妹よ

 

佐々木 眞

 
 

妹よ
お前は 私の懸命の追跡を あざ笑うように
北白川学園の 黄色い菜の花畑の 向こうを
手に手をとって 逃げて 行ったね

妹よ
お前は 希望を喪って 若狭の海辺を彷徨したが
まるで天佑のように 立ち直って
第2の人世を 歩みはじめたね

妹よ、
お前を 助けてくれたのは 運命のひと
限りなく優しい 寛恕の男が
限りなく弱い 迷える羊を 救ったね

妹よ
お前を 助けてくれたのは 聖マリア
限りなく優しい 慈愛のひとが
限りなく弱い 一人の女を 強くしたね

妹よ
お前は 死に至る病に 侵され
想像を絶する 苦痛に耐えながら 毅然として 逝ったね
その顔は まるで聖テレーズのように 気高く 美しかったね

妹よ
お前に また会う日まで さようなら
いつか どこかで
また会う日まで

 

 

 

詩人になりたい!?

 

佐々木 眞

 
 

久しぶりに、息子のケン君が、遠方の下宿から帰宅した。

晩御飯を一緒にした後で、グレープフルーツを食べながら、四方山話をしていると、とつぜん妻君が、「あなた死んだら、何になりたいの?」と尋ねたので、おらっちが即座に、
「生まれ変わって、詩人になりたい」と答えたら、彼女は眼を丸くして私をみた。

まるで、わたしという人物を、生まれて初めて見たような、驚きのまなこで、まじまじとみつめたのである。

「へえー、それで朝から晩までパソコンに向かっているんだあ。なるほど、詩人ねえ。詩人かあ」

息子は、「お父さんみたいな、ちゃらんぽらんな人間が、詩人になれるわけないじゃん。詩は、命がけで書くもんだよ」と嘲笑った。

そうか、命懸けかあ。なら、やっぱし詩人は無理かあ。
そんなら、今度生まれかわったら、蝶になろう。ギフチョウになろう。

春浅い郷里の里山で、食草のカンアオイを求めて、夢のように浮遊する超希少種を脳裏に想い浮かべながら、おらっちは、両の腕を、ゆるやかに羽ばたかせた。

 

 

 

お花畑のひと

 

佐々木 眞

 
 

北朝鮮が、最新型超高速ミサイルを、まるでオモチャのように打ち上げている間
わいらあ、ぐっすり眠って、夢みてた
ノイバラが微笑み、コジュケイが「ちょっと来い!」と叫んでいる、お花畑で

日本が、平和憲法と専守防衛をかなぐり捨てて、軍事大国に成り上がった夕べ
わいらあ、ぐっすり眠って、夢みてた
サザンカが咲き誇り、ヤマトシジミが震えている、お花畑で

中国が、突如台湾を砲撃したので、日米両国が血相を変えて協議の上、何もせんかった夜
わいらあ、ぐっすり眠って、夢みてた
月下美人が気高い香りを放ち、十五夜お月様が、煌々と照り輝いている、お花畑で

ロシアがウクライナ戦争の余勢を駆って、北海道の北部に侵入した朝も
わいらあ、ぐっすり眠って、夢みてた
スイセンがほころび、ウグイスが下手な初音を漏らす、お花畑で

世界が2つの陣営に分かれて、とうとう第3次大戦の火蓋が切って落とされた日にも
わいらあ、ぐっすり眠って、夢みてた
地の果てから逃げ込んできた、ナマケモノたちと一緒に、お花畑で

聞け、万国の労働者!
ホモ・サピエンスは、みな戦争で滅びたが、お花畑のひとだけは、生き残った
ノイバラが微笑み、コジュケイが「ちょっと来い」と叫んでいる、お花畑で

 

 

 

DON’T TRY

 

佐々木 眞

 
 

人はみな、何かを、やらかす
生れてから、死ぬまで
やらかし、やらかし、やらかし続ける

政治家になって、贈収賄を、やらかす
教祖になって、マインド・コントールを、やらかす
会社をM&Aして、WinWin競争を、やらかす

ヤクザになって、麻薬取引を、やらかす
億万長者になって、メディア買収を、やらかす
独裁者になって、世界征服をやらかす

けれども
やらかすだけが
人生なのだろうか?

贈収賄を、やらかさない
マインド・コントロールを、やらかさない
WinWinごっこを、やらかさない

シャブ取引を、やらかさない
メディアしゃぶりを、やらかさない
もちろん、世界征服なんて、やらかさない

猫町横丁には、そんな人たちも、住んでいて
人知れず、静かに、生きて
人知れず、静かに、死んでいく

やらかさない やらかさない
とくに、なんにも、やらかさない
そんな人生だって、立派な人生では、ないだろうか?

 

 

 

家族の肖像~親子の対話 その63

 

佐々木 眞

 
 

 

ぼく、ひとりでトウキュウいきましたお。
え、東急。いつ行ったの?
今日行きましたお。
そう、偉かったね。

お母さん、こんど、ユカリさんに会いたいですお。
そう、会おうね。

―コバヤシ散髪屋にて
おじさん、エモトアキラ、好き?
好きだよ。
おばさん、エモトアキラ好き?
好きだよ。
おねえさん、エモトアキラ好き?
好きですよ。
コウ君、エオトアキラ好き?
好きですお。

ミワさん、いなくなったね。
亡くなっちゃったね。

「千の風に乗って」、亡くなったときでしょう?
そうだね。

お父さん、お母さんは?
当てててごらん。
おばあちゃんチ。
ピンポーン。

お母さん、きょうサケご飯とピーマンの肉詰にしてね。
分かりましたあ。

今日はコウ君、ごはん何にしますか?
コーンスープですお。コーンスープにしてね。
分かりました。

お父さん、お母さんには、朝6時に電話しますお。
お、うれしいね。よく覚えていたね。5時台は早すぎるからね。
分かりましたあ!

