分かれ 詩人なら

 

駿河昌樹

 
 

ホッと息を
しかし
やさしく
つく

そんな詩が
ほんとうは求められているのに
壮麗な自我の殿堂や
眉間に深く皺を寄せた息苦しさや
欧米語の語源へ遡りさえしない浅薄なナントカ主義擁護などが
数十年ほど幅を利かせていた国

それらが崩れ落ち
あまり見向きもされなくなって
どうやら
なめらかに古典になっていけそうにはない風情なのも
いい眺めではないか
諸行無常の
お得意の風土に
いかにもお似合いで

ホッと息を
しかし
やさしく
つく

それに曳かれるように
導かれるように
だれもが
ホッと息を
しかし
やさしく
つきたいのを

分かれ
詩人なら

 

 

 

文字配列せよ 言語配列せよ

 

駿河昌樹

 
 

意識たちは巻き込まれている
上下もわからない
時間の進行方向も知れないほどの大嵐の中に

すでに何度も記してきたが
そんな中でつかの間であれポジションをとり直すのに
改行の多い言語配列は本当に有効だ
文字配列と呼んでもよい
意味などなくてよい
浮かんだ言葉や文字を連打するだけでもよい
それがあなたを救う
無意味に文字を連打するうちにポジションの回復が起こる

言語配列や文字配列を詩から解放せよ
と何度も言っておく
詩は捨てていい
あらゆる詩は古いオヤジ自我の玩具になり果てる
つき合っているうちに怠惰な自足癖が感染してくる
感傷、嘆き、希望、狭い美意識の開陳、たいして面白くもない口吻
どれも古すぎ
これからいよいよ荒くなる嵐の中を生き延びるのには効かない

詩が貧者の武器であるように
文字と言語は困窮者や遭難者の最後の道具
紙もモニター画面もなくていい
頭の中で数行なら文字を記すことはできる
慣れれば数十行を記すこともできる
そこに強迫症者のように文字を記せ
それがポジションを取り戻させ
バランスをふたたび生む

そんな具体的な道具として使用せよ
文字配列せよ
言語配列せよ