Les Petits Riens ~三十六年もひと昔

蝶人五風十雨録第12回「四月三十日」の巻

 

佐々木 眞

 

 

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1981年4月30日 木曜
一難去ってまた一難。宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」の著作権問題起こる。夕方弁護士を訪ねる。

1982年4月30日 金曜
「若いネッコの会」盛況。深夜までUCLAについて語る。

1983年4月30日 土曜 曇
中島氏と東急、西武、丸井等々の売り場を回る。

1984年4月30日 月曜 晴
自宅に河野氏、渡辺夫妻、大友さんを招いて夕食会。自閉症の親はみな大変なり。

1985年4月30日 火曜 晴
PRⅩブランドCMのラッシュを見る。平凡なり。

1986年4月30日 水曜 はれ
霞が関ビルにて日本システム・マーケティング講習会。筑波大星野、法政大某助教授の話が面白かった。「Mrミスター」のライブ。新宿厚生年金会館で天皇在位60周年の式典。ソ連の原子炉爆発。2千人以上死亡。(追記、26日のチェルノブイリ原発事故である)。

1987年4月30日 木曜 はれ
スタジオにてトシオトミタ・メンズの記者会見用写真を撮影。流通大島氏、能率協会殿村氏にネクスト・アパレルの原稿300枚を渡す。

1988年4月30日 土曜 はれ あつし
朝9時より東西スタッフが集まってIN初の宣伝企画会議を行う。ショップは全国27店舗で15坪を確保。

1989年4月30日 日曜 はれ
学研「ル・クール」鴨沢氏より依頼のビデオ原稿を書くために「恋に落ちて」「恋のエチュード」「男と女」「哀愁」「慕情」「イージーライダー」「ペーパームーン」「パリテキサス」「ストレンジャー」「俺たちに明日はない」をみる。

1990年4月30日 月曜 はれ
休日出勤。会社は英国ブランド買収のために200億投じたという。吉越氏と昼食。某嬢と夕食。

1991年4月30日 火曜 快晴
オリバー・ストーンの「ドアーズ」を見て結構感動す。吉祥寺で盲導犬を連れた眉目秀麗なる青年とすれ違う。

1992年4月30日 木曜 雨
内心忸怩と雨が降る。物凄く寒い。かくも長きセクスの不在。新橋にて「ハワーズエンド」みる。2時間半は少しだれるが、まあ英国文学の香りを伝えてはいる。

1993年4月30日 金曜 くもりのちはれ
朝信濃川河畔より万代橋にのぼりて、日本海を望む。彼方に佐渡の島あるべし。やがて快晴となりてNext21ビルの展望台にのぼらんと、百千の新潟市民つめかけたり。ラフォレ店は超満員。帰京して東博にて大和の古仏、浮世絵展をみたり。

1994年4月30日 土曜 はれたり曇ったり
今日こそは、と思いてふとんを干せば忽ち曇り、取り込めば再び晴れるなり。さながら余の人世の如し。ムクを伴いて2度散歩。妻子と大船常楽寺に詣ず。北条泰時公の墓あり。イトーヨーカ堂にて5千円の椅子を需む。

1995年4月30日 日曜 くもり時々雨
栄子さん来たりて妻と辻家へ赴き、おとむらいへ行く。玄関に塩を撒く。ムクと太刀洗いへ散歩。悪食の台湾栗鼠は3、4年前から鎌倉に出現するようになれり。鈴木保奈美が詩を朗読するアイデア浮かぶ。夜、二代目鴈治郎の「曽根崎心中」の千回目公演をテレビでみる。

1996年4月30日 火曜 くもり
課長会にてクリエイティブが駄目だと文句をいわれる。蓮池君が給料が減ったとこぼす。クリュイタンスのベートーヴェン全集4千円也。

1997年4月30日 水曜 晴のち小雨
夕方次男が取手に帰ったので悲しくて仕方がない。我が家の希望の星なり。山岳部に入って山に登るというので驚く。

1998年4月30日 木曜 くもり
皇居前のパレスホテルのサンアドにて、雑誌広告の打ち合わせ。その後原宿に戻って、引越し準備をする。

1999年4月30日 金曜 晴
今朝秀麗なる紫色の富士山を見る。9時半になるのに佐藤以外誰も来ない。原宿へ行き豊田社長に手帖・カレンダーの製作を止める許可をもらう。次男、山荘へ行く。今宵満月なり。

