オンラインショッピング

 

みわ はるか

 
 

大変ご無沙汰しています。
長い間取り組んでいたものにめどがついたのでまたぽつぽつと書いていこうと思います。

通販の便利さと早さに感動してからは、専ら化粧品は好きな化粧品会社のネットショッピングを利用している。
リビングにいても、外にいても、はたまたトイレにいても指の操作だけで色んな商品が見られ購入でき、ポイントも貯まるしで嬉しいことばかりだ。
さらに今はSNSという便利なものがある。
そこの化粧品会社の公式ページをフォローしておけば、最新のアイテムやポイントの有効期限を定期的に知らせてくれる。
購入履歴もきちんと自 分のアカウントに残しておけるので「あー、前買ったあの商品何て名前だっだかな!?」
と、思い悩むこともない。
シーズンごとに特別にプレゼントされるクーポンも利用者を飽きさせない秘策なのかもしれない。

こんなにもいいことばかりのオンラインショッピングにも残念ながらいくつかデメリットがある。
その中でやはり断トツ上位に来るのが化粧品なら色、服や靴ならサイズ・・・であろう。
これはどうしても2Dの画面上では限界がある。
あとは想像するしかないのだ。
想像していたもの通りであったときには感動は大きいが、そうでなかったときの落胆は結構深い。

そんなこともあって、わたしは久しぶりに自分の好き な化粧品が置いてあるショッピングモールの中の店舗を数年ぶりに訪ねた。
どうしてもファンデーションの種類を変えたくて色の調整をしたかったからだ。
顔全体にぬるものであるからその人を決める大切な色であると言っても言い過ぎではないような気がする。
やっぱり一人一人にあった色のほうがいい。
数年ぶりに訪れたそこは以前行ったときのままだった。
スキンケア商品、ベースメーク、ポイントメーク、クリーム、美容液・・・。
きれいにきちんと陳列してあり、わぁぁぁぁと心の中で声をあげながらみとれてしまう。
女性に生まれてきてよかったなと思える瞬間だ。
当然のことではあるのだろうけど、そこにみえるスタッフの人たちはみな さん一様にきれいだ。
細部まで気をぬかずに整えてある化粧技術に驚く。
そんな人たちに恐縮しつつ恐る恐る声をかける。
「あのー、いつもネットで買ってて・・・、今後もネット買う予定なんですけど・・・肌の色を見てほしくて・・・。」
ドキドキしながらお姉さんの顔色を窺うと、それはもうはちきれんばかりの笑みで
「もちろんかまいませんよ!どうぞどうぞ!」
ほっと胸をなでおろして鏡の前に座った。
年は40そこそこだろうか。小柄で細見、きれいな栗色に染めた髪をポニーテールでひとつにまとめている。
口紅は大人っぽさの中に少しかわいさを織り交ぜたような淡いピンク。
目のアイランはくっきりでアイメイクはばっちりだ 。
元々大きな目がくりくりともっと大きく見えた。
頬に申し訳程度につけたチークがいい仕事をしている。
丁寧にクレンジングオイルでわたしの顔のファンデーションを落としながら色々と肌の悩みや新作の商品の話をしてくれる。
頼んでもいない他の商品を宣伝するのではなく、わたしの悩みからさりげなくお助け商品を紹介してくれる。
この会社の方針なのか、その人自身に備わっているものなのか、確かめたわけではないので分からないけれどきっと両方だと思う。
押しつけがましくなく本当に自然に時間が過ぎて行った。
気持ちがほくほくと温かくなった。
無事に自分に合いそうな色のファンデーションの目星をつけることができた。
こんなにもよくしてもらってやっぱり今日は店舗で買おうかなとも思ったけれど、わりと貯まっているWebポイントのことが頭をよぎりそれはやめておいた。
最後まで心地よく送ってくれたお姉さんに感謝して帰途についた。

定期的に行く必要がある美容院でも同じことが言えるとは思うけれど、やっぱり同じ時間を過ごすなら穏やかな気持ちになりたい。
そういう風に思わせてくれる人は偉大だと思う。
そこに人と面して何かを購入する、してもらうことの大切なものがあるような気がする。

さて、わたしはというと、あのお姉さんの笑顔を思い浮かべながらもどうしてもこの便利さに誘導されてまたぽちぽちと携帯のボタンを触ってしまうのです。

 

 

 

うつくしい女の子が、生まれる

[2000年4月作 2017年12月再構成]

 

駿河昌樹

 
 

