家族の肖像~「親子の対話」その13

 

佐々木 眞

 
 

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アキちゃん、目を閉じたの。
閉じたよ。
あきちゃん、亡くなったの?
亡くなったのよ。

謝れ、謝れ、謝れ。
って誰がいうの。
ミナクチ君だお。

辻は十にしんにょうだよ。
しんにゅうじゃないの?
しんにょうだお。

まったくう、まったくう、もう二度とするなよ。

けっして許されない!けっして許されない!
誰がそう言ったの?
モンゴルマンだお。

シンヤくん、旦那さんになったの?
そうよ、シンヤ君結婚したからね。
だんなさん、だんなさん。

比嘉さんまた盛岡戻ってくるでしょ?
うん。
比嘉さん、また盛岡でおかみ修業するでしょ?
うん、するよ。

お父さん、比嘉さん、ぷんぷん怒ってたよ。
どうして?
一生懸命働いているからだよ。

お母さん、ぼく盛岡好きだよ。
そうなの。
盛岡、イーハトーブだお。

お母さん、しりとりしよ。盛岡。
か、鎌倉。
ーーーーー(消える)

お母さん、未来ってなに?
これから起こることよ。耕君の未来はどうですか?
分かりませんお。分かりませんお。

お母さん、ぼく弘法院すきですお。
そうなんだ。

お父さん、中井貴一こわくない?
こわくないよ。

お父さん横浜線、うすい緑色だったお。
うん、そうだったね。

ぼく大和からちゃんと各駅停車に乗りました。
そう。良かったね。

もう二度とするなよ。まったくう。
って、誰が言うの?
大杉蓮だよ。

ご迷惑をおかけて申し訳ありません。
誰がそう言ったの?
わかりませんお。

「同じのダメ!」っていわれちゃった。
誰に。
クワヤマ君に

「いちいち聴かないの」って言われちゃった。
誰に?
イノウエ君に。

「耕君早いよ」っていわれちゃった
誰に?
クワヤマ君に。

お母さん、シャッターチャンスってなに?
撮るのにちょうどいいときよ。

湘南台駅に2000年から急行とまるようになったよ。
そうなんだ。

お父さん、「大丈夫」はオダカズマサだお。
なにそれ?
「どんど晴れ」の主題歌だお。
そうか、小田和正なんだ。
♪ダイジョウブ あの笑顔を見せて(と唄う)

お母さん、ぼく、シダックスのカラオケで鎌倉の歌をうたいましたよ。
そう、どんな歌?
♪七里ヶ浜の磯伝いィィ~

ぼく、キシモト先生。「今日は痛みどめしとくから」
キシモト先生、ありがとう。

お父さん、夏は夏美の夏でしょ?
そうだよ。

お父さん、戦争、英語でなんというの?
ウオーだよ。
センソウ、センソウ。

お母さん、戦争ってなに?
人と人、国と国で殺し合うことよ。
戦争、いやですねえ。

お父さん、「ブタブタ君のお買いもの」、好きだお。
そうなんだ。

陰は山陰線のインでしょ?
そうだよ。
ぼく山陰線好きだお。

ぼく、ドクダミ好きだ。
お母さんも好きですよ。
好きだお、ドクダミ、ドクダミ。

京浜東北線、神田に快速とまるようになったよ
そうなんだ。
いつから?
平成27年からだお。

車掌さん、おじさんでしょ?
どこの車掌さん?
電車の。

お父さん、おおみそかの英語は?
The last day of the yearかな。
ぼく、おおみそか好きだお。

お母さん、人生ってなに?
人が生きていくことよ。耕君も41年生きてきましたね。
もう、そんなこと言わないでください。

 

 

 

貨幣について、桑原正彦へ 16

 

日曜日だった


光る海を見てた

水面が無数に光っていた

午後
仕事に出かけていった

小林さんが休日出勤してくれていた

ロッテ ガーナミルクチョコ 3コ 359円
コカコーラ 500ML 2本 302円

コンビニで差入れを買った
小林さんがコーディングするのを後ろから見てた

 

 

 

貨幣について、桑原正彦へ 15

 

昨日
土曜日だったが

仕事に出かけていった
昼休みに

コンビニで弁当を買い
車で海まで行き堤防で弁当を食べた

五目とりめし 276円
綾鷹 129円

サラダの値段は忘れた

青空の下に海は光っていた

家族連れが遊んでいた
子どもたちが飛び跳ねていた

 

 

 

貨幣について、桑原正彦へ 14

 

