村岡由梨
私たちは今、“家族”という儚い体をなして生きている。
2年前の夏の初め頃、
「夕暮れ時、アトリエ近くの歩道橋からの景色を眺めてると、
悲しいような、でも懐かしいような気持ちで胸がいっぱいになるんだよ」
と、眠が言った。
私と同じ気持ちだったんだ。
そう知って、切なさで涙がこみ上げた。
けれど今、その歩道橋はもう存在しない。
この世界には決して叶うことがない願いがあるということを
私たちは知ったのだ。
永遠に続くと思っていた関係にも、
いつか終わりの時がやってくる。
大切な人を胸に抱いている時。
温かい生き物の息遣いを感じながら眠りにつく時。
小さな頃、夏の夕暮れ時の庭の木々を見るのが好きだった。
冬の明け方に目が覚めて、
雨戸の隙間から朝焼けの澄んだ空気を感じるのが好きだった。
時間の粒子が流れるのが、一つ一つ目に見えるようで、
全てが魔法に包まれていた。
永遠に続くものに執着して
何かを失うことを畏れて悲しんで
壊れてしまった家族の記憶と、壊れそうな家族と
瀕死の飼い猫についての映画を撮った。
私の11本目の映画だ。
いつもは何かと注文をつけたがる野々歩さんが、
「君が今日まで生きてきて、この作品を作れて、本当に良かった。」
と言ってくれた。
その言葉を聞いて、
私には一緒に泣いてくれる人がいるんだということに気が付いた。
もう少し、私と一緒に歩いてくれますか?
いつかの魔法を取り戻すまで。
私が「自分は幸せな人間なんだ」と信じて、言い切れる日まで。