お父さん、あさって、ビデオ録画してね。
分かりましたあ。

みんな、いなくなっちゃったねえ。
そうねえ、いなくなっちゃったねえ。
お母さん、そんなこと、いわないでください。
はい、分かりました。

お父さん、あしたビデオ録ってね。
分かりましたあ。
お父さん、今日ビデオ録ってね。
分かりましたあ。

お父さん、きのうビデオ録ってくれた?
撮ったよ。コウ君がおうちに帰ったら、一緒に見ようね。
分かりましたあ。

ぼく、映画村、好きですお。
そうなんだ。

いつ買いに行きますか?
来週のどこかで。
分かりました。

あした、図書館と西友へ行きます。
分かりました。

ままならない、って、なに?
いろいろ、うまくいかないことよ。
ままならない、ままならない、ままならない

ぼく、今日、休みますお。
なんで?
台風だから。
そうですか。いいですよ。

コウくん、今日は何の日?
きょうろうの日ですお。
きょうろうじゃなくて、けいろうの日でしょう。敬老の日はどういう日?
ええと、ボク、お父さんとお母さんを助けますお。
助けてくれるの?
そう。

イメージって、なに?
こんな感じ、っていうことよ。

お母さん、今日の夜ごはんは?
お彼岸だから、お赤飯とマーボナスよ。いいですか?
いいですおー、いいですおー、イイデスオー。

さまようって、なに?
ふらふらしてること、よ。

てごわい、ってなに?
つよいなあ、ってことよ。

お母さん、今晩のおかずは、なに?
今日はお赤飯と、クリームシチューと、肉詰めピーマンです。いいですか?
いいですお。

こらえる、って、なに?
我慢することだよ。
コウ君、こらえてるの?
いませんお。

お母さん、ドクダミ、おうちにある?
あるよ。
ぼく、ドクダミ好きですよ。
そう。お母さんもよ。

お母さん、ぼく、あした、セイユウいきますお。
いきましょうね。

ぼく、レンブツさんとフクモトリコ、両方好きだよ。
そう。

姿形って、なに?
そのひとの様子だよ。

お母さん、手術、麻酔でしょ?
そうね。

パーセントって、なに?
100のうち、どれくらいあるか、よ。

やあコウ君、元気ですか?
お母さんと代わって。
お父さんじゃだめですか?
お母さんと代わって。
はいはい、いま代わりますよ。

お父さん、大好きですお。
お父さんも、大好きだよ。コウ君、どうかしたの?
しませんよ、しませんよ。

コウ君、今日はどこへ行きますか?
えーとお、図書館行ってえ、セイユー行きますお。
分かりましたあ。

お父さん、近鉄線みた?
みたよ。健ちゃんは乗ったよ?

綾部にトモエちゃんいた?
いたよ。
ヨシカズ君は?
いたよ。

お母さん、ぼく、ウエハラミツキ好きになりましたお。
え、そうなの。ウエハラミツキって誰?
いまテレビに出てる人。
あのアナウンサー?
そうですお。

お母さん、ふきのとう舎の連絡帳に、「ウエハラミツキ好きになりました」と書いてね。
はい、はい。
書いてくださいね。
分かりましたあ。

ぼく、フクモトリカ、レンブツミサコ、イシハラサトミに続いて、ウエハラミツキ、好きですお。
そうなんだ。続いて、かあ。

コウ君、いつからウエハラさん、好きになったの?
今ですお。
そうなんだあ。

お母さん、この花、なんの花?
センニチコウよ。
どこにあったの?
玄関のとこよ。
ぼく、センニチコウ好きですよ。
そう。お母さんもよ。
お父さんも。

コウ君、暑くない?
ないですお。
暑かったら、一枚脱いだらいいよ。
大丈夫ですお。

―コバヤシ散髪屋にて
おばさあーん、ウエハラミツキ、好き?
好きだよお。
好きだってよ。

お母さん、待ってくれ、って、なに?
待ってください、よ。

お母さん、ミワさん、居なくなっちゃったよねえ。
居なくなってしまったねえ。

お母さん、お墓参り行きますお。
行きましょう。

 

 

 

やらかさない

 

佐々木 眞

 
 

人はみな、何かを、やらかす
やらかし、やらかし
やらかし続ける

恋を、やらかす
結婚を、やらかす
子育てを、やらかす

人はみな、何かを、やらかす
生れてから、死ぬまで
やらかし、続ける

勉強を、やらかす
旅行を、やらかす
金儲けを、やらかす

人はみな、何かを、やらかす
やらかし、続ける
それしか、やることがないと、思い決めたように

シャブを、やらかす
バクチを、やらかす
ついには、戦争まで、やらかす

けれども
やらかすだけが
人生なのだろうか?

恋を、やらかさない
結婚を、やらかさない
子育てを、やらかさない

勉強を、やらかさない
旅行を、やらかさない
金儲けを、やらかさない

シャブを、やらかさない
バクチを、やらかさない
もちろん、戦争も、やらかさない

そんな人たちも、町の片隅に住んでいて
人知れず、静かに生きて
人知れず、静かに死んでいる

なにもやらかさない
そんな人生だって
立派な人生なのでは、ないだろうか?

