夢素描 04

 

西島一洋

 

メタモルフォーゼ

 
 

いやあ、一昨日見た夢は怖かった。

一匹の蝿が鼠大に変形して僕に向かって来る夢だ。
避けようとして、ベッドから落ちた。
今も右後ろの背中が痛い。
肋骨骨折か、とも思ったがまだ医者には行っていない。

考えてみると、
いわゆる畳での布団歴より、木床でのベッド歴のがぐんと長い。
今、六十八歳。

0歳から17歳までは煎餅布団。
その後アパートを借り、木造モルタル六畳一室。
ベッドを自作した。
ベニアと角材で。
自作だから、サイズも自由。
幅90㎝×長さは2m。
寝床の下に画材などおさめるようにとこ板には工夫をした。
その後24歳で結婚し、県営住宅に住まいを移した。

そこでもベッドだった。
6年経って居を移した。
一戸建ての借家だったが、ベッドを置くスペースは無い。
子供が生まれ4人家族になり、六畳に4人分の布団。
本棚とかあるので、僕の下半身部分の布団は押し入れに突っ込んで敷いて寝た。
それから30年くらいは布団だった。

認知症の母の介護のため居を移した。
それからはベッドである。

その後何年かして彼女は死んだ。
死んだ彼女のベッドは今もある。
電動のフランスベッドで二十万円くらいした。
別々に足も背中も上がるツーモーター式。
介護度3だったのでショートステイ、
つまり介護施設での生活が多かったので、
このベッドもあまり使用していない。
欲しい人は、送料のみでOK。
連絡ください。

 
追記
蝿の描写。
数日前に、あいついで、蜂と百足を殺した。
殺虫剤で。スプレーの。
ともにしぶといので、何度も殺虫剤をかけた。
ヒコヒコしたのを通り過ぎて、
完全に死亡したのを見届けて、
というよりスプレーの薬剤で、
若干本体が白くなるまで。
私が苦しい。
私も苦しい。
私は苦しい
おそらくは、
夢というのは自己浄化作用というのがあるのだろう。
しかし、ベッドから落ちた時の背中は、
日増しに痛くなって来る。

 

 

 

subluxation

 

工藤冬里

 
 

TLネットワーク見てるとなんかサブカルのラスク齧ってる感に吐き気がしていたのがここにきて急に人が粒立って艶やかに
ネカフェのトイレで流れる音楽さえ
ターゲットなのだろう、オルタナ主体の有線がgreat song after great song
いまは削ぎ落とされて良くなってるんじゃないかとさえ思う
ヨーヨーマが明日モリコーネ追悼のオンライン・コンサートを行うと言ってる
モリコーネはヨーヨーマに、音楽とは空間、時間、エナジーの三つだ、と語ったらしい
モリコーネがそれを語った瞬間は、空間と時間とエナジーで充ちていたことだろう
しかしいまはその三つを運べない運送屋を見詰めなければならない
それを浮き彫りにするのが釣り堀屋の仕事であろう
後期ルネサンス以来のチェンバーが終わったのだから
風通しの良すぎる洞門が建築様式とならなければならない
そのための寒暖対応ではペスト医者の鳥頭の脱着の操作性がファッションの決め手となり
マツエク以外のコスメは絶え、頭部は鬼太郎の父親に変異するだろう
だから音楽を変えずに演奏空間をデザインするのではなく
ディスタンスを前提して音楽の方を変えるのが王道(バ)ロックだ
それは順番でいけばバロック前夜のマニエリスム或いは倍音としてのキュビズム前夜に対応するものになるだろう
顔の美がヴァーチャルに加速するとき忌避される筈の血が逆にさらに流れるだろう
左右から刺してくるシニフィアンの複製が無く
垂直なトレ・ユネールとしての
あまつかぜ
場の外では犬が泣き叫んだり歯軋りしたりしているだろう
音楽は言葉のsubluxationだ
ドグマ爺さんたち
土グマたち
浣グマに食べさせる野良の白
クマの子を散らすように
アースが産んだドグマ大使
愛は六千年限定のサブスクだ

 

 

 

#poetry #rock musician

解体屋ゲン

 

工藤冬里

 
 

彼の仕事は建設ではなく解体であった
それがその時期の一番建設的な仕事だった
パラダイスとは飲み放題で天女が舞い踊るような所ではない
それは弘岡さんとこの庭のように人がちまちま作り上げるもので
彼女が庭師になるための障害を壊すのが彼の仕事だった
庭師は長生きすると言われていたけれど
それは先取りの三角であって
先走って置かれた原理でしかない
彼の仕事はシバの如く破壊であった
パラダイスとは受け身で放り込まれるようなところではない
地上とはほんらい、尾道でハライソに寄ったら原マスミに出くわしましたというような
受け身で放下されるところではないのだ
隣の刑柱の男に約束したから
彼が来るまでに生きている者だけで急いで整地して
オリーブでも植えておかなければならない
三色スミレは大将の趣味じゃない
チューリップなら黒一色にするとか
それは彼女の趣味に任せるけれども
兎に角戻って来る者たちのために
いまの趣味のままで間に合わせる
だから身受けのハッピーエンドはダサくなりそうだ
それでいいじゃないか
社会と芸術の解体は彼以外には出来ない仕事だったが
その後は庭師たちの引き摺っている解体前の趣味で造園されるのだ