一昨日の午後
ひかりに乗って帰ってきた

東京駅のホームで
猫を籠に入れた婦人が後ろに並んだ

覗き込むと
猫がひとりいた

滋賀に移住したのだと言った
猫が好きで

猫と暮らしてるのだと言った
猫は22歳なのだと言った

婦人は七糯子という煎餅をくれた

 

 

 

はだかかくれんぼ

 

長田典子

 
 

あたまからかぶったおふとんは
ふたりのたいおんでみたされる

あったかくて
むしむしして

あっつい、と
つぶやいて あなたは
キッチンに水をのみにいきます

わたしは
ぱちっ、と目をあけます

あなたのいない
ベッドはさびしい

だから
かくれんぼしよう
くらやみのなかで
はだかのまんま

かけぶとんを
ひとがたに
ふくらませてから

クローゼットのかげにかくれます
くらやみのなかで
はだかのまんま
いきをひそめて まっています

くろい やみが
せぼね にそって
くつくつ あわだつから

よんでしまうのです

くろい やみが
ちぶさの あいだで
すうすう ながれおちるから

もとめてしまうのです

あなたは すぐに
わたしを見つけます

れすきゅー、します

はだかかくれんぼ
はだかかくれんぼ
まよなかの

れすきゅー、

わらって ふきだしたら
まけだよ

 

 

 

初めて買ったレコード

音楽の慰め 第11回

 

佐々木 眞
 
 

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久しぶりに書棚を整理していたら、古いレコードが出てきました。

確かこれは私が1970年代の初めに、横浜の弘明寺の小さな楽器店で初めて買ったクラシックのレコードです。

当時フィリップスというレーベルの廉価版に「フォンタナ」という1枚1000円のシリーズがあり、私はその中から旧ソ連のピアニスト、スヴャストラフ・リヒテルが演奏するバッハとモーツァルトのピアノ協奏曲を選んだのでした。

オーケストラは、バッハはソビエト国立交響楽団、モーツァルトはソビエト国立フィルハーモニー管弦楽団、指揮はいずれも旧東ドイツ出身のクルト・ザンデルリンクという人でした。

生まれて初めて買ったLPを大事に抱え、急な坂を登り下りして。墓地を前にした狭いアパートに辿りつき、これも買ったばかりのステレオ・セットとのプレーヤーの上にレコードを乗せ、バッハのピアノ協奏曲第1番BWV1052を聞いた時の驚きは、いまも忘れることはできません。

この曲は、冒頭からいきなりピアノとオーケストラが全力で疾走するのですが、その悲愴な響きは私の心をまるごと鷲摑みにして、地獄に道連れにしていくようでした。

ああ、これがクラシックというもんか。なんて暗くて重々しいんだ。夢も希望もない音楽だなあ。でもこれは今の俺の気持ちにぴったりだなあ。

そう思いながらレコードをひっくり返して、モーツァルトのピアノ協奏曲第20番を聞くと、これがまた陰々滅滅たる序奏です。ようやくピアノが入って来ても、私の疲れた心はますます重苦しくなる。

なるほど「降れば土砂降り」がクラシックなのか。聞けば聴くほど悲しい憂鬱な気持ちになるなあ。でもでも、これは今の俺の気持ちにぴったりだなあ、と思えました。

いまでこそ分かりますが、偶然とはいえこの2曲は同じ二短調の曲でしたから、「元気はつらつ、さあいくぞ!」という活発で陽気な世界とは正反対の、死にたくなるような悲愴で厳粛な気分に満ち満ちていたのです。

当時私は2歳になった長男の脳に不治の障がいがあると知ってかなり落ち込んでいましたから、これはそんな退嬰的な気分にまさにぴったりのレコードだったに違いありません。

 

空白空白空白窓を開ければ墓場が見える。二短調協奏曲は死の歌ならずや? 蝶人

 

 

 

親愛なる友人へ

 

みわ はるか

 

 

親愛なる友人へ。

大学の入学式のあとの授業説明会があった講堂で初めて会ったときからもうすぐ丸8年がたつね。
たまたま座った席で隣にいたのはあなただった。
お互いきっと少し強ばったぎこちない顔をしてたんじゃなかったかな。
それからは卒業まで一緒に過ごしたよね。
ぐるぐると思い出すとなんだかあっという間だったなと感じるよ。

