家族の肖像~「親子の対話」その6

 

佐々木 眞

 
 

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「お父さん、ハスは水の中でしょ?」
「そうだよ」

「お父さん、無理の英語は?」
「インポシブルかな」
「無理、無理、無理するなよ」

「お母さん、盲腸ってなに?」
「腸の仲間よ」
「盲腸、痛いといやですねえ」
「耕君、盲腸痛いの?」
「痛くないお」

「お父さん、直るって復旧のことでしょ?」
「そう、復旧は直るってことだよ」
「復旧、復旧」

武田鉄也が「学校へ帰ろう」っていったお。金八先生のドラマだお。
そうなんだ。

お母さん「なるほど」ってなに?
「そうかあ、分かった」ってことよ。
なるほど、なるほど。

「お父さん、正直の英語はなに?」
「オネストだよ」
「オネスト、オネスト、正直にいわないとだめだよね」
「そうだよ」
「正直、正直、正直」

「お母さん、メッセージてなに?」
「なにかを伝えることよ」
「伝える、伝える」

「お父さん、所により一時雨ってなに?」
「もしかしたら雨が降るってことだよ」
「お父さん、晴れたら青空でしょ?」
「そうですよ」

「お母さん、なんで仲良くするの?」
「喧嘩はいやだから、でしょ?」
「そうだよ」

「お母さん、ショボクレルってなに?」
「ガックリすること」
「ガックリ、ガックリ」

「お父さん、さきほどの英語は?」
「サムタイムアゴーかな」
「さきほど、さきほど」

「お母さん、さけぶってなに?」
「ヤッホオー!」
「そ、そうですよ。そうですよ」

「お父さん、なにしてる、の英語は?」
「ワットアーユードウイング、だよ」
「なにしてるう、なにしてるう、なにしてるう」

「お母さん、じょうと、ってなあに?」
「じょうと? 譲渡か。譲り渡すことよ」
「横浜線205系、インドネシアに譲渡しました」
「へー、そうなんだ」

「ダブルシャープは、シャープが2つだよ」
「えっ、そうなの?」
「2つ半音さげる」

お父さん、公衆電話の英語は?
「パブリックテレフォンだよ」
「公衆電話、公衆電話」

「お母さん、アドバイスってなに?」
「こうしたらいい、って教えてあげることよ」
「アドバイス、アドバイス、アドバイス」

「お母さん、おもてなしってなに?」
「人に親切にしてあげることよ」
「おもてなし、おもてなし」

「お父さん、さびしいの英語は?」
「ロンリーだよ」
「お父さん、淋しいは、さんずいに木が2つですよ」
「ああ、そうだね」
「淋しい、淋しい」

 

 

 

暗譜の谷

 

萩原健次郎

 
 

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あなたの不明に比べたら、わたしの不明など
たいしたことはない。
鳥の鳴く方向、あるいは蛙の鳴く方向を聴きさだめて
わたしの、もぞもぞした声をさがせばいい。
わたしなど、粒で、点で、穴の、
さらにはその底なのだから
はじめから不明を欲して、
急な傾斜を下へ下へと降りて行ったの、

鳥も蛙も、綺麗な気を吐いている。
草木を見つめてみれば、清浄さがくっきりと見える。
青空と、水流の地の間に
どれだけ呆けた透明さをたもつことができるか。
透けていればいいというわけではない。

暴かれ続けろと、言われるままにそうすれば
あなたは術の人になる。
暴かれ、叩かれ、地にめりこんで、土粒だらけの
濁りの身こそ、旋律に奉仕すればそれはそれで
加点もされる。

川の左右の岸には、花火の火が散ったように
不明者の点が、色をつけて等しく並んでいる。
青空側から見れば、群れだが、
笑う花弁のように、みなじっとしている。

生きたいなら
――生きてるよ、と言えばいい。
生きたいなら
――めりこんで枯れて澱んでいるよ、と。
人のごとくに。

――もう、描かれているよ。

 

空空空空空空空空空空空空空空空空空空空空空空空空空空空空空空空(連作「暗譜の谷」のうち)

 

 

 

enough 十分な

 

昨日は

浜風に
写真と詩を

載せて仕事に
出かけて行った

昼は食べずに
夕方に

ビールを飲んだのだったか
つまみに大きい豆

空豆か
空豆をつまんだ

さやが空に向かって
伸びるので

空豆なんだ
そうだ

美味しかったな
鮮やかな緑色だった

 

