身延へ

 

さとう三千魚

 
 

身延へ行きたいと女がいった


クルマで

身延へ
向かった

義母がいたころ
身延へ

行ったことがあった

義母と
モコと

行ったことがあった

身延には
俤が

残っている
だろう

身延へ行きたいと

女は
いった

久遠寺の長い階段を登り賽銭を投げた
急な坂道を降りてきた

そこにいた

坂道に
シャクナゲの花が咲いていた

ピンクの花だった

そこに
いた

それから温泉に入った

昨日
夕方

市原さんと
Tさんと

駅前の広場に佇った

湯船で
そのことを思った

母と娘と
インドの人たちから

戦禍のパレスチナへ喜捨をいただいた

分厚い男たちの黒い手を
握った

そこにいた
そこにいた

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

wail

 

工藤冬里

 
 

佃煮も根は珍しいだろう
と地中海の昆布は言った
衰退する町で
猪の眼の三白
再びマスクをして
売り惜しみしない
黒光りする佃煮
俺のカペルナウムは何処か
更地願望の家並に果樹担当者を派遣し
花の芯の見える角度で
地図の水色マーカー片手に腎臓を塗る
公開餓死のエリアは​氏族ごと​に​泣き叫び
女性​たち​は​女性​たち​だけ​で​泣き叫ぶ
マックは不倫のイスラエル兵士の挽肉を混ぜることを自分で決めて泣き叫び
女性​たち​は​女性​たち​だけ​で​泣き叫ぶ
松屋はチーズ昆布バーガー丼をプレゼンし
すき家はナポpope牛をプレゼンしたが
ガザには食物がない
土地​は​チェーン展開のゴミごと​に​泣き叫ぶ
そして女性​たち​は​女性​たち​だけ​で​泣き叫ぶ

 

 

 

#poetry #rock musician

息に挟まれて

 

辻 和人

 
 

かっとくる夏の盛り
かずとん村もかっと様変わり
見守り用の大人ベッドを
ミヤミヤと一緒にかっと2階へ
寝室で赤ちゃん用ベッド2台をかっと組み立て
大人ベッドを両脇からかっと挟む
こうしておけば夜中どちらの様子も見張れるんだ
それから1階のお昼寝マットの周りを
運動量多くなるこの先見越して
ベビーサークルでかっと囲う
昼夜の区別がはっきりついてきたからね
昼は1階、夜は2階
いやー、暑い暑い
かっと作業終了お疲れ様

初めての2階
抱っこで昇る初めての階段一歩一歩に
興味津々首くるくる
さあ、ここが新しい寝るところだよ
左のベッドにコミヤミヤ
右のベッドにこかずとん
床に置いたランプに照らされて
ぼんやり歪む天井と壁に
興味深々首くるくる
そのうちだんだん2人の瞼が
重くなって、くるくるくる

コミヤミヤが左からすぅーっすぃーっ
こかずとんが右からはぁーっひぃーっ
冷房入れてもまだあっつい空気を掻き乱す
コミヤミヤとこかずとんの熱い息が
左から右から挟んでくる
かっとくる
疲れてるのに目が冴えちゃうな
両側から息
眠ってる間に途切れちゃうんじゃないかって
心配で心配でたまらなかった頃もあったけど
これだけ強く熱く挟んでくるなら
もう安心か
よし、ぼくも負けずにいっちょ息吹いてみるか
ふぉーうっ、ふぁおーうっ
おお、我ながら
かっとくる
夏の盛り

 

 

 

It’s not me

 

工藤冬里

 
 

春なのに仕事をしない恥晒しの子供はまず立ち上がらなければならなかった
白茶けてきたのは白髪だからだ
アニメの犬のように
守り切ることのできないゲームのように
浅かった椅子を坐り直して
言葉が人を永遠に助けることができるならば

趣味だけでは豊かになれず
生を存えさせることができない
醤油差しのように坐っていた
体の中に銀があり
137.5度の渦巻に粒子ごと呑み込まれる

アルミの塵取りが光って
失透空色のアレイを片手で持ち上げ
投げ捨てても投げ捨てても
日の出日の入りが重なり
牡丹色系列の重荷は海底に
見えない力なのでそれはセオリーではなく経験

 

 

 

#poetry #rock musician

縁側にて **

 

さとう三千魚

 
 

ひとと
ひとが

いる
縁側にいる

台所で
鈴の音がきこえる

ひとが
いる

息をしている
白い髭が伸びている

いのちを
分けている

 

・・・

 

** この詩は、
2025年4月25日 金曜日に、書肆「猫に縁側」にて開催された「やさしい詩のつどい」第16回で、参加された皆さんと一緒にさとうが即興で書いた詩です。

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

ひきうす

 

廿楽順治

 
 

わたしの首に掛けられたこれを
なんとみますか

(天下ごめん)

その指先を水でぬらし
わたしの舌を冷やしてください

ぜったいやだね

ふたりの女がうすをひいている
きょうも
なんか命が重たいあたしたちさ

死人のなかから
よみがえってくるものがあっても
(pha!)

