淡水

 

工藤冬里

 
 

釣り人は
幾重にも打ち寄せる小波の端で
公魚か
鱒様の豹柄のものを
魚籠に蓄えているのだった
島は島ではなく
堆積物のたまさかの隆起で
あゝそれは
海だったものの残骸であった
花崗岩の風化物としての
ただの淡水の

 

 

 

#poetry #rock musician

暗中來的終是來了,
秘かに来るものがついにやってきた

 

Sanmu CHEN / 陳式森

 
 

暗中來的終是來了,
比如冬夜,疲憊
或者無端的自在。
黑暗裏看群山溫婉
聽拍岸唱誦黃州。
我當然想再一次在京都之巒
縱火痛哭出一個"妙"字!
叫你看老虎退步⋯⋯
萬仞之上一地淚珠;
叫你看六十年我還是經歷太少,
無辜的夜色自暴自棄成為寨城。
我當然想看
周庭把季節遷植到新的穹蒼;
叫你在放風之餘
暢想用手割酒割肉!噫!嗚呼
可你看,我們難為了警察
作供時把六月當作隆冬,昂尻。
六個月囚坐才約莫出暴政只能是春天,哦嗬⋯⋯
綠意盎然繁花勃起⋯⋯
我不幸的肝膽已無酒,只流血
可你看看足下:
香港腳是我們的腳。

 
2023年12月5日晨
一時大意作於寨城
 
    .
 
暗中來的終是來了,
 秘かに来るものがついにやってきた、
比如冬夜,疲憊
 例えば冬の夜、くたびれて
或者無端的自在。
 あるいは故もない自在さ。
黑暗裏看群山溫婉
 暗黒のなかにたおやかに連なる山々を見て
聽拍岸唱誦黃州。
 岸をうつ波音を聞いてうたう黄州の詩。 
     *黄州:ここでは、かつてこの地に左遷された宋代の文人蘇軾をいう。
我當然想再一次在京都之巒
 もちろん私はまたもう一度京都の山で
縱火痛哭出一個"妙"字!
 火をかけられ「妙」の一文字が痛み泣いて浮かぶのを
叫你看老虎退步⋯⋯
 みてほしい 虎が後ずさりするのを……
萬仞之上一地淚珠;
 高みの上の地面に落ちる涙のしずく;
叫你看六十年我還是經歷太少,
 知ってほしいのは六十年の私の経験はまだ余りに少なく、
無辜的夜色自暴自棄成為寨城。
 無垢な夜の色は捨てばちに砦の街となった。
我當然想看
 もちろん見てみたい
周庭把季節遷植到新的穹蒼;
 周庭が季節を新しい大空のもとに植え替え;
     *周庭:香港の民主活動家。カナダに出国。
叫你在放風之餘
 獄中で一時外の風を受けるときには
暢想用手割酒割肉!噫!嗚呼
 手ずから酒を分け肉を裂く事を空想する!ああ!おおっ
可你看,我們難為了警察
 でも私らが警察を困らせたのを知ってるだろう
作供時把六月當作隆冬,昂尻。
  供述のときには六月を真冬と感じた、ばかものが。
六個月囚坐才約莫出暴政只能是春天,哦嗬⋯⋯
 囚われの身の六か月でやっと見当が付いた 圧政が現れるのは春だけだ、うぅ……
綠意盎然繁花勃起⋯⋯
 緑は溢れ、花々は燃え立つ⋯⋯
我不幸的肝膽已無酒,只流血
 私の不幸な肝胆にもう酒は切れて、ただ血が流れるばかり
可你看看足下:
 だが足もとを見てみろ:
香港腳是我們的腳。
 香港脚(水虫)が私らの足なのだ。

 
2023年12月5日晨
  2023年12月5日朝
一時大意作於寨城
  たまたまうっかり砦の街にてものす

 
 

日本語訳:みやこ鳥

 

 

 

 

あわてる人

 

野上麻衣

 
 

これまであつめたものをはなれて
うつって
よって
くらす人ができて、
かわること。

山のみえる、
ちょっとたかいところの家で
いまからくらす。

あたらしいところへ歩いていくから
たくさんのものをおいていく。
靴はじょうぶなものだけ、
もちものはリュックに入るだけ、
手はあたためておいて。

おいてきたら
おいてきすぎて
好きなものまでおいてきて、
あわててとりにかえる。

はしってさ
ころんでさ

まにあって、よかった。

 

 

 

ステーキの後の角煮や赤ワイン煮込みのシチュー

 

駿河昌樹

 
 

物語に触れたくないときが
けっこう
いっぱいある

ステーキを食べたあとで
角煮とか
赤ワイン煮込みのシチューとか
出されるような気分

小説であれ
映画であれ
ドラマであれ
小さなお話であれ
なにか
ストーリーのあるものに
もう今は
絡みとられたくない
入り込みたくない
そんな気分

じつは
三十年ほど前から
はげしく
はげしく
そんな気分になっていて
だれかの人生にまつわるお話も
「今日こんなことがあったんだよ」的な
ちょっとしたお話も
ステーキのあとの
角煮や
赤ワイン煮込みのシチュー

それでいて
物語の最たるものである
歴史なら
どんなものでも
スポンジが水を吸うように
いくらでも
ごくごく飲み干さんばかりの
奇妙な気分

どうやら
ひとが創作したものに
拒否反応が
ひどくなっているらしい
ひとのアタマが考え出そうとした
構造とか
統一とか
効果とか
そんなものはどれも
ステーキのあとの
角煮や
赤ワイン煮込みのシチュー