2000年4月30日 日曜 晴れたり曇ったり
TALO都市企画に50万の見積りを出す。夏物を出し、クリーニングに出すもの以外は天日に干したり。茶色でピーチクピーチク鳴く尾長き鳥は何鳥ならん?(追記、中国より飛来して大繁殖中の画眉鳥なりき)。

2001年4月30日 月曜 雨
妻の助けでテープを起こしながら、竹田津氏の対談を原稿にする。雨が上がったのでムクと散歩。緑に横時雨。風邪完治せず薬を呑み続ける。

2002年4月30日 火曜 小雨
吉祥寺二葉専門学校にて講義。前半時代史、後半課題。タワーレコードでワーグナーの「指輪」13枚組4千円。東京駅で散髪。

2003年4月30日 水曜 小雨
二葉にて授業。出席4名のみ。概論と時代史。決算報告レポート。連歌18句まで到達。妹は長女の挙式で大童らし。

2004年4月30日 金曜 くもり
長男風邪で発熱。病院で診察してもらったが、一昨日の薄着が敗因なり。住宅関連の取材で連休中に神戸に出張することになる。(追記、取材前夜急性アルコール症にて突如意識不明となり、救急車で集中治療室に担ぎ込まれたり)。

2005年4月30日 土曜 はれ
青池夫妻来たりて長男にカラオケをさせてくれる。長男、喜ぶ。余、急に左の背中が痛くなり、呼吸困難に陥ったので妻に治してもらう。名刺を自分で印刷したが10枚中2枚白紙なりき。

2006年4月30日 日曜 晴 好日
数日前と同様クロアゲハ飛来す。長男と共に熊野神社へ。文芸社やり、文化講義の準備する。妻は繁れる草を取る。

2007年4月30日 月曜 快晴 暖
青池家納骨式。卓。亮夫妻来たりて皆で楽しく過ごす。長男と熊野神社へいく。

2008年4月30日 水曜 はれ
工芸大いそがし。夏の如き気候なり。妻の胸腺まずまず異常なしと診断さる。

2009年4月30日 木曜 晴
工芸大ほとんど学生来ず。ロスから帰国の女性、ウイルスに感染。いよいよパンデミックか。

2010年4月30日 金曜 晴
太刀洗でシジミチョウ見る。家の垣根に大きなガもいた。妻の腰痛ますます酷くなる。自動車の運転のせいである。

2011年4月30日 土曜 晴
長男と散髪に行く。今日で4月は終り。結構残酷な月なりき。妻、虫に刺されて顔腫れる。

2012年4月30日 月曜 小雨のち曇
文化学園大講義。出席35名。理論編の第3回なり。夕方次男が帰宅す。元気そうなり。

2013年4月30日 火曜 小雨 ○
妻、横浜市大病院にて胸腺の診察。阿呆莫迦猪瀬知事がイスラム国を莫迦にする発言を行う。

2014年4月30日 水曜 くもり
妻と太刀洗。長男大荒れに荒れる。

2015年4月30日 木曜 くもり
次男、妻と葉山の美術館にて「日韓近代美術家のまなざし展」を見る。十二所の玄関の階段を修理する。

2016年4月30日 土曜 快晴
連休はじまり、親戚一家来訪。ともに太刀洗を散歩す。オナガアゲハ、モンキアゲハ、クロアゲハ、ナミアゲハ、アオスジアゲハ、ナガサキアゲハ、ジャコウアゲハ、モンシロチョウ、コミスジチョウ、ベニシジミ、ヤマトシジミ、ヒメウラナミジャノメ楽しげに飛ぶ。好日なれど風強し。
熊本と大分で地震の余波が続く。自宅や家族を失った被災者たちの心身の打撃は測り知れず、政府の復興対策は遅々として進まない。結局国は口だけで何もしないのだ。福島と同様の生き地獄なり。

 

 

身自らやられない限りは所詮他人事 蝶人

 

