単純すぎる

 

爽生ハム

 

 

袖口の空洞に
殺到する
すっぽりハマる精液のことを
おばさんと一緒に見ていた

千鳥格子な頬肉の焦げを
鉄板のうえに取り分け
脂身が
ゴムのように転がるまでを
見ていた

見るのは簡単です
ゴムにハマる性器に水はなく
おばさんの故郷はもうない

西の鬼もあれば
東の鬼もあり
アルコールを摂取すれば
北と南は駅が決める
駅に鬼がやってきて
交響楽団を数ヶ月取り締まるなら
この渋谷行きのバスに乗り遅れようかなとも思う
おばさんから搾り取られた
この渋谷行き
乗り遅れないバスを選んだ
渋谷行きでよかった

逞しい昼夜の仕事を逞しい物流が運び
鳥のように移動する人を
鳥のように鳴く人を
真下から見て
糞の配給を顔面から受けた

咄嗟に毛布に包まるとスモークがかかる
付着する
股の間の性器とその裏か奥かの風景の草原や森や柵や水
地面への設置面は木々になるのか

何も知れずに裸光に飛びついた鳥の口ばし
着いたホイップクリームの残骸
過激に装飾されくすんでいる

二人の人物
おばさんと私が見た空洞が
しかるべき腕
手というより純粋な腕
長くしなる狩りの
物書きの腕

なんだ ただ その
伸びた不焼いた
ふやかしまやかしの身体の皮膚が伸びた形状
この腕のしなりのおかげで事故を免れた
隕石は小さな地球の混濁として
そこにいて
格好に濡れて〆切を迎えた

腕と脚の長さが同じくして地面につく
付着 不時着 腕が長い事が地面につく事で示された

 

 

 

人指

 

爽生ハム

 

 

献身的に皮膚がただれた私は
かさつく皮膚を指す

爪が結晶をかすめ
爪の隙間が満たされてゆく
爪は枝に留まる際
役立つだろう

それは
希望を持って自噴した砂に
似ていた

砂に埋もれないように
留まった枝の上
皮脂塗れのひどいかたまり

もはや餌である
餌を食べに
あなたに似た蜂が襖に針を刺す

それは
急に横切り
餌に眼を与えた
時間を見せつけられ恐怖に怯えた

あなたに似た蜂が横切ったからだ

餌を狙うあなたに似た蜂は
火宅にくすぐられ
ひどくかたまり
抜けなくなっていた

羽根がカサカサと音を立てている
その音に希望の衰えを感じ
餌にもなれないことを悔んだ

襖はやがて変色し
私を閉じ込めた

 

 

 

@150109 音の羽

 

萩原健次郎

 

 

6.22

 

眼の躓き。

剥がれた膜を
電気で焼きながら、元の球になおしていく。

数日前に、浴した夕照の、急速に上昇してい
く鳥影は、なにかを報せていた。

どんな音楽も
かすかな音もそこで、鳴っていたかどうかは
思い出せないが、
脳にからまっている細い糸には、切れていく
弦楽が、破線状に詰まっていた。

此方の岸の欠片も
彼方の岸の欠片も、
透明の責を
双岸から擦り合わせて
もう、勝ち負けのつかないことになっていた
からただ、茫然と、
夕暮れのせいにして帰ってきた。

たしかに、その時刻、その気象の下にいまし
た。

因という因を、川に捨てて坂を、足早に降り
てきて
空は、轟々と間に挟まっている音楽を暴き出
そうとしている。

眼を損傷しただけのことだ。電気の熱波で、
つるつるに焼き切ればいい。

交換しないことを条件に
引き分けに、もちこもうと
その時の夕暮れは、考えたのだろう。

虚の壷にわたしの回路は、入っている。
引き分けでいい。

ここで説いている喩えに水流の音が聴こえな
い。

やはり、
もう交換してしまったのかもしれない。

夜、布団に入って寝てしまい
別の、破線の糸がつながる。

欠片だけが散乱する
絵図の
絵図の
絵図の、

音。

ぺきんぺきんと、
折れていく。