夢素描 16

 

西島一洋

 
 

部屋

 

十九歳から五年ほど、木造モルタルアパートの二階に住んでいた。六畳一部屋で、西側の窓の突き出しが、洗面台というか流し台というか、ガスコンロも置ける台になっている。一畳ほどの押し入れもある。南側にも窓がある。陽当たりは良い。一ヶ月の家賃は確か七千円だった。

南の窓の下は、飯田街道で、車だけでなく人の通りも多い。窓の正面はアイスキャンディー屋だ。売ってはいるが、主に菓子屋向けのアイスキャンディー製造所だ。そして、そこは三叉路でもあり、名古屋の市バスの停留所が往復で四つもある。つまり、窓下はバス停、とても交通の便が良いということだ。

部屋の真下の一階は饅頭屋だったが、息子の代になって途中で洋菓子店になった。洋菓子店になった時はびっくりした。通っていた美術研究所から夜に帰ると、南の窓がオレンジ色のテントで覆われている。スチールの骨組みに張った本格的なビニールテントである。もちろん、洋菓子店の店名のロゴも描いてある。朝になると、悲惨だった。部屋の中がオレンジ色なのだ。もちろんすぐに取り外してもらった。

西側の窓の下は路地というか狭い通路になっている。この通路の奥には、別棟のやはり木造モルタルのアパートがある。ここも人の出入りは多い。この路地を挟んで三階建ての鉄筋コンクリートの建物がある。美容院だ。一階が駐車場で、二階が美容室になっていて、三階は店の主人と家族、それから住み込みの若い女性従業員数人が住んでいる。西の窓と美容室の窓とは対面で、僕の部屋からは美容室の中がすっかり見えた。

深夜のある時、覗くつもりでもなく、ふと見ると、若い女性従業員が淡い黄色のネグリジェ姿で鏡に向かって髪を研いでいる。しかも、衣服に落ちた毛を払おうとしたのか、裾をまくし上げ、下半身が露わになった。僕は慌てて、部屋の電球を消した。

東隣の男性の部屋からは深夜、麻雀の音がする。北隣の女性の部屋からは男女のまぐあいの声がする。そして、床下からの洋菓子店のバニラの匂いが部屋を充満している。

ベッドは自作だった。1センチ厚のベニア板で造った。とこ下は、収納スペースだった。寝れれば良いので、市販のベットより幅はぐんと狭い。そのかわりと言ってはなんだが長さは充分にある。このベッドの上に敷く布団は、古い布団をはさみでジョキジョキ切って、縫って繕った。可動式の簡単な手すりもつけ、ベットから落ちないように工夫もした。

このベッドはそのまま飛ぶこともできた。寝たまま、宙空に浮かび、飛び交うことができた。

寝っ転がった状態で、足元の向こうが、ドアだ。このドアには、小さなガラスがはまっている。20センチ✖️30センチくらいの縦型長方形。すりガラスではないけれど、ギザギザのガラス。このガラスには、女性を僕が描いた肖像が貼ってあった。その女性とは現在の妻である。

どっと、今に跳ぶ。

寝っ転がって、目を瞑る。
そうして、あの部屋の、あの、空間感を、イメージしてみる。
そうすると、あの、出窓の台所も、ドアの向こうの黒光りした短い廊下も、ボロボロとあちこちが落ちてくる土壁も、南側窓下の群衆の強烈な労働歌も、畳、そういえば、鏡、自画像を描くために壁に取り付けた大きな鏡板、1メートル✖️2メートルくらい、大枚をはたいて買った、西側の窓が部屋の内側に突然倒れた、ガスコンロに長いホースをつけて、部屋の中央で焼肉中、びっくり、布団の下に、一万円札を何枚も並べてはさんで、ちり紙交換で、最初の月は二十万円、次の月は三十万円、古新聞紙、1キロ三十円した時だった、それにしても、バニラの匂いはきついなあ、麻雀の音も一声かけてくれればいいのに、あーうるさい、うるさい、まぐあいの声はしょうがない、それにしても、こっから、飛べるのかしらん、よし、飛ぼう、で、というか、このベッドだと、簡単に宙空に浮かぶ、そして、天空に、スイ、スイーッと、…。