 

 

炎上 ( World Wide Fire )

 

今井義行

 
 

わたしは 30年間に TOKYOを 横断するように 一人暮らし
をしてきました

高田馬場 - 調布 - 多摩 - 江戸川区・平井
TOKYOを 転々と 移り住み
西端から 東端まで 横断して、
いま、江戸川区・平井では 神奈川育ちなのに
江戸ッ子 気取りで、
( SYONAN育ちだからと SURFINGできると想うの、やめてくれ )

お祭りがあると聞けばカメラを持って馳せ参じ
地元の人間づらして
商店街の名入りの 紅い提灯を眺めたりします

Web以外からは、ほとんど情報を送受信しない 生活で、
狭い部屋だけれど テレビはあって
(地上デジタル放送の双方向性なんて)
けれど、テレビ等からは信頼できない情報が選別されて
訪れるのみ だから (まったくの 出鱈目だった)
(クイズに参加したって しょうがないだろう)

ほんとうの虚構は 夜の 荒川に 沈めるしかないのさ

Web以外からは、ほとんど情報を送受信しない、わたし。
依存はしていません
情報量が圧倒的に多く 全方位的に意見が飛び交う中から
情報を取捨選択する 主導権が
「わたし」の側にもあるのは公平だ

情報は、風だね
速攻の、風だね

誰かさんがうっかり口を滑らせると言葉の風に瞬く間に火がついて
Webでは、言葉の風が烈しく炎上するんだ 〝うるさい、ゴミ〟
≪ネット炎上≫というものだ 〝スバラシイ・爆 !!〟
〝消えろよ、死ね〟

匿名だろうと 名前だろうと World Wide Webは 無法地帯です
〝うるさい、ゴミ〟〝スバラシイ・爆 !!〟〝消えろよ、死ね〟〝死ね、死ね、死ね〟

わたしは Amazonのタブレット端末 【Fire】を 所有していて
何処へ行くときもいっしょです

元々 狭い部屋に紙の書籍はもう置けないから
電子書籍の棚として そのタブレットを選んだ

同時にドキュメントファイルを作成できるので
詩を書く 机として そのタブレットを選んだ

何処へ行くときも詩を書くためには 8インチの画面は必要なのです
(けれど、何処にも姿見は無いから 詩を書くわたしを わたしさえ 見た者は居ない)

わたしの一週間は主に通院生活です

アパートを出て病院まで、病院を出てアパートまで。
その間に空の模様、露地の植物、公園の生物、建物、
人の佇まいなどを見ます

或る日の陽射し、雲の動き、葉の上の雫、花の満ち引き、
鳥や猫のまなざし、働く人々、走り去る車などを感じて、

総武線や都営バスのシート、病院の待合室やカフェの窓際などを移動します

(けれど、何処にも姿見は無いから 詩を書くわたしを わたしさえ 目撃はできない)
(そうだ、 何処にも鏡面は無いから 詩を書くわたしを わたしから 信じていくのみ)

パソコン - タブレット - パソコン - タブレットの
視えない 転送空間のなかで
わたしが ちいさな旅を 重ねていくのでは なくて
詩の言葉が── 風景や わたしの感情を写し込んだ「言葉」が
ちいさな旅を 重ねていくのです・・・・・

「わたし」が 何処に いるかというと
≪発信先≫ と ≪受信先≫に います
(その ≪発信先≫ と ≪受信先≫に 例外なく鏡面は在りません)
そこでわたしは 詩行を繋げていきます

Amazonのタブレット端末 【Fire】が 旅の伴侶と なって
ときどき アクリルの ブラウザのニュースで
炎上 (World Wide Fire) に 感情を揺らされながら
わたしも書いた詩を Web上に 公開していく

「わたし」が 何処に いるかというと
≪紙媒体≫ と ≪Kindle≫※の 過渡期にいます
そこでわたしは 詩作を続けていますが、
横に字数が伸びる 日本語の 詩が溜まっていって
「わたし」は 詩集を纏めるでしょうか

(雑誌の詩の応募要項に 「400字詰め原稿用紙・縦書き」って 記されていた)
(しかも、5枚以内だって・・・・・・それが 「詩」というものと 文科省が決めたのか)

