百円アトピー

 

塔島ひろみ

 
 

私はかかれるためにこの世にあり
光彩を放つ

水玉模様のアームカバーから はみだした腕を
かく女
その赤黒いいびつな物体はあなた自身で、
私ではない

かかれるためにある私は
太陽とか、空気とか、ドラム缶とか、総理大臣とかの
力を借りて 存在感を増し
人気を博した

私をかくために大黒屋店員を辞めた青年Nは
首筋からボロボロ落ちる自分の一部を
勝ち取ったような表情でかき集め 屑カゴに捨てた
Nの頭で音楽(大塚愛)が鳴り
ザーと音を立てて 減っていくN
そして今度は客として大黒屋に私を買いに行く Nと
百円で買われていく 私と
それを眺めている私

増える私
減らない私
決してかかれず、傷まない私
百円アトピー

私をかくために成長し
私をかくためにお米をとぎ、
私をかくために私をののしる世界に だけど私はまったく不調和で

今日も あちこちの私とそっと目を合わせながら
望郷の歌を口ずさむ

 

 

(2017年9月20日 東京大学附属病院皮膚科待合室で)