めいか

 

道 ケージ

 
 

銘菓を求める
手頃なやつ
喜ばれるもの

日持ちがよく
甘すぎず
大げさでなく

あまり洒落こまず
笑顔がこぼれ
すぐに忘れられ
そして思い出す

つらい思いもあったけど
まあひとつ
お茶でも飲みながら

それにしても…
…そうですね

吊るそうよ
子供のおおげさな待遇

はやく食べて欲しい
残すのかな
いっそこちらが先に

田舎首 さらし
まあ、しかしここはひとつ
鷹揚に大人しく

やっと包みを開けてくれ
もう一枚脱がし
はやくはらりと広げてくれ
遠慮はいらぬ

一口でいきましょう
そこでお茶ですか
さすが貴族は違う

卑しい俺は
さっきから
空のお茶をどうすれば

だいいちその
和服からして大仰だ
だいたいなんでこんな銘菓を

これ見よがしの
和室に通され

媚びてるじゃないか
卑しさは見抜かれ

だいたい君はだな
いやそんなつもりは

畳目、十十十の呪文
羽織紐、無双かよ

敬いの気持ちがだな
いやそんなつもりでは

縁側踏み抜き
庭にぶちまけ
灯籠蹴倒し
おさらばだ

ては失礼いたします
何卒よろしくお願いします

うむ

 

 

 

三日月

 

道 ケージ

 
 

すでに押し留めようもなく
蛇行する緑に
三日月湖  求め
漕ぎ出づ

滑るように自在に
川を
どちらが上流か下流か
もう構いはしない

右岸左岸に
隠れ潜む
三日月湖

この舟を離れ
全緑界に
光源を
追い求む

浮力をうまく利用するのだ
依然 凪の汽水
虫たちを模倣し
藻の緑道に乗れば

おお、月齢の糸に引かれ
水面から浮上
見下ろす海漂

三日月湖
言い当てた彼は
喜びのあまり
首をかき切った

願わない仕事
そうでもないだろう
何でですか
いつもなぜなんだな

すでに押し留めようもなく
なるようになるといなす彼
血は思ったよりも出る
という驚愕の眼

望みはなんだ
別に普通です
だから普通って何だ
いや特にありませんよ

お前さん普通じゃねぇよ
普通、首切らないよ
そうですかと押さえながら
痛えか
喋りづらいです

あまりにたくさんありすぎて
何が
それもわからないほど
おめでてぇ奴だな
ですかね

すでに押し留めようもなく
蛇行するたび
三日月の傷
愛撫

 

 

 

ねえさん

 

道 ケージ

 
 

いくらそんな事情とはいえ
「最後にヌードを」
しかも姉妹二人で
イタリア人カメラマンだと

そりゃ
姉さんの気持ちはわかるけど
(余命の宣告)
でも中年だよ
陰毛ゆらして
横たう

妹まで
はだけて
それはやはり
わからないな

陰毛二人で隠しつつ
ゆらぎ溶け入り
残す気持ちが

それにしても
なぜ乳首が
そんなに黄色いのだ

残さなくても
いい
残せなくても
いいと思うよ

 

 

 

山崎方代に捧げる歌 27

 

丘の上を白いちょうちょうが何かしら手渡すために越えてゆきたり

 

麓には動物園がある

丘の上の
舞台芸術公園の駐車場から不二をみてた

このところ

なんどか
みた

不二は雪をかぶっていた

空は青く
竹林が揺れてた

サハラを見たことがある

背中だね

動物は語らない
みている

 

 

 

ひとつだけ誇らしいと思うのは

 

駿河昌樹

 
 

ひとつだけ
誇らしいと思うのは
徒党を組んで偉がろうとだけは
けっして
しなかったということ

表面だけ取り繕って
認めてもいない者たちを仲間として募って
おたがいに無理に褒めあい
まるで才能ある集団であるかのように
装おうとなどはしなかったこと

たいして認めてもおらず
おもしろくも思っていない年長者を
仰々しく盛りたてて
次の地位に滑り込ませてもらおうとは
一度もしなかったこと

 

 

 

斎告る

 

駿河昌樹

 
 

祈る、とは
「斎(い)告(の)る」の意

広辞苑にはある

斎、とは
忌み清める、身心を清浄に保ち慎む

告、とは
告げる

祈った、
と自認する人は多いだろうが
斎した
という人は
どのくらい居ただろう

どの程度まで

した
という
のだろう

そして
告(の)った内容は

だっただろう

斎告った人が
たとえば
昨年
あるいは
今年の正月
いた
のだろうか
たったの
ひとり
ほどでも

 

 

 

よるべないたましいのだれかさんとして

 

駿河昌樹

 
 

寒い
寒い

天気予報やニュースが言っているほど寒くは感じなくて
家の中でも
まったく暖房を使わないほどだけれど
手の甲や
指の甲が
いつもより乾いて
ちょっとシワシワしてくるのは
やっぱり
寒い
ということなのだろうか

手や指の甲の
そんなシワシワが
ずいぶん
ひさしぶりで
懐かしい
なつかしい
時間

呼び起こされるようだった
呼びよせられるようだった

特に
小学生の頃の冬
外に遊びに出ると
手は
かじかんで
乾いて
よく
白っぽく
シワシワになった

あの頃
それをどうやって
温めただろう
どうやって
元に戻そうとしただろう

手のひらや手の甲を
いつまでも
スリスリして
摩擦し続けて
温めようとしただろうか
ハアハア
息を吹きかけて
いつもの肌に
戻そうとしただろうか

おおい!
まだ生きてるよ!
まだ生きてるんだぜ!

