wild 野生の

いつだったか
平川典俊の展覧会で

光るアスファルトの写真をみた
ひくい場所で

光っていた

たぶん早朝の路上で
女の子に小水をさせて

それを平川くんは写真に撮った

女のコたちからは
嫌われるだろうな

汚らわしいもののむこうに
ひかるものはある

 

 

 

read 読む 読書する

映画では平原がひろがっていた

水に身を投げて死んだ父の
書斎には本が並んでいた

父は本と煙草と
ウィスキーを手放さなかった

父はインディアンの家政婦にエリオットの
詩集を渡した

オクラホマの平原はどこまでも
ひろがっていた

いま新幹線は熱海を通過しました

 

 

 

放蕩息子

今井義行

 

母と子の間には”絆 ”というものがあって━━━

つる草のように全方位に伸びている

くっきりと健やかに伸びているものもあれば

うねうね・・・と伸びているものもある

どういう絡み方をするにつれ良し悪しの問題ではなく

ねじれ具合のようすがどんな形状──オブジェになっているか

「ごみは可燃物と不燃物を必ず分別して 下記の曜日の朝に出してください」 ”絆 ”を引きはがして

決済が下るとき なにかが華かは分からない

どちらがより相手を咲かせようとしたか

●◆▼★Σ§ΗΦ「●◆」「●§」「●α」」「●Σ」・・・

けれど いつも頭に●がついて見守られている

図鑑によるとわたしは「放蕩息子」の相なのだそうだ

母親にとって 子どもはいつまでもあのときの子ども

勝手に物件を契約して 狭い場所で詩を書こうとする

わたしを「放蕩息子」として否定したがっているかのように

好きかってしているから仕方ないけれどね

おかあさん・・・あなたは全知全能でないことも

「こんなはずでは」とも既に判って知っているのでしょう?

それでも 放蕩息子は「●◆」「●§」「●α」」「●Σ」・・・

いつも頭に●がついて見守られている

・・・・・・・・・・・・・・・・・

図鑑によるとわたしは「放蕩息子」の相なのだそう

どんな放蕩かといえば「静かで狭い場所で詩作三昧すること」

これは 損か得かのスケールでは測れるものではないな

 

 

 

 

no 少しの〜も…ない

夜中に
桑原正彦の絵をみていた

深夜に目覚めたんだ

醜い女の絵をみた
ピンクの花を抱いた少女の絵もみた

それから
天上の広場を歩く全裸の少女の絵をみた

女というのが
実はわからない

この世に
ほんとにきみはいるのかい

きみの名は仮の名前なのかい

 

 

 

event できごと

土曜の夜に
電話をもらった

桑原正彦だった

体調を心配して
電話をくれた

すこし
桑原くんと絵のことを話した

あれほど
天国的な場所に到達してきみは

どこへ行くの
これからきみはどこへ行くの

もう
ない

もう
この地上に戻るしかない

 

 

 

notice 気がつく

テトラポットを
波が洗うのを見ていました

いつまでも見て
いました

昨夜
桑原くんは電話で言いました

ペラペラなものの向こうに
別の景色が見えることもあると

言いました

遠く
水平線と空の間は霞んでいました

海と空は
別の場所に在るのでした

 

 

 

あるサボタージュのお話

辻 和人

 

一人暮らししていた頃、アパートで保護した野良猫のレドとファミ
実家で預かってもらって早4年、すっかり馴染んだと思っていたら……

レド
レドレド
レドレドレドレ
大変、大変

結婚式を無事終えてぐったりしていた2日後
実家の母より緊急の電話
「大変、大変
レドちゃん、昨日から散歩から戻らないの」
えぇーっ
「一度ベランダまで戻ってきたんだけど
お父さんが家に入れようとしてずんずん近づいたら
また逃げちゃってそれっきりなのよ」
あ、大変、そりゃ大変だ

それからぼくの頭は鳴りっぱなし
大変、大変
レド、どこ?
レドレドレドちゃん、どこにいる?
レド
レドレド
レドレドレドレ
仕事中も鳴りっぱなし
困ったな、週末に実家に帰って探しに行こ

ところが3日後の早朝また電話
「さっきレドちゃん戻ってきたの
ベランダで大きな声で鳴くから急いで戸を開けたら
家の中に走り込んで、ファミちゃん探してるのよ
ファミが、どうした、どうした?って顔して出てきたら
安心したみたいでエサ食べて
食べ終わったらお腹出して甘えるから
抱っこしていい子いい子してあげて
それで満足したみたいで冷蔵庫の上のいつもの場所にぴょーんと飛び乗って
いつものようにおねんねしちゃったよ
でもまあ、良かったねえ」

更に更にお昼頃
「さっき3つ隣の家の人が後で訪ねてきて
おたくの白い猫ちゃん、ウチの庭に3日間じっとしてたって言うのよ
じっとうずくまってるからどうしてるのかなって
かわいそうに思ってご飯あげてたって
ファミも時々会いに来てたらしいのね
なんか心配して損しちゃった感じよ」

えーえーっ
そんな近くにぃ
ファミも一緒!
大変、大変
って程じゃなかったのね
ぼくも心配して損しちゃったな
レド
レドレド
レドレドレ

「猫を外で飼わないでください」
なんてゆう回覧板が回ってくるご時世
だから猫たちは早朝だけ外に散歩に出ることを許されてる
いつもはお腹が空いて2時間もすると帰ってくるんだけど
その日、レドの心に
ふと
「今日は、帰らなくていいかな」
というアイディアがよぎっちゃったんだよ
な、レド
レドレド
レドレドレドレ

3月下旬の空気ってまだ結構冷たいじゃない?
我慢できなくはないよ
お庭の枯れ草に体を寄せてれば
一匹でずっといてさみしくない?
薄い陽の光が目の前でゆらゆら揺れていれば
さみしくないよ
それに毎朝仲良しのファミちゃんがあくびしながらやってきて
10秒臭いを嗅ぎに来てくれるから
全然さみしくない
かわいがってくれたお家の人の顔を見たいって思わない?
……
……

あはっ、何だそりゃ
たった3軒隣で「飼い猫する」ことををサボタージュかよ
何不自由ない暮らししてるくせに
レド
レドレド
レドレドレ

でも何となくわかるよ
いつもいつもかわいがられなけりゃいけないって
負担だもんな
甘えなきゃいけないって
負担だもんな
おいしいモノねだらなきゃならないって
負担だもんな
たまにはサボりたいよな
飼い猫をサボって
ただの猫に戻る
そういう時間って
ウン、大切だ
ぼくなんかこないだまで「ただの猫」状態に浸りきってたもの
レド
レドレド
レドレドレドレ

「婚約者」から「妻」になったばかりの妻が
電話を傍で聞いていて
「レドちゃん、帰ってきて良かったねえ」
というから
「そうだね、ほんと良かった、安心したよ」と答えた

でもね
ほんとにほんとは
プチ家出できて良かったね
飼い猫を休めて良かったね
なんだよ
ぼくはさすがに家出はできないけどさ(笑)
妻に「おはよう」を言ったりハグした後に現われる
弱い草が薄い陽光になぶられるようなしなる薄暗い空間に
ひゅっと入り込んで
冷たい地面の上にじっと体育座り
なんてことは「夫」になってからも何度かやったよ
(「夫」になって幾日もたたないけど)

大変、大変、じゃない
自然なことなのさ
レド
レドレド
レドレドレドレ