長野充宏@黒猫.
雨が降ってる
色々な跳ねがある
トタンに当たる音
水溜りが作る音
雨が跳ねる音
時間をかけて変化する
愛したいよ
愛したいよ
跳ねる音さえ
今は心地よい
今が心地よい。
雨が降ってる
色々な跳ねがある
トタンに当たる音
水溜りが作る音
雨が跳ねる音
時間をかけて変化する
愛したいよ
愛したいよ
跳ねる音さえ
今は心地よい
今が心地よい。
「あー元気だった??髪切ったよねー??」
「切った切ったー。そっちも切ったでしょー!」
こんな会話から久しぶりの大学の友人との食事が始まった。
社会人になって4年目。
こうして今でも定期的に会えることにふと感動することがある。
地元から近い大学を選んだことが正解だったと思える瞬間だ。
彼女とはもう8年目の付き合いになる。
彼女はすらりとした体型でスタイルがいい。
白いパンツスタイルがよく似合う。
わたしより少し背が高く、肩まで伸ばした黒髪に緩いパーマをあてている。
それがとってもよく似合っている。
化粧も気を抜くことなく細部まで完璧だ。
身に付けている時計や鞄も品がある。
美人だ。
でもどこかふんわり抜けている部分があって、男性は放っておかないだろう。
わたしのつまらないだろう話や愚痴もいつもきちんと最後まで聞いてくれる。
自慢の友人だ。
お互い20代も後半に突入して、もっぱら仕事の話と恋愛話で盛り上がる。
大学時代に思い描いていた社会とはどこか違う現実世界をなんとか受け入れ飲み込んでいる。
思い通りに進まない人生をお互い嘆き、ときに笑い飛ばす。
そうでもしないと何か見えない大きなものに吸い込まれてしまうから。
近い境遇に生きる者どうし共有し乗りきっていく。
ときにお酒の力を借りて。
SNSに投稿される写真や文面は幸せに満ちたものばかりだ。
本当はそうでない時間の方が長いにも関わらず。
そうでない部分を隠して、見つからないように振る舞う。
それはきっと誰もに備わる本能なんだと思う。
けれども、そうでない部分をわたしは彼女には打ち明けられる。
聞いてもらいたいと思える。
彼女はそんな友人のうちの一人だ。
頻繁には会えないけれどチャンスがあればスケジュールを調整する。
笑っている写真の中に写っている自分だけが本当の自分でないことを理解してくれる存在だから。
桜はあっという間に散ってしまったけれど、そのあとに残る深い緑の葉はどこか頼もしい。
力強く幹にくっついている。
これからまた暑い暑い夏がやってくる。
そのころにでもまた会えたらいいなともくろんでいる。
frog’s fallopian tubes(蛙の卵管)
フェイスブックに
唐突にポストされた言葉を掬い取る
初めてのエイ語の詩は
タイトルから始まった
You know? Frog’s eggs are eyes.
(知ってる?蛙の卵は目)
Eggs are always looking at you in the water.
(卵はいつも水の中からあなたを見てる)
そうだった
幼い頃
田圃の隅に
とぐろを巻く透明な卵塊をよく見た
無数の黒い目を見かけるたびに
ものすごく恐ろしかった
エイ語に四苦八苦して
内容は単純そのもの
卵から孵った蛙の兄弟たちがみな水から出ていき
自分は干からびて空に行く
やがて空で兄弟たちと再会し
春に再びfrog’s fallopian tubeから生まれ出るというお話
循環するお話
きょう
Creative Writingの授業で
マーク先生は
とてもよい詩だ、と褒めた後で
実はまったくわからないのだ
輪廻転生ということが……
キリスト教では
死は完全に終わってしまうことだから
穏やかに微笑みながら言った
I understand you but I believe reincarnation because I’m affected by Buddhism.
(わかります。でも、わたしは仏教の影響を受けており生まれ変わりを信じています)
Really? 自分に問い返す
ギンザの
マンションの一室で
占い師から前世の話を聞いたのだった
若い人のようにてきぱき仕事ができなくなって
屈辱感にまみれていた
朝まで眠れない夜が続き
その女性に会いに行ったのだった
You know? At last the water vanished away…vanished away……
(知ってる?とうとう水は無くなった…無くなってしまった……)
You know? I also vanished away.
(知ってる?わたしも無くなってしまった)
最後はニューヨークで学校の先生をしていました
突然、アパートの窓から
つまらなそうに窓の外を見る女性の姿が頭に浮かんだ
ニューヨークに行った方がいいですよ
たくさんの友達に会えます
前世って
本当にあったら楽しい
信じてみたい
自分はアメリカにいた
ニューヨークで生きていた
そう思うと愉快になって気分が明るんだ
ニューヨークに行く計画に
「よくできました」のスタンプをもらった気分だった
その夜は朝までぐっすり眠った
Really? 自分に問い返す
You know? I also vanished away.
(知ってる?わたしも無くなってしまった)
But I became free. Yes. I’m free.)
(でも自由になった わたしは自由だ)
マーク先生はよく言う
自分はエジプト人とポーランド人とアメリカ人の
血が混じってると
誇らしげに
田圃で蛙の卵塊を見かけるたびに走って家に帰った
あの頃
急な坂道を登って山の上の町に行き
そこをさらに横切って東に歩いて
教会のある幼稚園に通った
礼拝の日は入口で神父様の前でひざまづき
パンを口に入れてもらったのだ
マーク先生
I’m sure you notice it.
(あなたは気が付いている)
100キロ以上はある巨体をジャンプさせながら
物語や英単語の説明をするマーク先生
とても尊敬しています
エジプト人とポーランド人とアメリカ人の血が混じっているあなたも
たくさんの目については知っていると思います
By the way, why did you choose “frog’s tube”?
(ところで、なぜあなたは「蛙の卵管」を選んだのですか)
I found the word on the Internet by chance and had inspiration.
(インターネットでこの言葉を偶然に見つけてひらめいたんです)
宇宙はたくさんの捻じれ絡まった蛙の卵塊みたいなものではないでしょうか
I think the universe is a lot of frogspawn which is twisted, entangled.
教会の幼稚園の床にひざまづいて
わたしは毎朝毎昼毎夕祈りました胸で十字を切りました
「天にましますわれらの父よみなのとうとまれんことを
みくにのきたらんことを……アーメン」
幼稚園に行かない朝は
お仏壇にお線香をあげて拝みました
「きょうも一日よろしくお願いします」
This world is composed of a lot of chaos.
(この世はたくさんのカオスで構成されています)
That’s why I imaged frogspawn from its fallopian tube.
(それで、蛙の卵管から卵塊をイメージしました)
That’s a Chinese dessert ingredient!
(それはチュウゴクのデザートの食材だよ)
教室中にどっと笑いが起こった
チュウゴク人もフランス人もカンコク人もイタリア人もニホン人も
みんな笑った
教室が渦になった
You know?
We are moving in the water together.
We are laughing with each other
We begin to swim laughing, laughing, laughing….
(知ってる?
わたしたちは一緒に水の中に出て行った
わたしたちはお互いに笑い合っている
私たちは泳ぎ始める笑いながら笑いながら笑いながら……)
Let’s go to China town tomorrow!
(明日はチャイナタウンに行こう)
frog’s fallopian tubesを食べるのだ
わたしは
たくさんの目も
いっしょに
食べてしまおうと思っています