思い出

 

松田朋春

 
 

人間の赤ちゃんからはじまって
いま死んだところ
10歳くらいまでで
だいたいのことはわかった

魚が陸地に憧れて足を生やし
猿が森から出て走った
それは間違いで
人間はほんとうに
たくさんの間違えを
つぎはぎに守って生きる
目を三角にしてね

合間に
素敵なことと
酷いことをして
最初の生を終える

次は動物
進みの早いものは
人間から遠くにいく
鳥として一度空を飛んでおきたい
お魚として海にも
樹形図を遡るように
きれいな命に近づく長い旅だ

家族はあんがい早くなくなる
恋はずいぶんとながく残る
繁殖の起源
そこをぬけてほっとする

ようやく宇宙の一部になる
同時にたくさんの場所に
現れては消える
生きていることが
宇宙の窪みのように感じられたら
終点は間近だ

 

 

 
お母さんが
微笑んでいる