚醒剤で服役あり 妻子
あり 家族には泥酔して部屋で壁をぶっ壊したり 暴言を吐いたり
して 迷惑を かけつづけてきました 反省はしています 妻子が
わたしを見捨てないでくれたことは ありがたいことと思います」

「シャローム。はじめまして、“ナポレオン” !!」(参加者)
ナポレオンも はじめて参加した人だった 金髪に薄青のサングラスが光る

*************************

[ミーティング中の想いを中間報告として]

いま、たましい、は、しあわせ かしら・・・・・・・・・・・・?
わたしは、断酒のための「自助グループ」にはもう参加しないな
なぜなら、のこりの人生の目的は 「断酒」ではなくて、
わたしという 命がたどる 軌道での 人々とのまれな
邂逅。「たましい、詩、 ──・・・・・詩、合わせ」であるからです

邂逅。って 同病者の 集いに宿るわけではないと想う
例えば わたしの誕生日1963年7月13日生まれの人が
集ってミーティングして 生まれるのは空気の共有位だ

空気の共有等では駄目なの ソウルが、欲しい の !

それは、わたしが 「詩」を 書いてきていること
それゆえの 自我でもある かも 知れないけれど

ソウル、って誰か それは お互いの在り方を詩から
全方位的に受け止め合える言葉の配置であるあなた

人間は 【言葉の配置】その連続組み換えで出来て
いる だからさっきのAさんといまのAさんは違う

「自助グループ」って 人に救ってもらうことでもないが
自分で自分を救うことでもないと想う 現代(いま)の医学では
不治の脳疾患とだけ 解っていて 誰にも助けられないから
「霊性」の手に誠実に身を 任せて 誰のせいでもないとして

“言いっ放し、聞きっ放し”人々同士の口論には発展させない

「呑みたい」「隠したい」「狂いたい」「死にたい」OKだ
「呑むなよ」「隠すなよ」「狂うなよ」「死ぬなよ」NOだ

≪引用始め≫ *太字は作者による
ミーティングハンドブックより

『神様、私たちにお与えください。
自分に変えられないものを受け入れる落ち着きを、
変えられものは変えてゆく勇気を、そして、
二つのものを見分ける賢さを。』

[AA序文]

アルコホーリクス・アノニマスは、経験と力と希望を分かち合って
共通する問題を解決し、ほかの人たちもアルコホリズムから回復
するように手助けしたいという共同体である。
AAのメンバーになるために必要なことはただ一つ、
飲酒をやめたいという願いだけである。会費もないし、料金を払う必要もない。
私たちは自分たちの献金だけで自立している。
AAはどのような宗教、宗派、政党、組織、団体にも縛られていない。
また、どのような論争や運動にも参加せず、支持も反対もしない。
・私たちの本来の目的は、飲まないで生きていくことであり、
ほかのアルコホーリクも飲まない生き方を達成するように手助けすることである。

AA・12のステップ

【ステップ1】
私たちはアルコールに対し無力であり、思い通りに
生きていけなくなっていたことを認めた
【ステップ2】
自分を超えた大きな力が、私たちを健康な心に戻してくれると
信じるようになった
【ステップ3】
私たちの意志と生き方を、自分なりに理解した
神の配慮にゆだねる決心をした
【ステップ4】
恐れずに、徹底して、自分自身の棚卸しを行ない、
それを表に作った
【ステップ5】
神に対し、自分に対し、そしてもう一人の人に対して、
自分の過ちの本質をありのままに認めた
【ステップ6】
こうした性格上の欠点全部を、神に取り除いてもらう
準備がすべて整った
【ステップ7】
私たちの短所を取り除いて下さいと、謙虚に神に求めた
【ステップ8】
私たちが傷つけたすべての人の表を作り、その人たち全員進んで
埋め合わせをしようとする気持ちになった
【ステップ9】
その人たちやほかの人を傷つけない限り、機会あるたびに、
その人たちに直接埋め合わせをした
【ステップ10】
自分自身の棚卸しを続け、間違ったときは直ちにそれを認めた
【ステップ11】
祈りと黙想を通して、自分なりに理解した
神との意識的な触れ合いを深め、
神の意志を知ることと、それを実践する力だけを求めた
【ステップ12】
これらのステップを経た結果、私たちは霊的に目覚め、
このメッセージをアルコホーリクに伝え、
そして私たちのすべてのことにこの原理を実行しようと努力した

※誤解を受けやすいのは、AAの回復のプログラムに
スピリチュアルな力を受け入れるという概念があるからでしょう。
このスピリチェアルな力をAAでは「ハイヤー・パワー」と呼び、
日本語では「自分より偉大な力」と呼んでいます。
≪引用終り≫

輸入品としてのハンドブックは 翻訳されると【神】
という 言葉が多用されて 患者たちに 届けられる
そうなると ハンドブックは 【聖典】のようになる

酒を絶つ以前にこれら文言に戸惑う患者たちは多い
ハンドブック序文に「AAはどのような宗教、宗派、政党、組織、団体
にも 縛られて いない。」と あるではないか、と

 

(続く)

 

笑う羊

 

長田典子

 
 

熱波のなかを
漂うように歩く

日付変更線を越えたのは
ずっと前のことなのに
うまく足を地面に着地できなくて
手も足のようにつかわなければと思いながら
森のように大きな公園につきあたる

高層ビルに囲まれた
四角いセントラルパーク
そこは むかし 羊のいた牧草地だったという
羊のかわりにヒトがたくさんいて
海辺でもないのに水着になって
芝生の上に寝転がり 肌を焼いていた
影のないヒトたち
わたしは過去から迷い込んだ
一匹の羊なのかもしれない

