佐々木 眞
正午。
誰一人通らないカンカン照りの田舎道を歩いていると、どこかでポトっと音がする。
振りかえってみると、道の真ん中に、栗がひとつ落ちていた。
栗を拾って、なおもカンカン照りの道を進んで行くと、
道の真ん中に、小さなコジュケイが、ひとり佇んでいた。
コジュケイは、ゆっくりと歩きながら、しばらく物思いに耽っているようだったが、
いつものようにチョットコイと騒いだりせず、また一度も僕の顔を見ることもなく、
黙って電柱の脇に消えた。
どこからともなく、一陣のそよ風が吹いてきたとき、
僕は突然、分った、と思った。
彼女は僕に、「アリガトウ、サヨウナラ、ゲンキデネ」と言いたかったのだ。
なぜか僕は、一瞬その電話を、とることを躊躇ってしまった。
去年の今頃亡くなった妹が、ホスピスから掛けてきた電話を、
コロナで仰臥していた僕は、なぜか素早くとれなかった。
巨大な白入道が立ち上がる群青の空の彼方から、
ふと思いついたように吹きつけたそよ風は、歌うようにこう囁いたのだった。
「アリガトウ、サヨウナラ、ゲンキデネ」