 

 

 

閑雲

 

佐々木 眞

 
 

横須賀に行くと、詩ができるのは、なぜだろう?

私は歯が痛くなると、いつも横須賀大滝町のキシモト歯科に行く。
そして治療が終わった後は、いつも「閑雲」へ行って、お昼を食べることにしている。

「閑雲」の前は、三崎ビルの商店街の中にあった横須賀一美味い香港料理の「朝廷」で、上品な薄味のぬるいラーメンと餃子を食べていたのだが、コロナ禍で殆ど閉店休業状態になってしまった。

それで、ほかの食堂をあちこち試してみたのだが、どこも気に入らず、三崎街道を闇雲に歩いていたら、この不思議な名前の和食屋にぶつかったのよ。

いやあ、なんたって店の名前が面白いよね。
もしもおらっちが、新しい飲食店を始めることになって、その名前を考えても、まず出てこないネーミングだよね、これは。

待てよ、もしかすると、横浜美術館の館長、蔵谷美香さんなら、思いついたかも知れないが、その場合はおそらく「暗闇」か「闇雲」になっただろう。

ともかく、無闇に素晴らしい店名だ。

地下へと続く階段を降りて扉を開くと、いつも3人のおばさんが、
「いらっしゃいませえ!」を、元気にハモらせながら迎えてくれるので、うれぴい。
「今日もなんとかぐあんばろう!」という気持ちに、なれまっせ。

それにしても、横須賀に行くと、詩が闇雲にできるのは、なぜだろう?

 

 

 

花より団子

 

佐々木 眞

 
 

花より団子
団子よりタンゴ
タンゴより丹後

丹後より丹波
丹波より哲郎 
哲郎より鉄道 

鉄道より自転車
自転車より散歩
散歩より散髪

散髪よりパーマ
パーマよりパーマン
パーマンよりアンパンマン

アンパンマンよりセールスマン
セールスマンよりウルトラマン
ウルトラマンより人世マン

人世マンよりマントヒヒ
マントヒヒよりネアンデルタール
ネアンデルタールよりホモ・サピエンス

ホモ・サピエンスよりホモ・セクシャル
ホモ・セクシャルより野茂英雄
野茂英雄より野口英雄

野口英雄よりリービ英雄
リービ英雄よりリーバイス
リーバイスよりストラウス

ストラウスよりシュトラウス
シュトラウスよりベートーヴェン
ベートーヴェンよりモーツァルト

モーツァルトよりモンドリアン
モンドリアンよりエイリアン
エイリアンよりシガニー・ウィバー

シガニー・ウィバーよりマリリン・モンロー
マリリン・モンローよりオードリー・ヘプバーン
オードリー・ヘプバーンより若尾文子

 

 

 

「夢は第二の人生である」或いは「夢は五臓六腑の疲れである」第99回

 

佐々木 眞

 
 

 
 

2022年6月

生まれて初めて仲間とゲーセンに行ったら、意外にも超満員で、見知らぬ連中のチームに混ぜられてしまった。茶髪の少女がめちゃくちゃに上手いので、大人はしらけて画面を眺めているばかり。6/1

田舎の寄席に登場した下手糞な芸人だったが、たまたまどこかのテレビ局が全国に紹介したら、あっという間に有名人になって、暫くの間は超人気者になってちやほやされた。6/2

寺の上で戻れなくなって、眠りながらコマを数えていたら、ヌンとスウが刺されたので、嗚呼おらっちは、やっぱアケミ、ミワヒデだったんだ、と思ったずら。6/3

我々の小舟は、かつて兵士たちが流した血の海の上を、白い帆を左右に揺らせながら疾走していた。6/3

人事課長は、何度も面接を繰り返したのだが、誰が有能であるか分からなくなったので、ともかく体矩が頑丈で、上司の命令に無批判に従う、体育会系の男子学生ばかりを採用し続けたのよ。6/4

ここは東京のど真ん中ながら、戦災に遭わなかった地域なので、森が鬱蒼と茂り、江戸時代の武家屋敷や寺社仏閣、はっさんくまさんが住んだ長屋や井戸がそのまま残されている、まるで夢のような一郭なのだった。6/4
 
その男は、婦人服用の薄地のウールを超安価で大量に買い付け、これで仕立てた紳士服を「世界一軽いスーツ」と名付けて、大大的に売りだしたら、爆発的なヒットになったという。6/5

おらっちは、満員電車の中で、吊革を下げる横棒に、6つのペーパーバッグを吊るしていたんだが、いざ駅で降りようとしたら、そのうちの5つは、影も形もなかったずら。6/6

家で窓を開け放してくつろいでいたら、見知らぬ6人の成人男女が、その窓からではなく、分厚い壁をスッと通り抜けて居間に入り込んできたので、いたく驚いた。こいつらは一体何者なのだ?6/7

ふと思い立って、新幹線で静岡に行き、文化会館へ行くと、ハロルド・ピンター展をやっていたので、ぶらぶら見物していると、イケダノブオの奥さんとスタッフの姿が見えた。6/8

その夕べ、カンダ、ハセガワ、ウエガキ、サガワ、ウエノ、ミヤネという、ヤクザよりもヤクザちっくなやさぐれ業者が、ひとつ船中のヒトとなって、♪アラエッサッサアと道頓堀川に乗り入れたので、宗右衛門町は大騒ぎになったずら。6/9

おれたち朝鮮人は、日本人の家主の大きな2階建てに借家していたんだけど、夜になると銅鑼が鳴らされ、それを合図に全員が大広間に集まって、映画鑑賞とその後の大宴会を楽しんでいたのさ。6/10