そんなところかな。

入子状という言葉の意味を知らない。
知ろうとも思わない。

奥に、もう一つの部屋があって、その部屋はやけに広い。
というか、その部屋の向こうに、さらにもう一つ部屋があって、その部屋は押し入れのように狭いし、ベニア板でかこまれていて、極めて殺風景なのだが、そこに寄り添うことにする。

なぜか、暖かい。
ただ、光はない。

 

 

 

モコといる

 

さとう三千魚

 
 

朝になる

窓を開けて
西の山を見ている

西の山は灰色の薄い空の下にいる

青くいる

蝉が
いる

蝉が鳴いている

モコが足下にいる

暑いからか

朝早く
ベッドで

モコは起きてしまう

わたしの部屋についてきて

机の
足下にいる

抱きあげて
膝の上にのせる

モコ
呼吸してる

モコ
あたたかい

モコの鼓動がわかる

桑原正彦は逝ってしまった

わたし
モコと

女の

傍らにいる
なにも残されないところにいる

無いものの
隣りに

いる

わたしを立てている

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

ナガコガネグモのナガコさん

 

工藤冬里

 
 

7月20日
あたまいたい
いたいまたあ
たいいあまた
あまいいたた
たたいまあい
いまあいたた
ただあいまい
あまたたいた
あたまたいた
たいたまたあ
あいたたいま
あいたまいた
あいまたいた
あたいたいま
まいたいたあ
あたまいいた
まあいいたた
あたいたまい
いまたいたあ
いたいあまた
たまあいたい

安心しろ、エヴァン爺は正しい。何故なら苗字がバードと同じだからだ。思えばジャズも拡散と分断の二方向だった。汎に対するパン(デミック)のいじめだ。小山田近田などと騒いでいる場合ではない

hay un amigo que se apega más que un hermano

黄金律を現代風に変えたものとして、ジョン・ロールズは、自分がその状況に置かれているかどうかを前もって知らない限り、誰もその状況を変えないという仮想的状況が、公平であると提唱している。
ほとんどのことは、事後にかいつまんだものだある。
理知的に考える能力よりもクオリアを主観的に経験する能力の方が重要である
生命とは自らのゴミ屋敷化を加速させる現象である
おもな商品は情報である
問題となるのは絶滅するかどうかではなくどのようにして絶滅するかということになる

雲の見える夜

7月21日

生き残ることを考えて気候デストピア主義本を著すならその必要はない。生き残らないからだ。

今日も浮き上がって運ばれてゆく
https://youtu.be/6nOC13XuOsQ

https://youtu.be/fGx7nrjn0ic
https://youtu.be/ALClUDTFSWw

7月22日
車の助手席に蜘蛛が巣を張っている

7月23日
今日の乗り切り方は卑怯だった
それしか今日を生き残れなかった
本を書くようにして乗り切ったのだ
五輪もサーフィンなのかもしれない
月はあと一日の歪

Los planes del que es trabajador tendrán buenos resultados

部屋が脳
部屋の外で仕事する
バイパスしかない

何か餌をやらなければならないと思い窓を開けている

ナガコガネグモ、かなあ

アレチノギクは病気になり剣は錆びた
https://youtu.be/wKLsUSWnfzY

マトリックス下でチャンスオペレーションは滅び、「窯に任せて」は廃れる。しかし、シンギュラリティーや引き寄せは撲滅させられる。残るのは「たまたまや」という微笑のみでありたい。

人々は変化できる

私が彼らの悪全てを覚えているということを,彼らは考えもしない
今,彼らは自分の行いに取り囲まれている
彼らは私の顔の真ん前にいる (hosea7:2)

平行世界を生きている

7月24日
上のドローンと下のドローンを入れ替えて
下で空爆上でソルフェージュ周波数
タイトルはmegomego

ガロとジャンプを入れ替えて
以下略

避難都市から引き摺り出されて
バビロンから遠く離れて
新しいセミの軍団
ワクチンに罹ってコロナ打たれて

ドローンごっこをする若いアケビ

今朝見ると、ナガコさんはいなくなっていました。早々と見切りをつけていい日旅立ちをされたようです

7月24日
confusionは墓碑銘ではなく目的であった
分断は嘆かわしい現実ではなく意図された手法であった
敗北とは対立に絡め取られることであり
対立することではない

7月25日

すべての山に登れ
https://twitter.com/suzukimikikosun/status/1416273458229440515?s=20
そういえば学校に登るて言いますもんね

