佐々木 眞
だ だ
め め
よ よ
だ
め め
だ だ
め め
だ だ
め め
よ よ
だ
め め
だ だ
め め
へ
び
な
が
す
ぎ
る
な
が
す
ぎ
る
友達の友達は友達なので鈴木志郎康はわが偏愛の極私的詩人友達の
達 な
の の
友 で
達 井
は 上
友 八
達 千
な 代
の は
で 踊
横 り
山 の
リ 名
エ 人
は 友
新 達
宿 の
泥 友
棒 達
日 は
記 友
友 達
達 な
の の
友 で
達 羽
は 仁
友 未
達 央
な は
の 霊
で 界
崎 の
野 友
隆一郎は永遠のガキ大将友達の友達は友達なので近藤等則は戦うト
お
父
さ
ん
僕
を
怒
っ
た
お父さんは耕君を怒ったり注意したりしないよ
注
意
し
た
り
し
な
い
で
ね
波波波波波波波波波波波波波波波波波波波波波波波波波波波波波波波波波波波波波波
わたし
ハケン先の会社で
トラとウマを飼っています
トラは実に獰猛に
ウマは実に神経質に
遊び回りますわたしのペットたちです
コンピューターの前に座るといつも
ペットたちはどこからともなく現れてきます
コンピューターは彼らの大好きな遊び場なのです
会社ごとにプログラミングが違うので
ハケンは有能器用でないといけません
どこからともなく現れるペットたちをなだめながらあやしながら
書類を作成し上司に見せます
細かく注文がつけられます
頭が真っ白
慌てて書類を直します
トラがスクリーンでガリガリと爪を研ぎ始めます
ウマがパカパカとキーボードの上を走り回ります
書類はへんてこりんなことになります
頭が真っ白
トラがわたしの手に噛みつくたびに
指が震えますさらにへんてこりんなことになっていきます
ウマが後ろ足でわたしの胸を何度も蹴り上げます
心臓がどきどきしてきますでもこれは急ぎの仕事
さらにさらにへんてこりんな書類になってしまいます
頭が真っ白
ペットたちは大はしゃぎ
どんどんどんどんへんてこりんなことが起こります
上司は職人気質 有能な人です
尊敬していますほんとうです
わたしは頭が真っ白
書類はぐちゃぐちゃ
上司は怒りを抑えられなくなりさらにさらに注文をつけてきます
頭が真っ白
ついに思考停止
心配のあまりコピーしてコピーしてコピーしてコピーした書類が増え続けて
なにがなんだか本当の書類だかわからなくなります
職人気質の有能な尊敬している上司はついに怒り狂い
わたしは頭が真っ白
「ちゃんと見直してくださいよ!」と
怒りのあまりわたしのデスクから離れていきます
「すみません!すみませんでした!ほんとうにすみません!」
立ち上がり頭を深々と下げて謝りますわたしは無能不器用
頭が真っ白
完全に思考停止
わたし
ハケン先の会社で
トラとウマを飼っています
トラは実に獰猛に
ウマは実に神経質に
遊び回りますわたしのペットたちです
コンピューターの前に座るといつも
ペットたちはどこからともなく現れてきます
コンピューターは彼らの大好きな遊び場なのです
会社ごとにプログラミングが違うので
ハケンは有能器用でないといけません
30歳以上も年下の女が早口で言います
「だからぁ~、あなた! 今それ教えたばっかじゃないですかぁ~!
