塔 ***

 

無一物野郎の詩、乃至 無詩! 54     yoshimi さんへ

さとう三千魚

 
 

きみは
どこにいるの

さがして
いる

無い
花を

さがしていた

そこに
いた

塔は立っていた

たっていた

 
 

***memo.

2024年1月8日(日)、
浜松「八月の鯨」にて、
「 無一物野郎の詩、乃至 無詩!」として作った54個めの詩です。

タイトル ”塔”
好きな花  無し

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

たちまち朝の終わりかな

 

工藤冬里

 
 

https://youtu.be/exGprMKGZ1I?si=EFHloriBSAPfnsNu

1月2日
ナマコ荒れ 今年ももう終わりだな
1月4日
ポアの発想が完全に乗り越えられたいま、生きているだけで幸せと思えという使い古された言い草も俄然真実味を帯びてきた。そして自分が神だというような流行りの足掻きも遠い過去のものとなった。
1月7日
万能感に浸りながらの復讐は集合的無意識をいびつなかたちで現実化していくが、その(復讐の)あれこれを万能者に明け渡すことによってのみヒト科の一般意志は乗り越えられる

https://www.instagram.com/reel/C1RL8XDrc2z/?utm_source=ig_web_button_share_sheet

 

 

 

#poetry #rock musician

パダン、パダン

 

駿河昌樹

 
 

   Il dit : « Rappelle-toi tes amours,
   Rappelle-toi puisque c’est ton tour.
   Y a pas de raison pour que tu ne pleures pas
   Avec tes souvenirs sur les bras. »

         Edith PIAF : Padam padam
         Lyricist: CONTET HENRI ALEXANDRE 
         Composer: GLANZBERG NORBERT

 

世間のことはみな無常だ
どんどん変わっていってしまう
という
諸行無常

なにひとつ自分の思うようにはならないし
なにもかもイヤで苦しい
という
一切皆苦

じぶんのものなどどこにもないし
どこにもじぶんなんていない
という
諸法無我

これら
仏陀の説いた基本の三つを
三法印というが
これを集中的に学ばされているのが
いまのガザのひとたちだろう
いまだけでなく
何十年にもわたっている

しかし
あのさまを見て
とりあえず
こちらは関係ない
などと思っていれば
すぐにも
これらの基本法則についての確認は
抜き打ちテストのかたちで
どこの
だれにでも
襲いかかってくる

諸行無常
一切皆苦
諸法無我

まるで
エディット・ピアフの歌った
『パダン、パダン』のように

   おまえがどんな恋愛をしてきたか
   さあ
   思い出しておけ
   いよいよ年貢の納めどき
   おまえの番が来たんだからな
   泣かないで済ませられるはずはないぞ
   思い出ぜんぶ
   抱きしめたままでな

 

 

 

荷一つでぬかるみ歩む 冬景色

 

一条美由紀

 
 


欲しいのは、
気持ちのいい会話と小さな満足感

 


失敗の数と叶う夢の数はイコールではない
でも後に残るベンチには誰かの言葉が揺れた

 


狂気と理想はいつも混在してる
狂気を一枚ずつ剥がしたら、
赤ん坊の私が生まれた。

 

 

 

家族の肖像~親子の対話 その68

 

佐々木 眞

 
 

 

2023年10月

「よごさないでね」、とホソカワさんいってくれたよ。
そうなんだ。

ならぬって、してはいけないのこと?
そうだよ。

フクモトリカ、「こんど充電してね」っていうでしょ?
なぬ?

お父さん、明日ビデオにとってね。
分りましたあ。

お父さん、大好きですお。
ほんとかな?
ほんとですお。

お母さん、早く良くなってね。
分りましたあ。

お父さん、お母さん、良くなった?
もうちょっとね。
もうちょっと?
そう、もうちょっとだよ。

お母さん、薬のんだ?
のみましたよ。

マコトさん、死んじゃったよ。
誰が?
タケナカさんが。
ああ、昔のドラマね。

お父さん、御飯ですお。
分りましたあ。

お母さん、今日、美容院いったの?
行きましたよ。

もりだくさんてなに?
いっぱいいっぱい、ってことよ。

お父さん、販売課は第2作業室でしょ?
そうなんだ。

お父さん、お母さんは?
さて問題です。お母さんは、どこへ行ったでしょう?
おばあちゃんち。
ブブー。
岸本歯科。
ピンポン。

コウ君、こんどキシモト歯科いって、虫歯なおそうか?
い、いやですおおおおお!
なんで。抛っておくと大変なことになるんだよ。
い、い、いやですおおおおお!