 

 

おやすみ

 

Hitoha Nao

 

 

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空を のこして
陽が沈む

鳥が ちいさく
声をのこして

魚が ちゃぽん
水音のこして

飛行機雲が
光 のこして

わたしは かすかな
失意 のこして

猫は くるくる
しっぽをまるめて

みいんな
ちょっぴり 心をのこし

布団にくるまり
ねむるんだ

 

 

 

蛞蝓(ナメクジ゙)の、通り雨── Silver Road

 

今井義行

 

 

Light Up 真夜中にトイレに起きた時
押し入れの前 半畳ほどの 湿気の強い いぐさの上に
家族か 仲間か 分らない
蛞蝓(ナメクジ)が 5匹 はねをのばしていた
≪おおっ くつろいでおりますなあ≫
という 勝手なわたしの イメージ
≪手足がなくても はね、ってある≫

何処に 家を構えたものやら
新築パーティーか 懇親会か
いぐさの上に 楽し気に這い回ったような 銀のぬめり、Silver Road

通り雨が 真夜中にあったような 幾筋ものかがやく路、Silver Road

(Praise Song)※1
Silver Road, Silver Road, Oh, Silver Road・・・・・・・・・・・・・・・・・

綺麗なお茶を飲もうと想って飲んだ 宇治茶が 就寝中に小便にかわり
≪さあ、放尿だ──!≫と
きめた 矢先の 出来事だ

Light Up 光のもと 蛞蝓(ナメクジ)が一斉にうねり
きゅうっと まるまったりして それが けなげで
一匹ずつ ティッシュで包んだが 潰せない─・・・・

植物を喰い 寄生虫を持つと いうことで
害虫の ひとつとして 指定されてるけど
殻のない 巻貝じゃないの 殺したくない

にゅうっ、と つのが 旋回してる

Light Up 光の風に 触角だけを頼りにして 出来事を知る

蜚蠊(ゴキブリ) は 逃げ足が速いからいいさ
さすが 億単位の年月を生き抜いてきた輩
お元気で!! と エールを送ってれば ОK

なんだか 生まれかたって 不公平だよね
なんだか とっても 心に霧雨が ふるよ

うちから すずらん通りを辿って 7、8分
総武線・平井駅 北口 駅前の公園の植込みの辺に 朝、
いつも 一匹の茶トラの 地域猫がいてさ

或るご婦人を中心に ご飯をもらっててね
片耳に 桜の花びらの形の 切込みがある
猫さんで それが地域猫の印なんですって

「かにかまぼこ」が大好物のようなんです
急ぎつつ写真を撮るけど食うか寝てるかで
なかなか 仲よしには なれないんですね

ご婦人に「名前はなんていうんですか」と
きいたところ 「わたしはねミィちゃんよ
他の人は知らないけど」・・・・ふうん。それで わたしは、

貫禄ある地域猫の茶トラを「さくら」と呼ぶことにしました
かなり老齢かもしれず毛並みに艶がなくあまり動き回らない
雨の日にはグレーの毛布を頭巾のように被せてもらい夜には
見かけることはない行方は分からないけど護られてはいます

わたしもご飯をあげたくて西友で値下げ品
「かにかまぼこ」を買っておいたけど休日
小腹がすいておやつに自分で食べちゃった

写真を撮るのが趣味になり 空や道や花や
ひとや動物をこのんで 撮るようになって
わざわざ猫や雀がいそうな道を巡ってます

だから、他人から見たら
町内をよく ふらふらしてる おっさんかも しれないです

雨の降る寒い日にグレーの毛布に覆われた
まるい塊が 植込みの奥にぽつんと「いた」
≪あれ、さくらじゃないか 雨が滲みて≫

その日、連れて帰りたくなったけど でも
この猫は皆の「ねこ」 地域猫の「さくら」
車に轢かれる野良猫より幸せなんだろうと

わたしは踵を返してアパートに向かい出し
ぼうっと横断歩道で信号待ちをしていたら
バイクが水滴散らし路上に銀の轍を残した

(Praise Song)
Silver Road, Silver Road, Oh, Silver Road・・・・・・・・・・・・・・・・・
路上に銀の轍を残していった
Silver Road, Silver Road, Oh, Silver Road・・・・・・・・・・・・・・・・・

