正山千夏
蓮葉でうめつくされた池の上を
みどり色の風が通る
夫は1時間以上かけて
自転車でやってきた
涼しい風とはうらはらに
うっすら全身に汗にじませて
弦楽器のハーモニーに染み込む
初夏のビールはあわい黄金色
サウンドホールの奥の小さな空洞に
ハートビートの血潮の調べ
クールな顔のギタリストは
細かく膝をゆすってる
ケータイをかざすことすら忘れ
自分を風の中にほどいてしまう
隣にいる夫や友だちすらほどけてしまう
鳥たちがその調べに賛同する
そこにいるすべてのものたちが
西陽に照らされビール色に染まる
空気中に漂う細かなほこりが
ふつふつのぼってく
日々の小さな小言も
自転車で疾走する孤独も
まるでビールの泡のよう
大きな日除けにたまり
層をなしたと思ったら消えた