高橋啓介著「なんとかして」を読んで歌える

 

佐々木 眞

 
 

 

大人になっても子供の心を失わない人がいるなどと世間ではよくいいますが、そんな人実際にはなかなかいませんよね。少なくとも私が知る限りでは。

しかしこの本の最初の2つの詩を読んだだけで、このタカハシさんという人は、もしかするとそういう稀有な魂の持主ではないかしら、と誰もが思うのではないかしら。

「疑似体験」は、次のような3行からはじまります。

 

きれいなきみをおもいながらベッドにはいる
つかれたからだにかわがながれ
きりのおもいにひかりがさす

 

1日の闇雲で五里霧中の労働にくたぶれた若きリーマンに、ようやっとやすらぎの夜が訪れた、というわけです。

ちょっと話が飛びますが、いま京都の伏見でお医者さんをやっている私の弟は、少年時代に、「兄ちゃん、わいらあ毎晩きょうはどんな夢を見れるんかと思て、楽しうてしょうがない」などと申しておりましたが、まあそんなところでしょうか。

で、次の3行がこうなります。

 

ぼくの×××は
△△△することで
それをあらわし
きみの○○○○はどうだ

 

どうですか。分かりやすいパズルですね。
というか、分かり過ぎるほど単刀直入な突っ込みが、作者の人世への明朗闊達な楽天性をおのずから表明しているようです。

以下、好きな女の人をしたなめずりしながら料理していくタカハシさんの「疑似体験」が続いて、あっという間に終わってしまうまるで童話のような短い詩ですが、じつに率直で、真っ正直で、健康的でしかも純乎としている。
私はお酒は飲めませんが、ウイスキーでいうとピュアモルトというところかしら。

ともかくこの詩集は、冒頭からこんな感じで始まるのですが、2番目の「木になるたのしみ」では、タカハシさんは、なんと本当に葉緑素になり、樹木になりきってしまうのです。

世の中にこれに近い人はいますが、絶対にこんな人はいない、と断言できます。
誰か、なんとかしてあげてください。

そうして驚いたことに、私はそんなタカハシさんの、ちょっとした知り合いなんです。
どうだ、参ったか。
ザマミロ。

 

 

 

ビリジアンを探して

 

芦田みゆき

 
 

2017.1.29
深夜、目をつむると、見知らぬ光景が次々を現われ、あたしは息苦しくて眠れない。その光景は、闇から湧き上がり、強烈な光となって眼前に広がる。そして消滅し、また、新たな光景が湧き上がる。
街のあちこちは、今日訪れた場所にとてもよく似ているが、よく見ると何もかもが異なっていて、細部は欠落している。記憶を切り刻み、失われた部分を想像で編み上げた新しい街。そこで、ビリジアンは全体に宿る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤いセーターを着て詩を書いちゃったよ。

 

鈴木志郎康

 

 

セーターを着るたびに、
一瞬の闇を潜り抜けるっちゃ。
顔を出すと、
そこは
相変わらずの、
俺っちの部屋。
赤いセーターの裾を下ろすと、
セーターの中の闇に包まれて、
からだが温もったね。
テーブルの上のiPadに向かって、
詩を書くね、
詩が書けるよ。
赤いセーターを着て詩を書くっちゃ。
嬉しいっちゃ。
ラ、ラ、ラ、
ラン、ラ、ラン。
家の狭い庭に
北風が吹き込んでくるっちゃ。
ここんところ、
そんな毎日だっちゃ。

 

 

 

貨幣について、桑原正彦へ 19

 

貨幣も
焦げるんだろう

貨幣も燃やせば燃えるんだろう

貨幣を燃やしたことがない
一度もない

新幹線から
流れていく景色を見てた

駅のホームで
過ぎていく貨物列車を見ていた

貨幣は
通過するだろう

貨幣は通過する幻影だろう

消えない
幻影だ

 

 

 

薦田愛著「流離縁起」を読みて歌える

 

佐々木 眞

 
 

 