背丈や体型がわたしと同じくらいだったあなたとはなんだかすっと友達になれた。
初めの印象通り素直でどちらかというと控えめでだけれどもちゃんと芯があるそんな人。
か弱い印象のあなたが練習量の多い運動サークルに入ると聞いたときは驚いたけれど最後までやりとおしたあなたは本当に素晴らしい。
購買のあのお弁当が美味しかったなとぽつりとわたしが言った次の日、そのお弁当を食べてるあなたを見たときにはなんて純粋なんだと感じたよ。甘いものが好きだったね。わたしは苦手だったからそういうお店に一緒に行けなくてごめん。食の好みは結構合わなかったね。でもまた一緒に大学の食堂で各々好きなもの頼んでランチしたいね。授業中はよくうとうとしてたね。だけどきちんと単位をとっていくあなたが不思議だった。きっと家でちゃんと予習や復習をやってたんだろうなと今は思うよ。興味のない授業からは早々と退散したわたしと違ってちゃんと最後まで授業に出てたよね。ただ朝が弱かったあなたに変わって代筆してあげたこと絶対忘れないでね。通いだったわたしを台風や雪の日には泊めてくれてありがとう。きれいに清潔に整頓された部屋は女の子らしくていい香りがしたな。苦しかった卒業研究はお互い励まし合ったね。わたしのぶつぶつと言う不満や文句を嫌な顔せずにうんうんと聞いてくれたこといつまでも覚えてるよ。無事に卒業して初めて二人で卒業旅行で海外に行ったね。暑さに耐えながら香辛料のきいた食べ物食べたり、大きな動物園に行ったり、夜景の綺麗なところでお茶したり、最高の締め括りになったんじゃないかなと思っているよ。少し離れたところどうしで就職したわたしたちは大学卒業後はなかなか会えなくなったね。だけどたまに近況を報告したり、誕生日にはメッセージを送りあったりといつまでも繋がっていられることがこのうえなく嬉しいよ。ずっとずっと続くよね!?
そう思ってるのがわたしだけだったら少し悲しいけれど…笑

そして、今、きっと一番大切な人と人生を共にすることを決めたあなたに、ささやかだけどシンプルだけどこの言葉を心からおくります。

結婚、おめでとう。

 

 

 

親愛なる友人へ

 

みわ はるか

 
 
親愛なる友人へ。

大学の入学式のあとの授業説明会があった講堂で初めて会ったときからもうすぐ丸8年がたつね。
たまたま座った席で隣にいたのはあなただった。
お互いきっと少し強ばったぎこちない顔をしてたんじゃなかったかな。
それからは卒業まで一緒に過ごしたよね。
ぐるぐると思い出すとなんだかあっという間だったなと感じるよ。

背丈や体型がわたしと同じくらいだったあなたとはなんだかすっと友達になれた。
初めの印象通り素直でどちらかというと控えめでだけれどもちゃんと芯があるそんな人。
か弱い印象のあなたが練習量の多い運動サークルに入ると聞いたときは驚いたけれど最後までやりとおしたあなたは本当に素晴らしい。
購買のあのお弁当が美味しかったなとぽつりとわたしが言った次の日、そのお弁当を食べてるあなたを見たときにはなんて純粋なんだと感じたよ。甘いものが好きだったね。わたしは苦手だったからそういうお店に一緒に行けなくてごめん。食の好みは結構合わなかったね。でもまた一緒に大学の食堂で各々好きなもの頼んでランチしたいね。授業中はよくうとうとしてたね。だけどきちんと単位をとっていくあなたが不思議だった。きっと家でちゃんと予習や復習をやってたんだろうなと今は思うよ。興味のない授業からは早々と退散したわたしと違ってちゃんと最後まで授業に出てたよね。ただ朝が弱かったあなたに変わって代筆してあげたこと絶対忘れないでね。通いだったわたしを台風や雪の日には泊めてく
れてありがとう。きれいに清潔に整頓された部屋は女の子らしくていい香りがしたな。苦しかった卒業研究はお互い励まし合ったね。わたしのぶつぶつと言う不満や文句を嫌な顔せずにうんうんと聞いてくれたこといつまでも覚えてるよ。無事に卒業して初めて二人で卒業旅行で海外に行ったね。暑さに耐えながら香辛料のきいた食べ物食べたり、大きな動物園に行ったり、夜景の綺麗なところでお茶したり、最高の締め括りになったんじゃないかなと思っているよ。少し離れたところどうしで就職したわたしたちは大学卒業後はなかなか会えなくなったね。だけどたまに近況を報告したり、誕生日にはメッセージを送りあったりといつまでも繋がっていられることがこのうえなく嬉しいよ。ずっとずっと続くよね!?
そう思ってるのがわたしだけだったら少し悲しいけれど…笑

そして、今、きっと一番大切な人と人生を共にすることを決めたあなたに、ささやかだけどシンプルだけどこの言葉を心からおくります。

結婚、おめでとう。