南中する太陽の下で
チキュウ、チキュウ、と
青いガイドブックを指さして
にやにやしながら囁きあうヒトがいた
知ってるんだ
チキュウ、ってニホン語
可笑しくなって 
バアハハハ!
笑ってしまった 羊のくせに
わたしはチキュウではありませんよ
しかもこれは20年も前に買ったのを再利用しています
ワタシハ羊ナノデス
牧草地をぴょーんぴょーん跳ねる
羊ナノデス

真夏の昼下がり
客の出払ったホテルの
宙空に吊り下げられた中庭に迷い込む
ぴょーんぴょーん
ぴょーんぴょーん
ビルの壁で囲まれた
ゼリー状の無重力地帯
気狂いじみた暑さが
身体に粘り付いてくる

きついカクテルをたてつづけに注文して
喉を潤す
羊のくせに
溺れる
ベッドみたいに大きなソファの上で
羊のくせに
羊だから
ガラス張りの天井は
床だったのかもしれず
いつのまにか
チキュウ、を 手放す
羊のくせに
ウールを脱ぎ捨て
水着になろう

わたしを助け出さないでください
わたしを連れ出さないでください

この街は
たくさんの時間が同時にあって
捲られる書物のペエジのよう
風が吹くたびに
閉じたり開いたりしている
だから

ぴょーんぴょーん
ぴょーんぴょーん

わたしはペエジを竪琴にして
漂っていたい

ぴょーんぴょーん
ぴょーんぴょーん

笑う羊として

だから

 

 

空白※この作品は「ひょうたん」45号に発表した「宙空にて」を再度大きく改稿した。
空白※チキュウ…『地球の歩き方』シリーズ(ダイヤモンド・ビッグ社刊)のこと

 

 

 

daily 毎日の

 

初盆に

新庄まで
新幹線で来て

奥羽線で湯沢まで帰ってきた

新庄から
湯沢に抜ける間の

景色が好きだ

みどりの稲穂のひろがる向こうに
里山がある

毎日
書こうとしている

詩の構造がここにある

うみそらくもそうもくとりわれ
その先にない母がいる

 

 

 

emotion 感情

 

愛ちゃんは
がんばった

愛ちゃんはがんばったが
接戦で

負けた

錦織はがんばった

接戦で
錦織は勝った

どちらも相手がいて
相手も

勝ったり
負けたりする

終わって
ふたり抱き合うが

どうなんだろう

愛してるわけではない
こころが震えてる

 

 

 

真夏の夜の夢

 

佐々木 眞

 
 

IMG_2179

 

ある日のこと、金に困って往生していたら学生時代の友人にぱったり出くわしたので、これ幸いと窮状を打ち明けたら「万事俺に任せろ」という。

友人はその場で茂原印刷の茂原社長に電話して、「いつものように、あれを印刷してやっとくれ」と頼んだ。

おいらが「あれって何だ?」と尋ねると、「ほら、これと同じ偽札だよ」と言って、本物そっくりの1万円札を見せた。

「2時間ほど経ったら、茂原印刷へ行ってみな。出来たての新品が100枚、首を揃えて待ってるぜ」というので、白山下まで行ってみると、果たしてその通りだった。

やった、やった、ヤシカがやった!

鬱から躁に舞いあがったおいらは、クラスのマドンナだったつうちゃんとまりちゃんを電話で呼び出し、久しぶりに酒池肉林の宴を開いたんだ。

そしてピン札で勘定して、ご祝儀に2人に10枚ずつプレゼントしてから、らりらりらあんと歌いながら帰宅したんだ。

ところが翌日のお昼ごろ、おいらは、突然土足で踏み込んできた刑事に叩き起こされた。

なんと、つうちゃんとまりちゃんが、今朝横浜銀行の窓口で、おいらの渡した万札を、別のお札に両替してくれと頼んだ、というのだ。

そこでおいらは、「だから良家の御嬢さんは嫌いだよ」とぼやいたが、後の祭りだった。

 

 

 

かげ

 

Hitoha Nao

 
 

image1-12

 

空白空0家並みはいっせいに
空白空0火を噴く

空白空0終日 天を焦がして
空白空0焼きつくす

空白空0帰りを待ちわびて 子どもらが
空白空0銀行の石段に
空白空0たどり着く

空白空0母は すでに
空白空0かげに すぎない

空白空0扉は 開かれなかった

空白空0子どもらのおにぎりのためのお金は
空白空0運ばれることは

空白空0なかった

 

髪のながい女がひとり
ドームのまえの道を

川沿いに歩いている

甲高い声で
空に向かって 歌を歌う

愛を 平和を

誰からともなく起こった笑いは
小学生の一団に 広がっていく

祭りのように

秋空の下 楽しげに
繰り広げられる 平和の学習

天井を抜けたドームの
あばらの向こう

青空が突き抜けていく

ドームからは
ひん曲がった鉄骨が 数本

ぶら下がってはいても

かつて 焼けただれて
人々が流れた 元安川が
濃い水をたたえ

女のかげを
映している

 
https://m.youtube.com/watch?v=BrC3C68eOhM

🌠ピアニストのYoriko Hattoriさんとのコラボです❣️
ベートーベンピアノソナタ第2楽章第22楽章