幸福の、貯蓄、というものがあるだろうか、
あるとするなら、それが、空になるのを、わたくしは生きた。

つらい言葉を、くらがりに投げよう。
空になるのを生きた、他のひとにも届くように。
空のひとは、慰撫を、もう、好まないから。
死の時、生のうたは、むなしい。
死を抜けての生の、うた、なら、響くだろう、か。

他の生の貯蓄があるのか、
安楽に、ゆたかに、生きるひとびとを、わたくしは見た。
爪に火を灯すようにしても金の溜まらぬひとびとと、
笊に水を流すように金を使ってもなお豊かなひとびとを、見た。
春の風に乗って、宿命が行くのを見た。
富と、病と、美と、苦悶と、安楽と、無為と、
それらを運んでいく神の手を見た。

この生をゆたかに生きたひとの来世が、
極貧となるのを、わたくしは見た。
美の化身のようであったひとが、象の顔を持って生まれ、
さらに、戦火のなかに身を焼かれる様を、わたくしは見た。
ちから強い足腰にめぐまれた踊り子が、
幼くして足を車に立ち切られるであろう様を、わたくしは見た。
病もなく、長寿を保ち得たひとが、
来世、母の胎にありながら病毒に冒される様を、わたくしは見た。
空洞を生きなかったことから、
来世、空洞を生かされるひとびとの群れを、わたくしは見た。

得ていたものはすべて奪われ、
得ていたものを、守ろう、とする、手や、腕までも、
失われる様を、わたくしは見た。
振り子は戻り、かならず逆へと向かうのを、わたくしは見た。
海は山となり、名声は忘却へと振るのを、わたくしは見た。
子をもうけた者は、やがて孫までも奪われ、
平和は子孫の戦乱によって報いられるだろう様を、わたくしは見た。

うつくしい女の子が、生まれる。
うつくしい女の子は、春のようだ。
なにもかもが、あかるくなる。
と、貧しい家の老婆が、旅ゆくわたくしに言った。
そのときが、わたくしの悟りの、最後の石段。

うつくしい女の子とは、だれですか?
と、わたくしは老婆に問うた。
うつくしい女の子は、
おまえさんの、空っぽのこころの、底の、
ほら、その、空になりえないもの。
ね、
それ。

それ。

うつくしい女の子が、生まれる。
うつくしい女の子は、春のようだ。
なにもかもが、あかるくなる。

そう、歌うように。
これから。

それだけを、しながら、旅終わる、生、を
逝く、
ように、と。

老婆、女の子、…………

うつくしい女の子が、生まれる。
うつくしい女の子は、春のようだ。
なにもかもが、あかるくなる。

なにもかもが、あかるくなる。

 

 

 

カラス

 

塔島ひろみ

 
 

暖房が効いた待合ロビーで
1239番のおかあさんは 赤ん坊の私を横に置いて
おとうさんとおしゃべりしていた
おかあさんのお財布をそっと開ける
色取り取りのカード! それを1枚、また1枚、抜き取って、
さわる

おかあさんはめまいがする
おかあさんは女である
おかあさんは11月2日東急ストアでコロッケ1P沢庵ドレッシング(ゆず)たら切身3入紙おむつ他計2109円の買い物をした

うすいカードの中に、おかあさんの生活と人生が、書いてあった
Alb3.9、LS280、ALP338、血圧150/90㎜Hg、目をあけるとつらい
育児ストレス2、
青春:595001、
性格:0、09、44、5
顔形:243

わたしにすべての情報をぬすまれ、
からっぽになったおかあさんが
ラメ入りのお財布のようなおかあさんが
おとうさんとおしゃべりしている
二人はこれからおばあちゃんの家に私を預け、
012598362
って予定でいてそれが55400087につながっていくこと、そして
おかあさんの子1(2)は232、05160-001 で8、****、
空色の、象さん模様のカードをさわって、私は私の人間性と未来まで知った

となりで中年のおばさんが居眠りしている
おばさんのショルダーバッグはカラスのように真っ黒で、さわると鳴いた
チャックを開けて、おかあさんのカードをその中に突っ込む
クリーム色のカード、光っているカード、ひんやりしてるカード、安っぽいや
つ、象さんカードも、全部突っ込んでチャックを閉めると、カラスがまた鳴いて

ガーガーガー、ガーガーガー、GAAAA――――

1階フロアはエアコンの音にじんわりと満たされ、とても暖かい

1239番が電光掲示板に表示され
目を覚ましたとなりのおばさんが、支払いに立つ
おばさんはもう席に戻らない

おとうさんとおかあさんがこのあとのことを相談している
もはや1239番でなく、おかあさんの抜け殻にすぎないおかあさんが、
お父さんと話しながら番が来るのを待っている
同じ抜け殻の私を膝に乗せ、
おとうさんが私の頭をさわって 笑っている
わたしも笑う
きっと 本当に楽しくて。