わたしは 長年PC派で それなりの液晶フィールドで
詩を書いてきました 手書きは筆圧が負担でむずかしい
指とキーボード またはタップで ふれあいを体感する
けれども、最近 秋葉原のマルチメディア館で気づいた

≪ おや、わたしは 迂闊だった!≫と

いまはもうPCの時代ではなくて スマホの時代なんだ
わたしが公開した詩は あの画面で読まれたりするんだ
電車の車両のなかの光景を見れば一目で分ることだよな

拡大・縮小しようと わたしが意図していた
レイアウトは個々の環境で くずれてしまう
それは・・・・・・・・・ わたしを 生かしめている

≪抒情≫の 発狂ということだ
炎上 (World Wide Fire) に 感情を 揺さぶられてたまるか

 

 

※ ≪Kindle≫ (火を)つける、(火)をおこす、~を燃え立たせる、燃やす

 

 

 

俺っち詩集を出すっすっす。

 

鈴木志郎康

 
 

俺っち、
詩集を出すことにしたっちゃあ、
ブン、
ブン、
ワンサカサッサア。

タイトルは、
「化石詩人は御免だぜ、
でも言葉はね」
としたっちゃあ。
ブン、
ブン、
ワンサカサッサア。

そこらのおじさん、おばさん、
そこのおねえさん、おにいさん、
書肆山田さんが、
手塩にかけて、
出してくれるから、
どこぞの大きな本屋か、
アマゾンかで買って、
読んでくれっすっすっす。
ブン、
ブン、
ワンサカサッサア。

俺っち、
十六の年から
八十一のこの年まで、
六十五年間も、
詩を書いてきて、
言葉、コトバで、
足元から、
化石化してるっちゃ、
詩集を出して、
コトバを乗り越えて、
生き身になるっちゃ。
詩が印刷された紙の束、
海老塚さんの綺麗な装丁、
手にした重み、
触って、
眺めて、
血が通って来るっちゃ。
今まで書いた詩を乗り越えて、
生き身になるっちゃ。
ブン、
ブン、

沢山の人に、
読んでもらいたいっちゃ。
そんでもって、
詩の歴史に残れば、
なんて、
思ってるっちゃ。
その思いで、
血が通ってくるっちゃ。
詩の歴史を乗り越えるっちゃ。
ワンサカサッサア、
ワンサカサッサア。

まあ、
でも、わかってるっちゃ。
読んでくれる人は、
知人、友人と
ごく僅かのご贔屓さん。
そして、
やがて、
忘れて去られる。
それが、
俺っちの詩集の、
運命ざんすね。
それでいいっすっす。
また、また、
次に、
ひょこり、
ひょこり、
ってね。
ブン、
ブン、
ブン、
サッサア。

 

 

 

五月の歌

 

佐々木 眞

 
 

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美しい五月よ
三里塚には、もう革命児サパタも戦うパンチョ・ビラもいない。
廃墟と化した巨大な空港の高みに、ミラージュやコンコルドが舞っているばかり。

美しい五月よ
西新宿の大通りには、もう夜鷹もルンペン・プロレタリアートもいない。
四谷区民ホールのガードマンが、夜鍋しているだけだ。

美しい五月よ
新宿御苑の広大な敷地で、草上の昼食を楽しむ中産階級の市民は、もういない。
日がな一日画眉鳥が、「再見再見」と鳴いているばかり。

美しい五月よ
甍が無惨に崩れ落ちた熊本城には、もう誰もいない。
くまモンと鉄腕アトムと鉄人28号とドラえもんとのび太としずかちゃんと六つ子だけが、懸命に石垣を直そうとしている。

美しい五月よ
傲岸不遜な為政者たちは、もうこの国にはいない。
ビア樽ポルカのような奥さんと世界各地を訪れ、わが世の春を謳歌している。

美しい五月よ
十二所村の旧家の屋根の上では、もう親子の鯉幟は泳がない。
遠く旅立った一卵性双生児の息子が今どこにいるのか、誰も知らない。

美しい五月よ
時ならぬ横時雨に躑躅の花は忽ち散り失せ、もうアオバセセリはやって来ない。
はじめての恋は色褪せ、虚ろに開かれた四つの目を、夕闇がゆるやかに閉じる。

 

 

 

光の疵 White

 

芦田みゆき

 
 