この詩集を読んでいるうちに、私の脳裏にはひとつの奇妙な映像が湧き起こってきた。

それは、ひとつの巨大なコクーンである。

青空のただ中に、青白い繭が、まるで最新型の雲のように、ぽっかり浮かんでいる。

近寄ってよく眺めてみると、そのとても薄くて半透明な表皮の奥に、一人の女性のシルエットが透けて見える。

それは、素晴らしく美しい眺めだ。
なかにいるのは、知的で謎めいた女性のようだ。

その外貌は、平成の御世にまだ生き続けるという和泉式部や清少納言、あるいはまだ誰も会ったことのない小野小町という名の女性を思わせるのであるが、その正体は謎に包まれている。

いつのまにか空はたそがれ、黄金いろに光り輝くコクーンの中で、彼女は踊り始める。
出雲阿国のように不可思議な舞を、舞い始まる。

踊りながら彼女は、真っ赤なルージュを塗りたくったうすい唇の間から、真っ白な、細くて長い長い糸を吐く。

するとその糸は、私たちが知らない国の言葉、まだ誰も読んだことのない物語の言葉になって、繭の中に織り込まれてゆく。繭の内壁に、どんどん繰りこまれていく。

孤独な舞は、いつまでも続き、白い糸は、果てしなく吐き続けられ、折り重なった糸は、どんどん彼女を覆う。

やがて地上から最後の光線がふつりと消え、世界中が深い闇に閉ざされると、踊り歌う女も、巨大なコクーンも、街も、うたかたのように姿を消してしまった。

 

 

 

物言えば

 

長尾高弘

 
 

物言えば唇寒し秋の風って言うけどさ、
最近本当に息苦しくなってきたと思わない?
もう二年前になるけど、
さいたま市の九条俳句の問題があったよね。
公民館の俳句教室で会員が互選した作品が
毎月の公民館だよりに載ってたんだけど、
「梅雨空に『九条守れ』の女性デモ」
って句が選ばれたときには、
公民館が掲載を拒否したって話だよ。
さいたま市は、市内の全公民館に
「世論が大きく二つに分かれる問題で、
一方の意見だけを載せられない」
などと説明しなさいっていう
マニュアルを送ったんだってさ。
公民館だよりに掲載される作品は、
市民の作品であって、
市の作品じゃないのにさ、
これって変な話じゃない?
色々な意見を自由に言えるのが、
民主主義社会ってものじゃないの?
それに、掲載拒否された俳句は、
憲法を守れってものだよ。
憲法ってのは、
政府の暴走を防ぐために、
市民が政府に守ることを義務付けている法でさ、
その法を守れという俳句の掲載を拒否するなら、
市が市民そっちのけで暴走しますよ
って言ってるようなものじゃん。
おっかないったらありゃしない。
また、あの戦争の時代を繰り返すことになるよ。
何も言わずに国のために死ねって時代さ。
その点、
区民文化祭でこの詩をそのまま発表できる横浜市は、
さいたま市よりはいいのかもしれないね。
だけどさ、
育鵬社の社会科教科書を使うのは止めた方がいいよ。
歴史の現実を見ないで、
日本はいい国だ、
よその国より優秀だって自慢したところで、
ろくなことはないよ。
故事ことわざ辞典によると、
物言えば唇寒し秋の風って言葉は、
もともと松尾芭蕉の「座右の銘」にある句で、
人の悪口を言えば、
なんとなく後味の悪い思いをする、
ってことなんだってね。
この句の前には、
「人の短をいふ事なかれ己が長をとく事なかれ」
と書いてあるらしいよ。
よその国の人を馬鹿にして、
日本のあることないことを自慢するようなことは、
しない方がいいよってことでもあるよね。
昔の人はちゃんと正しいことを言ってるわけさ。
もちろん、おれだって、
こんなことを書いて発表して、
後味が悪くないわけはないんだよ。
ただ、言うべきことを言わないで、
口を塞がれるのは嫌なだけさ。

 

2017年1月26日~31日に都筑区民文化祭(横浜市)に出展

 

 

 

重い思い その六

 

鈴木志郎康

 
 

