今日 ***

 

無一物野郎の詩、乃至 無詩! Part2 025     yuuko さんへ

さとう三千魚

 
 

俯いて
いた

山道に
いた

どこまでも
つづいていた

紫の花の
野原にいた

今日が
いる

どこまでもいる

 

***memo.

2025年12月13日(土)、
静岡市健康文化交流館「来・て・こ」の「き・て・こ祭」で実施した、
“無一物野郎の詩、乃至 無詩!” 第45回、第2期 25個めの即詩です.

タイトル ” 今日 ”
好きな花 ” おだまき ”

 

 

 

#poetry #no poetry,no life;

青空ツバメ ***

 

無一物野郎の詩、乃至 無詩! Part2 024     aki さんへ

さとう三千魚

 
 

ムネが
紅い

チキチキ
鳴いていた

飛んでいた
線を曳いて

空高く
飛んだ

つがいで飛んで
いった

 

***memo.

2025年12月13日(土)、
静岡市健康文化交流館「来・て・こ」の「き・て・こ祭」で実施した、
“無一物野郎の詩、乃至 無詩!” 第45回、第2期 24個めの即詩です.

タイトル ” 青空ツバメ ”
好きな花 ” ガーベラ(赤い) ”

 

 

 

#poetry #no poetry,no life;

母殺し

 

村岡由梨

 
 

「人生には少しの悲劇も必要よ」
と言うのなら、
私とあなたは今きっと、悲劇の只中にいる。

あなたは、私たちに住むところを与えて、
生活の糧となる仕事を与えてくれた。
私の娘たちにも、惜しみない愛を与えてくれた。

けれど、あなたは、いつも『女』だった。
暴力を振るう父と別れて付き合った男も
暴力を振るう人だった。
血の海で激しく嘔吐するあなた。

「あなたたちきょうだいにお父さんが必要だと思ったから」

男の友人からペッティングをされたことを言ったら

「私にどうしろって言うの」

その次に付き合った男は大嘘つきだった。
(嘘つきは、泥棒のはじまり)

「体の関係はない」
そう断言したあなたも大嘘つきで
少女の私の純真を踏みにじった。
「妊娠しているかもしれないから、レントゲン無しで。」
医師に小声でそう言ったあなたを、
殺したくても殺せないから
私は私の頭蓋骨が砕けるまで
殴り続けることしかできなかった。

男はその後、入念な下準備をして、突然いなくなった。

「あなたたちのせいで、いなくなった」

男たちとうまくいかないのは、いつも
わたしたちきょうだいのせい。
あなたは狡い人だった。
男たちと一緒になるために、
車を買い替えたり、断捨離をしたり
いつも用意周到だった。

そして今、「わかっているのに敢えて飲み込む異物のような」男
に行き着いて

母屋のあなたの部屋にある小さなベッドに、枕が二つ。

お母さん、
お願いだから、
私の前で、男とキスしないで
私の前で、男に抱かれないで。
幸せな『女』にならないで。惨めな『女』でいて。

激しい欲求と嫌悪に引き裂かれた幼い私は
ぎこちなく動き始めたネズミのぬいぐるみと、
「行為」を完遂した。
その頃からずっと、膣が痛くて私は泣いている。
お母さん、お願いだから、気付いてよ。
憎しみで肺が真っ黒に焼き焦げて吐き出しそうだよ。

今のあなたは、件の男に夢中で、
毎年くれていた誕生日のメッセージも送られて来なかった。
「生まれてきてくれてありがとう」
毎年 毎年
どちらかが死ぬまで続く言葉だと思っていた。

お母さん、私は生まれてきてよかったの?
答えてよ。
今すぐ、答えてよ。

 

 

 

ハイタッチ ***

 

無一物野郎の詩、乃至 無詩! Part2 023     chizuko さんへ

さとう三千魚

 
 

忘れていた

片隅に
いた

咲いていた

わたしのすみれ
手を触れていた

一瞬の
指先の

忘れない
忘れないわ

 

***memo.

2025年12月13日(土)、
静岡市健康文化交流館「来・て・こ」の「き・て・こ祭」で実施した、
“無一物野郎の詩、乃至 無詩!” 第45回、第2期 23個めの即詩です.