この世界の傷はずっとむこうにある

これをみなさんは
(pha!)
いったいなんとみますか

 

 

 

loyalove

 

工藤冬里

 
 

返せないので死ぬしかなくなった
死んでも7対3のケイ素とアルミナと微量のアルカリ土類金に戻るだけだった
骨壷にはカルシウムがギザギザ溶けずに固まっていた
オリジナルと遺伝と後天、三種ある返済方法の全てに当て嵌まる肉は
なかったことにする勾留の晴々
生き返ったら美術はダサい教育を受けるだろう
想像力において不法の人
まことしやかであればあるほど
数式の結構は伽藍であった

 

 

 

#poetry #rock musician

がらん屋のエーコさんが好きな花だと言ったから ***

 

無一物野郎の詩、乃至 無詩! 124     hirose さんへ

さとう三千魚

 
 

風なんだ
という

アネモネの青く
咲いていた

この世に
灰色の猫がいる

ふたり
いる

眼が
青い

六十年が過ぎた
風が吹いていた

ブロック塀の下にいる
咲いている

 
 

***memo.

2025年4月21日(月)、
高円寺の仮宿

jkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkhyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyyk

kkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkkk
kkkkkkkmu

ooooooooooooooooooooooooo
999999999999999
999999999999999999にて

灰色の猫の”路地”さんとともに書いた”無一物野郎の詩、乃至 無詩!” 124個めの即詩です。

タイトル ” がらん屋のエーコさんが好きな花だと言ったから ”
好きな花 ” アネモネ ”

 

 

 

#poetry #no poetry,no life;

犬猫ツインタワー

 

佐々木 眞

 
 

昔々、大風が吹けばたちまち吹き飛んでしまうような、とんとバラック仕立ての犬猫ツインタワーがあったげな。

犬ビルの社長は、犬博士。猫ビルの社長は猫博士。世間では2人の博士を犬猫の、いや犬猿の仲だと噂しておりましたが、それは表向きだけのこと。ほんとは2人の博士は大の仲良しで、時々社長室の窓を開け放って、資生堂の「ナナチュラル・グロウ」をアカペラで唄っていたのでした。

犬猫ツインタワーの中には、それぞれ大きな事務所があって、それぞれ全世界の優良会社から派遣された100名の社員がデスクに陣取り、朝から晩まで、仕事のような、遊びのような仕事に従事しておりましたが、中には「あたし、墨田区のタバコ屋さんで働いてたのよ」と告白する中年のオバサンもおったげな。

そんなある日のこと、犬猫2人の博士がそれぞれ発表したラテン語の年頭所信表明の文書が、ふたつながらに意味不明なので、ミラノのスカラ座宛にファックスを入れたら、たまたま居合わせた指揮者のトスカニーニJr.が、たちどころに解読してくれました。

それによると、犬博士は「能登地震の被害から立ち直るには、世界最大の地震国イタリアに学ぶに如かず」と説き、これを受けて猫博士は「紀元62年のポンペイ地震とその17年後のベスビオ火山の大爆発を、テッテ的に研究せよ」と論じておったげな。

ようやく懸案の謎が解明されたので、犬猫ツインタワーの200名の全社員は、ビルヂングの窓を開け放って、例の資生堂の懐かしいCⅯソング「ナナチュラル・グロウ」をアカペラで大合唱したんだとさ。

するとどうでしょう。

その時早く、その時遅く、どこからともなく大風が吹き付け、と同時に犬猫ツインタワーを揺るがす震度10の大地震が天地を揺るがしたので、2人の博士と200名の社員たちは、ガタンガタンと大揺れに揺れる地上100メートルのツインタワーの窓から、全員大空に向かって投げ出されたのでした。

とっぴんぱらりのぷぅ。

 

 

 

こぼれる

 

村岡由梨

 
 

「白いキャンバスに最初の絵の具を塗り付ける時は何時でも
一瞬、絵筆が、躊躇するの。」
まるでママが、出だしの言葉を躊躇するみたいに?

君が、逆さまにしたワイングラスから雲がこぼれて
空へ昇っていく絵を描いて、
「青空を青く、草原を緑で描くのは安直すぎ」
って先生に言われたそうだけど、
ママは、この優しい絵が好きだよ。
君は今、こんなにも優しい世界で生きているんだね。

「昔の身体をガブガブ食べて、わたし大きくなった」とか
時々突拍子もないことを言う君だけど、
真っ直ぐな気持ちで、
青空を青く、草原を緑で描いた、君の揺るぎなさ。
絵の具だらけの手で顔をこするから、
いつも、顔中、絵の具だらけ。
自分にしか描けない絵を追い求めて
何度も悔し涙の海に溺れて、
無責任な人たちの言葉に
気持ちが壊れてしまうこともあると思うけれど、
君がどこまでも自由に、
自分の描きたかった絵を見て嬉し涙をこぼすまで、
おぼれる こわれる こぼれる
とことん付き合うよ。

そんなことを考える私
の姿を描く君
の姿を詩に書く私
グラスの中の雲を飲み干したら、
私たち、空を飛べるようになるのかな?
そんな風に考えて
二人顔を見合わせて、
思わず笑みが、こぼれる。