閉じたエレベーターガール

 

爽生ハム

 

 

アルバイトして、鳥
してバイトしたら鳥に見られる
砂糖の大群にも見られる
詰めよられる

鳥、雪山にもいる
車を動かし続けて写経していく

撮れ、形在る自然におかれた
念頭にない頭

地図で見られても全然うごいてない
指さした甲に積もる雪を感じることが大事になってきた
砕けた石を見てるにすぎないことに負けていました

旗、やっぱ、旗なら届く
ドロップ舐めて仮装する舌に個の往来が生じる
生じたつもりか

暴力的すぎない?君の家はどこ?

夜な夜な、かけあう声は
きっと
雪山に繋がるはず
そこへ、かけこむ動物が形成していく土俵
を踏んでカメラをかまえる

どこいっても王冠

もう夜か…
動物の日当を見てる

 

 

 

@141010 音の羽

 

萩原健次郎

 

 

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苦い匂いが立っている。
夕暮れは、麓の家々で魚を焼く。
海の産物が、川風を遡行して、山裾を抱く。
はらわたも、骨も皮も
薄茶色に焦げて、レンジの上
換気扇を通って外気に混ざっていく。
ラジオから漏れている
明るい嬌声も
それもまた、苦い匂いに似ている。

すれ違う、老人の眼も
華奢な愛玩犬の眼も
焼かれ、焙られる魚のようで
覚っているようだ。

小皿には、茹でた青菜
おろした大根
醤油
それらも、卓に並べられているだろう。

生の匂いが、だれかの袖の中に潜んで
懐には、少量の水が流れている。
ざわざわと
笹の葉末が擦れて
住居から、その音に漏れ
苦い音楽になって溢れてきている。

昨日、それから数年前、
それからもっと古いこと
ひと昔、

窒息しそうな悲しい時間が
食卓に並ぶ。

小さな犬の泣く声は、
黄色く鋭利で、
それもまた、夕刻の無残で、
一匹一匹の声が、
音域を鮮明に分けて辻に満ちている。

恋情という匂いかなあと
川面の逆光を舐めて
こちらへ迫ってくる気配。
そちらはもう、ほの暗い夜から
朝になろうとしている。

苦い匂いを懐かしむように
川は、
誰かを、何かを慕う無数の人間を
流してきた。

犬も魚も青菜も、
肉の
器具も。

 

 

 

暴君のうた

 

長尾高弘

 

 

哀れな罪人よ、
お前はなにゆえに首を斬られたのだ?

愛されるがゆえに。
我が君は愛するものから順に
断頭台に送っておられます。
函のなかに入れて、
いつでも見られるようにするために。

なんとわがままな!
で、お前は首を切られてから
お前の暴君に何度見られたのだ?

一度だけ。
それも最初の数ページをパラパラと見られただけです。
我が君は次から次へと首を斬ることに夢中で、
斬ったあとの私たちを見る時間は残ってないのです。

許せん!
お前たちに代わって、
このわたしが成敗してくれよう!

許してやってください。
今までだって、
私たちを見ることなどまずなかったのです。
それでも見たいという気持ちを表に出してくださったのです。
私たちにはそれだけで十分です。

で、お前たちはこれからどうなるのだ?

身体の方は再生に回されました。
きっと鼻紙として、
みなさまと再会を果たすことができるでしょう。
魂の方は函といっしょに朽ち果てると思います

 

 

 

自炊生活の始まり

 

長尾高弘

 

 

《生きている間に、》
《捨てられるものは、》
《捨てておこうと思った。》

と書いたのは、
もう十年以上も前のことらしい。

《これ以上余分なものを溜め込まずに、》
《生きていられるだろうか。》

とも書いていたよ。
生きていられたけど、
余分なものはしっかり溜め込んだ。

*

子どもの頃から、
小遣いがあったら、
本かレコード、CDか、
どっちかしか買わなかったな。
服や靴、時計、ゴルフクラブ
そんなものは買ったことないよ。
もちろん食べ物は買ったけど、
買った先からなくなるので、
溜まったりしないからいいんだ。
車も買ったけど、
次に買うときに前のものを持ってってもらうし、
持っている車は使っているので、
無駄なものが溜まったりはしない。
結局、溜まったのは本とCDだけってことさ。
本とCDでよかったのかもしれない。
ちょっと劣化するけど、
コンピュータに入るから。
服や時計はコンピュータに入らないから、
溜めておくしかない。
本やCDはコンピュータに入れて
手放せる。
もっとも、十年前には入りきらなかったけどね。

*

本をコンピュータに入れるにはどうするかというと、
各ページの写真を撮ればいい。
一ページずつバラのファイルになっていると扱いにくいので、
本一冊分をひとつのファイルにまとめる。
これがいわゆる電子ブックだ。
ひとつにまとめると、
ページの順序も管理できる。
問題は各ページの写真をどう撮るかで、
いちいちカメラで写すのでは日が暮れる。
画像も読みやすくならない。
そこで、紙の束をまとめて高速に読み取れる
ドキュメントスキャナーというものを使う。
裏表まとめて写真を撮ってくれて、
一分で二十五枚も読み込める。
ただ、これで読み取れるのは、
紙の束であって本ではない。
本を読み取りたければ、
紙の束にしなければならない。
つまり、綴じ目を切り落とすのだ。
電子ブックができたときには、
元の本は本でなくなっている。
一方通行の作業だ。

*

本を電子ブックにすることを「自炊」ということは、
何年か前に知った。
どうやるのか説明も読んでみた。
生きている間に捨てられるものは捨てておこうと思った、
と書いたことも覚えていた。
でも、自分にはこんなことをやっている暇はないなと思った。
というのはね、
忙しくしていないと生きていけなくなるって恐怖があるわけ、
自営業だからさ。
暇にならないように必死に頑張っていたのよ。
だから原理的に暇はなかったのさ。
そのうち、自炊代行というサービスが出てきた。
一冊百円で自炊をしてくれるんだって。
清水哲男さんが代行サービスを使っているということも聞いた。
俄然やる気が出てきた。
でも、どの業者がちゃんとやってくれるのかとか
考え出すと不安になってぐずぐずしていた。
そのうち、作家たちが自炊代行は著作権法違反だと言って裁判を始めた。
裁判所が作家たちの言い分を認めて、
自炊代行サービスはどんどん廃業していった。
ああ、やるんだったらもう自分でやるしかない。
消費税が八パーセントになる日が迫っていた。
それまでに道具を買おう。

*

「自炊 おすすめ」でネットをサーチして、
必要なものが何かを調べた。
ドキュメントスキャナー以外にも、
ブックスキャナーとか、
スタンドスキャナーとかがあることも知った。
これらだと本を切らずに残せる。
でも、スピードを考えるとドキュメントスキャナーしかない。
それに、本を捨てるために電子ブックにするんだから、
本を残せるという長所はいらぬお節介なんだよね。
人気機種はだいたい四万円弱だ。
あと、断裁機が必要だけど、これが結構高い。
解説記事には載っていなかったけど、
その記事の広告に出ていたのが安かったのでそれを買った。
送料込みで九千三百円。
そのほかに、ゴムマットとカッターと金属製のスケール。
三つで三千円。
全部で五万円ちょっとの出費は、
決して安くないのでちょっと考えてしまう。
飽きて結局本が減らなければ五万円丸損だ。
でも、本を減らすにはこれ以外に方法はないので、
注文ボタンをぽちっと押したのだ。