ある朝
粉雪のように
白がはじまった
あちこちに降り積もっては消え
ひと粒が膨らんだりつぶれたり
よく見ると
あたしのカラダはまだらで
目をつむってもあけても
まったく同じ白が広がっているのだった
さぁ、出かけるよ
どこにでもついてくるがいい
晴れた日の白というのも
おつなものじゃないか

 

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良い子は眠れない

 

佐々木 眞

 
 

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怪しい男が、可愛い女の子と一緒に教室に入ってきた。
鈍く光るナイフを突き付けられて蒼ざめているのは、
なんと私の昔の恋人ヨイコではないか。

私は、いきなりヨイコの腕を摑んで、教室の外へ飛び出した。
すると男も、あわてて私らの後を追ってくる。
私らは、キャンパスの坂道を転がるように駈け下りて全速力で走ったが、男に追い付かれそうになってしまった。

あわや、というその瞬間、ヨイコは、持っていたバッグの中からおそ松君を取り出し、その場に抛り投げると、男は夢中になっておそ松君を追いかけ、やっと追い付くと自分のバッグに収めた。

その隙に、私らは全速力で逃げ出したが、しばらくすると、またしてもその男に追い付かれそうになった。

あわや、というその瞬間、ヨイコは、持っていたバッグの中から一松君を取り出し、その場に抛り投げると、男は夢中になって一松君を追いかけ、やっと追い付くと自分のバッグに収めた。

その隙に、私らは全速力で逃げ出したが、しばらくすると、またしてもその男に追い付かれそうになった。

あわや、というその瞬間、ヨイコは、持っていたバッグの中からカラ松君を取り出し、その場に抛り投げると、男は夢中になってカラ松君を追いかけ、やっと追い付くと自分のバッグに収めた。

その隙に、私らは全速力で逃げ出したが、しばらくすると、またしてもその男に追い付かれそうになった。

あわや、というその瞬間、ヨイコは、持っていたバッグの中からチョロ松君を取り出し、その場に抛り投げると、男は夢中になってチョロ松君を追いかけ、やっと追い付くと自分のバッグに収めた。

その隙に、私らは全速力で逃げ出したが、しばらくすると、またしてもその男に追い付かれそうになった。

あわや、というその瞬間、ヨイコは、持っていたバッグの中からトド松君を取り出し、その場に抛り投げると、男は夢中になってトド松君を追いかけ、やっと追い付くと自分のバッグに収めた。

その隙に、私らは全速力で逃げ出したが、しばらくすると、またしてもその男に追い付かれそうになった。

あわや、というその瞬間、ヨイコは、持っていたバッグの中から十四松君を取り出し、その場に抛り投げると、男は夢中になって十四松君を追いかけ、やっと追い付くと自分のバッグに収めた。

その隙に、私らは全速力で逃げ出したが、しばらくすると、またしてもその男に追い付かれそうになった。

あわや、というその瞬間、ヨイコは着ていたジャケットを脱ぎ捨て、その場に抛り投げると、男は夢中になってそれを拾い、自分の身につけた。

その隙に、私らは全速力で逃げ出したが、しばらくすると、またしてもその男に追い付かれそうになった。

あわや、というその瞬間、ヨイコ子は着ていたセーターを脱ぎ捨て、その場に抛り投げると、男は夢中になってそれを拾い、自分の身につけた。

その隙に、私らは全速力で逃げ出したが、しばらくすると、またしてもその男に追い付かれそうになった。

あわや、というその瞬間、ヨイコ子は着ていた天使のブラを脱ぎ捨て、その場に抛り投げると、男は夢中になってそれを拾い、自分の身につけた。

その隙に、私らは全速力で逃げ出したが、しばらくすると、またしてもその男に追い付かれそうになった。

あわや、というその瞬間、ヨイコ子は着ていたスカートを脱ぎ捨て、その場に抛り投げると、男は夢中になってそれを拾い、自分の身につけた。

その隙に私らは全速力で逃げ出したが、しばらくすると、またしてもその男に追い付かれそうになった。

あわや、というその瞬間、ヨイコ子は身につけていた黒いパンティーを脱ぎ捨て、その場に抛り投げると、男が夢中になってそれを拾おうとしたので、私は思わずヨイコの手をふり離し、それを拾って素早く自分の身につけたのだった。