廿楽順治
子どものふくらんだ胸が
空のむこうへ ひらかれていく
その町でわたしたちは
六十年あまりを暮らしていました
ももいろのスーパーがあり
扉の影は いつもこわれていた
おおきな冷凍庫から よたよたやってくる
わたしたちの子どもそっくりの鳥
仕方なく
胸は ふくらんでしまったのでしょう
ひらいた空へ
わたしたちはぼろぼろの機影のように
(入っていく)
けれども ふるい
じぶんの爆音のほかはきこえてこない
子どものふくらんだ胸が
空のむこうへ ひらかれていく
その町でわたしたちは
六十年あまりを暮らしていました
ももいろのスーパーがあり
扉の影は いつもこわれていた
おおきな冷凍庫から よたよたやってくる
わたしたちの子どもそっくりの鳥
仕方なく
胸は ふくらんでしまったのでしょう
ひらいた空へ
わたしたちはぼろぼろの機影のように
(入っていく)
けれども ふるい
じぶんの爆音のほかはきこえてこない
2024年3月
お父さん、ボク、あさって床屋さん行きます!
行こうね。
―小林散髪屋にて。
コウちゃん、起きてくださいな。どうして寝ちゃったんだろうね。
お父さん、吉高由里子、2回泣いてたよ。
ああ、2回泣いてたねえ。
脳腫瘍、オデキでしょう?
そうだね。脳のオデキだね。
お母さん、アルファベットのIは、数字の1みたいだよ。
似てるね。
お母さん、ナラヌはイケナイのことでしょう?
そうですよ。
「コウさん、お仕事してください」って言われたよ。
誰に?
シバノさんだお。
いつ?
むかし。
コウ君、シバノさんて、男? 女?
おんなだよ。
シバノさん、まだいらっしゃるの?
もうやめたよ。
そうなんだ。
2024年4月
ボク、オクラ好きですよ。
お母さんも。あしたオクラ食べようか?
「ようこそ」って、なに?
よくきてくれました、よ。
コウ君、アイちゃんが来るんだって。
ぼく、ウレシイですお。会いたいですお。
お父さん、ぼく平成16年「金八先生」みましたお。
へえー、そうなんだ。
お母さん、タイムアップって、なに?
時間だよ、ということよ。
お父さん、起きてください。
いま何時?
7時だお。
分かりましたあ。
下に降りてください。
はい、はい。
お父さん、大好きですお。
コウ君、ふきのとう舎で、なんかやったね。なにしたの?
分かりませんお。分かりませんお。
お母さん、記憶って、なに?
覚えていることよ。コウ君、なんでも覚えているね。
海の幸って、なあに?
海でとれるいいもののことよ。お魚とか。
モノレール、ジエットコースターみたいですよ。
そうですか。
そうですよ。
お父さん、黒柳徹子と石原さとみの番組撮ってくれた?
撮りましたよ。帰ってきたら一緒に観ようね。
―「虎に翼」をみながら妻が、
かっこいい!わたしもあんな生き方したかったなあ。