ひかりに乗って
品川で
降りた
途中
由比の海が光るのを
見た
小田原の早川の
河口の漁船を見逃した
ひかりは
早すぎるのさ
代々木上原で
ユアンドアイの会の皆さんの
詩を
読んだ
ゆっくり読んだ
詩の
向こうには
ひとりのヒトがいた
ひかりに乗って
品川で
降りた
途中
由比の海が光るのを
見た
小田原の早川の
河口の漁船を見逃した
ひかりは
早すぎるのさ
代々木上原で
ユアンドアイの会の皆さんの
詩を
読んだ
ゆっくり読んだ
詩の
向こうには
ひとりのヒトがいた
すり鉢っぽい底辺には脳天気な陽気が漂っていて、そこへ向かう彼らの背中の荷物には、引っ掻き傷がついていた。彼らは、目の前の彼の傷を見て徐々に笑顔をつくり、目的をもつくる。傷は、どこかの川のようで生命力を感じさせた。彼の次にくる彼や、その数メートル後方の彼などは、涙のような水滴を浮かべて、興奮していた。たぶん痛いんだろう。私が見る限りは、痛いと名づけるのは非常に簡単だった。彼らの痛みなど、見物するには丁度いい痛みだった。私の手前で蒸発する非常に健全な痛みだった。あまりにも脳天気な陽気だから、もしかして辛いのは私の方なんじゃないかと、余裕綽綽たる名づけ親になってみたりもした。
私は通常の健康では、明くる日を見逃したりはしない。
むかしむかし、名づけられた響きを交換しあって抑揚がついた動物の完成。淋しさとうまくつきあえる巣穴も、そして底も、内在が溜まりすぎて、困り果て。常夏の短パンのように急遽、膝を潮風がノックする。ぐたぐたと恐怖心を芽生えにかかる露出とは別の魂胆の、肌の水は、人を人が汚ないと感じさせるにはじゅうぶんな汁だろうな。目の前の人が怖すぎるって確かに彼は言った。いらだちの解散のために、彼は感情を放つ、放つ、放つわ放つ。いきり勃った塔の女楽は仕切り板を溶かすほどの勢いがあり、私は彼らは硫酸を飲む人と名づけました。
だって傷が喋るんですもの。
詩集を贈呈された者は、けっして古本屋に売ってはならない。
贈呈した詩人が、回り回って手にすることがあるからだ。
のみならず、それが詩に書かれて、一生物笑いの種にされることもあるからだ。
岩波文庫版の『石垣りん詩集』のなかに、『へんなオルゴール』というへんな詩がある。
「歴程」夏のセミナーに出席した詩人が、見知らぬ紳士からサインを求められる。
それは『表札など』という彼女の代表作のひとつだった。
「サインせよ とはかたじけない」*と喜んだ詩人だったが、開いた扉に一枚の名刺。
見れば「丸山薫様 石垣りん」と自分の筆で書いてある。
敬愛する偉大な詩人に送った詩集が、古本屋に並んでいたというのである。
「ひとりの紳士が1冊の本をひらくと
空0丸山薫さま 石垣りんです。
空0と明るいうたがひびき出す。」*
「どうしてうらんだり かなしんだりいたしましょう。
空0売って下さったのですか 無理もないと
空0それゆえになお忘れ難くなった詩人よ。」*
などと無理やり陽気にふるまおうとするものの、
そのとき彼女のはらわたは、煮えくりかえっていたに違いない。
だからこの詩を書いたのだ。
東京品川の糞尿臭い十坪の借家に、祖父と父と義母と二人の弟と住み続け、
たった一人の女の二本の細腕で、六人の暮しを支え続けた石垣りんは、
毎日のように押し寄せてくる詩歌集を、ただの一冊も捨てなかったのだろう。
詩集を贈呈された者は、けっして古本屋に売ってはならない。
贈呈した詩人が、回り回って手にすることがあるからだ。
のみならず、それが詩に書かれて、一生物笑いの種にされることもあるからだ。
空白空白空白空白空白空白空白空白空白*石垣りん『へんなオルゴール』より引用