重い
思い。

重い思いが、
俺っちの
心に
覆い被さって来るっちゃ。

明け方、お腹が空いて、
ベッドで、
ガサガサ、
ガサガサガって、
紙袋をまさぐって
芋かんぴを
口に入れてると、
美味しい。
と、
隣のベッドで、
麻理が、
「うるせい」って、
目を覚ましてしまったっちゃ、
「ほんと、うるせい存在ね。
でも無くてはならない存在なのよね」
って、言うだけんどもよ、
夜明けの薄明かりの中で、
存在って、
いつかは無くなるときが来るもんじぁって、
思ったっちゃ。
うーん、
富士山の存在とか、
天皇の存在とか、
どうしようもねえなぁ。
かなわねえなぁ。
無くなんねぇよ。
俺っちは、
にっぽんに生まれちまってさ、
にほん語を話し、
にほん語で詩を書く、
にっぽんじんなんじぁね。
そこで、
「霊峰なる富士山の存在は永遠なりぃー。」
「千代に八千代にぃー」
って声が迫って来るっちゃ。
永遠かぁ、
永遠ね。
俺っちは、
自分、
存在って言えっちゃ、
やがてはいなくなるんじぁね。
俺っちは消失するまで、
この一個の身体を生き抜くぞぉ。
と言って、
九十まで生きられるか。
ギーッギエンギエン、
ギーギーギエンギエン、
プーポイ、
プーポイポー。

芋かんぴポリポリって、
書き始めたら、
富士山が出てきちゃってさ、
変な詩になっちゃったね。

まあまあ、
俺っちは、
尽きる命の一個の身体よ。
百までは無理でも、
この一個の身体を生き抜くぞぉ。
麻理も長生きしてね。

八十も過ぎれば、
同世代の知人が、
もう何人もいなくなってる。
寂しいね。
これも、
重い
思い。

俺っちは一個の身体を生き抜くぞぉって、
極私的人生ってわけかい。
またそれかよって、
言わないでよ。

今日はうんこが三回出たよ、
麻子仁丸の効き目かな。

一月二十八日の室内温度が十八度、
アマリリスの蕾が花被の中で成長してる。

テーブルの上にある芋かんぴに、
つい手が出てしまい詩を書きながらポリポリ、美味いなあ。

アンドロイド研究家はテレビの中で言った。
人間らしさの存在感を出す細部を実現するのが難しい。

人間らしさの存在感だってさ。
誰でも人には存在感があるのさ、それは人が生きてるってこと。

人の振る舞いってのが見えなくなっちまった。
もう十年もしょっちゅう会ってる奴がいないのが寂しい。

「ユリイカ」2月号読んでひとつ覚えたバイラルコミュニケーション、
ピコ太郎のPPAP現象はこれの爆発だったんだね。

俺っちって、目が覚めてるあいだは意識して、
いま何時、いま何時って、時計を見たりテレビを見たり。

夕飯で餃子六個とミニトマトハンバーグ四個食っちゃった。
味噌汁も大麦入りの麦芽ごはんも美味しかったね。

ここらで、
軽い言葉で、
思いも軽く、
楽しんで、
タッタッラッタァ、
タラッタッタァ、
トットットッ、
トットットッ、
トットットッ、
トッ。

おっと、危ない、
転ばないでね。
二本の杖をしっかり、
突いてね。

 

 

 

骨ッの世界

 

辻 和人

 
 

コツッ
コツッ
骨ッ
肋骨だよね
脊椎骨だよね
大腿骨だよね
頭蓋骨はどこかな?
座骨はどこかな?
骨ッ
コツッ
コツッ

自転車走らせ
建設中の小平の家へ
今日お仕事のミヤミヤに代わり建設の進み具合を見に行くってわけ
頭上に
鯉のぼりみたく
ハタ、ハタ、ハタめく
ほそ、ほそ、ほっそながい光線君を従えて
走った、走った
すると
鉄パイプの足場とシートに囲まれた巨大な影
「辻様邸」
うわぁ、ぼくんちだよ
感動
見て見て、光線君
「ツジサマー、サマー、サマーティーイーイー。」
興奮した光線君
平べったい体を痙攣したように高速度で折り曲げ
大きく広げたお目々を左右にグリグリ
あのー、まだそんなに驚かなくていいから

