@140710811 音の羽

 

萩原健次郎

 

 

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直情に、
頂から、山裾へ落下していく。
水は、直情に、汚濁する。
野を迂回すれば、少しは、澄む。
汚濁は、安穏であるからと
川の声が、ハミングしている。
オダク、ワ、アンノン、
アンノンと。

混じる、幼い子の声
かぞえられないほどの、悲しいことの
束。
針で刺されて、それに応える
泣き、叫び。

疾っと、つっと、
とどまらず、流されていく子ら
笑い声も聴こえる。

合弁花、きばな、べにばな
黒花、
直情の花も、裏切る。

あの坂の中腹にある高い木の名を
誰かにたずねてみようかと
すれ違う人の顏を確かめる。
それから、振り返り、
離宮、
北山の峰、西の山。
夕照に、激しく射られて
木の名を訊くことを忘れる。

夏に、他季を流す。
声と花いろと、
印を混ぜて、喉いっぱいに
雑音が詰まり、
音の羽が口中に、充満していく。

木の名は、夢の中で知る。

混濁する気配のうちに知ったのは
異国のことばだったか、
うにゃりうにゃりと、響いていった。

声音に、弦楽の弦を擦る音が重なり
その名は、薄く削がれていく。