わいらあ防空壕の中で、オラッチが死んだら、世界でたった一人のアナルコ・サンジカリストが居なくなってしまう、と心に念じつつ、敵軍の猛烈な空襲に堪えていたんや。6/11

防空壕の中で、「生き生きてなお生き生きて死ぬ死ぬ死ぬ」てふ俳句が出来たので、初句、2句と口の中で唱えて、3句にかかったところで、ミサイルの直撃を受けたおらっちは、即死してもうた。6/12

久し振りに田舎に旅行したのだが、林の中で寛いでいたら、まず東の方から大集団がやって来て、しばらくすると、今度は西から別の大集団がやってきたので、おちおち休憩するわけにもいかず、怱々に立ち去ったのよ。6/13

近く会社の大機構改革があり、そこで犬派社員か、猫派社員か、の振り分けが行われると知ったので、鵺派のおらっちは、急いで退社したのよ。6/14

鈴木財閥の御曹司は、大泥棒のおらっちが、とってつけたような襤褸スーツを一着に及んで、廊下で寝そべっている姿を見て、「お前はきっとわが社で一番の阿呆に違いない」と喝破したので、さすがはバカ社長でも人を見る目があるなあ、と驚いた。6/15

満員鮨詰めの線路際を歩いていると、石ゐサキとかいう、作家より優秀なゴーストライターが死んだ、という話を、周りの人間が話しているのを、耳にしながら町に入る。120段に及ぶ石段があった。今は11時。だ。6/16

隣にヨモギ蕎麦の店があったので、喰って行こうかと思ったが、12時に面接予定のビルが、どこにあるかも分からないのに、食事なんかしていてはヤバイと思ったので、大通りを直進していくと、町があった。ああここは、いつも夢に出て来る町だ、とすぐに分かった。6/17

久し振りに愛犬ムクと会ったので、両手で頭や首を撫でながら「お前は善い子だねえ」というと、その意味は分からずとも、その心が伝わったので、嬉しそうに、ウットリ目を閉じている。この心から心への通じい合いが、あの死刑囚には出来なかったのだ。6/18

ボビーのおじさんが、私の為に、意味の分からない不思議な文字を、毎日1字づつ届けてくれる。6/19

1時間後にそのホールのオープニング・イベントで歌うことになっている私は、さっきから喉を潤しているのだが、隣の席に座ったおかっぱが気になる。こやつはサンケイという赤新聞に、欧米人は2点和音だが、邦人は3点和音がよく響くと、訳のわからぬエッセイを発表した紅毛人なのだ。6/20

新車のデザイン開発で、新人の私がいきなりお手柄を立てたので、7人のベテラン揃いのチーム内では、私がもしかしてチーフに任命されるのではないか、と恐れているようだが、戦々恐々としているのは、こっちのほうだった。6/21

狙撃兵は、本編が終わっても、頭注の第1列を狙撃、粉砕していた。6/22

突然、見たことのない青年が、03部室に入って来て、「14時までに中山に来るように」と、言うた。6/23

「人新世について10首作ってくれよ」といわれたのだが、それが新生代についてなのか、人世代だか、新人世、だか新人代のことだか、さっぱり分からなくなったおらっちは、ジンジンジンと唄うばかりだった。6/24

空襲から逃れるために、おらっちは洞穴に身を潜めたのだが、そこは集計用紙の空欄だったので、しばらく進むと、行き止まりになってしまったのよ。6/25

中也みたいに詩集の校正刷を持ってアオヤマのところへ遊びに行ったら、「ちょっと貸してみな」と言うので貸してやったら、「ちょいとここらへんが弱いがな。鍛えなきゃ」とほざいて、すりこぎでゴシゴシ擦り始めたので、すりこぎを取り上げてどたまをぶッ叩いてやったのよ。6/26

立ち読みしていた週刊誌のグラビアの文字が、赤字に赤なので、てんで読めない。側にいた店の親父に「これは酷いね。社長に言うてやらねば」というたら、「お客さん、立ち読みは止めてください」と、ハタキをかけられたずら。6/27

父は、私を社長の後継ぎにするために、恩義ある大幹部の首を切り、忠犬子分だけを周りに配置したのだが、まともな人材が、一人もいなくなったために、会社は、すぐに潰れてしまった。6/28

来季の商品企画構想会で、ナベショウの提案が次々に東西営業部員から総スカンを喰らって却下されていくのを、おらっちは「ザマミヤガレ!」と思いながら、高見の見物を決め込んでいた。6/29

ウクライナの激戦地に突如として現れたトロイの木馬。ウクライナの兵士たちは、あれは古代ギリシアの神話の噺だと馬鹿にして、そのまま放置していたが、案の定木馬の中には最新式の武器を装備したロシア兵が潜んでいて、呑気なウクライナ兵は、みな虐殺されたのだった。6/30

 

2022年7月

私と世間がどんどんかけ離れていくので、どういう訳でそうなってしまうのかをつらつら考えながら、両手を広げて調べてみたら、そもそも私の手相には、とてもとても大事な世間線が、はなから欠落していたのだった。7/1

長い昼寝から目覚めてぼんやりと薄目を開けてみると、そこに誰かが棒立ちに立っていて、「神社、テンプルでしょ?」と訊ねるので、そこが我が家だということが分かった。7/2

早めに飯を喰うておこうと思って、御膳の上の一膳の上から軽く布巾を掛けたのだが、他の連中もおんなじようにしたので、どれがどれだか分からんようになっちまったずら。7/3