「こんにちはー。依頼主の辻です。」
「お待ちしておりました。どうぞゆっくりご覧になって下さい。」
仮設ドアを開けると
うわぁ、いきなり

コツッ
コツッ
骨ッ
の世界
骨の世界
横にも縦にも
おっと斜めにも伸びる
四角い木、木、木
これって
恐竜の骨組そっくり
ぐねぐね
きゅるきゅる
横にも縦にも
おっと斜めにも
ティラノザウルスの骨
ブロントザウルスの骨
骨ッ
コツッ
コツッ

弱いライトに照らし出された骨の群
コツッ
動き出しそうだ
コツッ
大きいの小さいの
縦横関係しあって
しっかり組を作ってる
ここはトイレか
骨が「くの字」状に並んでる
コツッ
コツッ
ここはキッチンか
骨が行く手を阻むようにちょっと不均等に並んでる
コツッ
コツッ
ここは
ベランダの両隣の壁
埋め込まれたふとーい骨が頑張ってる踏ん張ってる
コツッ
コツッ
ここはリビングか
何本も長短の骨が立てかけてあって
ずっしーんって感じで斜めの線を自慢してる
コツッ
コツッ
2階に行ってみましょう
ちょっとぐらぐらする梯子を注意深く昇る
おおっ
こりゃすごい
コツッコツッコツッ
長い骨、短い骨が
太いのも細いのも、香りをぷんぷん立ち昇らせながら
立って立って立ちふさがってる
ああ、2階は寝室と書斎と収納スペースがあるから
いろんな種類の骨でいちいち区切ってるんだな
コツッ
コツッ

興味津々の光線君
体を紐状に細くして一本一本の骨に巻きついては
ささくれた感触にいちいち驚いて
空中でくるくるっと旋回
ひととおり旋回し終わると
今度は骨の連なりのボリュームに圧倒されたみたい
ぴたっと空中に止まって
円状に体をぴんと張って
目をグリグリさせて
甲高い声で叫んだんだ
「ザウルスーッ、ザウルスーッ、シュツゲンナリィーッ。」

そう
小学生の時初めて博物館なるものに連れてってもらったんだよね
ナンダ、ナンダ
コレ
ナンダ
散らばった骨を集めて復元された巨大な恐竜たちの姿
天井を掻き回す縦のライン
床に亀裂を入れる横のライン
骨と骨の間の
ぽかーん空間に
小さな目を凝らすと
古代がみるみる大きくなった

コツッ
コツッ
骨ッ
そうだ、そうなんだ
梯子をぐらぐら降りてもう一度できかけの家全体を眺めると
適材適所の骨が骨を呼んで
連なって、大きくなって
恐竜
歩け
歩き出せ
骨ッ
コツッ
コツッ

「この家は基本的に壁だけで重みを支えられるようにできていますので、
完成した時にはこんなに柱はありません。
雑然と見えるかもしれませんが工事中の今だけですよ。」
現場責任者の方はそう説明してくれたけど
どういたしまして
白い壁に覆われる前の姿を目に焼き付けることができて嬉しいです
近くのコンビニで人数分の缶コーヒーとお菓子を買って渡しました

コツッ
コツッ
骨ッ
光線君
このことはミヤミヤには内緒だよ
ミヤミヤには「順調に進んでいた。」とだけ報告するつもり
暮らし始めた時にこの家が
昔、恐竜だったなんて
知られたくないからね
でも
ぼくは骨の世界の中で呼吸ができて
楽しかったよ
走る自転車を体をきゅるきゅる回転させながら追いかける光線君
「ジュンチョー、ジュンチョー、ザウルスーッ、ジュンチョー。」
骨ッ
コツッ
コツッ

 

 

 

家族の肖像~親子の対話その14

 

佐々木 眞

 
 

IMG_4493

 

