長野充宏@黒猫.

 

 

僕が生きてる事が
罪なら
毎日生きてる事が
罪なら

瞳よ私に闇を
心臓よ黙って
魂よ空へ

脱け殻は
どうしても君へ
ただの
ぬいぐるみに
なるよ

だって君が
可哀想だから
だって君が
可哀想になる

毎晩君の隣で
寝かせてね。

 

 

 

暗譜の谷

 

萩原健次郎

 

 

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カタカタ、カタカタと木と木がこすれ合う音。その木でなにか
叩く音。鈍いほど、辛くなるなあ。
人の身と木が誰かの力でぶつかれば、鈍くなる。それがカタカ
タならば、カンカンならばいいけれど、

人が棒を持ち、誰かに向かって棒を振り上げているような、姿
態が、その次の光景を想像させる、幻聴が起こる。
頭の中を、その音が散って吹きっ晒しかというと、それが隈な
く詰まっている。

木の鍵の隙間に、身を付けて。指はもう呆けて、知らぬ間に音
楽を鳴らしていても、指は、少しは天国に入り地獄に入り、た
だ夢遊しているだけだ。

ブラームスの三つ目のピアノソナタ、
踏み迷うこともないだろうが、時折、カタカタという音に混じ
り身を打つ音がする。
指が肥大して、鍵と鍵の間に挟まって抜けなくなりそうな恐怖
感もたまに感じている。
わたしの身には、シューマンやベートーベンの身(生気)も混じ
っていることを、指が説いている。急きつつ説いている。

三十六の峰、黒い台地、
五十二の峰、白い台地、
狭隘な谷に降りていく。
清き水、降る。
清き水、歯をくいしばって降る、
飛沫舞う、谷へ下降していく。

生気の音は、指や手の鍛錬で出るものではない。美しいといっ
た感じも、速射のように川に捨てていく。
死、迷うために、それが、今の生の音だから、

誰かが、ひとたび、ハミングしたとたんに、
椅子に座っている、
私の身のすべてと、細工された楽器が
巨大なハンマーで、
ズドンと叩き潰される。
さらっとした水の匂いがしてくる。

 

 

空空空空空空空空空空空空空空空空空空空空空空空空空空空空空空空(連作のうち)

 

 

 

スケルツォ第3番~「南無阿弥陀仏」

 

佐々木 眞

 

 

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春一番が吹いた朝、
主がいないお向かいの家では、梅が満開だった。
紅白の梅は、これで1113年の間、主人が帰るのを待って毎年律儀に咲いている。

あるコピーライターは、今は亡き吉本隆明選手から、
「10年続けば何事かではある」などと尤もらしい御託宣を頂戴したので、
自分のブログを10年以上続けているそうだが、自慢話はまだ早い。

詩人の鈴木志郎康さんは、毎朝4時に起きて詩作に励み、
指揮者の小澤征爾選手は、毎朝5時に起きて暗譜に精進、
隣の梅は、未来永劫死ぬまで主人を待っている。

おらっちもこれで70年以上も人間をやってるが、まだ何者でもない。
こいつをあと10年や20年続けたとしても、
何事のおわしますかは知らねども、何者かになれるとは、到底思えないな。

アッハ、お前さん、
要するに、修業が足らない。
アッハ、まだまだ、修行が足りんのさ。

そこで詩人のさとう三千魚さんは、毎日詩を書きたい、という。
詩作は、毎日カンナで木を削るようなものだ、という。
が、お客さん、ぺらぺらのカンナ屑を侮ってはいけないぜ。

カンナ屑こそ、日々の尊い修業のあかし。
真善美の彼岸を目指して、一心不乱にカンナを削る行為は、
一遍が南無阿弥陀仏と唱えながら、1年365日踊り狂うようなものだろう。

南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏
Dance Dance Dance
詩作は、苦しくも楽しい日々のつとめ、日々の祈りのようなものだな。

アッハ、お前さん、
要するに、修業が足らない。
アッハ、まだまだ、修行が足りんのさ。

 

 

 

びっくり仰天、ありがとうっす。

 

鈴木志郎康

 

 

ホイチャッポ、
チャッポリ。
何が、
言葉で、
出てくるかなっす。
チャッポリ。
チャッポリ。

びっくり。
びっくり仰天。
ぜーんぶ真っ白けだあ。
ガラスの嵌った
本箱の扉を開いて、
書棚から
大切に仕舞ってある、
五十三年前の、
たった一冊しかない、
俺の最初の詩集、
『新生都市』を
開いたら、
どのページも、
真っ白け。
すべてのページが
真っ白け。
慌てて、
次に
H氏賞を受賞した
『罐製同棲又は陥穽への逃走』を
開いたら、
これも、
すべてページが
真っ白け。
どんどん開いて、
二十六冊目の
去年だした
『どんどん詩を書いちゃえで詩を書いた』まで
開いて、
ぜーんぶ、
真っ白け。
チャッポリ、
チャッポリ。

なんだ、
こりゃ。
ホイチャッポ、
チャッポリ。

活字を喰う
虫ですよおおお。
俺んとこの、
大事な書棚に、
発生してしまったんだあああ。
チャッポリ。
チャッポリ。

これこそ、
天啓。
活字喰い虫さん、
ありがとうっす。
また、
どんどん書きゃいいのよ。
チャッポリ。

てなことは、
ないよねえ。
ホイポッチャ、
チャッポリ。

 

 

 

afraid おそれて

 