がーがーがー、がーがーがー、がああああああ

 
 

(2017.11.14 東京大学附属病院外来棟ロビーで)

 

 

 

オンラインショッピング

 

みわ はるか

 
 

大変ご無沙汰しています。
長い間取り組んでいたものにめどがついたのでまたぽつぽつと書いていこうと思います。

通販の便利さと早さに感動してからは、専ら化粧品は好きな化粧品会社のネットショッピングを利用している。
リビングにいても、外にいても、はたまたトイレにいても指の操作だけで色んな商品が見られ購入でき、ポイントも貯まるしで嬉しいことばかりだ。
さらに今はSNSという便利なものがある。
そこの化粧品会社の公式ページをフォローしておけば、最新のアイテムやポイントの有効期限を定期的に知らせてくれる。
購入履歴もきちんと自分のアカウントに残しておけるので「あー、前買ったあの商品何て名前だっだかな!?」
と、思い悩むこともない。
シーズンごとに特別にプレゼントされるクーポンも利用者を飽きさせない秘策なのかもしれない。

こんなにもいいことばかりのオンラインショッピングにも残念ながらいくつかデメリットがある。
その中でやはり断トツ上位に来るのが化粧品なら色、服や靴ならサイズ・・・であろう。
これはどうしても2Dの画面上では限界がある。
あとは想像するしかないのだ。
想像していたもの通りであったときには感動は大きいが、そうでなかったときの落胆は結構深い。

そんなこともあって、わたしは久しぶりに自分の好きな化粧品が置いてあるショッピングモールの中の店舗を数年ぶりに訪ねた。
どうしてもファンデーションの種類を変えたくて色の調整をしたかったからだ。
顔全体にぬるものであるからその人を決める大切な色であると言っても言い過ぎではないような気がする。
やっぱり一人一人にあった色のほうがいい。
数年ぶりに訪れたそこは以前行ったときのままだった。
スキンケア商品、ベースメーク、ポイントメーク、クリーム、美容液・・・。
きれいにきちんと陳列してあり、わぁぁぁぁと心の中で声をあげながらみとれてしまう。
女性に生まれてきてよかったなと思える瞬間だ。
当然のことではあるのだろうけど、そこにみえるスタッフの人たちはみなさん一様にきれいだ。
細部まで気をぬかずに整えてある化粧技術に驚く。
そんな人たちに恐縮しつつ恐る恐る声をかける。
「あのー、いつもネットで買ってて・・・、今後もネット買う予定なんですけど・・・肌の色を見てほしくて・・・。」
ドキドキしながらお姉さんの顔色を窺うと、それはもうはちきれんばかりの笑みで
「もちろんかまいませんよ!どうぞどうぞ!」
ほっと胸をなでおろして鏡の前に座った。
年は40そこそこだろうか。小柄で細見、きれいな栗色に染めた髪をポニーテールでひとつにまとめている。
口紅は大人っぽさの中に少しかわいさを織り交ぜたような淡いピンク。
目のアイランはくっきりでアイメイクはばっちりだ。
元々大きな目がくりくりともっと大きく見えた。
頬に申し訳程度につけたチークがいい仕事をしている。
丁寧にクレンジングオイルでわたしの顔のファンデーションを落としながら色々と肌の悩みや新作の商品の話をしてくれる。
頼んでもいない他の商品を宣伝するのではなく、わたしの悩みからさりげなくお助け商品を紹介してくれる。
この会社の方針なのか、その人自身に備わっているものなのか、確かめたわけではないので分からないけれどきっと両方だと思う。
押しつけがましくなく本当に自然に時間が過ぎて行った。
気持ちがほくほくと温かくなった。
無事に自分に合いそうな色のファンデーションの目星をつけることができた。
こんなにもよくしてもらってやっぱり今日は店舗で買おうかなとも思ったけれど、わりと貯まっているWebポイントのことが頭をよぎりそれはやめておいた。
最後まで心地よく送ってくれたお姉さんに感謝して帰途についた。

定期的に行く必要がある美容院でも同じことが言えるとは思うけれど、やっぱり同じ時間を過ごすなら穏やかな気持ちになりたい。
そういう風に思わせてくれる人は偉大だと思う。
そこに人と面して何かを購入する、してもらうことの大切なものがあるような気がする。

さて、わたしはというと、あのお姉さんの笑顔を思い浮かべながらもどうしてもこの便利さに誘導されてまたぽちぽちと携帯のボタンを触ってしまうのです。