 

 

 

#poetry #rock musician

アンディーの気苦労3

 

工藤冬里

 
 

誰もどこにも行けなくなっているうえに三日間SNSもzoomも使えなくなった
国連に関する暴露本なども出されて鉄と粘土は最後まで混じり合わぬ演劇を続けた
しかしアンディーの家にはフレッツ光があったので行政職員や町内会の人々の間ではちょっとしたスターになり菓子折りなど差し入れがあった

最後にすべての犬猫やすべての家畜の産んだ最初の雄やすべての長男が死んだ
真夜中の官邸で皇居で網走でネカフェでホテルカリフォルニアで大きな叫びが上がった
アンディーも一人っ子だったので菓子折りを抱えて死んだ

エンドロールにイアンの次の歌が流れた

This is a crisis I knew had to come
Destroying the balance I’d kept
Doubting, unsettling and turning around
Wondering what will come next
Is this the role that you wanted to live?
I was foolish to ask for so much
Without the protection and infancy’s guard
It all falls apart at first touch

Watching the reel as it comes to a close
Brutally taking its time
People who change for no reason at all
It’s happening all of the time
Can I go on with this train of events?
Disturbing and purging my mind
Back out of my duties, when all’s said and done
I know that I’ll lose every time

Moving along in our God given ways
Safety is sat by the fire
Sanctuary from these feverish smiles
Left with a mark on the door
Is this the gift that I wanted to give?
Forgive and forget’s what they teach
Or pass through the deserts and wastelands once more
And watch as they drown by the beach

This is the crisis I knew had to come
Destroying the balance I’d kept
Turning around to the next set of lives
Wondering what will come next

 

 

 

#poetry #rock musician

 

ピコ・大東洋ミランドラ

 
 

空だ

と思った

彼女の頬づえついた横顔のその先にあるもの
口を固く結んで少し悲しげで

天窓から流れる風が
僕と彼女の静止したままの柔らかな関係を
そっと揺らす

マグカップに残るわずかなぬくもりを両手で包み込みながら
彼女の先にあるものを探す

ブルーマウンテンが香るコーヒーメーカーの先

 
窓ガラスの向こう
そして
そのもっと向こうにあるもの

街?
そうじゃない。

愛し合った時間のその先
彼女は一瞬うつむいてから
静かに目を閉じた

それから
溜息をついて僕の方へ視線を移す
彼女の潤んだ瞳の奥に
僕と僕のマグカップが映っている

空だ

彼女はきっとわかってくれると思っていた

だけど
僕が自分勝手すぎたから?
彼女の思いをくんでやれなかったから?
僕は彼女を悲しませてばかりだった

空だ

 
彼女にぽつりと言う
彼女は微笑みを浮かべ
窓の方をちらりと見て
立ち上がる

「わかったわよ! いちいち『空だ空だ』なんて催促しないでよ!空っぽだと思ったら自分で勝手にコーヒー入れたらいいじゃん!アンタの方がコーヒーメーカー近いんだからね!」
そう言って彼女は立ち上がって
ブルーマウンテンを僕の空のマグカップへ不機嫌そうに注ぐ

 

 

 

BBQ

 

工藤冬里

 
 

メタフィジカルな線が抽象なのではない
ピンクの釦でブリキ缶は留められている
線の世俗は具象も郡上も問わない
美しい地を殺そうと米露は仲良くジュークボックスに入る
その時から白の奥に緑のストレスや不安が現れ始める
白の奥の緑が抽象だ
子供はハシビロコウなので
食器洗いはハシビロコウだ
花は三十五万種に増えた
愛してるかと確認されることのないようにしなさい
信頼を勝ち得るのは重い肉なので
顔の造りが違う 彫られた青蕨かスペード♠️のようだ
三十五万種に増えた花を楽しむ能力
一日一つ調べると九百五十八年かかるので
華やかなユリの服を着て
十万種の味で装う
全て反射すると白になるので
反射的に動くことが幸せにつながる 例えば
使えば性能が上がるあり得ない車の音のするガレージで
家主に住んで欲しいと思ってもらえるまで待つ
待つ間の喜びは可能か
可能だ 揺すって押し入れてくれる
ガスを止められた時バーベキューしてて分かったのは
欲しいものではなく必要なものが与えられるということだ
どの日も悪いが悩まない
信じてなくても欠落を反射する空の色
犬猫がいればオーロラも見える
待つ間の喜びによって喜びなさい

 

 

 

#poetry #rock musician