四谷で

鐘の音を
聴かなかった

秋田から
帰って

教会の鐘の音を
聴いていない

姉から電話があり
秋田に

帰ったのだった
母は

人工呼吸器で
胸を上下させていた

わたしには
与えるものが何もない

何もないことを母に
与える

鐘の音を待つ

 

 

 

birth 誕生

 

夕方には
モコと散歩した

いつも同じ道なので

モコは
道を憶えていて

草花と出会い
道草する

この休みには

何度
佐々木さんから教えてもらった

リヒテルを聴いたか

こころの
底に

言葉でないものたちの影が過ぎてく

わたしは
誕生を忘れていた

 

 

 

壁紙のイルカ

 

爽生ハム

 

 

午前の誘拐インザパーク、年に一回だけ前進できる日が晴れていてよかったね。そう?芝生すげえついてるね。そう?はらうと手から血が流れてますけどダメだねココは室内に行こうか、やりたくなってきたオセロとか罪と罰を回避しよう時間のあるうちに
空白体にジーンズが似合ってる受け容れる体、ふざけてないで出てきておいでってホワイトボードに、ふざけてないで快適な方へ出てきておいで。吊るすさかさまの衣裳に無意味さが際だってるって思う?
空白カーペットに寝転んだ衣裳の原色とかってかなり、何年後も覚えてられそ。写真写真ここできらなきゃ、この子の事忘れちゃう

空がホワイトボードってこと?

空白フリースの上着の方に犬が噛みついてきたのを思い出してます。場所的には病院の横のカラオケで、スイッチをOFFって黒い姿にえんじ色のソファを尻づけし、壁紙の方を見る。残ったフリースのパンツの膝らへんを手のひらでサワサワしてスノーマンの小屋入りと意識を同調させた。ホーメイで耳鳴りしたわ。民族の事は静かな別れにしましょうか、頻繁に亡くなり大切なさよならが、
歌いれなきゃ、犬には仲間に見えやすいフリース履いてます今日は。
保存してほしい体の事は、逃げっぱとして腹ばいになってでも行く原っぱ。お願い昔を、思い出してましたが気にしないでプクプクしてるフグ顔が毒っ気たっぷりで美しい。もうすぐ出動します、人を感動させに。紛らわらす正当な体で怖がらす

 

 

 

弥生三月の歌

 

佐々木 眞

 

 

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ある日、東映から健さんがやって来た。

なんちゃら組の親分役として、わが社の営業を手伝ってくれるというので、
感激した私は一本の包丁を買って来て、「♪包丁いっぽおん、さらしにまいてえ」とア・カペラで歌いながら、
東映映画で観たとおりに晒しに巻いて、背広の奥に忍ばせた。

その翌日、社員全員で地方へ出張に行ったら、健さんが誰かと喧嘩になったので、
すっ飛んで行って、そいつの猪八戒腹を正宗の包丁でブスリとやったら、
社長が「よくやった。これで邪魔者は消えたから、この地区の売り上げは倍増だあ」と大喜び。

その翌々日、私が奥菜恵似の女と仲良くしているの知った吉高由里子似の女が、「デートしよ」
と私を誘ったので動物園に行ったら、猿どもが白昼公然自瀆しまくっていたので
「こんなお下劣な所はやめて、もっと静かな場所へ行こう」と二人でラブホへ行った。

その日の夕方、外で涼んでいると、誰かが庭から勝手に家の中に入ってくるので、
「なんだ、なんだ、おめえは誰だ?」と誰何すると、
「僕ちゃんは、あなたと同姓同名なので、ここへやってきました」という。

そいつは、よれよれのまっ黒けの服を着た、全身濡れネズミ男だった。
濡れネズミ男こと佐々木眞は、平壌放送のような予告なしにいきなり歌い始めた。
「♪ア、ちょっと待ってね、ア、ちょっと待ってね、ソウリのノウリはまっ黒け」

すると、その後から大勢の子どもたちが、
「♪ア、ちょっと待ってね、ア、ちょっと待ってね、ソウリのゾウリはまっ黒け」
と楽しそうに歌いながら練り歩いていく。

「♪ア、ちょっと待ってね、ア、ちょっと待ってね、ソウリのノウリはまっ黒け」
「♪ア、ちょっと待ってね、ア、ちょっと待ってね、ソウリのゾウリはまっ黒け」
共に歌い踊りつつ、私は世界全体の底が抜けたようで、なにもかもが楽しくなってきた。

急に全身雲南桜草になった私は、春風に吹かれながら、全身ネズミ男たちのあとを追った。
目黒区上目黒にあるギャラリーを出て、夜の盛り場を彷徨っていると、
ベネチアのカーニヴァルで見た顔を白く塗った女たちが、長い列を作って私を待ち構えている。

その真ん中を通って、大名時計博物館の竹林に入ると真っ暗な部屋があった。
中では二人の若者が、「さあいよいよ戦争だ。これで思う存分南京で人殺しができるぞお!」
と期待に胸を膨らませながら、陛下恩賜の三八銃をピカピカに磨いていた。

三時になったので、いったい誰がお茶を入れるのだろうとハラハラしながら見守っていたら、
竹取の翁がかぐや姫に命じてしずしずと茶碗を運ばせたので,胸をなでおろした途端、
突然、地面が大きく揺れて亀裂が生じ、二人はそのまま地底深く呑みこまれてしまった。

「おおい、誰かいないか?」と尋ねたが、ついに返事はなかった。