我々は、その海岸でしばらく野宿することになりましたが、砂浜にしゃがんで、ウンコしていると、むかし昔子供の頃、一家そろってここで海水浴を楽しんだ日のことが思い出され、懐かしくて堪りませんでした。7/3

ホストのおらっちの月極めの仕事は、男漁りをする人妻を午前に1人、午後に2人お相手することだったが、それだけでは到底食べていけないので、夜中から朝までに1人3万円の仕事を何口か取って、ようやく糊口を凌いでいた。7/4

木下サーカスのテントが、一夜にして皇族の野宿テントに変身していくのを、おらっちは呆然と眺めていたのよ。7/5

「ちょっと聞いてみなさいよ」と言われて、彼女がそのフォルテピアノを叩くと、けっこう大きな音がけたたましく出て来たので、驚いたずら。7/6

その大金持ちは、自分の正妻の絵を掛ける代わりに、妾の肖像画を飾っていたので、周りの人々は、なにか良からぬことが起こるのではないか、と、ひやひやしていた。7/7

大河と思ったのだが、実際は白い紙が流れているだけだ、と気づいたので、思い切って身を乗り入れたら、これがけっこう流れが速いので、えらく戸惑っているところ。7/8

1945年の夏、もうどうあがいても日本が勝利することはないと分かったので、おらっちは、裏の物置から竹槍を取り出して一度しごいてから、無人の大通りへ飛び出していった。7/9

新幹線に飛び乗ったが、もうすぐ降りなければらなないのだが、切符なしで飛び乗ったので、「切符を見せろ」と言われたら困ってしまうので、いっそこのまま乗っていようかと思う。7/10

美大のギューちゃんといえば、まるで巨大な象のような異様な体躯の持ち主だったが、見かけとは裏腹に、とても善良なお人好しだった。7/11

名古屋支店の人事課に勤務するおらっちが作った社長、取締役人事を含めた新年度人事計画は、大阪支店、東京本社のそれとはまるで内容が異なっていたので、3つの案は、ちょうど関ヶ原の上空あたりで、行きあって浮遊していた。7/12

久し振りに教壇に立ったおらっちは、「さてそれでは、ここで永田氏が詠んだ代表歌を2首紹介しませう」と言うたものの、その歌の初句すら頭に浮かんでこないので、満場の失笑を買いながら退場する羽目に陥ってしまったずら。7/13

新旧2つの百年戦争が同時進行しているので、どっちにどのように加担していいのか、さっぱり分からずにいる。7/14

2階から茫漠と広がる工業地帯を眺めていたら、稠密に展開される工場、人家、路地、道路、電信柱、送電線、町内掲示板などの物件が、この地を支配する5つの豪族の銘柄別にたちまち区分けされていくので驚いた。7/15

アジア太平洋艦隊の米国海軍の駆逐艦に乗って、半年間訓練を受けていた間に、ラストコンドにホルトを入れられて失神したことがあったので、それ以来、船には乗らないようにしている。7/16

予を殺害せんとしている男からの殺人予告書が届いたが、余は「なんだトレンドに乗りやがって」と思っただけで、それ以降は、ことさら注意を払わなかった。7/17

ひよっこの♂♀判定器を、ヒトに宛がうと、以前なら直ちにいずれかの判定が行われたのだが、最近では、判断するのをひよって、いつまでたっても♂♀言わない判定器も出て来たずら。7/18

餌をやると、嘘から出た誠のように、死んだ金魚が浮かび出てくるので、おらっちは、この金魚は生と死を体現しているのではないか、と思うようになったずら。7/19

社長をやっている旧友が、「ぼくちゃん「チャイコフスキイ」とか「交響曲」とか「6番」とかいう商標を登録したんや。これで大儲けするんや」とほざいているので、呆れたホイ。7/20

その貴族は、領民の不逞の輩をピストルで銃殺したあと、「記念写真を撮りたいのだが、カメラはないか?」と訊ねたので、おらっちは「んなもん、ここにはないずら」と答えた。7/21

その純綿プロジェクトを、どのメーカーが担当するのかは、まだ決まっていない。71/22

おらっちは、とうとうインポテンツになっちまったよおなんじゃが、最終的に確かめるのが怖いので、あえてそのままにしておるのよ。7/23

「コロナ第7波」が猛威を振っているにもかかわらず、蝶よ花よと遊び歩いている連中が多いので、「魔法のはたき」をひと振りして、あらゆるワクチンが目で見えるようにしてやったら、その日以来、誰一人外出しようとしなくなったずら。7/24

10回目となるとさすがに詩集の校正ももう修正する個所もなくなったので、おらっちはおまけに書いた映画シナリオの校正をしてみようかと思ったのだが、これは本来は黒澤監督の仕事なので、下手に怒らせるとまずいと思って、触れずにおいた。7/25

43丁目のソニー・コロンビア映画の近所に、おらっちが、昔大変お世話になったバークシャ・アウトレット・レコード社の建物が見えたので、えらく懐かしかったずら。7/26

大阪市警が急遽でっちあげた暗殺犯人だったが、何者かが、あっという間に、そいつを暗殺してしまったので、事件は迷宮入りになってしまった。7/27

夜中に口笛が聞こえたのだが、誰が吹いた口笛だか分からない。もしかするとおらっちが自分で吹いた口笛かも知れないので、自分で吹いてみようとしたのだが、これって自分の夢の中の話だから、実際にその口笛がさっきの口笛と一緒かどうかを正確には判断できないだろう、と思って止めたのよ。7/28

