広瀬 勉
#photograph #photographer #concrete block wall
はーい、はいはい、ハエ
はあ
はあはあ、恥
掃き溜め敗残張り倒す
博多波状攻撃
墓参りハブ吐く
ハマユウハレルヤ
はみ出しもの春晴々
針鳩羽衣配布
挟むハス端境花橋
長谷寺ハマスカ初日の出
波濤果てハラハラ時計
果たし状ハニカミ旗張り
「薄志弱行の美服かな」(日夏耿之介)
二十歳その髪はめ殺し
働きなさい埴谷蜂の巣
ハナタレ放ち花畑
鼻半分は羽生ハマス
ハーモニカ埴輪跳ね
羽田母はハチミツパイ
バネ白菜破棄
ハビタス榛名玻璃法被
はもはパルサーはらり
葉湯はよからハリセンボン
波浪ハレンチ
破裂ハレーション
ハローハロー、パウロ八卦よい
パワー、場を借りて
ハイ
吾輩は、蝉である。
蝉なんだけど、この国のニイニンとか、アブラとか、カナカナとかミンミンのような、しけた蝉ではない。
17年に一度地上に出てくる17年蝉なのよ。
おらっちはいよいよ来年の夏に晴れて地上に出てくることになって、その最後の準備をしているところだ。
準備とは何か?
君らは知らんだろうが、蝉の生涯の大半は地下における幼虫時における宇宙的、哲学的思惟に費やされる。
17年蝉のおらっちが、17年間考え続けていたこと。
それは君たち人間と同じで、悪い奴と戦争をしてもいいか、絶対にダメなのかという大問題なんだ。
戦争反対を唱えたり、叫んだりするのは、簡単だ。誰にもできる。
でも実際にアメリカ兵とか、中国兵とか北朝鮮兵とか、ロシア兵とか、あるいは他ならぬわが国の自衛隊員が、われらに向かってワラワラ突撃してきたら、どうしたらいいのだろう?
ある人は、逃げろ、逃げろ、どんどん逃げろ、と勧める。
またある人は、自分で自分の身を守れ、と説く。
しかしどんどん逃げろといったって、貯えもないのに、いったいどこへいけばいいのか。身を守れといわれても、一人ならともかく、家族もいるのだから大変だ。
さいわいおらっちは蝉だから、戦争が終わるまでずっとこのくらい穴倉に閉じこもっていればOKだが、君たち人間はそうもいかんだろう。
敵が襲ってきたら、とるものもとりあえず、台所にある包丁を振り回して抵抗するだろうが、いずれは多勢に無勢で、捕まるか、殺されるだろう。
はなから無抵抗で両手を上げて降参すれば、場合によっては助けてくれるだろうが、その場で、家族ともども、皆殺しの悲惨な目に遇うかもしれない。
それに、幸か不幸か健常蝉であるおらっちは、逃げるにせよ、戦うにせよ、無抵抗で殺されるにせよ、いくつかの選択肢があるけれど、息子のような障害蝉にはそんな贅沢はない。
よしんば戦おうと思っても、戦うことすらできずに、赤子蝉のように殺されてしまうだろう。
「先天的に戦わない、戦えないことしか、武器にならない」、そういう存在が障害者だとしたら、おらっち健常者も、にわかに後天的な障害者になって、「戦わない、戦えないことを武器に戦いに臨む」ことが出来るかも知れないな。
食うか食われるか、のるかそるかのAI殺人兵器大戦争の最前線に、まるで時代遅れのガンジーか、山背大兄王のようなゾンビたちが、西馬音内盆踊りやブレイキンなぞを踊りながら、ふらふら迷い出てきたら、どうなるんだろうな。
第31変奏曲
世界最高級のヴァイオリニストとして、内外の尊崇を浴びている彼だったが、いくつかの有名曲を絶対に手掛けないのは、それを弾くと、おのれがただちに死んでしまうと知っているからだった。
第32変奏曲
長針が12時にやって来た時に、おらっちがしっかりつかまえたので、時計は無事に元に戻ったのよ。
第33変奏曲
家族全員が出かけて私しかいなかったとき、もう若くないピンクのラバースーツを纏った女がやってきて、「もうすぐ地球に大洪水が起こるから、これを買っといた方がいいですよ」と勧めたが、「わしはまたノのアの箱舟に乗るからいいや」と断った。
第34変奏曲
マイナカードによるAI検索で、リベラルないしは反権力派と見做されると、ただちに警察の特殊部隊が派遣され、有無を言わさず検挙され、徹底的に拷問された挙句に抹殺されるのだった。
第35変奏曲
報国寺の裏道を歩いていたら、川原という表札が出ている寂しそうな家があったので、カワハラアキコさんのお宅ではないのかと思ったが、もうこの世の人ではなさそうなので、諦めて通り過ぎた。
第36変奏曲
そとほり姫を決して陸地にあげないよう、あらかじめ取り決めてあったのが、幸いしたようだった。
第37変奏曲
ノーマ・カマリの超ミニスカートが超セクスィーなので、あれを履いてみせてよと頼んだのだが、言下に断られたので諦めていたら、ある日それを履いて会社にやってきたYOKOが地下鉄の上のモンローのやうにしゃがんだので、クラクラしたのよ。
第38変奏曲
打ち上げ失敗が相次ぎ、仕方なくおらっちは愛する虎の子の女性宇宙飛行士を最後の有人ロケットに搭乗させる羽目になったので、管制塔の秒読みが気になって気になって仕方がないのです。
第39変奏曲
日曜日が来るたびに、僕らはいやいやながら、教会へ行かされた。僕らはやけくそになって、「ニチヨオサンビテエー、ニチヨオサンビテエー」と怒鳴りながら、仕方なく教会へ行ったんだ。
第40変奏曲
社長の私が留守中に、私のダミーのAIの評判を聞いたら、当の私よりも高く評価されていたので、だからAIなんて信用できないんだと確信した私は、彼奴の首を引っこ抜いて滑川に投げ捨ててしまった。
第41変奏曲
うちの町内会長はすぐに酔っぱらうのだが、酔っぱらうと、すぐに巨大なマサカリを振りかざして町内の家々に乱入するので、住民は怖れ慄いていたのよ。
第42変奏曲
ド・クインシー公爵は、昔白いドレスの若い娘の後ろ姿をみて突如ムラムラし、背後から抱きすくめてまるでさかりのついた雌雄の犬のように交尾したのだったが、20年後に自分の隣に優美に微笑んでいる公爵夫人が、その娘だったとは我ながら信じられなかった。
第43変奏曲
頭の中では何でも考えていいけれど、それをなんでもかんでも書いてはいけない。
第44変奏曲
ウンノ家を護っていた生き神様が、大火事で焼けてしまったので、ウンノ家は、運が尽きたようだ。
第45変奏曲
私が自閉症の長男と共にゆったりと暮らしている限り、たとえ全世界が崩壊しようとも、浮世離れしたかけがえのないしあわせを享受することが出来る、と思うのである。
第46変奏曲
戦争で殺されることのない日常を、サンアドの葛西薫氏の表現を勝手にお借りして表現すれば、「一日一日が、大切で宝石のよう」に感じるのみなのだ。
第47変奏曲
世界中でどんどん人が死んでいくが、おそらくこの国ではおらっちだけがいつまでも死なないで生き残るだろうという噂が一部で流れていたようだったが、意外にもあっさり死んじまったようだった。
第48変奏曲
今日は朝から快晴で、死ぬのにもってこいの日だ。