文字をめぐる形而上的現象学

 

駿河昌樹

 
 

本を読むことや
なにか書きつけることについて
もっとも核心的なことを
たいていの人はわかっていない

文字は
否応なしに
人を無私にする

なにかを読んでいる人というのは
名前や履歴や肉体のある誰それではすでになく
読むということの発生場や瞬間でしかない

書いている人も同様で
おそろしいほど抽象的で
非物質的な現象そのものとなっている

文字をめぐる形而上的現象学こそ
まず考究されるべきで
いわゆる文芸的鑑賞や批評は
二の次三の次にされねばならない

文芸形而上学者の
モーリス・ブランショのような人が
いくらも必要とされる所以である

 

 

 

逆さ虹

 

工藤冬里

 
 

難波中タピオカ詰んでアタオカがッ

引き換えの飛行機の低空

コークのひとが出したリックさんの新作がDon’t Think と言うんだけどtwiceが付かないからそもそもくよくよするのは考えるからであって考えなければこの悩みもないんじゃないか、というメッセージと受け取った。失敗して苦しんでいる皆さん、これを聞いて考えないで生きよう。シュール越えだなこれは。

ギリギリまで他のことで頭を満たしておき、疲労困憊して気絶するように寝ないと頭を襲われてしまう。

decadeの特色を前世紀から辿ってみると、2020年代は真の意味でリアルタイムの時代なのではないかと思う。つまりすべての制作が今の言葉でなされていっていることを量として引き付けて実感しながら急いで片をつけていく。漫若勇咲「『私のはなし 部落のはなし』の話」を読んでそう思った。

なんというか、すべてが嘘くさいとか言ってる場合じゃなくて、ほんとうしかなくて、たくさんの風船があるように思うけれどもそれは錯覚で、一つしかない中の、その密度で決まる、みたいな。その力を重力とはもはや言わない、とか。

目玉に映った風景はまだ選択されていない

家ではない家が建ち並んでいるこうした状況にあって
すべて倒壊するという言い方もまた

シェバのジュヌスだな
https://youtu.be/80_ydUz6CI0

其処此処にその木の形に藤の花
花のない体も藤に被われり
藤の花被って木々に形あり
娘役界面として着る藤の花
体のない藤が着物となっている
山々は娘となった藤だらけ
形から更に垂れたるwisteria
藤の花着てしまった木の末路 哉
着るもののない始まりにwisteria
wisteria未来にも在り逆さ虹
形なき未来を被えwisteria
wisteria恐怖と希望は垂れ下がる
藤棚を管理するノイズツイート
mumble bee hawkwindの振動で
蜂は房藤空木とだけ呟く

何が揺れ何が揺れなかったか分かれ今日の神戸の逆向きの虹

これな

空が白くて息ができない

avatarも靨と言ひつ笑ふのはavatarとしての月のあたくし



凶暴な
猪が出た
と放送
あり散歩止め
られたので寝る

猪は
うちの畑で
ごろごろし
てたと隣の
人が言ってた

 

 

 

#poetry #rock musician

金魚

 

塔島ひろみ

 
 

日の当たらないアパートの6畳間で細面の女が内職をしている
白い管の両端をジャキン、ジャキンと小さなハサミで切りおとし
次々水槽に放り込む
不良品を作る仕事
だと女は言った
水槽で不良品たちは不格好に丸まって
金魚になった

その空地は
誰のものでもなく家と家、高い塀に囲まれて道から見えない
雑草が生い茂る地面がこんもり塚状になっているのは
その下に不良品がどっさり埋まっているからで彼らは誰にも見つからず掘り返されることもなく
その暗く湿った空地で生き延び密かにに交配を重ねながら土地に根付き
竹になった
周囲をツユクサやマメ科の雑草がおおい彼らを守った

時が経って人は死んだ
壊すため、滅びるために人が作ったさまざまなモノの残骸があちこちに残り
もうそれを片づける人はいない
化学物質、放射能、かつて人が「奥戸」と呼んだ一帯は水に浸かり
カラスもテントウムシもいなくなったが
竹が
所有され損なった空地で育った不良品の末裔が
黒い水面から顔を出し 風に揺れる
誰にも見られず 役に立たないまま
風に揺れる
そのそばで白い金魚がにょろにょろ動いた

 
 

(4月某日、奥戸3丁目「塚」前で)

 

 

 

もうすぐ死ぬ男のバラード

 

工藤冬里

 
 

感傷的な詩句のいくつかはあったものの
その散財の形式は水に浮くワルツに似て
しかも四角い便器のギターに乗っており
居酒屋バイトの磊落さで
窶れた髭の笑顔を見せた

覚えなければ歌ってはいけない
そんなことまで指導され
信号待ちするその間にも
親指は休まず韻を打ち込み
茶色い草は澎湃として生え上った

克く我慢したな
と褒めてもらいたくて
商工会議所にも行った
当たり障りのない言葉遣いで
気落ちした胃の形した袋を縛った

さてまたしても夜中だ
焼肉屋は灯りを落とした
痩せた鮒のようにするりと抜け出た路地裏から
煌々としたものが漏れる小路の先にあるのが
726品目の屍であった

井戸から汲む前の
摺り切りの張力が
大理石の上で
均衡を保っていた

 

 

 

#poetry #rock musician