前回の選挙では10万票を得て2名の当選者を出したわが党だったが、今回は8万票に減って、なおかつ2名の候補者を立てたので、ふたりとも落選してしまったずら。7/29

中国のナントカ大学に入学したんやけど、その名前が難しすぎて読めへんし、書けへんし、発音すらできへんのんで、困り果てとるずら。7/30

おらっちは「美術手帖アーチスト・ランキング」のベスト10に入ったらしいが、にもかかわらず、労作はこれまだただの1点も売れたことが無く、個展の口がかかったこともなかったので、なにかの間違いだろうと思ったずら。7/31

 

2022年8月

私はいつのまにか有名アーチストになってしまったので、マイクを突き付けられて逆上してこんな風に喋ったみたい。「死らなハこう。八郎は尤もため戦争をまなつに也な力ささて死にかいな」 8/1

さて君は、ここで選ばねばならぬ。3万円払ってビダル・サスーンのヘアカットへ行くか、それとも2700円のコバヤシ散髪屋へ行くか。を。8/2

私は旅に出る度に、何かを失くす。今度の旅は日帰り旅行だったのに、なにかとても大事な物を、どこかへ忘れてしまったのだが、それが何であったかすら、忘れている始末だ。8/3

モザールのおらっちは、「フィガロの結婚」を上演中に、ヨーゼフ2世が居眠りを始めたので、しばらくタクトを止めて、聴衆と共に待機し、彼が目覚めてから、おもむろに演奏を再開したのよ。8/4

モザールのおらっちは今日も「フィガロの結婚」を上演していたが、またしてもヨーゼフ2世が居眠りを始めたので、いきなりハイドンの驚愕を演奏したら、びっくらっこいて目を覚ましたずら。8/5

マージャンなんかやったこともないのに、配牌をひらいてみたら、「テンホーで役満!」と言われたずら。8/6

「もしこの美味なる物に喰い残しあらばおらっち自身を喰い尽くすべし」てふ1首を巡って、全歌壇関係者による喧々囂々の大議論が始まったずら。8/6

ひょっとしたら、と思いついて、神田鎌倉河岸にある5階建てのビルを尋ねたら、相変わらずハセガワ氏は「ヌルヌルの蛇があ!」と叫び、ヒロセさんは「それじゃあ良いお年を」と挨拶し、ハシモト&イマナカ両氏は「ナチュラルグロオー」とハモッテいた。8/7

うちらのよおなシュガイシャ向けのウエアは、探せばいろいろあるようだが、おらっちは何をするのも億劫なので、ただただ芋虫のように寝転がっていたのよ。8/7

おらっちは、なぜか世界的に有名なアーチストに成り上がっていたので、仕事などは全然しないで、毎日遊んで暮らすことができました。8/8

商品企画室のマーチャンダイザーでありながら、結局マテリアルにしかかかわらないので、ドタマに来たおらっちは、イデっちのネクタイを、ググウつと締めあげてやったんだ。8/9

何百年もに亘って継続蓄積されてきた欧州映画の歴史的作品のフィルムが、この度の戦役で灰燼に帰すことが分かったので、おらっちは、さる貴族の別荘に長期にわたって逗留し、来る日も来る日もモノクロフイルムの銘品を鑑賞し続けた。8/10

私は久し振りに無限電池を取り出して、いろんな電子機器に取り付けた。これで私が死んでも、彼らは、永遠の生命を獲得した生物のように、作動することだろう。8/11

ともかくみる夢みる夢2日後に死ぬとか、3日後に死ぬとかの、予告限定付きの夢なので、おらっちは、「これっておそらく死目前の妹の影響なのだろう」と思いながら、夢を見続けていた。8/12

映画「心の旅」でハリソン・フォードがスーツを焼き捨てたと思い込んで、その旨映画感想文を書いたら、編集者が「そんなシーンはありませんでした」というてきたので、撤回したが、たしかにそんな光景を見たはずだ。もしかすると別の俳優が出る別の映画だったか?8/13

このせつは、各局のコメンテーターがコメントする代わりに、思い思いの祝詞をあげるので、問題になっている。例えばこれは、スシローとかいう男のばやいだが、「スーシー、スーシー、アベスガキシダ、スシスシ、クイネー」としか言わないんである。8/14

テロリストのリンゴ・スターが粛清される、というので、マスコミは色めき立ったが、それは完全なフェイクニュースで、小物のコソ泥2、3人が粛清されたのみ。8/15

与謝蕪村であるおらっちは、若い頃、百日間ヌミュアヒクソンちに居続けたことを、懐かしく思い出しながら、夏の朝の光の下で、息絶えていた。8/16

先住民たちが病気になったり、死が近づくと、Odds Peopleという地区で暮らすことになっていたが、8月9日からコロナに罹り、陽性になっていたおらっちも、そこで暮していたのよ。8/17

ネコ嫌いのおらっちが貸してやったスペースに、大量のネコどもが、勝手に勢ぞろいして、気勢を上げている。みんなクロネコだ。8/18

オネチャンは、「俺に殺されるか、それとも俺の手下になっていうことを聞くか、どっちを選ぶ?」と、ナイフを突きつけながら迫ったので、おらっちは、すぐさま後者を選んだのよ。8/19