オーストラリアに人間の都合で輸入されたラクダや馬やロバは、車の普及によって用済みとなり野生化し、土地を酷使する牧畜業にとって脅威となるので間引きされています。なぜ間引かなくてはならないのか、と心優しい人間は自問し、管理することの非情さを憎み、刈り取ることを放棄して、神を呪います。
https://twitter.com/uchugohan28/status/1418869232843034631?s=20

松屋のカレー皿が気に入って、それしか作る気がしない。駅前カレーライスの雛型である。チェーン店のプラスチック食器は料理史に則っているので概ねすばらしい。と思う。それらをコピーすればたいへんなものになる。筈だ。

萩原朔太郎
『ワクチン』

その菊は醋え、
その菊はいたみしたたる、
あはれあれ霜つきはじめ、
わがぷらちなの手はしなへ、
するどく指をとがらして、
菊をつまむとねがふより、
その菊をばつむことなかれとて、
かがやく天の一方に、
菊は病み、
饐えたる菊はいたみたる。
https://youtu.be/Ailsy0rf9BI

弱くなる
生い立ちで全てが決まるわけではないが
薪が湿っている
灰になったぜ
pslm119:99
声は後ろから
夢を持ち続けなさいと言われ続けるが
愛の火を燃やすほうが先だ
https://youtu.be/e321fon0D9M

ひきこもりの男の予約した野枝の本を積んだまま
暑い

https://youtu.be/45jK-4OXn0M

紫陽花は王冠のように枯れていくが
カジノキは紋章のように栄えている


 

 

 

#poetry #rock musician

あのミナミジサイチョウが捕まった!

 

辻 和人

 
 

マジですか?
2019年11月、茨城県のペットショップから逃げた
南アフリカ産のでっかい鳥
ミナミジサイチョウ
2021年6月5日午後、千葉県白井市の田畑で捕獲されたって
寝る前のヤフーニュースで眠気ぶっ飛んだ

あの不敵な面構え
あのド派手な面構え
逃げ出したって報道を目にした時から
ぼく、この鳥の「ファン」だったんだよね
ギョロッ目の周りは真っ赤っ赤
喉の膨らんでる辺りも真っ赤っ赤
真っ黒胴体の上で
燃えるよう
嘴は先っぽ折れてるけどそれでもシュッと長く
翼広げれば2メートル
バサッ
バサッ
空気を重たく切って
不敵だねえ
ド派手だねえ

空0おや、ケージの扉が開いてる
空0ちょっくら外の世界を覗いてみようか
空0バサッ
空0バサッ
空0ありゃま
空0故郷とは全然違う景色だなあ
空0いろんな形の岩がにょきにょき突き出てるなあ
空0四角くてガス出す動物がちょこちょこ忙しく走り回ってるなあ
空0飛ぶのは実はあんま得意じゃないけど
空0バサッ
空0バサッ
空0お腹空いてきた
空0道端に置いてあるいい匂いする袋、うっすい膜突いて破って
空0チョンチョン、ゴクッ
空0うん、食える食える
空0ちょっと騒々しいし
空0どっかもっと落ち着けそうなトコはないか
空0おっ、緑いっぱい
空0おっ、お水いっぱい
空0良さげな感じ
空0ここに腰を据えるとするかぁ

目撃情報が相次いでテレビにもたびたび登場
畑の周りの草っ原を余裕ある足取りで歩く
よっちよっちよっち
土をほじくり返したぞ
レポーター「あっ、何か食べましたね!」
ミミズだかゾウリムシだか
嘴を大きく開いて
カエルも食べる
ヘビだって
するするっ飲み込んじゃう
たくましいねえ
アフリカ生まれの生き物に日本の冬は厳しいかろうって?
へっちゃらさ
もう2回も冬越しちゃったよ
風を避ける場所なんか森の中に幾らでもある
枯草の下には食料の甲虫もいる
そして初夏
「エサは豊富にあるし今の時季は体力が有り余っていて捕まえるのが難しい」
なこと言ってたペットショップの職員が車2台で追跡
特に警戒することもなく自分から車に近づいていくミナミジサイチョウ
よっちよっちよっち
息飲む瞬間
ところが車と車の間をすり抜けて
バサッ
バサッ
レポーター「飛び立ってしまいました」
人間ども、マヌケだねえ

