辻 和人
ファミちゃん、ファミちゃん
レドちゃん、レドちゃん
ファミちゃん、ファミちゃん
レドちゃん、レドちゃん
「かずとん、かずと-ん。
んもぉ、またぶつぶつ言ってる。
自分で気がついてるの? 会社とかでも口に出してるんじゃないでしょうね?」
ついついつい
掃除機かけながら
ついついつい
いやあ、困った、困った
困ったちゃん
ファミちゃん
レドちゃん
一人暮らしが長かったせいで
すっかり独り言が多くなっちゃった
「どれ、コーヒーでも飲むか。」
「さて、風呂にでも入るか。」
聞かれてもいないのに
相手もいないのに
言葉が出てきちゃう
壁や机やカーテンに向かって
いくらでも話しかけちゃう
どう思う?
「ヘンダァー、オカシィヨォー、アリエナィー。」
薄っぺらい体を電球にクルクル巻きつけたり解いたりしながら光線君が答える
だよなー、だよなー
困ったちゃん
「また何か独り言。もおぅー。」
外では大丈夫なんだが
一人になると
ついついつい
口を突いて出てくる
その代表格が
「ファミちゃん、レドちゃん」
これ
声に出すのを我慢する方が難しい
実は会社でもトイレに立つ時とかに小声で
ついついつい
困ったちゃんしてるんですよ
ではでは
そっと声に出してみましょう
「ファミちゃん、ファミちゃん、偉いねえ。」
「レドちゃん、レドちゃん、かわいいねえ。」
ぽっ
声に出した途端に
ぽっ
ほら
ぽっ
ほら
出現したでしょ?
ぽっ
では
撫でる仕草をしてみますよ
手首をひねって、5本の指を柔らかく柔らかく動かして
ふわっふわっ
もふっもふっ
ツーッと鼻筋を撫でると
目を細くしてうっとりする
顎に手を伸ばすと
首筋をぐっと伸ばしてもっともっとと促す
光線君も触ってみたら?
ぼくが指し示した場所を
薄い四角い体の先を紐のように細くして恐る恐る突っつく光線君
チョン・・・・・・チョン
ほら
ふわっもふっ
「ホントー、ホントー。」
光線君、体を扇子状にパタパタさせて驚いてる
だよねー、だよねー
いる、みたいな、感触
声に出しただけで
ふわっもふっな姿が
空中にしっかりちゃん
このマンションでは猫は飼えないし
第一、実家に馴染みきった彼らを今更他の場所に移すのは酷なこと
ファミ、レドとは離れて暮らさざるを得ないけど
ついついつい
名前を呼べば
現れる
ついついつい
名前を呼べば
賑やかになる
名前、名前
名前っていいなあ
「ナマエワァー、
ヨブヒトノォー、
ココロモチヲォ-、
アラワスナーリィー、
コエニダセバァー、
スガタモアラワレルナーリィー。」
光線君、よく言った!
その通りなりぃ
食後のお茶を飲んでると
ミヤミヤが不意に湯呑みを置いてぽろり
「かずとんはいつでもファミちゃん、レドちゃんなのね。
ファミちゃんが1番、
レドちゃんが2番、
ミヤミヤが3番。」
えーっ、困ったちゃん
「そんなことあるわけないよ。」ってすぐ返したけど
ぼくに向ける視線にどことなく不満が宿ってる
本当にそんなことないんだよ
だいたいレドはファミと同じくらいかわいがってるし
あ、そういう問題じゃないか
そりゃさ
新婚旅行にスペインに行った時
地下鉄の行き先を確認しようとしてミヤミヤに
「ねえ、ファミちゃん」って話しかけちゃったことはあるさ
「昔の彼女の名前を呼ばれるよりもショック」と睨まれたさ
でもそれはね
ミヤミヤなら
何を聞かれても大丈夫
ってことなのさ
かずとんとミヤミヤは一緒に住み始めて6ヶ月
オナラの音を聞かれても「ま、いっか」って感じになりつつある今
ミヤミヤが傍にいても
一人でくつろいでいるのと同じなのさ
「オナジィー、オナジィー。」
裾をきらきら翻しながら光線君がぼくとミヤミヤの間をさぁーっと走り抜ける
「ミヤミヤが1番に決まってるじゃない。
それより今度の日曜日、小金井公園にウォーキングに行こうよ。」
ウォーキングに行っても
周りに誰もいなくなれば
ついついつい
傍にミヤミヤがいても
ついついつい
ファミちゃん、ファミちゃん
レドちゃん、レドちゃん
ファミちゃん、ファミちゃん
レドちゃん、レドちゃん
名前を呼べば
困ったちゃん
みんな一緒に暮らしてるのと
「オナジィー、オナジィー。」