超右翼のファシストチャンネルが、パソコンの起点に繰り返し出て来るので、そいつを、なんとか消去しようとするのだが、消しても消しても、また現れるのだ。8/20

モザールだけでは、ちと物足らないので、たまにはハイドンを振ってみるのだが、やはりなんとなくものたらないのは、なんでだろう?8/21

おらっちは、今まではすべての商品特徴について、テッテ的にあまさずPRしようとしていたのだが、このたびコロナ患者になってからは、万事についてたいがいにするようになった。変わった。すっかり変わった。8/22

一瞬の吸い取り團に、雇われ心中するところまでいったのは、おらっちが自分がコロナ患者であることを忘れていたからだった。ゴホゴホとせき込むおらっちの哀れな姿をみた父母は、天上から舞い降りてきて、心配そうにおらっちの顔を覗きこむのだった。8/23

ちょうどその頃、私のSNSは誰かに乗っ取られてしまったので、私は途方に暮れてしまい、どうしたらよいのか分からなかった。8/24

高名なる大作家が、新人のひどい作品を手放しで激賞しているので、おらっちはいたく失望してしまった。8/25

インドネシアからウミウシに跨ってやってきたヨモタ長者を讃えて、年が年中苦労しながら地底でハコ作りをしているハコ野郎たちは、声を揃えてウミウシ音頭を大合唱したのだった。8/26

短い休憩時間を利用して、死刑囚たちはたった一人の女性の囚人のところへ押し寄せてくるのだった。8/27

いい夢と悪い夢とをそれぞれに溜めておく2つの壺があることにはじめて気がついたのは、今日が73歳でみまかった妹の葬儀の日であるからかもしれない。8/22

地上からは1本の水道管しか見えないが、あの下には大量の天然ガスに包まれた希少金属の塊が眠っていることを、私だけが知っていた。8/23

そもそもその時点では協会は連日大売り出しを開催していたのだから、それを知らないで勝手に集客を図っていた彼奴等が莫迦なのだ。8/24

ゴミ出しの比重が、いつのまにやらAからBに逆転していることに、市民は気づいていたが、市長と当局は、いつまでたっても知らんかった。8/24

戦争していると、勝っている間も、負けている間も、どんどん死傷者が増えていくのだがどうしようもない。「戦争に勝つためにはデジタルラボの操作に慣れておかないと駄目だな」と、誰かに言われるまでもなく自分で思うのだが、ではどうしたらいいのか、てんで分からないずら。8/25

どこで飯を喰うても旨くないので、目の前にあった、なんたら食堂の520円のなんたらランチを食べたら、意外にも旨かったのだが、これって、コロナ感染の副産物で、味覚変動が起こったせいなのだろうか?8/26

英雄たちが、ギリシアの神殿に出入りしている間、その犬は外出を禁じられ、みずからが見聞したことだけを記録するように、ゼウスから命じられていたが、この記録犬の記録が、ギリシア神話の伝承の基本となったのだ。8/27

高校野球で仙台育英が優勝し、これからはやっぱ東北だというので、アキヤマミチオとかオノヨーコとかと一緒にオープンカーに乗って、キャンペーンしているようだ。8/28

「もう一枚お願いします」と言われたので、振り向いて撮られたが、コロナで息をするのも苦しくて、自画像の製作協力どころの騒ぎではなかった。8/29

死んだおらっちの全身を青いシートで覆うようだったが、4枚では足らないので、「おいおい5枚目が要り用だぜ」と呟いてみた。8/30

独逸兵の飢餓戦争の陣営に残っている野菜や果物を捜したが、なにひとつ残ってはいなかった。8/29

ミッキーマウスとピンクドラゴンの商標を持っていたのに、イデっちが、自分の娘の色香を使い倒して、おらっちを籠絡したもんだから、結局全部を失う羽目になったのよ。8/30

脱いだ半袖のシャツなんかを、畳の上に無造作に重ねていたら、どれがどれだか、時系列も汗経歴も分からなくなってしまったずら。8/31

 

2022年9月

ヨシダさんは、下から順番に各製品の製造の仕方とその要点を誰にもわかるように、ゆっくり説明していったので、我われ新人は、心から納得しながら、膨大なメモをこさえることができたのよ。9/1

僕のいろんな内臓の部位は、順番に切り取られ、熱さましをしてから次々に食べられていった。9/2

リュドミラ夫人は、植民地の経営には無関心で、現地の子供たちと遊んでいるのが大好きでした。ブラジルでも、コンゴでも、中南米でも。9/3

戦闘で斃れたばかりの若い兵士の目玉をつつく飢えたカラス共を、わしらは「シツ、シッ!」と言いながら追い払ったが、彼奴等は、すぐに舞い戻るのだった。9/3

モリ・シンイチ選手が宇宙旅行に出かけたのだが、搭乗に一番大事な「電子合言葉」を失念したらしく、公衆電話でと問い合わせて来たので、「MORI SHINNITIだよ」と教えてやった。9/4

「それはオカシイ」と最初に言い出した人が、いつのかにか沈黙するようになり、その代わりに。その他大勢の有象無象が、大声で追従しているのだった。9/5

せんだっての台風で、最大の被害を蒙った出入り口を修復しなければならなくなったので、おらっちはそこを「高倉門」と名付け、亡くなった社員のを刻んだ。9/6

「77年間お待たせしました!」とおらっちが叫んだが、誰一人として振り向く人はいなかった。9/7

記念式典がまもなく始まるのだが、おらっちは、新旧2つのカルテットのために、演奏曲の調整と痛み分けをしないわけにはいかなかった。9/8

ウクライナ軍は南部で決戦に出たが、ロシア軍の反撃に遭って、欧米から提供された最新兵器を使い果たし、たくさんの死傷者を出したので、当分の間は戦闘中止の已む無きに到ったようだ。9/9