小さいは小田急線の「お」でしょう?
うあん、そうだね。

お父さん、横浜線、八王子まで運転されるんですよ。
いつから?
平成3年からだよ。

お父さん、いとこの英語は?
カズンだよ。
カズン、カズン、ぼく、いとこ好きだよ。

お母さん、アドバイザーってなに?
教えてあげるひとよ。

お父さん、世間てなに?
世の中のことだよ。

お父さん、いくじなしってなに?
根性がないことだよ。

お母さん、置き去りってなに?
そのままになってしまうことよ。
おきざり、おきざり。

小田急、白に青い線でしょ?
うん、青と白だね。

箱根、高いとこ登れないでしょ?
うん。
それでスイッチバックでしょ?
そう。

お父さん、去年比嘉さん泣いちゃったよ。
でも今年は泣かなかったでしょ?
うん。

有楽町、ヒロシさんが行ったとこだお。
そうね。
お母さん、今度有楽町行きますお。
行きましょうね。

ヨウコちゃんもタクちゃんも、子供生んだでしょ?
そうね。

お母さん、にらんだら困るよね。
そうよ。
ぼく、にらまないようにしますお。

お父さん、背中の英語は?
バックだよ。
セナカ、セナカ。

快速、浜松町に停まるようになったんだよ。
どうして?
モノレールに接続するためだお。

なんで森昌子「まったくう」っていったの?
心配かけたからでしょ。
そうだよ。

ミート君、ぼく好きですお。
ミート君て、だれ?
キンニクマンのだよ。

 

 

 

「ボブ・ディラン全詩集」(片桐ユズル・中山容訳)を読みて歌える

 

佐々木 眞

 
 

西暦2017年1月23日、ギャラプの世論調査によれば、トランプ大統領の就任直後の支持率は45%で、調査を始めた1953年以来過去最低を記録したそうだ。

この日大統領は、「TPP交渉から米国が永久に離脱するよう」指示した。

永久?永久?永久?
お前さん、まさか永久に大統領を続けるつもりやないやろな。
死んでも永久に生き続けるつもりかいな。

とわいが驚いとると、あの「プラトーン」のオリバー・ストーン監督が、「トランプを良い方向にとらえよう」とツイッターで呟いたそうや。

来日した彼は、朝日新聞24日朝刊のインタビューで、
「ヒラリー・クリントンが勝っていれば、危険だと感じていました。米国による新世界秩序を欲し、他国の体制を変えようとする彼女が大統領になっていたら、第3次大戦の可能性さえあったと考えます」
なんちゅうことを平然と語っておるので、またまたびっくらこいてると、
突如、わいの目の前にメリーゴーランドが現われ、ゆっくり、ゆっくり回りはじめた。

回れ、回れ、メリーゴーランド。
ゆるゆる回れ、メリーゴーランド。
僕らを乗せて、ゆるゆる回れ。

「トランプ氏は“アメリカ・ファースト”を掲げ、他国の悪をやっつけに行こうなどと言いません。米軍を撤退させて介入主義が弱まり、自国経済を機能させてインフラを改善させるなら、すばらしいことです」

などとストーン監督はのたもうんやけど、その嘘ほんまかいな?嘘かいな?
ちょいとばかし楽観的にすぎるのではないかいな。

そういえば、わが国の東京都知事も、盛んに「都民ファースト」を呼号しとる。
そういえば、だいぶ前から食い物はファースト・フードだし、アパレルはファ(ー)スト・ファッションが大流行だし、なんでもかんでも速攻自己中心の“ファースト主義”の時代になったやろうか。

ほな早速、ボブ・ディランはんに聞いてみまひょ。

「半分の人間は、いつもなかばは正しい。
何人かのひとはときどき完全に正しい。
しかしみんなのひとがいつも正しいことはありえない」
やて。

そりゃそうやけんど、そもそもオリバー・ストーンはんは、正しい人か?
トランプは悪魔か、それとも正義の味方か? ボブ・ディランはんは、どっちの半分や?
わいらあ、だんだん自信がのうなってきたよ。

