ちょっと贅沢な1日を

 

みわ はるか

 
 

経済活動がだんだんと緩やかになってきた。
基本的な対策を取りつつも外に出たい気分になった。
根本はインドア派のわたしだが、むくむくと雑踏に足を踏み入れたくなった。
できることはできる時にと早速実行に移すことにした。

その日はやや薄手のコートが必要な肌寒い気候だった。
クローゼットからベージュのコートを引っ張り出し、ニットのワンピースの上から羽織った。
茶色の斜め掛けのバッグと藤色のパンプスを履いて外に出た。
バス停までの数分の道のりは、新鮮な冷たい空気に頬を刺激されたけれど悪くなかった。
冬は確実にやってきていた。

バス停の中には小さな売店がある。
お昼ご飯を済ませていなかったので、おにぎりやらスナック菓子やら甘い物やらをせっせとかごに入れた。
こういう場所に来ると、ディスプレイがいいのかなぜか必要以上に買い込んでしまうのはきっとわたしだけではないだろう。
レジで合計金額を見るといつも予想以上で驚くのだけれど、いっこうになおらない。
まぁ、旅のお供だからとかなんとか理由をつけて自分を納得させている。
バスの発車時刻まではまだ少し余裕があった。
待合の椅子に座りキョロキョロ辺りを見回した。
大きな荷物を抱えた人、学生らしき人、とってもお洒落をしたマダムたち。
みんな色んな理由でここにいる。
そんな人たちの集まりを見るのが好きで、いつもバスの発車時刻よりも大分前に来てしまう。
そうこうしているうちにバスが来た。
わりと空いていて真ん中位の窓際の席に腰を下ろした。
イヤホンを取り出し、好きな動画を見ながらさっき買った食べ物たちを食べる。
こんな単純なことがものすごくドキドキして幸せな気持ちになる。
やや長いバス旅は始まったばかりだ。

滞りなく、時間通り目的のバス停に到着した。
しまった、見たい映画の時間まであと15分しかない。
そのシネマが入ったショッピングモールまでバスを乗り換えて5分はかかる。
ナイスタイミングでそこ行きのバスがやってきた。
急いで乗り込んで、時計とにらめっこしながらソワソワした気持ちを必死に落ち着かせる。
バスを降りて一目散にショッピングモールに入るのだけれど、どうしてもシネマが見つからない。
スタッフの人に慌てて聞くと、どうもここは本館でシネマは分館にあると言う。
着ていたコートを脱いで、またダッシュで目的地へ走った。
ギリギリ滑り込みセーフでなんとか上映時間に間に合った。
ふぅーと息を整えながら、映画館特有の空気の中に身を委ねた。
長らく映画を見ていなかったので、初めは色んな映画の番宣があることをすっかり忘れていた。
そうだ、こんなに急ぐこともなかったのだ。
その証拠にわたしの後から何人かゆっくりと談笑しながら席に着く人がいた。
優雅に飲み物やらポップコーンやら両手に抱えて。
あぁ、わたしも本当は買いたかった、残念無念とはこのこと。
でも映画はとってもよかった。
大画面のスクリーンは気持ちを高揚させてくれる。
あぁ、ありがとう映画!
余韻に浸りながら、プラプラとショッピングをした。
前から欲しかった底がやわらかい好みのスニーカーを買えた。
インテリアショップの自動ソファには感動した(値段を見たときには0の数を何度も数えてしまったけれど)。
お洒落なフレグランスの香りにいい気分になりずっとそこにいたかった。
自分専用で作ってもらっている枕(肩こりが昔からひどい)のメンテナンスをしてもらいとても満たされた。

そんなこんなで、足も疲れたし帰ることにした。
こんな1日がわたしにとっては色んなことを忘れさせてくれてHAPPYな気持ちになる。
毎日こんなのは疲れるけれど、たまにお気に入りの服や靴で出かけたくなる。
今年はこれが最後かな。
また来年もこんな日を定期的に作れたらいいな。
帰りのバスでは爆睡してしまい、そのお陰か車酔いもすることなく無事に終点最寄りバス停に着いた。
夕暮れ空は冷たい空気を凝縮させていて、わたしはコートをぎゅっと掴んだ。

 
2021年もお世話になりました。
どのような方が読んでくださっているのかわたしには分かりませんが、共感したり楽しみにしてもらえていたらこの上ない幸せです。
よいお年をお迎えください。