その旅館では、家族旅行にやって来た夫婦を別々に寝かせて、別の夫婦と一緒に寝かせ、朝になると、また元の夫婦を一緒に寝かせる、というサービスを自慢にしていた。9/10

おらっちは、去年ロシアがパリコレに出した「007型のサーカス・ジャンプスーツ」を巴里の超分解センターでテッテ的に調査したところ、無数の戦争ポイントが内蔵されていることが分かった、のであった。9/11

そこには、8本のスピーカーが並んでいたが、そのうちのどれが鳴っているのかに、すべての注意を奪われていたので、コンサートの感想など、なにも無かった。9/12

ユニークなその課長は、「今日はお前たちを鍛え上げるぞ!」と宣言して、課員の全員を引き連れて、飛鳥山公園に花見に出かけ、呑めや歌えやの大宴会を繰り広げたのであったあ。9/13

カーツ大佐は、食堂で受け取った機密メモを時折眺めながら、お昼のカツランチに、舌鼓を打っていた。9/14

戦争か反戦かを決める野球大会が開催された。反戦チームは、9回2死満塁の絶好のチャンスに登場したリリーフエースが、4番を空振りの三振に仕留め、その裏にサヨナラ負けを喫したので、翌日第3次大戦がはじまった。9/15

水中に浮かんでいる詩は、素早く救い上げないと、あっという間に波間に沈んでしまう。9/16

仏におうては仏を殺し、人におうては人を殺してきたその男は、もはやその生き方を変えようとしても、変えられなかった。9/17

運動のために断崖絶壁のように聳え立つ、ゼンダ城の外壁にぶら下がっていたら、キタジマ君が、縁を掴んだおらっちの両手を振りほどこうとするので、「冗談はよせやい」というたが、聞こえぬ振りをしてなおも続けるので、怖くなってきた。9/18

海の向こうからやって来る新種を含んだ魚類の数々は、細大漏らさず、魚類大臣であるおらっちに報告することが、義務づけられていた。9/19

キャンパスのはずれの田舎に「古文研」という名札をつけた古い小屋が建っていて、中には一人の青年がその名の通り古い書物に囲まれて座って居たので、ああ自分も本当はこんな仕事がしてみたかった、と激しい嫉妬と羨望に駆られたのよ。9/20

川沿いの両岸の2つの街だけをしらった所いづれも別べんひせかいになってウンチへうたいったんで、きっと内陸部もやられているだろう。9/21

私なんか、なーんにもしてないのに、モノスゴイ勢いで、町全体が流され、生きている人も死人も、もろともに流されていくのだ。9/21

ここ安アパートの3階でも戦争がおっぱじまり、血を血で洗う熾烈な戦いから帰還した連中を、4階の天井桟敷の人々は、扇子を開いて「あっぱれ!あっぱれ!」と褒めたたえた。9/22

「ブンガクオーという馬は、絶対にいけるよ」と、その道では権威者のウミウシ氏がのたもうたので、有り金全部をた単賞レースに投じたら、3000万円ほどの儲けがあったので、おらっちはそれで「文学王」という名の古本屋兼出版社を設立することができたのよ。9/22

いきなり敵兵に頭からザックリやられたおらっちを、当の敵兵も、味方の兵士たちも、思わず息を呑んで見つめているので、おらっちは、もしかするとここで息絶えてしまうのではないか、と次第に薄れていく意識の奥で思った。9/23

車が突如停まってしまったので、よく調べてみると、誰かがガソリンタンクに石や砂を入れたらしい。この村は危険だ。9/24

LAのベニスの海岸で寛いでいたら、どこかで見たような顔をした、年齢不詳の女性が隣に座っているので、「こんにちは」から始まって、いろいろ話をしたのだが、いくら喋っても接点がないので、たぶん赤の他人なのだろうが、えらく気になる人物だ。9/25

おらっちとコウ君は、2人揃って道頓堀のグリコのようにゴールインする計画だったのだが、途中で思い直して、それぞれが全力疾走することにした。結果は親子同時のワンワンフィニッシュ。応援に来てくれたシロウヤスさんも、大喜びだった。9/26

「兵士なんか、復員してから3年経ったらデクノボウに戻ってしまうぜ」と、その軍人が力説するので、なるほどそれならプーチンが何百万人を総動員しても烏合の衆なんだ、と一安心していた。9/27

「この人の、昔と今の作品を、年代順に並べて比較検討してみましょう。そうすれば、この人が進化するより、むしろ退化し続けてきたことが明らかになるでしょう」と、誰かがおらっちのことを陰口していた。9/28

英国を代表するシェークスピア学者が来日したので、早速インタビューをしたんだが、この男は「シェークスピアのどんな作品も、詰まらない」と断言するので、驚いてしまった。「詰まらない作品ならなんで研究するんだ」と聞いたら、「他の作家の作品もみな詰まらないのだが、食うためにシェ氏を選んだんだ」と答えた。9/28

仰向けのままで、瞑った目をパッと開くと、小さなダイアモンドが、顔の上にポロッと転がり出る。また瞑った目をパッと開くと、小さなダイアモンドが、顔の上にポロッと転がり出る。瞑った目をパッと開くと、小さなダイアモンドが、顔の上にポロッと転がり出る……。9/29

冒頭で、世界のミフネとドロンが、クラウディア・カルデイィナーレに襲いかかって、いきなりの片肌をひんむいたので、これはどういう映画なのか、と、おらっちは急いで記憶をたどったのだがあ。9/30