Light Up また 或る真夜中に トイレに起きた時のこと
やはり また おるのですわ
光のもと 蛞蝓(ナメクジ)族が それは楽し気に
はねをのばしていたのが
急転直下 一斉にうねり

きゅうっと まるまったりするのもいれば
パーティー会場が 突如
≪戦場≫と化したもんで
てらてらしたぬめりを畳に残しながら蠕動運動を始めたり──、
でも その移動の遅さときたら
特筆ものなんですよねえ

捕まえてティッシュに包もうとするわたしの手の動きに
比べたら もう
圧倒的に 不利、そのもの なんだ
どんなに頑張っても敗けちゃうんだ

わたしは たまたま 別の生き物に 生まれて来ただけで
判断一つで どうにでもできちゃう
ティッシュで包んだとしてもそれは
彼らを燃やせるゴミに出す事だった

手足はない、口はきけない彼らとは
顔を合わせ対話というものが無理だ
ただ一方的に やられてしまうのさ

けれども、

わたしがいつも座っているパソコン
前のクッションの間近に銀のぬめり
が 生々しく 残っていたのを見つけ、

蛞蝓(ナメクジ)って丸まったり銀の
路を残したりしながらその動きを
ことば化してるんじゃないかなあ

って、考え込んで しまったわけ。

もしかして─・・・・なかよしになろうと 交渉にきたのでは!?
蛞蝓(ナメクジ゙)って お利口なんだよ
わたしの就寝中を 選んで 現れる
誰にも何にも 迷惑をかけていない

≪いつまでも いても いいよ──≫
蛞蝓(ナメクジ)の 世界観、知りたい
Silver Roadは きれいな通り雨だよ

(Praise Song)
Silver Road, Silver Road, Oh, Silver Road・・・・・・・・・・・・・・・・・
わたしが蛞蝓(ナメクジ) なら戦場で真っ先に死ぬね
Silver Road, Silver Road, Oh, Silver Road・・・・・・・・・・・・・・・・・
だって、生まれてからずっと かけっこビリだもの

蝸牛(カタツムリ)は殻があるそれで
子どもたちの 手のひらの 人気者
地域猫「さくら」も町内平和の徴 ※2
ところがだよ──・・・・・
蛞蝓(ナメクジ)って冷暗湿地を徘徊
するだけで元朝青龍並みのヒール
あいされる者とあいされない者がいるってことは
皆でそれを産んじゃうって事だな

蛞蝓(ナメクジ)は わたしがもう何回も焼却炉に送り込み
生きたまんまで どういう手も打てず 死んでいったんだ
そう、・・・・・・・・・・・・・・「ガス室」送りにすごく似ている

Silver Road, Silver Road, Oh, Silver Road・・・・・・・・・・・・・・・・・

幾筋ものかがやく路、──・・・・・それって きれいな
通り雨に 過ぎなかったと いうのにね、──・・・・・

 

 

※1手拍子を伴う、ゴスペルの冒頭のセクション。アフリカ黒人は
空0≪家畜≫として輸入されたと聞く。「自分で自分の肩をたたくような/
空0マクシム 菅原克己より」を、そんなとき思い出す。

※2「さくら」は、その後、すがたを消しました。

 

 

 

真っ白

 

たかはしけいすけ

 

 

役者でもないのに
舞台で頭の中が真っ白になり
セリフが出てこない
なんて夢を
見たことがある

ある高名な詩人は
自分の詩集を開くと
ことごとく真っ白だった
なんて夢を
見たのだそうだ

詩を書いていて
書いても
書いても
真っ白
なんて夢は
まだ
見ていない

修業が足りんな

役者のほうが
向いていたかもしれない

夢の中のぼくは
舞台を動きまわり
真っ白な頭の中から
とにかく何か言葉をひねり出して
喋り続けた

そんな夢は
久しく見ていない

現では
詩が
書き出されもせず
真っ白のまま

 

 

*第二連 詩人=鈴木志郎康さん
空0浜風文庫に発表の詩「びっくり仰天、ありがとうっす。」のエピソード