そよぐ

 

辻 和人

 
 

ふぉわふぉわ
白いおくるみに包まれたコミヤミヤ
ゆっくり柔らかく
首を動かし手足を動かす
保育器からコットと呼ばれる保育ベッドに移った
まだ要注意だけど体温調節も自分でできるし栄養も完全に口から摂れる
「お父さん、それではお風呂に入れてみましょう」
そーっとそーっと乳児用お風呂の台に運び
おくるみ剥がし肌着脱がす
真っ赤な体ぶぉわぶぉわひねって泣き出した
ひるまない、ひるまない
ボディシャンプーの泡で頭を洗い体を洗いお股を洗い
はい、バスタブへ
沐浴布お腹にかけたコミヤミヤ
急に静か
細っこい手足ふぉわふぉわお湯に浮かせて
そよいでるよ
口元ゆるーく結んで
頭からざっぷりかけ湯に
首の皺から股の皺までそよいでるよ
ふぉわふぉわ
「お父さん、赤ちゃんはだいたいお風呂好きです。胎内に似た感じだからでしょうかね」
それじゃ今
コミヤミヤは過去にいるってこと?
一度生まれてしまったら
赤ちゃんにだって過去ができる
わぁ懐かしい胎内だ
懐かしい、懐かしい
温かい液体にたぷたぷ体を包まれて
思わず細っこい手足そよがせちゃう
こりゃ首と肩しっかり押さえとかなきゃ
すっと過去にタイムスリップしちゃうぞ
戻れないところに戻って
コミヤミヤ、そよぐ
目をつむってもっとそよぐ
ふぉわふぉわ
ふぉわふぉわ