塔島ひろみ
青いTシャツの背にはくっきり リュックの形に日焼跡が残っている
太陽を背負って歩いてきたのだ
だから太陽の熱さは知っているが
太陽の重さを知っているが
彼は
太陽を見たことがない
前を向いたままするするとリュックをおろし、そこに置いた
汗ばんだ肩を、二度三度上下させたあと、振り向きもせず帰っていった
黒いサングラスをかけていた
黄昏の放課後
授業を終えて生徒たちが校門を出る
ランドセルカバーの色に塗られた寄宿舎への誘導ブロックが
警官のように彼らを待ち構えているのだが
今日は誰もその手に乗らない
それは太陽が教えてくれた
リュックサックの中に石のように閉じ込められた太陽が教えてくれた
太陽はずるずると引きずられた
日が暮れる
彼らは太陽を連れ、
点字ブロックなどまるで無視して、
道すらも無視して、
野猿のように自由自在に、
歩いて歩いて、
そしてどうやら目的の場所に着いた
(方向感覚を失い 私はここがどこなのか見当もつかない)
(街灯もないのだ)
パーン!
気持ちよい音
しぶきのようなものが飛んでくる
もう一度、 パーン!
するどい破片が頬に当る
太陽は砕かれ まったくの闇が訪れた
くすくすと かわいらしい笑い声がそこかしこから聞こえてくる
いくら目をこらしても
この闇では彼らの姿はおろか 頬に当った破片の輪郭すら見ることができないけれど
涼しげな一陣の風が
私のよく知る甘い香りを運んできた
そして
太陽を食べた少年たちのからだが
闇の中でキラキラ光を放つのを私は見たのだ
(火薬のにおい・・・)
( 6月某日、都立盲学校そばで )