それをもう一度やればいいんですよぉ~っ(チッ!)」
「はい!」「はい!」「ありがとうございます!」
女の言葉にきびきびと合いの手を入れます
わたしのペットたちは大喜び
頭が真っ白
理解するには程遠い説明の速さ
言われるままにキーボードを叩きクリックします
「もうっ、だからぁ、さっき言ったじゃないですかぁ~!(チッ!)」
「はいっ!」指が震えます
「その項目ここですよ、さっきとおんなじところじゃないですかぁ~(チッ!)」
「はいっ!」スクリーンの文字がまったく見えません
「すみませんっ!」
頭が真っ白
ペットたちは大はしゃぎ
コンピューターを目にも止まらぬ速さで操る30歳以上も年下の女
凄腕です
会社のコンピューターはすべて彼女の掌中です完璧に操っています凄腕の女です
尊敬していますほんとうです
指が動かなくなります
手が震えますでもこれは急ぎの仕事
頭が真っ白
緊張のあまりクリックする指の関節の感覚がなくなっていきます
トラがわたしの手に噛みついて離れません
頭を左右に振って肉を食いちぎろうとしています何回も何回も
ウマがパカパカ走っていますキーボードの上をめちゃくちゃに
思考は始めから完全に停止
トラとウマは暴れ放題暴れています
言われるまま
もたもた操作をし
やっとのことで作業がひとつ終了します
「ありがとうございます!お忙しいのに、こんなにお手数をおかけしてすみません!」
立ち上がり深々と頭を下げてお礼を言いますわたしは無能不器用
女は腕組みをしたまま何も言わずに踵を返し立ち去っていきます
オフィス中が静まりかえっています
全員がわたしを軽蔑している空気が充満しています
ニワトリの脳みそより小さくね?……誰かが囁いています
耳が遠いのにどういうわけか地獄耳になります
トラとウマはこういうときに大変に優秀なのです
わたしのかわいいペットたちなのです
8時過ぎ
ひとりで仕事場を出ます
とぼとぼ
真っ暗な畑の真ん中を通り抜けて歩いていきます
ふだんは道さえよく見えません
「心てに 折らばや折らん初霜の
おきまどわせる白菊の花」※1
高校生のときには
そんな大げさなとお腹をかかえて笑った和歌を愛しく思い出します
くちずさみます
わたくし
文学熟年です
ここらてに
畑の真ん中の道を
おきまどわされながら
ふらふらと
バス停に向かいます
「心にも あらでうき世に ながらへば
恋しかるべき 夜半の月かな」※2
今夜は月が出ていて
畑の中の道がうっすらと見えます
足取りが軽くなります夜空が澄み切っています
歩きながら深呼吸を小さくします
思いがけず熟年にしてハケン社員のわたくしです
月がきれい
コンピューターはむずかしすぎます
恋しかるべき
文学熟年
浅く浅く深呼吸をします
平成の世にはセシウムがそこらじゅうに潜んでいます
浅く浅く深呼吸をします
関東平野のど真ん中
バス停の周りはぐるっと地平線
ああ
地球は丸い
丸いんだなぁ
トラとウマは大はしゃぎ
ぴょんぴょんパカパカ
地平線の彼方に向かって走っていきます
ああ
地球は
丸い
丸いんだなぁ
地平線の向こうから
わたくしの乗るべきバスが
ライトを上向きにして近づいてきます
※1…凡河内躬恒『古今集』より
※2…三条院『後拾遺集』より
ガードレール越しに
空手家に恐喝された
その頃は
人を笑うと怒られ
笑ったように見えたら更に怒られ
飛び降り自殺も見たが
それは人間のようだった
今では断言できない
そういえば
私は笑わなかった
確実に
人を笑う事はしなかった
笑い顔はよく見ると
笑っていないかもしれない
私も
そろそろ
人を恐喝する歳になった
私も
ようやく
喜びと悲しみを混ぜこぜ、ぐちゃぐちゃ、ハツラツ、ハレンチ、メイド、久々といった感じです
能動的に突き動かされている
分割する
私も知りたいが
新聞を読める程度にまわりの人が死んでしまう