まあ、そんなことあんなこと
お昼のワイドショーで見てたんだけど、遂に

ミナミジサイチョウ、職員の腕に
おとなーしく抱かれてる
ビニールハウスの横にいたので追い詰めて網で一気に捕獲しました、とのこと
職員は嘴を軽く掴んでいたけれど
腕の中で暴れる様子もなく
ギョロッ目
不敵だねえ
ド派手だねえ

絶滅危惧種なのにペットショップで売ってるってのが
そもそも「?」なんだけど
南アフリカより日本の千葉県の風土に合ってたのかもしれないな
住民から「ずっといて欲しい」なんて声もあがってたらしい
2、30羽も離したらたちまち殖えて
絶滅危惧する必要、なくなっちゃったりして

先住のカラスやスズメと一線を画する
不敵でド派手な面構え
よっちよっちよっち
バサッ
バサッ
1年半の休暇を思う存分楽しむ
カエルだってヘビだって
生きてピクピクしてる奴を思う存分食して
潜在能力を思う存分発揮
羨ましいね
憧れちゃうね
そう言えば
ちょっと前にアミメニシキヘビが逃げ出したって事件があった
アパートで飼われていてケージの鍵が壊れ
にょろにょろっ外へ出ていってしまった
大勢で捜索したけど見つからない
水路をつたって逃げだら捕獲は困難、なんて「専門家」の人が言ったらしいけど
別の「専門家」はアパート内にきっといると主張
屋根裏をあたってみたら
果たして
柱に巻きついてた
やさしく解きほぐすとおとなーしく捕獲者の腕の中へ
何でも一回外へ出たもののまたアパートに舞い戻ってしまい
ひたすら屋根裏で縮こまっていたという
アミメニシキヘビは小心者
外の世界が怖い
外の食べ物なんか食べたくない
誰かケージに連れ戻してくれないかなあ
ミナミジサイチョウとは真逆の人生観だ

自由と安定
さて、どちらがいいか?
1カ月たって改めて朝の通勤電車の中で考えてみた
自由に飛び回るのは楽しいけど
もし食料が見つからなかったら
もし恐ろしい外敵がいたら
決して気楽ではいられない
一方安定を選ぶってのも意外と落とし穴がある
柱に巻きついていて誰も見つけてくれなかったら飢え死にだ
ケージから逃げ出さなかったとしても
飼い主さんにもしものことがあったらもうアウト
今ここで寝不足の目をこすって電車に揺られてる人たちは
テレワークが叶わない勤め人が多いだろう
隣の席で一心不乱にゲームやってるニイチャンだって
「来月店閉めるから」って言われたら目を白黒させるしかない
じゃあフリーで頑張るかってことになると
うーん、食っていけないかも
ぼくも一度会社辞めてるけど何だかんだ言って再就職したしね
ミナミジサイチョウ
君って勇気ある成功者だったんだね

てこと考えながらスマホでヤフーニュース覗いたら
「6月に捕獲された『絶滅危惧種巨大鳥の名前』を柏市立手賀東小学校の児童が命名」
マジですか?
あの鳥に名前はあるのかという問い合わせが殺到
ペットショップが地域の小学校に命名をお願いしたとのこと
名前は「ファミリア」
アフリカの言葉で「家族」を意味するそうな
小学校で命名式までやってる
「もっとここにいてほしかったけど、いつまでも幸せに暮らしてほしい。手賀沼の宝です」
「家族のような学校に大きな鳥が遊びに来てくれて半年間みんなで過ごすことができた。『ファミリア』が過ごしやすい場所だったこの手賀の豊かな自然を守っていきましょう」*
迷惑かけたくせに宝ときたか
ペットショップの職員の腕に止まった「ファミリア」
ギョロッ目
真っ赤っ赤
不敵な面構え
ド派手な面構え
頭撫でられてご満悦
小学生たち、大喜び
おいおい、「ファミリア」
せっかくホメてやったのに
お前、ホントは
自由でも安定でもどっちでも良かったのかぁー?

空0ご飯は出てくるしゆっくり寝られるし
空0悪いことはないよなあ
空0もう一回くらい外の空気を吸いに出かけるのもいいけど
空0このままここにずっといてもいいよなあ
空0いてもいいよなあ
空0いなくてもいいよなあ
空0よなあ
空0よなあ

 
 

*2021年7月11日の朝日新聞の報道による