広瀬 勉
東京・中野沼袋?
水から生まれてきたのに、水の味をしらない。
青蛙として、わたくしは、わたくしの子も孫も、その顔は知らない。
知っているのは、わたくし、青蛙の眼前で、目を凝らしてわたくしの顔をまじまじと見ているあなただけだ。
わたくしの代、わたくしの世は、なんだか臭い。
蛾の食べすぎか。
何年、青蛙として生きてきたかって?
生まれたのは、数か月前だが、わたくしの前の前の、ずっと前までたどると、千年にも万年にもなる。
同じ顔してさ、同じ皮膚の色してさ、鬱々としているその表情も、へたな鳴き声も、代々いっしょなんだけどね。
ときどきね。音羽の支流の細い川に、青葉を浮かべて、それに乗るんだな。ゆらゆらしているうちに、酔ってきてね。ゆらゆら寝込んでしまって。波乗りというよりも船旅みたいなもの。
わたくしは、ゲロゲロとは鳴かない。そう聴こえるだろうけど。
わたくしは、あなたにも意味のわかる言葉で、語っているんだよ。
蛾の食べすぎで、咽喉の奥になんだか、粉のようなものがカラカラに乾いて詰まっていて、それが空気に混ざって、濁音になって口からこぼれているんだよ。
それで、さっきの話なんだけど、川を下る船旅をして、それからまたこの麓まで戻ってくるのかというと、わたくしにもさっぱりわからない。
あなたの夢に混濁している、青い蛙でさあ。わたくし。
だから、あなたは、今こうしてわたくしを見つめている。
混濁しているのは、景色だけではないよ。背景に、いつも音楽が流れているだろ。
ゲロゲロではなくて、もっと透明な薄情なやつ。
六月かあ。六月の悔恨かあ。
そろそろ、次の代に青を継がせないとなあ。
未来に、
手が届く前にビールに、
手がのびる
道すがら、
観察して後追いした女性の
裾が、一軒の酒場に消え、
がらがらと扉にはさまる
わざと、
白桃を1Rにつめていく
そりゃ、男性ではないかも、
しれないが
雨乞いする腰骨に、これから
メトロノームをのせる
これが猿
はやくしろ、変な意味じゃなく
女性を栄養として日暮れへと
報復で二回も愛情、さらって
がらがらと扉にはさまる
面倒な
間合、離される
意見のおもしろい猿が
拾いあげたのは、
メコン川に浮いた不達の手紙
本物なのか、
答案用紙のようだが、
異境のことはわからないから
曖昧の中で寝る