そんなふうに
ぼくは
あの頃の
白く乾いた手の甲に
指の甲に
遠く
ーいや、けっこう近くかな
呼びかける

あの頃の
白く乾いた手の甲や
指の甲を
持っていた少年に
呼びかける

あの子の
やがて
行きついていく先の
あくまで
あくまで
途中経過の
仮の大人の姿をしたものとして
あの子を
がっかりさせ過ぎないで済むような
わずかばかりの
心の
思いの
それらよりも奥底のなにかの
かがやきを
ちょっとばかりは
守り続けている
まったく
ひとりぼっちの
よるべないたましいの
だれかさん
として

 

 

 

大学の恩師の話

 

みわ はるか

 
 

「古希になりました。吹き矢始めました。」
すでに退職された大学の恩師である教授から送られてきた今年の年賀状の一文だ。
大学を卒業して丸5年。
毎年1年に1回葉書でやり取りしている。
去年は「仏料理、中華料理始めました。一度いらしてください。」
その前の年は「町内自治会長に勤しんでいます。そちらはいかがですか!?」
などといった感じた。
筆ペンで書かれた達筆な字はとても美しい。
流れるような字面を何度も読み返す。
元旦の郵便受けはわたしの心をわくわくさせてくれる。

男性にしては小柄で色白、だいたいいつもスーツの上に黄土色の体型より少し大きめのサイズだと思われる上着を着ていた。
話すことが大好きで、いつも学生に柔和な笑顔で接し人気だった。
そんなわたしも教授のことは大好きで友達とよく教授の研究室を訪ねた。
分厚くて埃っぽい本が山積み、学生のレポートが端の方へおいやられ、わずかな隙間にt-falの電気ケトルが置かれていた。
お世辞にもきれいとは言えないけれどなんだか落ち着いた。
訪ねていくといつも歓迎してくれた。
勉強の悩みから、将来への不安。
どんなときもうんうんと包み込むように聞いてくれた。
少年のような遊び心を持った教授は、自分の学生時代の苦悩、教授になってからの留学先での慌ただしさや言語が上手く伝わらないことから生まれたストレス、定年を迎えたあとへの希望をにこにこと話してくれた。
若いのだから何だってできる。
若いということほど強靭な武器はない。
辛いことももちろんあるだろうけど困難は分割して考えていけばいい。
そんなようなことを教えてくれた。
どうしてかと言われるとよくわからないけれど、あの研究室を出るときはいつも清々しい気持ちになった。

わたしが在学中、ご好意に甘えて友達5人程で教授の自宅に遊びに行ったことがあった。
町からは外れに位置しておりほどよい田舎。
子供はすでに自立しており奥さんと仲良く一軒家に住んでいた。
古来から存在する日本家屋できれいにリホームされていた。
奥さんはよく笑い、これまたよく話す人だった。
テーブルにはあふれるほどの料理とお菓子が彩りよく並んでいた。
それが全部手作りと言うから驚きだ。
愛犬2匹とゆっくりゆっくり生活しているのだなと感じた。
それほどまでに穏やかな時間だった。
素敵だった。

帰り際、奥さんがこっそり教えてくれたこと。
「初めてのデートはどこだったと思う!?はははは、なんと山に自然薯掘りだったのよ~。はははは。」
教授らしいなぁと思ってみんなで笑った。

アクティブで前向きな性格にはいつもいつも驚かされる。
そして、案外自分が思っている以上に未来は拓けているのだと感じさせてくれる、そんな恩師の話。

 

 

 

開運金魚

 

塔島ひろみ

 
 

今日は開運金魚を配るという
昨日の大雪から一転青空が晴れ渡り、歯科医院はお客さんでいっぱいだ
とけたかなあ、と声がする
ドヤドヤと窓際に押し寄せ、眺めるけど、ここから外の景色は見えない
とけたかなあ
見えない景色に向かって 口々に言い合う
並んでヒラヒラ 尻尾を振る

とけたかなあ
私たちは少し恥ずかしく 顔を見合って赤くなった
徐々に待合室はすいてきて
(とけたかなあ) 奥歯が痛い口の中で 呟いてみる
もうすぐ私の番が来る

名前を呼ばれて診察室に入り 口をあけた
「もっと大きく」
医者に言われて大きくあける
私のあさましい口をあける
口の中にジャラジャラ ジャラジャラ
ジャラジャラ ジャラジャラジャラジャラ
お金が放り込まれてきて
治療はいつまでもいつまでも続いた

「はい、閉じてください」
お財布がパチンと閉じられ 真っ暗になる

開運金魚
私は欲しいものを手に入れた
幸せを招く
金箔入りの
いつも貴方のお財布にいる
かわいい
金魚
私はなりたい私になって
お財布の中を泳ぎまわる
本当の世界がここにあり、雪解けの庭に咲く桃が見えた

 
 

(2018年1月24日、江橋歯科医院待合室で(開運おみくじを拾って))