タイトル ” ハイタッチ ”
好きな花 ” すみれ ”

 

 

 

#poetry #no poetry,no life;

ヘルパーの鈴木さん

 

村岡由梨

 
 

村岡由梨さんへ
私は、あなたの本名です。
結婚して、鈴木姓になりました。
従業員が5人しかいない訪問介護の会社を運営して生計を立てています。
映画を作ったり、詩を書くだけでは生活できません。
かと言って、私に会社を経営する才があるはずもなく、
会社は赤字続きです。
母に言われるがままに介護福祉士の資格を取りました。
「素晴らしい仕事ですね」と言ってくれる人たちもいます。
素晴らしい出会いもありました。
いつも「今日は空が綺麗よ」と教えてくれる方がいて、
二人で並んで座って空を見ることもありました。
職業に貴賤は無いということも、わかっています。
けれど、ごめんなさい。
介護の仕事に誇りを持つことが、できません。

今年の夏は特に辛かった。
大粒の汗を流しながら、利用者の御宅で風呂掃除をしていて、
排水口に便が転がっているのを見た時。
脱衣所にテラテラ光る大きなゴキブリを見た時。
声が出そうになるのを堪えて必死に掃除を続けました。
排泄介助の仕事を終え、
豪雨の中ポンチョを着て自転車で帰宅したら、
娘が丁度出かける所で、おしゃれをしていて、
びしょびしょになった自分を何だか恥ずかしく思いました。

映像作家で詩人の「村岡由梨」と、
ヘルパーの「鈴木由梨」が交差することは
ほとんどありません。
極々稀に両方の私たちを知る人もいますが、
同一人物だと、なかなか信じられないようです。

移動は基本的に自転車です。
削られた自尊心を埋めるように、
スマホで光を撮り集めます。

昼、夕方、夜の空。
太陽、月、金星。
行き帰りに通る陸橋から見える、車のヘッドライト。

カメラを向けていて、涙がこぼれる時もあります。

ある日、昼間のひどい暑さのせいで、
大きな葉っぱがカラカラになって落ちていて、
私は、わざとその上を自転車で通りました。
葉っぱがカサッと破れる音が聞きたくなったのです。
帰りにまた同じ葉っぱがあったので、
もう一度自転車で轢き殺しました。
カサッと良い音がして、葉はボロボロになりました。

辛い仕事から逃れるように、
ありふれた日常の中に転がっているポエジーを
取りこぼさんと毎日必死です。

「フライパンに油を引いて焼いてる茄子が汗をかいてる」
「縊死は意志による自死!」
「懐中時計がクチャクチャと何か食べてる」

 
行き先がわかっているのに、
自転車を違う方向へ走らせようとしている私。

私たちが本当に行きたいところは、どこなのでしょうか。

 

 

 

無限なるもの

 

辻 和人

 
 

まるまるっとした
コミヤミヤのおてて
には今
<無限なるもの>が握られていた
球体からチューブがまるまるっと飛び出した形の
タコみたいな火星人みたいな
知育玩具
触っても触っても
あとからあとから
まるまるっと
触手
飛び出してくる
限りがない
コミヤミヤの目とおてては真剣そのもの
触れば
まるまるっと逃げて
追っかけると
次の触手が
まるまるっと飛び出してくる
触る、追う、触る、追う
そうやって<無限なるもの>
はいつまでもいつまでも
コミヤミヤのおてての中に
まるまるっと
いる
目とおててが
連動することを覚えたんだね
でもって遊ぶってことは
<無限なるもの>を
まるまるっと
追っかける
っていうすばらしいことだったんだなあ

ぼくの腕の中には今
遊び疲れたコミヤミヤが
まるまるっと
いる
どこまで成長するかわからない
<無限なるもの>だ
ふわぁっとあくびして
もうすぐ寝るだろう
お休みなさい

 

 

 

眩暈

 

工藤冬里

 
 

絶唱になり得ぬフォーマットで
縦走する
Google earthの戸渡り
蜂の巣から犬を護るゲームで
転げ落ちる
たおやかな峰
「まっさかさまに落ちて、その身は真ん中から音を立てて張り裂け、その腸はみな注ぎ出されたのである。」
あしびきの
山廻りするぞ苦しき
Google earthの山姥は
ドーパミン中毒の損失を被る
元気になりたい

 

 

 

#poetry #rock musician

今の自分 ***

 

無一物野郎の詩、乃至 無詩! Part2 022     toshie さんへ

さとう三千魚

 
 

春の
庭に

いた

母も
父も

いた

ならんで
写真を

撮ってもらった
春の庭にいた

水仙の花
黄色い花

咲いていた
笑っていた

 

***memo.

2025年12月13日(土)、
静岡市健康文化交流館「来・て・こ」の「き・て・こ祭」で実施した、
“無一物野郎の詩、乃至 無詩!” 第45回、第2期 22個めの即詩です.