 

2023年11月

コウ君が「1万円探してください」、だって。
なぬ? 生きがい探してください?
生きがいじゃなくって、1万円札よ。

お父さん、ぼく電気つけておきましたお。
ありがとう。

お父さん、あしたハシモトカンナのビデオとって。
今度はカンナちゃんですか。はい、分りました。

お父さん、ごはんにしよ。
はい、分りましたあ。

くらもちさん、ボランテイアだったでしょう?
そうだね。

お父さん、録画した?
しましたよ。
お父さん、録画した?
しましたよ。

私はイヤミです。ぼく、イヤミ好きですお。
お母さんも。

ぼく、ウエハラミツキとハシモトカンナ、好きですお。
そうなんだ。

旅立つって、なに?
あの世にいってしまうことよ。

旅立つって、引退でしょ?
そう、引退も旅立ちだね。
お父さん、ビデオ終りました。止めてください。
わかりましたあ。

取材ってなに?
いろいろ調べたり、聞いたりすることよ。

おじいちゃん、おばあちゃん、死んじゃった?
死んじゃったね。

中井貴一、最後おうちに帰ってくる?
病気になって死ぬためよ。

「ぜひ」「どうぞ」でしょう?
そうね。

 

2023年12月

お父さん、録画してくれた?
したよ。バッチリ録画したよ。
ハ、ハイ。

オクラ、にゅるにゅるですお。
そうだね、にゅるにゅるだね。

ちなみに、ってなに?
じっさいのところ、よ。
アベヒロシ、ちなみに、っていいましたよ。

お母さん、今年年越しそば食べますよ。
食べましょうね。

コウ君、今年なにどしだったっけ?
ウサギですお。
来年は、なに年?
クマ年ですお。
クマ年かあ!

お母さん、ほんまにって、なに?
ほんとうに、のことよ。

お母さん、寝てくださいね。
分かりました。

お母さん、良くなってね。
だいぶ良くなりましたよ。

お父さん、録画した?
したよ。
DVDにしてくださいね。
するよ。

イエヤス、国のことでしょう?
そうね、国のことをやったのね。

ぼくマツモトジュン、すきですお。
そうなんだ。

 

 

 

バケツ

 

塔島ひろみ

 
 

バケツにはなにも入っていない
空のバケツ
空のバケツの上に空のバケツ その上にまた空のバケツ そのまた上にもバケツ、バケツ
空っぽのバケツがうず高く天へと積み重なる
バケツはみんな黒ずんで それぞれに汚い
うんと年期の入っているのから 新しめでつやが残ってるのもありさまざまだけど
形は同じでそして空っぽ
だから、積み重なる いくらでもどこまでも永遠に、未来永劫、積み重なる
積み重なるとき バケツは バケツの役目を果たしていない
ただ並んでるだけの見世物だ
息が苦しい
ああまたどんどん積み重なる 
雲を突き抜け 鳥も、神も、知らない世界に入り
それでもまだまだ積み上がり
空が黒ずむ バケツの汚れ、バケツたちが放散する煤で黒ずむ
私はどれ? 私がどれだかわからない
自分がどれだかわからない
こんなにたくさんバケツがあるから
自分はいなくていいと思った
いなくていいけど 積まれていた
上も下もぎっしりで いないことができなかった
何もしてない いるだけなのに 汚れていった
積み上がりすぎたバケツは
もう誰にもどうにもしようがない 使えないので
数だけいっぱいで何の役にも立たないバケツ
悪態をたたきながら工場では 新しいバケツを導入した
新しいバケツに 金属クズが投げ込まれる
水が張られる
工具が置かれる
「余ったバケツは重ねておけ」
その瞬間 バケツの心臓は凍りつく

カモの一団が飛んできた
同じ速度で 同じ飛形で 
たくさん たくさん みんな黒くて 
みんな羽があって みんな自由
なのに一斉に 同じ角度で
同じ見事な羽さばきで
着水した
真冬の朝の冷たい川に
取り残されずにここまで渡ってきたカモたち
ホッとしたように川に浮かぶ
すごい、すごい、子供が叫ぶ
写真を撮ってる人もいる

真冬の朝 冷たい川のそばの冷たい工場 冷たいシャッター
その前に冷たい外気に晒されたバケツの塔
上も下もぎっしりでみっしりなので 寒くはなかった
私は望んでここにいるのかもしれなかった

 
 

(12月某日、奥戸2丁目製作所前で)