するとボブ・ディラン選手がまたあらわれて、わいにウインクしながらこう言うた。
「いまの勝者は、つぎの敗者だ。
第一位は、あとでびりっこになる。
とにかく時代はかわりつつあるんだ」

回れ、回れ、メリーゴーランド。
ゆるゆる回れ、メリーゴーランド。
僕らを乗せて、ゆるゆる回れ。

なんか人世が厭になってしもうたわいがテレヴィをつけると、かつて「米国抜きのTPPはあり得ない」と語っていたアベ・シンゾウが、まるで猪八戒のような顔を30度傾けて、参院本会議場で演説しとる。

「トランプ大統領は、自由で公正な貿易の重要性は認識していると考えており、TPP協定が持つ戦略的、経済的意義についても腰を据えて理解を求めていきたい」

なぞと、目玉をキョロキョロさせながら、ゴーストライターの書いた原稿をほとんど聞き取れない猛烈なスピードで読みあげている。

しかし肝心のトランプが「永久に」蹴ってしまった交渉の座席に、「腰を据えて理解を求め」るなんて、世界中の誰にもできっこないだろう。

回れ、回れ、メリーゴーランド。
ゆるゆる回れ、メリーゴーランド。
僕らを乗せて、ゆるゆる回れ。

民放にチャンネルを切り替えると、横綱昇進が決まった稀勢の里が、今まではほとんど開けなかった目玉をぐっと見開いて、

「これから、ますます強くなります。土俵入りは不知火型ではなく、雲竜型で行きます!」
と威勢よく語っている。まるで血液型が変った別人23号のようだ。

別のチャンネルに切り替えるとかの「仁義なき戦い」で有名な俳優、松方弘樹はんが、脳リンパ腫で74歳で亡くなったと悼んでおる。

ここで急遽、元妻の仁科亜希子はんの言葉が紹介される。

「このたびの、訃報を聞き大変驚いております。私が本気で愛し、2人の子どもを授かり、20年以上も共に歩んでまいりました方です。今は、安らかにおやすみくださいますよう、心よりお祈り申し上げます 合掌」

わいらあ、その「私が本気で愛し」に完全に痺れてしもうた。
こういう赤裸々な告白を、芸能人、いや世間の人々から聞くことはめったにない。
恐らく別れた後で、「ホントウニ愛シ」ていたことが分かったのだろう。ええ話や。

回れ、回れ、メリーゴーランド。
ゆるゆる回れ、メリーゴーランド。
僕らを乗せて、ゆるゆる回れ。

すると、よせばいいのに、またアベ・シンゾウが出てきた。

アベは、共謀罪の趣旨を盛り込んだ組織犯罪処罰法の改正案について、「捜査の相互協力などを定めた国際組織犯罪防止条約の締結に必要だ」と強調。
「国内法を整備し、条約を締結できなければ東京五輪・パラリンピックを開けないと言っても過言ではない」と述べたそうや。

なら、オリンピックなんて止めちまいな。謹んで返上してしまいな。
だあれも困りはしないよ。
なあ、ボブ。

そこでボブは、立ち上がる。
立ち上がって、歌う。

「何回弾丸の雨がふったなら、武器は永遠に禁止されるのか?」
「何人死んだら わかるのか あまりにも多く死にすぎたと?」
「おい戦争の親玉たち。あんたがたにいっておきたい。あんたがたの正体はまる見えだよ」

いいぞ、いいぞ、ボブ、ええやんか。

「それで ひどい ひどい ひどい ひどい雨が降りそうなんだ」

回れ、回れ、メリーゴーランド。
ゆるゆる回れ、メリーゴーランド。
僕らを乗せて、ゆるゆる回れ。

 
 

*トランプ大統領、オリバーストーン監督、安倍首相の発言は西暦2017年1月24日付朝日新聞、ボブ・ディランの発言は片桐ユズル・中山容訳「ボブ・ディラン全詩集」の「第三次大戦を語るブルース」「時代はかわる」「風に吹かれて」「戦争の親玉」「ひどい雨が降りそうなんだ」より引用。