 

 

 

天然無窮

 

長谷川哲士

 
 

思索は全て脳の泡もう考えるな
汁の流れに身を任せ
心臓と肋骨の隙間こじ開け
外を恐々覗き見してはほくそ笑み
極北の群青見る事願いながら
震えてそこに在る事だけが
人間に許された唯一の享楽

ぶるぶるぶるぶる震える音楽
泡は弾けて空へ溶けてゆく
もう考える必要も無い
深々と血液の真紅が
黒々と成りゆきて漆黒の夜
踊って睡る泣いて融けて
存在に謝れ

土に頭擦り付けて
土の中にまで潜り込んで
呼吸を忘れてやっと
謝った事にしてもらえるかは不明瞭
分からないから賭けてみる

からりと骰子を振った
後からずっと
静かな静かなここにいる
たまに周りで血の繋がった
他人が来ては泣いている
風は口笛吹いている

 

 

 

ANNA

 

工藤冬里

 
 

薙刀の
心配事
山を削いで薙ぎ
口がない顔に口を描き
何も変わらなくても
問題がなくならないとしても
情況が整わなくても
保たせて
一日一日
証明する
感情に彩りが戻って
聳える青髭城
運ぶ、背負う、救う
よろけても倒れることはない
笑ってる目なんてあるんだろうか
待つ間
誰も顔を作れない
どこの顔だろう
信州かな
瞬きする
ひたすら
ひたすら待つ。
夜勤明けの朝を待つ以上に
そう、夜勤明けの朝を待つ以上に
抱いて待つ
あふれる
待つ
信頼の筋肉をトレーナーに委ね
夜勤明けの朝を待つ以上に

https://youtu.be/EudR6pwEn1U?si=D-KqA3d6mI2ZgLJh

 

 

 

#poetry #rock musician

受ける

 

さとう三千魚

 
 

昨日
午後に

隣り駅に降りた

椅子と
手帳と

ちいさなプリンターをカバンに入れていた

北口広場で
ひとり

月の初めの
日曜日

ここで詩を書くことをしている
立ち止まる人に

名前と
好きな花と

詩のタイトルを

手帳に
書いてもらう

それから
その人の

詩を書いてみる

プリントして
渡す

昨日は
だれも

立ち止まってくれなかった

師走の風
寒かったな

過ぎていった
足早に過ぎていったな

地上で
空から降るものを見ていた

てのひらに受ける

無いものを
受ける

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

国道

 

塔島ひろみ

 
 

うしろに大きな川がある
大きなモノたちが流れている
町を貫いて 幅をきかして流れる ニンゲンがつくった川のふちに
取り囲んで あしげにして 
追いつめていく
なにも悪くない彼を 白いへびを
逃げ場のない場所に追い込んで
執拗にいじめる
巨大なモノらは猛烈なスピード 轟音をとどろかせ
耳がおかしくなってしまいそう
頭がこわれてしまいそう
胸がつぶれてしまいそう
おそろしくて くやしくてしょうがなくて
彼を打つのだ
抵抗しようのない 弱い(そうに見える)へびを
バシンバシン 打っても打っても川の音にかき消されるからより強く 激しく 大勢で打つ
血が出ている 舌を出している

ニンゲンの川に近付いちゃいけない
あのモノにはみんなニンゲンが入ってて
流れの先は海じゃない
ニンゲンがいっぱい集まって
殺してるんだ
ニンゲンがニンゲンを 殺してるんだ
巻き込まれたらうちら ひとたまりもない 

白へびは痛そうで かわいそうで みじめで
うごかなかったけど生きていた
目をとじていたけど 聞いていた
その小さな耳に口を近づけ
うちらには ニンゲンさまがついてんだい!
と私はわめいた
へびは少しピクピクとする
おれらには ニンゲンさまがついてんだぞい!
仲間も叫んだ

川ができるまえは 向こうに行けたよ
ちょっと行くと海があって空があって およいだり とんだり いろんなのがいる

2階のベランダでキツネが洗濯物を干している 
キツネは太陽を探していた

 
 

(篠崎2、京葉道路そばで)

 

 

 

山中湖畔

 

たいい りょう

 
 

湖畔のコテージで
仲間と過ごす一夜

湖は 黒く光り
ディオニュソスを蘇らせる

想うのは 
妻のこと 息子のこと 友のこと

眠れない夜

星たちは 夜空にきらめき
生命の輝きを讃える

ますらをぶりのあの山は
早朝 山頂が紅色に染まり
しだいに 黄色くなり
いつもの朝がやってくる

夜明けは もうすぐだ

すべてのもののけたちが眠りにつくときが やってきた

わたしも しばし 筆を置いて 眠りにつこうか

 

 

 

半透明雲

 

藤生すゆ葉

 
 

右へ 左へ  意図せず揺れる
前へ 後ろへ 意図せず揺れる
こんなつもりじゃなかったと
白い天井に話しかけ
身体の記憶を確認する

ぼんやり見える
光をたよりに

落ちた”葉”が触れ
混ざりあった色を感じる
秋だね、と
みえない私にほほえみかける

足もとの白い”羽”が
話したそうに静かに見上げる

両足に伝わる規則的な同じ形
この道もでこぼこだ、と
みえない私にほほえみかける

前を向いたまま深呼吸して
重心を思い出す

生きている感じがする?
生かされている感じがする

綿毛が土に着地する
でこぼこな道に
意図せず揺れながら

————–
高齢父との散歩道