しゅうたん、しゅうたんと呟きながら、急峻な坂を降りてきた。
私の愁い嘆きは、心が薄く透けている証であり、右足、左足、腰、胴、頭と、道筋に落としていく身体のぐらつきと同じように、心の揺らぎに拠っている。
修行とは、何か。しゅうたんしゅうたんと繰り返すことか。
雲母坂の中程、もう陽は落ちて、一切が闇の中である。風があると、木々の葉末がそよいで、波のようにうねり去っていく。去ればまた、音の波が起って重なり去っていく。
遠い、川の瀬音も重なる。
ぎゃぁと、嗚咽した。
薄い、草鞋の、指先の下で、何かを踏みつぶした感じがした。
液質の、ひしゃげる音もした。
ちいさな生き物を潰したのだろう。爬虫類か、それとも、少し大きな虫なのかもしれない。
私が、今こうしていることを知っている人は、誰もいない。さっきまでただ蠢いていた命を殺めたことも、誰も知らない。
しゅうたん、しゅうたん、比叡の頂から、私が落としてきた汚い砂、小石、言葉。
欲、小欲の銭。穴のあいた硬貨の幻かもしれない。
行とは、落下。落とし、捨てるほかに、修めることなど何もない。
幻を払い落とす、踊りの所作を闇の中に溶かすこと。
雲母橋を渡りきったそのあたりから、遠い西山の麓に町の灯りを眺めることができる。
魚を煮る匂いが、たちこめてくる。
「震度1以上の各地の震度は――」というラジオの音。
漫才師の、割れる怒声。
それから、赤ちゃんの泣き声。
水のような体験をしているのは、修行僧である私である。水は、生きている声音を吸い取って、この山あいから街中へと降りていく。
音の塵を溺れる寸前まで飲まされているのは、私である。
枯草で編んだ、草鞋には液質の何かが沁みている。草の汁か、それとも命が食した、また別の命の汁だろう。
ぴちゃぴちゃ、ぴちゃぴちゃ――
いつのまにか、足下の道は、舗装されている。
私は、硬直して別の音を鳴らしていた。
箪笥から、たぶん、狼狽した春を抜きだした。
そんな、手触りだけが残った。
墨のような、
跳ねが爪を食っている。
まさに今、食らう。
私はまもなく校歌をうたう、できるかぎりの轟音で。
例月、例月、例月、まわり、例月が年月を許さない。
区別がつかなくなってきている。
このまま、為体は、ねとねと。
淡緑の羊羹だというさじ加減か。
そろそろかな、うちあがりは。
この吸引、この吸収というべきか、のどごしに頼って疎かになった姿のまま待つ。
待つこともないが、
しゃあしゃあと終える時に、着衣していた土が香りだす。
柔軟剤より遥か遠くまで柔軟しきっていた。
香りに蜂が寄り道するように、このまま一生、目線を落とし、
偽わろうと寄り道を真似る。
道端の花束はこの街が機能しなかった場所を炙りだし、
機能しなかった校歌のように
そこを陣取る。
と、同等に雨が降る。
天気というものは、
こんなもんなんだと思います。
真面目に聴けない。
雨音が跳ねている。
どろりと脈うつ、
聴いたという感触の端から。
それは耳の輪郭と、この現象の端から
丸みだけを抽出して、
まるで
得体のしれない、
フルーツの盛り合わせである。
部屋は光に満ちている。
大きな鏡と白いキャンバスを前に、
あたしは絵筆をもって止まっている。
鏡には
何も写っていない。
十九歳の夏。
あたしは首のない自我像を描いていた。
細く切りひらかれた瞳は、
わずかな光を含むとすぐに閉じてしまうので、
光に満ちているはずの白いアトリエを、
あたしは、暗がりの、深度の浅い、
見渡しの悪い空間と認識した。
トルソーがいい、とあたしは思った。
人を描くなら、トルソーがいい。
鏡はいらない。
そして、頭部は描かない。
あたしの瞳から見えたものだけが物質なのだ、と。
あたしは、自らを見下ろしてみる。
絶壁のように、垂直に、下方へとひろがるカラダ。
床に投げだされた足、
それが、十九歳の〈私〉だった。