鈴木志郎康
戦後の、
国電がものすごく混んでて、
乗客がはみ出して、
電車の連結器の上の、
鉄板に乗っていた頃に、
俺っちら小学生の間で、
国電乗り回し遊びが、
流行っていたっちゃ。
亀戸から隣の錦糸町までのキップで、
総武線の下り千葉終点まで行って戻るって、
その間に駅名を覚えるっちゃ。
上りは中野終点まで行くっちゃ。
中野駅ホームは夕焼けだったっちゃよ。
途中の秋葉原で山手線に乗り換えて、
山手線を一周するってこともあったっちゃ。
混んでる車内で、
窓ガラスに顔を、
ぎゅっと押しつけられて、
飽かず車窓から眺めてたっちゃ。
錦糸町から歩いて帰る途中に、
覚えた駅名を暗唱するっちゃ。
俺っち、
大人がやってる、
連結器の上の鉄板に、
乗ったことがあったっちゃ。
風にあおられ、
電車が揺れるのが恐怖だっちゃ。
電車が平井を過ぎて、
荒川鉄橋に差し掛かると、
レールの下の、
ずっとずっとずっと下の、
川面のさざ波が
頭に焼きついたっちゃ。
次の新小岩に着くと、
ホームに跳び降りて、
ガクガク震える
両脚を、
抱きしめたっちゃ。