タイトル ” 今の自分 ”
好きな花 ” 水仙 ”

 

 

 

#poetry #no poetry,no life;

 

村岡由梨

 
 

その日は、あまりにも悲しく辛いことが多過ぎた。
真っ暗な部屋でうずくまり、
細い身体を捩らせて声を上げて泣く花の姿を見て、
かける言葉も見つからずうなだれる、
機能不全の母親。私。
「パパは怒鳴るし、物に当たるし、
猫の首をへし折りそうって言うし、
ママは一緒に死のうって言う」
「何で私を産んだの」
「お願いだから私を殺してよ!!」
暗闇の中、花の大粒の涙が銀色に鈍く光るのを見た。

 

およそひと月前、私たちは幸せだった。
花と私、二人で新宿のジョナサンで
バナナパフェをシェアして食べたのだった。
花は細長いフォークで、私は細長いスプーンで。
一番最初に、さしてあるプリッツを1本ずつ食べた。
「プリッツおいしいね」
「うん」
「コーヒーゼリー、ちょっと苦いけどねぇ」
そう言いながら、笑っていた私たち。

ジョナサンを出て、
駅までブラブラ歩いた。
よく晴れた日だった。たくさんの若い人たちが行き交っていた。
私が「ママこの前、イキって
スタバでマンゴーのフラペチーノ頼んじゃったよ」
と言うと、花は笑って
「ママ抹茶苦手なんだっけ?スタバでは
『抹茶クリームフラペチーノのホワイトモカシロップ変更』
がおすすめだよ」
と言うので、私は笑って言った。
「それ、詩に書きたいから送ってよ」
すぐに花がLINEで送ってくれた。

『抹茶クリームフラペチーノのホワイトモカシロップ変更』

家では、残っている時間を惜しむように寄り添いあって、
何本も映画を観た。
ハッピーエンドの映画を観て、
花は、目を拭っていた。
「ハッピーエンドの映画だけ、観ていたいよね」
そう私が言うと、
花は小さく「うん」と頷いた。

それからおよそひと月ほど経って、
花がひとり、死のうとした。
身に覚えのある痛みだった。苦しみだった。
でも私は、もはや10代の少女ではないのだ。
母親なのだ。
怒ればいいのか。泣けばいいのか。
わからなかった。
わからなかったけれど、
ただ花を失うのがとてつもなく怖かった。

眠、私、野々歩さん
私たちが1階にいれば、花は2階へ行く。
私たちが2階へ行けば、花は1階へ行く。

それなのに花は、
帰宅時、家の鍵がかかっていると
ものすごく怒る。
まるで『家』が自分を拒絶していると感じるのか、
ものすごく怒る。

もうそろそろ『鍵』を渡す時なのか。
互いの不在を確かめ合う鍵を。
互いを『信じる』証として、銀色に鈍く光る鍵を。

 

『また一緒にパフェ食べようね』

そうメッセージを送ろうとして、
送れない私がいる。この期に及んで
傷つけたくないのか
傷つきたくないのか

 

野々歩さん「もうそろそろ自由にしてやれよ」

 

私「誰か私たちを優しく軌道修正して下さい」

 

花「勝手にセックスして、勝手に産んでんじゃねぇよ」

 

 

あの日、暗闇の中、花の大粒の涙が銀色に鈍く光るのを見た。
私、偽善者。

 

 

           (2025年10月 花17歳、私43歳)

 

2025年11月 花18歳、私44歳。

花がインフルエンザにかかって、今日までが外出自粛期間だった。
一昨日は、大きなイワシ団子と豆腐揚げ、生姜入りのさつま揚げと大根のおでんを作ったらおかわりをしてくれた。昨日は、眠と花と私で、アサイーボールをUberした。私は初めてのアサイーボール。花が「はちみつをいっぱいかけるとおいしいよ」と言うのでそうしてみたら、とてもおいしかった。高いから滅多に食べられないけれど、次はナッツ類を多めにしてみようと思う。明けて今日、花は「友達の家でクッキー作るんだ」と言って出かけて行った。帰ってきて、「ママこれ見て」と耳たぶを見せてくれた。先月の誕生日に、野々歩さんと私と眠からプレゼントしたピアスをしていた。ピアスの銀色の鈍い光が涙でぼやけた。

「うれしい」
「ありがとう」
私たちの空白にある厄介なドア
を隔てて交わされる、
ぎこちない言葉たち。
一人一人、鍵を手にして、
外界へ飛び立っていく。いつか
いつでも帰ってきていいんだよ、と
互いを信じて

「ハッピーエンドの映画だけ、観ていたいよね」

そう、自由に。
ただ、自由に。

 

 

 

隣人

 

廿楽順治

 
 

「わたし」はうりふたつになり
はらわたが
みな出てしまいました

空襲の夢です

「その住まいは荒れ果てよ
そこに住むものはいなくなれ」

炎のようなべろが分かれ
ひとりひとりの
逃げていく「わたし」の上にとどまり

どうして「わたし」たちは
めいめいのふるさとのことばを
ゆがんで聞くのでしょう

「あのひとたちは
新しいぶどう酒に酔っている」

隣人たちは
うりふたつで
出生をねじってつなげていくのです

どうして
口論は
こんなにもねむたいのでしょう